年齢や事故などで生じる「圧迫骨折」は、初期には軽い痛みや違和感だけで済むこともあり、つい放置してしまう人も少なくありません。
しかし、圧迫骨折を治療せずにほっておくと、慢性的な痛みや姿勢の悪化、さらには神経障害や内臓への影響といった深刻な後遺症に発展するリスクがあります。
本記事では、圧迫骨折を放置した場合に起こりうる症状の変化や最悪のケースについて分かりやすく解説していきます。
症状が軽いうちでも油断せず、早期に正しい対応を取ることの重要性を知っていただければと思います。
最終更新日: 2025/7/6
Table of Contents
圧迫骨折を放置するとどうなる?
慢性的な痛み・可動域制限が残るリスク
圧迫骨折を放置すると、胸腰椎の後弯変形により体幹の伸展や胸郭の可動性が低下して、体が硬くなります。
その結果、前屈するなどの日常的な動作だけで慢性的に痛みが残り、身体の柔軟性や機能が大きく損なわれます。
姿勢悪化(猫背進行・身長低下)
圧迫骨折を治療せず放置すると、骨折部の椎体が潰れたまま癒合して、脊柱後弯(猫背・円背)が進行します。
背骨の後弯角度が増えるほど、転倒・死亡リスクも増加することが報告されています。
神経障害や偽関節の発生リスク
圧迫骨折部が癒合不全のまま残ると“偽関節”と呼ばれる状態になり、骨折部の不安定性のために腰痛が慢性化します。
さらに椎体の変形が神経根や脊髄を圧迫して、しびれ・麻痺・排尿障害などの神経症状が現れ、重症の場合は手術が必要となる可能性があります。
圧迫骨折を放置した場合の後遺症と日常生活への影響
日常動作の困難化
放置された圧迫骨折は、背骨の変形によって歩行や立ち上がり、肩を上げるなどの基本動作で痛みが生じやすく、ADLが著しく低下します。
特に遅発性神経麻痺が起こると、歩行障害やしびれが現れて筋力低下と活動制限が増悪するため、日常生活に大きな支障を生じる可能性があります。
骨折部の変形や再骨折リスク増加
治癒過程で骨がくさび型(楔状)に骨癒合すると、椎体の前後比が崩れて、さらなる変形を招きます。
特に骨粗鬆症が背景にあると、初回治療後も周辺椎体に新たな圧迫骨折が生じやすく、治療後1年で骨折の再発率が最大24%に達するとの報告もあります。
他部位の骨折リスク増大
初回の圧迫骨折による姿勢変化やバランス低下は、転倒や身体のアンバランス動作を誘発して、腰椎以外の脊椎部分や大腿骨、手首などへの二次骨折リスクを高めます。
特に、高齢者では筋力低下やフレイルの影響も重なり、圧迫骨折が起因となって多部位骨折へと繋がりやすいため、骨折予防が重要です。
圧迫骨折の後遺障害
交通事故や労災事故で受傷した圧迫骨折は、以下のような後遺障害に認定される可能性があります。
- 脊柱の変形障害(6級、8級、11級)
- 脊柱の運動障害(6級、8級)
- 脊柱の荷重機能障害(6級、8級)
- 局部の神経障害(12級、14級)
- 脊髄損傷の後遺障害
脊柱の変形障害(6級、8級、11級)
等級 | 認定基準 |
6級5号 | 脊柱に著しい変形を残すもの |
8級2号 | 脊柱に中程度の変形を残すもの |
11級7号 | 脊柱に変形を残すもの |
6級5号:脊柱に著しい変形を残すもの
2個以上の椎体の前方椎体高の高さの合計が、後方椎体の高さの合計よりも、1個の椎体分以上低くなっているものです。端的に言うと、椎体1個以上の椎体前方高の減少したものです。
この場合の1個の椎体分とは、骨折した椎体の後方椎体高の平均値です。脊柱変形障害の詳細については、こちらのコラム記事を参照してください。
8級2号:脊柱に中程度の変形を残すもの
1個以上の椎体の前方椎体高の高さの合計が、後方椎体の高さの合計よりも、1/2個の椎体分以上低くなっているものです。端的に言うと、椎体の1/2以上の椎体前方高の減少したものです。
具体的な胸椎圧迫骨折の後遺障害8級の画像を知りたい方は、こちらのコラム記事を参照してください。
11級7号:脊柱に変形を残すもの
下記3つのいずれかに該当すれば認定されます。
- 脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがエックス線写真等により確認できるもの
- 脊椎固定術が行われたもの
- 3個以上の脊椎について、椎弓切除術などの椎弓形成術を受けたもの
脊柱の運動障害(6級、8級)
等級 | 認定基準 |
6級5号 | 脊柱に著しい運動障害を残すもの |
8級2号 | 脊柱に運動障害を残すもの |
6級5号:脊柱に著しい運動障害を残すもの
脊柱に著しい運動障害を残すものとは、次のいずれかの原因で頚部および胸腰部が強直したものです。
- 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎圧迫骨折等が存しており、それがレントゲン等によって確認できるもの
- 頚椎および胸腰椎のそれぞれに脊椎固定術が行われたもの
- 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
8級2号:脊柱に運動障害を残すもの
脊柱に運動障害を残すものとは、次のいずれかに該当する場合です。
- 頚椎、腰椎それぞれに圧迫骨折等があることが画像上確認できるもの
- 頚椎または胸腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがレントゲン撮影などによって確認できるもの
- 頚椎または胸腰椎に脊椎固定術が行われたもの
- 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
- 頭蓋や上位頚椎間に著しい異常可動性が発生したもの
脊柱の運動障害を詳細に知りたい方は、こちらのコラム記事を参照してください。
脊柱の荷重機能障害(6級、8級)
等級 | 認定基準 |
6級5号 | 脊柱に著しい荷重機能障害を残すもの |
8級2号 | 脊柱に荷重機能障害を残すもの |
年間1000事案の取り扱いがある弊社においても、圧迫骨折で脊柱の荷重機能障害に認定された事案の経験はほとんど存在しません。
その理由は、ほとんどの事案は脊柱の変形障害で処理されるためと思われます。
実臨床で、脊柱の荷重機能障害に認定される可能性がありそうな事案は、圧迫骨折後の偽関節ではないでしょうか。
若年者では少ないですが、高齢者では圧迫骨折後に椎体の前方が偽関節になる症例は珍しくありません。
このような症例では頑固な腰背部痛が残るため、コルセットを常用せざるを得ない症例を散見します。
6級5号:脊柱に著しい荷重機能障害を残すもの
頚部及び腰部の両方が、次のいずれかの理由で保持が困難であり、常に硬性補装具が必要なもの
- 頚椎または腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがレントゲン撮影などによって確認できるもの
- 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
8級2号:脊柱に荷重機能障害を残すもの
頚部または腰部のいずれかが、次のいずれかの理由で保持が困難であり、常に硬性補装具が必要なもの
- 頚椎または腰椎に脊椎圧迫骨折等を残しており、そのことがレントゲン撮影などによって確認できるもの
- 項背腰部軟部組織に明らかな器質的変化が認められるもの
脊柱の荷重機能障害を詳細に知りたい方は、こちらのコラム記事を参照してください。
圧迫骨折後遺症による神経障害(12級、14級)
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
圧迫骨折の程度がごく軽度の場合には、脊柱の変形障害ではなく、神経障害(痛み)として後遺障害に認定される可能性もあります。
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
レントゲン検査やCT検査で、圧迫骨折の存在を確認できるものです。しかし、画像検査で圧迫骨折が確認できるのであれば、脊柱の変形障害(11級7号)を念頭に置いて、異議申し立てするべきでしょう。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
レントゲン検査やCT検査では圧迫骨折の存在を確認できないものの、MRI検査で骨折が疑われる事案では14級9号に認定される可能性があります。
MRI検査で骨折が疑われる場合には、骨挫傷と骨折の両方の可能性があります。治療経過で椎体に化骨形成を認めるケースは骨折なので、11級7号や12級13号を念頭において異議申し立てするべきでしょう。
脊髄損傷の後遺障害
脊椎圧迫骨折では、脊髄損傷を合併するケースがあります。脊髄損傷の後遺障害に関しては、こちらのコラム記事を参照してください。
圧迫骨折後遺症の後遺障害認定ポイント
圧迫骨折の後遺症は「変形障害」「運動障害」「荷重機能障害」「神経症状」「脊髄損傷」の5カテゴリに分けられ、これらを総合的に評価して後遺障害等級が決まります。
変形では6級、8級、11級、神経症状で12級・14級の範囲に認定される可能性があり、画像所見と症状の両方を丁寧に整理することが重要です。
圧迫骨折が後遺障害に認定されるポイントは、こちらのコラム記事にまとめています。興味のある方は参照いただければ幸いです。
<参考>
圧迫骨折の後遺症が後遺障害認定されるポイント|交通事故の医療鑑定
圧迫骨折の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で受傷した、圧迫骨折の後遺症が、後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング®
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニング®は、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニング®の有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニング®を承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング®】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
労災事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
圧迫骨折の後遺障害認定でお悩みの患者さんへ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
圧迫骨折の放置でよくある質問
圧迫骨折は自然に治る?
圧迫骨折では、骨の形状が完全に治るのは難しいものの、多くのケースで時間とともに痛みが和らぎ、日常生活にも支障がなくなります。
受傷後2〜3カ月で骨癒合して、痛みが軽減されるのが一般的です。ただし椎体のくさび状変形(楔状変形)や姿勢変化が残る可能性があり、腰痛の原因になるケースもあります。
圧迫骨折はどのあたりが痛いですか?
圧迫骨折は、主に胸椎下部から腰椎上部(T11〜L2)にかけて起こりやすく、背中~腰に激しい痛みが走ります。
高齢者では尻もちや前かがみなど軽微な動作でも発症することがあり、痛みは骨折部から臀部に感じることが多いです。
腰椎圧迫骨折で1番折れやすいのは?
好発部位は、胸腰椎移行部(T11〜L2)です。胸腰椎移行部は自然なカーブが切り替わる境界で可動域が大きく、脊柱周囲筋の保護も弱いため、力の負荷が集中しやすく、骨粗鬆症があると特に折れやすくなります。
圧迫骨折の自宅での過ごし方は?
受傷直後、約4週間は極力安静にして、横向きで寝ることが基本です。その後、痛みと骨の安定状態を見ながら少しずつ起き上がりや歩行を再開します。
前かがみや捻り動作は控えて、コルセットの装着と家族のサポートが重要です。リハビリテーションは医師指導のもと続けましょう。
まとめ
圧迫骨折を放置すると、慢性的な痛みや体の柔軟性の低下、猫背や身長の減少といった姿勢の悪化、さらには神経障害や偽関節のリスクが高まり、日常生活に大きな支障をきたします。
また、歩行や立ち上がりなどの動作が困難になり、再骨折や他部位の骨折リスクも増大します。
交通事故や労災事故で受傷した圧迫骨折の後遺症は、後遺障害として6級から14級に認定される可能性があります。
圧迫骨折の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。尚、初回の法律事務所様は無料で承ります。
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