交通事故後に後遺障害が認定されるためには、医師が作成する後遺障害診断書が極めて重要です。後遺障害診断書で等級認定が決まると言っても過言ではありません。
賠償実務において後遺障害診断書は最も重要ですが、医師が作成する後遺障害診断書は玉石混交です。ツボを押さえた診断書から、非該当確実と言い切れるものまで多岐にわたります。
本記事は、後遺障害が適正に認定される後遺障害診断書のもらい方を理解するヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/6/23
Table of Contents
後遺障害診断書の基本知識
後遺障害診断書とは何ですか?
後遺障害診断書は、被害者の具体的な後遺症を証明する書類です。後遺障害診断書の内容をもとにして、後遺障害等級が認定されて示談金額が決まります。後遺障害診断書の記載内容が、被害者の運命を決めると言っても過言ではありません。
後遺障害診断書が重要である理由
交通事故の後遺障害認定は書面審査です。驚く人も多いですが、治療を担当した医師ではなく、被害者を直接知らない自賠責損害調査事務所が書面で後遺障害認定審査を行います。
このため、後遺障害診断書の記載内容は非常に重要です。後遺障害等級が認定されると、後遺障害慰謝料や逸失利益などの賠償金を請求できます。
後遺障害診断書の費用
後遺障害診断書の作成費用は、一般的に5000円から1万円程度ですが、中には2万円を超える病院もあります。
注意点としては、後遺障害等級が認定されなかった場合、被害者が後遺障害診断書作成費用を負担しなければいけません。
後遺障害診断書をもらうタイミング
後遺障害診断書をもらうタイミングは、症状固定時です。症状固定前は治癒する可能性があるため、後遺障害の有無を判断できません。症状固定までの期間は、部位や程度によって異なりますが、おおむね3~6ヵ月です。
後遺障害診断書のもらい方
保険会社から取り寄せる
後遺障害診断書は、保険会社や自賠責保険会社から取り寄せることができます。後遺障害診断書は医療機関にあると思いがちですが、基本的に備え付けていません。
インターネットからダウンロードする
さまざまな法律事務所のHPからダウンロードすることが可能です。
後遺障害診断書の記載内容と等級認定のポイント
傷病名
症状がある部位の傷病名がすべて記載されているか確認が必要です。例えば、首と腰に痛みがある場合、腰椎捻挫などの腰の傷病名が漏れていないか注意しましょう。
一方、腕から手の痛みやしびれは、頚椎捻挫や外傷性頚部症候群(むちうち)の傷病名があればOKです。
同様に、お尻から足の痛みやしびれは、腰椎捻挫や腰部捻挫などの傷病名が記載されていれば問題ありません。
<参考>
自覚症状
傷病名と症状が一対一対応になっているか?
残っている症状が、漏れなく記入されているか確認する必要があります。漏れがある場合、主治医に症状をうまく伝えられていない可能性があります。傷病名と症状が一対一対応になっていることがポイントです。
<参考>
【医師が解説】後遺障害診断書で自覚症状を伝えるポイント|交通事故
常時性を毀損していないかを確認
自賠責保険で後遺障害に認定されるには、症状がずっと続いている必要があります。常に症状がある状態を「常時性」といいます。
自賠責保険では、症状の常時性が後遺障害認定に必須です。このため、以下のような記載はNGです。
- ときどき痛い
- 雨の日に痛い
- 長い時間歩くと痛くなる
1. 精神・神経の障害、他覚症状及び検査結果
むちうち(頚椎捻挫、外傷性頚部症候群)であれば、スパーリングテストやジャクソンテストの結果を記載してもらうことが望ましいです。
腰椎捻挫や腰部捻挫なら、SLRテストやFNSテストの結果を記載してもらいましょう。尚、どのような傷病名であっても、画像検査を実施したのであれば、画像所見の記載が必須です。
<参考>
8. 脊柱の障害
むちうち(頚椎捻挫、外傷性頚部症候群)や腰椎捻挫では、頚椎や腰椎の可動域を記載しても意味がありません。したがって、後遺障害診断書に頚椎や腰椎の可動域が記載されていなくても問題ありません。
一方、胸腰椎圧迫骨折などで6級や8級の脊柱運動障害に認定される可能性のある事案では、必ず脊椎の可動域を記載してもらいましょう。
<参考>
10. 上肢・下肢および手指・足指の障害
自賠責保険では、後遺障害の等級が、他動の関節可動域で判断されます。そのため、他動の関節可動域を必ず記載してもらう必要があります。
他動の関節可動域が記載されていないと、自動の関節可動域でどれほど制限があっても非該当になるので注意が必要です。
障害内容の増悪・緩解の見通しなどについて
「症状固定と考える」「緩解の見込み無し」という記載が望ましいです。一方、以下のような記入例はNGワードになります。そもそも改善する可能性があれば、症状固定ではありません。
- 回復の見込みあり
- 緩解の見込みあり
- 徐々に改善する可能性あり
<参考>
医師が後遺障害診断書を書いてくれない時の対処法
医師には、患者さんから求められたら、診断書を書かなければいけない法的義務があります。しかし、主治医が診断書の作成を拒否するケースは珍しくありません。
医師の立場では、書かないのではなく「書けない」のが実情です。私の経験では、医師が交通事故の後遺障害診断書を書いてくれない理由として以下があります。
- なか飛ばし(初診時と症状固定時のみ医療機関を受診)
- 経過後初診(症状固定時が初めての受診)
- 医師の専門科ではない
- 医師が症状固定ではないと考えている
- 交通事故との因果関係が疑わしい
- 交通事故からしばらくして発症した
なか飛ばし(初診時と症状固定時のみ医療機関を受診)
なか飛ばしとは、初診時と症状固定時だけ医療機関を受診して、その間は接骨院に通うパターンです。
医師の立場では、初診以降の経過が全く分からず、また本当に症状固定なのかが分からないので、後遺障害診断書を作成できません。
なか飛ばしの現実的な対処法は難しいですが、後遺障害診断書作成を依頼した医療機関にしばらく通院するのも一法かもしれません。
経過後初診(症状固定時が初めての受診)
経過後初診とは、救急病院を受診した後、そのまま接骨院に行ってしまい、症状固定時になって近くの医療機関を初診するケースです。私たち医師が最も苦慮するパターンです。
経過後初診の事案では、本当に交通事故に遭ってから発症した症状なのかさえ分かりません。患者さんの申告のみで後遺障害診断書を書くと、虚偽記載になる可能性があります。
医師の立場では、経過後初診の患者さんの後遺障害診断書を書くと、思わぬトラブルに巻き込まれる恐怖感があるのです。
このパターンでは、初診の救急病院を受診して後遺障害診断書の作成を依頼するか、近くの医療機関への診療情報提供書を作成してもらうのも一法です。
医師の専門科ではない
開業医(クリニック)は外科、内科、整形外科など複数の診療科目を標榜していることが多いですが、それぞれの医師には専門分野があります。
例えば、「外科・整形外科・内科」と標榜している場合、通常、最初に記載された科が専門分野です。したがって、この場合、整形外科医ではなく外科医である可能性が高いです。
整形外科や脳神経外科ではなく、外科や内科のバックグラウンドしか持たない医師は、後遺障害診断書の作成が難しいことがあります。専門外の複雑な事案に関しては、後遺障害診断書の作成を断ることも多いです。
したがって、外科や内科の医師に依頼しても、後遺障害診断書を作成してもらえない可能性があります。交通事故で開業医(クリニック)に通院する際には、最初に医師の専門科を確認しておく方が無難でしょう。
医師が症状固定ではないと考えている
医師は、患者が治るまで診ようとする気持ちが強いため、後遺症が残っている場合でも治療を続けることがあります。
例えば、弊社が保険会社から相談された事案に、下腿切断後3年経っても創が治らないケースがありました。主治医は治る可能性があると考えて症状固定とは判断しませんでした。
このように、医師がまだ治療可能だと考える場合、後遺障害診断書を書いてくれないことがあります。
交通事故との因果関係が疑わしい場合
医師が後遺障害診断書を書いてくれないケースとして、外傷の原因が交通事故ではない場合があります。
例えば、外傷歴のない高齢者の圧迫骨折です。高齢者は骨粗鬆症があるため、大きな外傷がなくても圧迫骨折を起こすことが珍しくありません。
大きな外傷がなくても発生する骨折を「いつの間にか骨折」と言います。このような骨折が交通事故の前後に発生すると、患者は交通事故が原因だと思い込みがちです。
しかし、医師が圧迫骨折と交通事故の因果関係に疑問を感じた場合、後遺障害診断書を書いてくれない可能性があります。
<参考>
【日経メディカル】「いつの間にか骨折」悪化と判断され慰謝料が減額?!
【医師が解説】圧迫骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故
交通事故からしばらくして発症した
交通事故から1ヵ月ほどして痛みが現れることがあります。患者は交通事故によって起こった症状と考えがちです。
しかし、医学的にはむちうちなどの症状が交通事故後1ヵ月で発症することは珍しいです。そのため、医師は後遺障害診断書を書いてくれない可能性が高いです。
<参考>
【医師が解説】むちうち症状が出るまでの期間|交通事故の後遺症
医師が後遺障害診断書の修正に応じない理由と対処法
弊社のサービスの1つに等級認定サポートがあります。交通事故被害者の適正な補償を目的として、自賠責認定基準に沿った後遺障害診断書が作成される支援しています。
自賠責保険の後遺障害認定基準を知らない医師が多いため、不適切な記載内容の後遺障害診断書が多いです。
等級認定サポートでは、依頼元の弁護士に自賠責保険の後遺障害認定基準に合致する後遺障害診断書の記載例を提示します。
しかし、せっかく後遺障害認定基準に合致する記載例が分かっても、不適切な記載内容の修正依頼を主治医に断られるケースも多いです。
ここでは、医師が後遺障害診断書の修正や追記に応じない代表的なパターンを紹介いたします。
修正や追記依頼を何度もする
主治医は基本的に患者に対して好意的ですが、後遺障害診断書の修正や追記依頼は複数回繰り返すと、医師が応じる確率は低くなります。
対処法として、後遺障害診断書の修正や追記が必要な場合は、一度で終わるように丁寧に説明することが重要です。
診療録と異なる内容の修正や追記を依頼する
後遺障害診断書の修正や追記依頼を受けたら、医師は診療録を確認して修正や追記の必要性を判断します。
後遺障害診断書の修正や追記に応じてもらえない一般的な例として、主治医の前では痛みを訴えない患者さんが挙げられます。
実際には痛みで困っているにもかかわらず、診察時には調子が良いとだけ伝える患者さんです。
痛みを過度に訴えることは問題ですが、主治医の前で調子が良く見せることも後遺障害の認定に影響を及ぼす可能性があります。
症状を正確に伝えることが重要です。痛みを感じている場合は、率直に主治医に伝えることが大切です。
<参考>
【医師が解説】むちうち症状の伝え方3つのポイント|交通事故
【弁護士必見】効果的な後遺障害診断書のもらい方
最初から適切な主治医を選ぶ
自賠責保険では、主治医の治療方針や後遺障害診断書の記載内容が、後遺障害に認定される確率を大きく左右します。
弊社の数先例におよぶ経験では、以下のコラムに該当する医師であれば、交通事故被害者に寄り添った治療をしてくれる可能性が高いと考えます。
<参考>
【医師が解説】頚椎捻挫が後遺症認定されるポイント|交通事故
弁護士が後遺障害診断書の内容をチェックする
ほとんどの医師は、自賠責保険の後遺障害診断基準や実務上のルールを知りません。このため、不適切な記載内容になるケースも珍しくありません。
被害者請求や異議申し立てにかかわらず、後遺障害診断書の記載内容をチェックする必要があります。記載内容が不適切であれば、何をしても無駄だからです。
自賠責保険は書類審査です。このため、後遺障害診断書の記載内容が適切であることが、後遺障害認定の前提条件になります。
後遺障害診断書の修正や追記依頼を躊躇しない
交通事故の賠償実務では、医師の持つ影響力は極めて大きいです。また、医師に強要することはできないため、どうしても交通事故被害者の立場は弱くなります。
このため、後遺障害診断書に多少の不備があっても、そのまま提出してしまうケースが多いです。もちろん、多少の不備なら問題ないことが多いです。
しかし、後遺障害診断書の記載内容に重大な不備があれば、医師に修正や追記を依頼せざるを得ません。その際には、なぜ重大な不備なのかを説明する必要があります。
医師に悪気はなく、ほとんどのケースは自賠責保険の後遺障害認定基準を知らないだけです。重大な不備では、後遺障害診断書の修正や追記依頼を躊躇してはいけません。
修正や追記に応じてくれない際の対処法
不備の記載があるために、ほぼ確実に非該当になるようであれば、手術を受けた医療機関、近隣の他の医療機関、交通事故の受傷時に搬送された医療機関などに、新たな後遺障害診断書の作成を依頼せざるを得ないでしょう。
<参考>
【医師が解説】交通事故で診断書が極めて重要な理由|提出先や期限も
まとめ
後遺障害診断書は、被害者の具体的な後遺症を証明する書類です。後遺障害認定は書類審査なので、後遺障害診断書の記載内容が極めて大きな影響を及ぼします。
後遺障害診断書の記載内容でチェックするべき項目は、傷病名と症状が一対一対応になっているか、常時性を毀損していないかなどです。
また、障害内容の増悪・緩解の見通しが「症状固定と考える」「緩解の見込み無し」となっているのかも重要です。
後遺障害診断書の記載内容が適切かどうかが分からなくてお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
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