交通事故や転倒のあと、背中や腰だけでなく「脇腹の痛み」を感じる方が少なくありません。
特に、高齢者や骨がもろくなっている方では、圧迫骨折によって背骨がつぶれ、脇腹にまで痛みが放散するケースもあります。
しかし、なぜ背骨の骨折が脇腹に痛みをもたらすのでしょうか? 本コラムでは、圧迫骨折によって脇腹が痛む原因やそのメカニズムを解説しています。
さらに、よく似た症状との見分け方や、適切な治療法や後遺障害の認定に至るまで、分かりやすく説明しています。
最終更新日: 2025/8/20
Table of Contents
圧迫骨折と脇腹の痛みの関係
圧迫骨折の基礎知識と発生メカニズム
圧迫骨折は、主に背骨(脊椎)が上下方向からの力によって押しつぶされるように変形・骨折する状態です。
高齢者や骨粗鬆症の方に多く、骨の強度が低下していると、転倒や尻もち、時にはくしゃみや咳といった軽い衝撃でも発生します。
骨粗鬆症が進行すると、骨がもろくなり、通常であれば耐えられるはずの圧力でも骨折を起こしやすくなります。
圧迫骨折は胸椎や腰椎でよく見られ、寝返りや起き上がりなど体を動かす際に痛みが出るのが特徴です。
脇腹や腹部に痛みが出る理由と神経の関与
圧迫骨折による痛みは、骨折した部位だけでなく、脇腹や腹部、腸骨付近にまで広がることがあります。
これは、背骨から出ている神経(肋間神経)が骨折や変形によって刺激されるためです。いわゆる肋間神経痛です。
特に胸椎や腰椎の圧迫骨折では、神経が脇腹や腹部に分布しているため、骨折部位から離れた場所でも痛みやしびれ、違和感が生じることがあります。
こうした神経の関与による痛みは、動作時だけでなく安静時にも現れることがあり、肋間神経痛として感じられるケースもあります。
圧迫骨折の主な症状と診断のポイント
動作時の痛みと安静時の痛みの違い
圧迫骨折の痛みは、動作時に特に強く現れるのが特徴です。寝返りや起き上がり、立ち上がりなど、背骨に体重や負荷がかかる動作で痛みが増します。
一方、安静時や寝ているときは痛みが軽減することが多いですが、急性期には安静時でもズキズキとした強い痛みが続く場合もあります。
体を動かしたときの痛みの増悪と、安静時の痛みの軽減は、圧迫骨折特有の症状です。
背中・腰・脇腹の放散痛の特徴
圧迫骨折では、骨折部位の局所的な痛みに加えて、背中や腰、脇腹、骨盤周囲などに痛みが広がる放散痛がみられることがあります。これは、骨折による神経や周辺組織への刺激が原因です。
特に、胸椎や腰椎の骨折では、肋間神経が関与して、脇腹や下肢にまで痛みやしびれが放散することもあります。
左右どちらかだけに痛みが出るケースも多く、日常生活動作でも痛みが誘発されやすいのが特徴です。
他の疾患との鑑別ポイント
圧迫骨折は、単なる腰痛や筋肉痛、そして内臓疾患などとも症状が似ているため、鑑別が重要です。
画像診断(レントゲン、CT、MRI)で椎体の変形や骨折線を確認します。また、加齢による骨の変化や腫瘍性病変、感染症などとの鑑別も必要です。
急性の激しい痛みや姿勢変化での痛み増悪、骨折部位の圧痛、画像での椎体の楔形変形などが圧迫骨折の診断ポイントです。
圧迫骨折(背骨骨折)で残りやすい後遺症
慢性的な痛みや神経症状
圧迫骨折の後遺症として最も多いのが、慢性的な腰痛や背部痛、そして神経症状(しびれや感覚異常、筋力低下など)です。
骨折部位が癒合しない場合や変形が強い場合、骨や周囲の神経が圧迫されて、痛みやしびれが持続することがあります。
特に、高齢者や骨粗鬆症の方は骨癒合が遅れやすく、長期間にわたり痛みが残るケースも少なくありません。
神経症状が強い場合は、下肢への放散痛や排尿・排便障害が出るケースもあります。
背骨の変形や姿勢の悪化
圧迫骨折が治癒する過程で椎体が潰れたまま癒合すると、脊柱後弯(猫背・円背)が進行して、姿勢が著しく悪化します。
複数の椎骨が圧迫骨折を起こすと身長が低くなり、肩が前に落ちて腹部が突き出るなど、全身のバランスが崩れやすくなります。
姿勢の悪化は、体幹の柔軟性や運動機能の低下、呼吸や消化機能への影響も引き起こすことがあり、特に高齢者では転倒リスクや新たな骨折リスクも高まります。
日常生活や仕事への影響
圧迫骨折の後遺症は、日常生活や仕事に大きな影響を及ぼします。慢性的な痛みや姿勢の悪化により、歩行や立ち上がり、荷物の持ち運びなどの基本動作が困難になり、ADL(日常生活動作)が低下します。
特に、重い神経症状が残る場合は、長期間の休業や職種変更が必要になることもあります。
事務仕事であっても、長時間同じ姿勢を保つのが難しくなり、重労働の場合は数ヶ月以上の休養や職務調整が必要です。
社会活動の制限や再骨折リスクの増加など、生活の質(QOL)にも大きく影響します。
圧迫骨折(背骨骨折)の後遺障害等級
圧迫骨折の後遺障害には、以下のような5つの障害があります。
- 脊柱の変形障害(6級、8級、11級)
- 脊柱の運動障害(6級、8級)
- 脊柱の荷重機能障害(6級、8級)
- 局部の神経障害(12級、14級)
- 脊髄損傷の後遺障害
脊柱の変形障害(6級、8級、11級)
等級 | 認定基準 |
6級5号 | 脊柱に著しい変形を残すもの |
8級2号 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
11級7号 | 脊柱に変形を残すもの |
6級5号:脊柱に著しい変形を残すもの
2個以上の椎体の前方椎体高の高さの合計が、後方椎体の高さの合計よりも、1個の椎体分以上低くなっているものです。端的に言うと、椎体1個以上の椎体前方高の減少したものです。
この場合の1個の椎体分とは、骨折した椎体の後方椎体高の平均値です。脊柱変形障害の詳細については、こちらのコラム記事を参照してください。
8級2号:脊柱に中程度の変形を残すもの
1個以上の椎体の前方椎体高の高さの合計が、後方椎体の高さの合計よりも、1/2個の椎体分以上低くなっているものです。端的に言うと、椎体の1/2以上の椎体前方高の減少したものです。
具体的な胸椎圧迫骨折の後遺障害8級の画像を知りたい方は、こちらのコラム記事を参照してください。
11級7号:脊柱に変形を残すもの
下記3つのいずれかに該当すれば認定されます。
- 脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
- 脊椎固定術が行われたもの
- 3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けたもの
脊柱の運動障害(6級、8級)
等級 | 認定基準 |
6級5号 | 脊柱に著しい運動障害を残すもの |
8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
6級5号:脊柱に著しい運動障害を残すもの
脊柱に著しい運動障害を残すものとは、次のいずれかの原因で頚部および胸腰部が強直したものです。
- 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており、それがレントゲン等によって確認できるもの
- 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
- 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
8級2号:脊柱に運動障害を残すもの
脊柱に運動障害を残すものとは、次のいずれかに該当する場合です。
- 頚椎、腰椎それぞれに圧迫骨折等があることが画像上確認できるもの
- 頚椎または胸腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがレントゲン撮影などによって確認できるもの
- 頚椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの
- 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
- 頭蓋や上位頚椎間に著しい異常可動性が発生したもの
脊柱の運動障害を詳細に知りたい方は、こちらのコラム記事を参照してください。
脊柱の荷重機能障害(6級、8級)
等級 | 認定基準 |
6級5号 | 脊柱に著しい荷重機能障害を残すもの |
8級2号 | 脊柱に荷重機能障害を残すもの |
年間1000事案の取り扱いがある弊社においても、圧迫骨折で脊柱の荷重機能障害に認定された事案の経験はほとんど存在しません。
その理由は、ほとんどの事案は脊柱の変形障害で処理されるためと思われます。
実臨床で、脊柱の荷重機能障害に認定される可能性がありそうな事案は、圧迫骨折後の偽関節ではないでしょうか。
若年者では少ないですが、高齢者では圧迫骨折後に椎体の前方が偽関節になる症例は珍しくありません。
このような症例では頑固な腰背部痛が残るため、コルセットを常用せざるを得ない症例を散見します。
6級5号:脊柱に著しい荷重機能障害を残すもの
頚部及び腰部の両方が、次のいずれかの理由で保持が困難であり、常に硬性補装具が必要なもの
- 頚椎または腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがレントゲン撮影などによって確認できるもの
- 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
8級2号:脊柱に荷重機能障害を残すもの
頚部または腰部のいずれかが、次のいずれかの理由で保持が困難であり、常に硬性補装具が必要なもの
- 頚椎または腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがレントゲン撮影などによって確認できるもの
- 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
脊柱の荷重機能障害を詳細に知りたい方は、こちらのコラム記事を参照してください。
圧迫骨折後遺症による神経障害(12級、14級)
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
圧迫骨折の程度がごく軽度の場合には、脊柱の変形障害ではなく、神経障害(痛み)として後遺障害に認定される可能性もあります。
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
レントゲン検査やCT検査で、圧迫骨折の存在を確認できるものです。しかし、画像検査で圧迫骨折が確認できるのであれば、脊柱の変形障害(11級7号)を念頭に置いて、異議申し立てするべきでしょう。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
レントゲン検査やCT検査では圧迫骨折の存在を確認できないものの、MRI検査で骨折が疑われる事案では14級9号に認定される可能性があります。
MRI検査で骨折が疑われる場合には、骨挫傷と骨折の両方の可能性があります。治療経過で椎体に化骨形成を認めるケースは骨折なので、11級7号や12級13号を念頭において異議申し立てするべきでしょう。
脊髄損傷の後遺障害
脊椎圧迫骨折では、脊髄損傷を合併するケースがあります。脊髄損傷の後遺障害に関しては、こちらのコラム記事を参照してください。
圧迫骨折で後遺障害認定されるポイント【弁護士必見】
交通事故で受傷した圧迫骨折が、自賠責保険で後遺障害に認定されるためには、たくさんのポイントがあります。
こちらのコラム記事に、圧迫骨折の後遺障害認定に関するポイントをまとめています。興味がある方は参照してください。
<参考>
圧迫骨折の後遺症が後遺障害認定されるポイント|交通事故の医療鑑定
圧迫骨折の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で受傷した、圧迫骨折の後遺症が、後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング®
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等級スクリーニング®は、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニング®の有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニング®を承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング®】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
圧迫骨折の後遺障害認定でお悩みの患者さんへ
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圧迫骨折による脇腹の痛みでよくある質問
圧迫骨折はどのあたりが痛いですか?
圧迫骨折の痛みは、骨折が起きた背骨(胸椎や腰椎)の部位に局所的に現れるのが一般的です。
特に、胸椎と腰椎の境界部(みぞおちの高さの背骨)で起こりやすく、背中や腰に強い痛みを感じます。
寝返りや起き上がりなど体を動かす際に痛みが増すのが特徴で、安静時には痛みが軽減することもありますが、急性期には安静時でも痛みが続く場合があります。
脇腹が痛い原因は何ですか?
圧迫骨折で脇腹が痛む主な原因は、骨折部位から出ている神経(肋間神経)が刺激されることによります。
骨折自体は背骨の中央で起こりますが、神経の走行に沿って痛みが脇腹や腹部に放散することがあります。
また、骨折による姿勢の変化や筋肉の緊張も脇腹の痛みを助長します。
肋間神経痛や筋肉痛、帯状疱疹など他の疾患が原因となることもあるため、症状が続く場合は医師の診断が重要です。
脇腹から背中にかけて痛いのはなぜですか?
脇腹から背中にかけて痛みが広がるのは、圧迫骨折による神経の圧迫や刺激が原因です。
特に、胸椎の圧迫骨折では、肋間神経が背骨から脇腹、腹部にかけて分布しているため、骨折部位から離れた場所にも痛みが放散します。
痛みは片側だけに出ることも多く、動作時や深呼吸、咳などで増強することがあります。
背中の痛みと脇腹の痛みが同時に現れる場合は、圧迫骨折による神経痛の可能性が高いです。
左脇腹が痛くなる原因は何ですか?
左脇腹の痛みは、圧迫骨折による神経の刺激や放散痛が原因となることがあります。
特に骨折部位が左側の神経に近い場合や、肋間神経が圧迫されている場合に、左脇腹に鋭い痛みやしびれが現れることがあります。
また、左脇腹の痛みは消化器や腎臓、心臓など内臓疾患による場合もあるため、圧迫骨折以外の原因も考慮する必要があります。
痛みが強い、長引く、他の症状を伴う場合は早めに医療機関を受診しましょう。
まとめ
圧迫骨折は、特に高齢者や骨粗鬆症のある人に多く見られる背骨の骨折で、軽い衝撃でも発症することがあります。
この骨折は背中や腰だけでなく、脇腹や腹部にも痛みを広げることがあり、神経が関与することでしびれや違和感も伴います。
動作時に強まる痛みが特徴ですが、安静時でも続く場合もあります。
後遺症として慢性的な痛みや姿勢の悪化、日常生活への支障が残ることもあり、後遺障害認定のためには、画像鑑定報告書や医師意見書が重要です。
圧迫骨折の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。尚、初回の法律事務所様は無料で承ります。
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