顔面神経麻痺を発症すると、片方の目が閉じにくくなったり、口が歪んだり、口からよだれが垂れたりします。
顔面神経麻痺の原因はほとんどがウイルス感染ですが、交通事故などの外傷が契機になることもあります。
本記事は、顔面神経麻痺が後遺障害に認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日:2024/4/19
Table of Contents
顔面神経麻痺とは
顔面神経は、顔の表情を作る神経です。顔面神経(第7脳神経)は、脳から顔の筋肉まで伸びています。顔面神経のどこかが傷害を受けると、顔の筋肉が動かなくなってしまいます。
顔面神経麻痺の症状
顔面神経麻痺になると、片方の目が閉じにくくなったり、口が歪んだり、無意識のうちに口から水がこぼれたりします。
また、味覚の異常や、涙が出にくい、耳鳴り、難聴、めまいを訴えるケースもあります。
顔面神経麻痺の原因
ほとんどはウイルス性顔面神経麻痺
顔面神経麻痺の原因は、ほとんどがウイルス感染です。風邪やインフルエンザなどのウイルスが、顔面神経に侵入して炎症を起こすして神経を傷害します。
ベル麻痺(Bell麻痺)
ベル麻痺は、顔面神経麻痺の約70%を占めており、何らかのウイルス感染(単純ヘルペスウイルスが有力)が原因と言われています。
ベル麻痺は、耳介部の痛みやしびれで発症して、1~2日以内に麻痺症状が現れることが多いです。ベル麻痺の回復には1年かかることもあります。
ハント症候群(Ramsay-Hunt症候群)
ハント症候群は、顔面神経麻痺の約10%を占めており、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因と言われています。
耳介の発赤や水膨れ、耳鳴り、難聴、めまいを起すことが特徴です。ハント症候群は、ベル麻痺に比べて治りにくく後遺症が残りやすいです。
外傷性顔面神経麻痺は側頭骨骨折で発生しやすい
顔面神経麻痺の約5%が外傷性です。外傷性顔面神経麻痺の原因のほとんどは、側頭骨骨折などの頭部外傷です。
側頭骨骨折を受傷すると、骨折片が顔面神経を圧迫したり、切断してしまい、外傷性顔面神経麻痺を引き起こします。
<参考>
【医師が解説】頭蓋骨骨折の後遺症の後遺障害認定ポイント|交通事故
顔面神経麻痺の診断
顔面神経麻痺の診断には以下があります。
- 柳原法(麻痺スコア)
- 電気生理学的検査
- CT検査
- MRI検査
柳原法(麻痺スコア)
顔面神経麻痺の程度を評価するために、顔の表情筋の運動障害を点数化する柳原法という麻痺スコアを実施します。
柳原法では、8点以下を完全麻痺、10点以上を不全麻痺と評価します。柳原法は、顔面神経麻痺の程度の変化を観察するのに適しています。
<参考>
【医師が解説】交通事故の顔の傷跡と後遺障害|外貌醜状
【医師が解説】外貌醜状や醜状障害の後遺障害認定ポイント|交通事故
電気生理学的検査
NET(nerve excitability test)
NETでは、顔面神経刺激による顔面筋の収縮を観察して、患側と健側で筋収縮を起こす電流の最小閾値を比較します。
閾値差が3.5mA以内なら予後は良好ですが、3.5mA以上の場合は予後不良とされています。
ENoG(electroneuronography)
ENoGは誘発筋電図の一種です。最大レベルの刺激で得られた複合筋活動電位の振幅を患側と健側で比較して、神経変性に陥った神経線維の割合を評価します。
<参考>
【医師が解説】神経伝導速度検査は万能ではない|交通事故
CT検査
外傷性顔面神経麻痺では、側頭骨骨折の部位や転位状況、耳小骨連鎖、迷路骨包障害などを評価するために、CT検査を行います。
注意点は、頭部外傷のスクリーニングで撮像した頭部CT検査では、顔面神経管周囲の評価が難しいことです。このため、外傷性顔面神経麻痺では、側頭骨骨折のCT検査が必要です。
<参考>
【医師が解説】頭蓋骨骨折の後遺症の後遺障害認定ポイント|交通事故
MRI検査
外リンパ漏、髄液漏、顔面神経断裂を疑うケースでは、MRI検査で評価することが望ましいです。
顔面神経麻痺で考えられる後遺障害
外貌の醜状障害
顔面神経麻痺による口唇周囲のゆがみなどの後遺症は、外貌の醜状障害として12級14号になります。顔面神経麻痺の程度は、柳原法で評価されます。
<参考>
【日経メディカル】「美形」は外貌醜状の後遺障害認定で有利?
【医師が解説】交通事故の顔の傷跡と後遺障害|外貌醜状
【医師が解説】外貌醜状が後遺障害に認定されるポイント|交通事故
耳鳴り
12級相当:耳鳴に係る検査によって耳鳴が存在すると医学的に評価できるもの
ピッチマッチ検査およびラウドネスバランス検査によって、耳鳴りが存在すると医学的に評価できる場合に該当します。
一方、弊社の経験では、オージオグラムで難聴が証明されているだけで、耳鳴で12級相当が認定された事案も存在します。
14級相当:難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できるもの
この場合の「難聴に伴い」とは、平均純音聴力レベルが後遺障害等級認定上の難聴の基準である40dB以上を指すものではありません。
耳鳴が存在するであろう周波数純音の聴力レベルが、他の周波数純音の聴力レベルと比較して低下しているものを指します。
難聴
9級9号:1耳の聴力を全く失ったもの
一耳の平均純音聴力レベルが90dB以上のもの
10級6号:1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの
一耳の平均純音聴力レベルが80dB以上90dB未満のもの
11級6号:1耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの
- 一耳の平均純音聴力レベルが70dB以上80dB未満のもの
- 一耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のもの
14級3号:1耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの
一耳の平均純音聴力レベルが40dB以上70dB未満のもの
<参考>
【医師が解説】耳鳴り・難聴の後遺障害認定ポイント|交通事故
まぶたの運動障害
顔面神経麻痺のために、瞼(まぶた)を閉じられないケースでは、眼の障害として12級2号認定される可能性があります。
味覚の障害
顔面神経麻痺のために、味覚が減退したケースでは、味覚の障害として14級相当に認定される可能性があります。
嗅覚の障害
顔面神経麻痺のために、味覚が減退したケースでは、味覚の障害として14級相当に認定される可能性があります。
味覚が減退したものと評価されるには、T&Tオルファクトメーターの検査結果が2.6以上5.5以下となる必要があります。
<参考>
【医師が解説】鼻骨骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【弁護士必見】顔面神経麻痺の後遺障害認定ポイント
顔面神経麻痺では、柳原法で麻痺の程度を評価します。柳原法で10点以上であれば、外貌の醜状障害として12級14号が認定される可能性があります。
顔面神経麻痺の診断には、柳原法(麻痺スコア)、電気生理学的検査、CT検査、MRI検査がありますが、交通事故の後遺障害では、柳原法とCT検査が重要です。
CT検査は、頭部外傷のスクリーニングで撮像した頭部CT検査では顔面神経管周囲の評価が難しいことに注意が必要です。外傷性顔面神経麻痺では、側頭骨骨折のCT検査が望ましいでしょう。
顔面神経麻痺では、顔面筋の運動障害以外にも、難聴、耳鳴り、まぶたの運動障害、味覚障害、嗅覚障害などを併発する可能性があります。
まとめ
顔面神経麻痺を合併すると、片方の目が閉じにくくなったり、口が歪んだり、口からよだれが垂れたりします。
顔面神経麻痺の原因はほとんどがウイルス感染ですが、側頭骨骨折などの頭部外傷が契機になることもあります。
顔面神経麻痺の診断には、柳原法(麻痺スコア)、電気生理学的検査、CT検査、MRI検査がありますが、交通事故の後遺障害では、柳原法とCT検査が重要です。
顔面神経麻痺でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
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