高次脳機能障害は、交通事故や病気による脳の損傷で、記憶や注意、判断などに影響を及ぼす障害です。
一見、外見からはわかりにくいため、周囲の理解が得られにくく、仕事を続けられない、もしくは復職が難しいケースも少なくありません。
しかし、働けない場合でも利用できる生活支援制度や、障害の特性に合った職種・働き方を選ぶことで、自分に合った働き方を見つけることは可能です。
本記事では、高次脳機能障害によって働けない理由や症状を詳しく解説して、活用できる支援制度、さらに適した職種・働き方についても紹介しています。
最終更新日: 2025/3/30
Table of Contents
高次脳機能障害で働けない原因となる症状
記憶障害
新しい情報を覚えたり、過去の出来事を思い出すことが困難になります。例えば、同じ質問を繰り返したり、最近の出来事を忘れてしまうことがあります。
記憶障害のため、業務の手順を覚えられず、仕事の効率や正確性が低下する傾向にあります。
注意障害
特定の作業に集中し続けることが難しくなり、注意が散漫になります。その結果、ミスが増えたり、複数のタスクを同時にこなすことが困難になります。
また、周囲の些細な刺激に気を取られやすくなり、業務の遂行に支障をきたしやすくなります。
遂行機能障害
計画を立てたり、物事を順序立てて進める能力が低下します。このため、仕事の段取りが組めず、優先順位をつけることが難しくなります。
社会的行動障害
感情のコントロールや対人関係の維持が難しくなります。例えば、些細なことで怒りっぽくなったり、場にそぐわない行動をとることがあります。
社会的行動障害のため、職場での人間関係が悪化し、チームでの協働が困難になるケースが珍しくありません。
高次脳機能障害で働けない時の生活支援制度
障害者手帳
障害者手帳は、障害の程度に応じて交付されるもので、各種福祉サービスや税制上の優遇措置を受ける際に必要となります。
高次脳機能障害では、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳の対象となる可能性があります。
障害者手帳によって、公共交通機関の割引や医療費の助成など、さまざまな支援を受けることができます。
障害年金
障害年金は、病気やけがで障害が生じた際に支給される公的年金制度です。高次脳機能障害も対象となり、障害の程度に応じて1級から3級までの等級が設けられています。
受給には、初診日が年金加入期間中であることや、一定の保険料納付要件を満たすことが必要です。申請手続きは複雑な場合が多いため、社会保険労務士への相談が推奨されます。
傷病手当金
傷病手当金は、被用者保険(健康保険)に加入している労働者が、病気やけがで連続して3日以上仕事を休み、給与を受け取れない場合に支給されます。
支給期間は最長で1年6ヶ月で、給与の約3分の2が支給されます。ただし、自営業者やフリーランスの方は対象外となる場合があります。
生活保護
生活保護は、病気や障害などで働けず、生活に困窮している方に対し、最低限度の生活を保障する制度です。
障害年金を受給している場合でも、その金額が生活保護の基準額に満たない場合は、差額が支給されます。申請はお住まいの市区町村の福祉事務所で行います。
高次脳機能障害の方に適した職種
単純作業や定型業務
繰り返し行う単純作業や定型業務は、作業内容が明確で予測可能なため、高次脳機能障害を持つ方に適しています。
単純作業や定型業務によって、注意力や記憶力の負担を軽減して、安定した作業遂行が可能となります。
マニュアル化された業務
作業手順が詳細にマニュアル化されている業務は、遂行機能障害を持つ方にとって有益です。
明確な指示や手順書があることで、業務の進行がスムーズになり、ミスの防止や効率的な作業が期待できます。
静かな環境での業務
注意障害を持つ方は、外部の刺激により集中力が途切れやすいため、静かな環境での業務が適しています。
騒音や人の出入りが少ない職場は、作業への集中を助けて、業務の質を向上させます。
時間に追われない業務
時間的なプレッシャーが少ない業務は、ストレスを軽減し、安定した作業遂行を可能にします。
自分のペースで取り組める業務は、遂行機能障害や注意障害を持つ方にとって働きやすい環境を提供します。
高次脳機能障害の後遺障害等級
交通事故で受傷した高次脳機能障害は、自賠責保険から後遺障害に認定される可能性があります。
高次脳機能障害では、意思疎通能力、問題解決能力、作業の持続力や持久力、さらには社会行動能力の低下度合いによって評価されます。
この評価結果に基づき、高次脳機能障害の後遺障害等級は、1級から14級までに分類されます。
高次脳機能障害が後遺障害に等級認定される要件を、さらに詳細に知りたい方は、以下のコラムにまとめています。ご参照いただければ幸いです。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
高次脳機能障害の後遺障害認定ポイント【弁護士必見】
交通事故で受傷した頭部外傷による高次脳機能障害では、画像診断によって後遺症との関連性が確認できると、後遺障害として認定される可能性が高まります。
特に局所脳損傷の場合、損傷部位と症状が一致していることが重要な判断基準となります。
高次脳機能障害が認定されると、神経心理学的検査、医学的意見、日常生活状況報告の結果を総合的に評価して、等級審査が行われます。
近年では、意識障害期間が短い事案でも、全体的な状況を踏まえた総合的な判断が重視される傾向にあります。
高次脳機能障害は身体機能障害とあわせて評価されて、就労能力や日常生活への影響度を考慮した上で、後遺障害等級が決定されます。
賠償実務においては、主観的な要素が強い神経心理学的検査が争点となるケースが少なくありません。
検査結果が時間の経過とともに悪化することは稀ですが、ガイドラインに基づいて反論が可能なケースもあります。
さらに高次脳機能障害が後遺障害認定されるポイントを詳しく知りたい方は、以下のコラム記事にまとめています。ご参考にしていただければ幸いです。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
交通事故で発症した高次脳機能障害の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
高次脳機能障害の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で受傷した高次脳機能障害の後遺症が、後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
高次脳機能障害の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
高次脳機能障害が後遺障害認定されると損害賠償金を請求できる
交通事故によって受傷した高次脳機能障害で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料とは
交通事故で外傷性脳損傷によって高次脳機能障害が残った精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
高次脳機能障害の後遺障害慰謝料の相場は?
外傷性脳損傷の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって異なります。例えば、9級の場合は約690万円、7級は約1000万円、5級は約1400万円、3級は約1990万円、2級は約2370万円、1級は約2800万円となります。
また、近親者の慰謝料として数百万円程度が加算されることがあります。さらに、1級や2級の場合には将来の介護費として数千万円から1億円を超える額が認められることがあります。
このように、高次脳機能障害の後遺障害慰謝料は等級によって大きく異なり、適切な後遺障害等級を獲得することが重要です。
高次脳機能障害の後遺障害逸失利益とは
高次脳機能障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
高次脳機能障害の後遺障害逸失利益の相場は?
高次脳機能障害の逸失利益は、後遺障害等級によって異なります。一般的に、後遺障害等級が高いほど逸失利益の金額も高くなります。
例えば、1級の後遺障害の場合、逸失利益は約1億円前後となる可能性があります。一方、9級の場合は約1000万円程度のケースが多いです。
後遺障害逸失利益の金額は、被害者の年収や年齢、労働能力喪失率などによっても大きく変動します。
高次脳機能障害で働けないでよくある質問
高次脳機能障害の復職率は?
高次脳機能障害を持つ方の復職率は、障害の重症度や個々の状況によって異なります。一般的には、軽度の障害を持つ方が復職する可能性が高いとされています。
ただし、復職率に関する具体的な統計データは限られていますが、脳卒中後の高次脳機能障害者の復職率は約45%と言われています。
復職を目指す際には、医療機関やリハビリテーション施設と連携し、適切な支援を受けることが重要です。
高次脳機能障害は寝てばかりですか?
高次脳機能障害の症状は多岐にわたり、全ての方が「寝てばかり」という状態になるわけではありません。
しかし、脳の損傷により、日中の過度な眠気や睡眠障害が生じるケースがあります。
まとめ
高次脳機能障害になると、記憶障害や注意障害、計画が立てにくい遂行機能障害、感情コントロールが難しくなる社会的行動障害などが起こり、仕事に支障が出やすくなります。
働けない場合は、障害者手帳で交通機関の割引や医療費の助成が受けられます。また、障害年金や傷病手当金で生活を支えることも可能です。
交通事故の場合、後遺障害として認定されれば慰謝料や逸失利益も請求できます。適切な制度を利用することで、生活の安定を図ることができます。
交通事故で受傷した高次脳機能障害の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
関連ページ
資料・サンプルを無料ダウンロード
以下のフォームに入力完了後、資料ダウンロード用ページに移動します。