用廃とは「用を廃したもの」の略称で、自賠責保険や労災保険における後遺障害の概念です。関節の用廃は、自分の力では関節をほとんど動かせない状態です。
用廃は重い後遺症ですが、事故との因果関係が認められず、後遺障害に認定されないケースが少なくありません。
本記事は、用廃の定義を説明したうえで、後遺障害に認定されにくい理由を理解するヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/7/18
Table of Contents
用廃(用を廃したもの)とは
用廃とは一体何なのか?
用廃とは後遺障害での概念で、「用を廃したもの」の略称です。用廃には、関節の用廃、手指の用廃、足指の用廃があります。最も一般的なのは、関節の用廃です。
「関節の用廃」とは、関節の機能に著しい障害を有する後遺症です。具体的には、自分の力で関節をほとんど動かせない状態です。
関節の用廃の原因
交通事故や労災事故に起因する「関節の用廃」は、関節内骨折や感染などのために、関節内の骨、軟骨、関節包などの関節構成体が傷んで併発するケースが多いです。
<参考>
【医師が解説】関節内骨折の後遺症が等級認定されるヒント|医療鑑定
【医師が解説】開放骨折の後遺症が等級認定されるポイント|医療鑑定
【医師が解説】強直(きょうちょく)と拘縮の違いは?|後遺障害
関節の用廃の種類と特徴
関節の用廃は、関節の機能に著しい障害を有するものです。具体的には以下のような関節の可動域制限を残している状態です。
- 関節が強直したもの(関節を全く動かせないもの)
- 関節の他動可動域が健側の10%以下に制限されているもの
- 関節の完全弛緩性麻痺、またはこれに近い状態にあるもの
- 人工関節・人工骨頭の他動可動域が健側の1/2以下に制限されたもの
後遺障害に認定される「関節の用廃」で最も多いのは、他動可動域制限によるものです。
関節の用廃の予防法
リハビリテーションが重要性
関節の用廃を予防するためには、積極的に関節を動かすことが推奨されます。理学療法士による関節可動域訓練や筋力訓練も効果的でしょう。
<参考>
【医師が解説】廃用症候群とは?原因、症状は?|交通事故の後遺障害
長期間の関節固定は避けるべき
骨折や靭帯損傷では、ギプスなどの外固定を行います。しかし、外固定する期間が長過ぎると、高度の関節可動域制限が残る可能性があります。適切な外固定期間の判断は難しいため、整形外科専門医の指示に従いましょう。
用廃で見込まれる後遺障害等級
関節の用廃
8級6号:1上肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの
関節が全く動かないか、これに近い状態(関節可動域の10%程度以下)です。実臨床では、ここまで高度の関節可動域制限をきたすケースはあまり見かけません。
8級7号:1下肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの
関節が全く動かないか、これに近い状態(関節可動域の10%程度以下)です。実臨床では、ここまで高度の関節可動域制限をきたすケースはあまり見かけません。
下肢の動揺関節
8級7号:下肢の関節が、常に硬性装具を必要とする状態
<参考>
【医師が解説】膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)の後遺症|医療鑑定
【医師が解説】後十字靭帯損傷(PCL損傷)の後遺症|医療鑑定
手指の用廃
- 4級6号:両手の手指の全部の用を廃したもの
- 7級7号:1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの
- 8級4号:1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指の用を廃したもの
- 9級9号:1手の手指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの
- 10級6号:1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの
- 12級9号:1手の手指、中指又は監視の用を廃したもの
- 13級4号:1手の小指の用を廃したもの
- 14級7号:1手の母指以外の手指の遠位指節間関節(=DIP関節)を屈伸することができなくなったもの
<参考>
【医師が解説】指が曲がらない後遺障害の認定条件と傷病名|医療鑑定
足指の用廃
- 7級11号:両足の足指の全部の用を廃したもの
- 9級11号:1足の足指の全部の用を廃したもの
- 11級8号:1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
- 12級11号:1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
- 13級10号:1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
- 14級8号:1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
<参考>
【医師が解説】足指骨折が後遺障害認定されるポイント|医療鑑定
【弁護士必見】用廃は後遺障害に認定されにくい
用廃は事故との因果関係が問題になりやすい
用廃は、高度な関節機能障害なので、上位の後遺障害等級として扱われています。しかし、用廃は後遺障害に認定されにくいのが実情です。
用廃の原因として関節内骨折が最も多いですが、高度の粉砕骨折でない限り、骨折と高度の可動域制限の因果関係が否定される傾向にあります。
実臨床では、画像所見ではあまり粉砕していない関節内骨折であっても、高度の関節可動域制限が残るケースは少なくありません。
高度の関節可動域制限が残る原因として、軟部組織の損傷程度、治療経過、どの関節を受傷したのか、被害者の体質も影響するからです。
このようなケースでは、用廃に至った原因を考察して、論理的に自賠責保険に説明できなければ、適切な後遺障害が認定されません。
硬性装具を処方してもらっても動揺関節に認定されるわけではない
動揺関節も後遺障害に認定されにくいです。定義上は硬性装具を常用していれば動揺関節として8級7号に認定されます。
しかし、実臨床では、硬性装具を常用しなければいけない状態のまま放置されるケースは、ほとんど想定できません。
単に硬性装具を処方してもらっただけでは、動揺関節に認定される可能性はほぼ無いと考えるべきでしょう。
<参考>
【医師が解説】膝前十字靭帯損傷(ACL損傷)の後遺症|医療鑑定
【医師が解説】後十字靭帯損傷(PCL損傷)の後遺症|医療鑑定
まとめ
用廃とは後遺障害の概念で「用を廃したもの」の略称です。用廃には、関節の用廃、手指の用廃、足指の用廃があります。
用廃で最も一般的なのは「関節の用廃」で、自分の力では関節をほとんど動かせない状態を指します。
用廃は重い後遺症ですが、事故との因果関係が認められないため、後遺障害に認定されないケースが少なくありません。
交通事故の外傷で、用廃が後遺障害に認定されずにお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
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