交通事故で受傷した首の捻挫は、むちうちや頚椎捻挫と呼ばれています。むちうちや頚椎捻挫の症状は、首の痛みだけだと思われがちです。しかし実際には首の痛み以外にも、さまざまな症状をきたします。
本記事は、首の捻挫で発症した症状の種類と治し方を解説しています。併せて、後遺症が残った際に自賠責保険の後遺障害が認定されるポイントを理解するヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/16
Table of Contents
首の捻挫の症状
首の捻挫なので、症状は首の痛みだけだと思われがちです。しかし実際には、首の痛みだけではなく、以下のようなたくさんの症状があります。
- 首の痛み(後頚部痛)
- 肩こり
- 上肢の痛み、しびれ、脱力感
- 頭痛
- めまい
- 嘔気
- 耳鳴り
- 下肢のしびれ
- 動悸
- 全身倦怠感
日常診療で整形外科医がよく見かける症状は、首の痛み、肩こり、上肢の痛みやしびれ、頭痛の4つです。
首の痛み(後頚部痛)
首の痛みは、首の捻挫の症状として最も有名です。実際に、むちうち(頚椎捻挫)を受傷した方のほぼ全員に首の痛みがあります。
整形外科では、レントゲン検査やMRI検査を実施します。画像所見として、背骨(頚椎)の骨棘や椎間板腔狭小化を認めるケースが多いです。
しかし、これらの画像所見は、むちうち患者さんに特有の所見ではありません。交通事故のために生じた新鮮外傷の所見は、ほとんど見かけません。このため、客観的に首の痛みの存在を証明することは難しいと言えます。
肩こり
肩こりも首の痛みと並んでよく見かける症状です。人によっては、首の痛みを肩こりと認識するケースもあるため、これらは一連の症状と言えます。
あくまで推測の域を出ませんが、交通事故によって背骨(頚椎)周囲に炎症が発生して、その炎症のために痛みや肩こりを発症すると考えられています。
上肢の痛み、しびれ、脱力感
上肢の痛み、しびれ、脱力感は、首の痛み肩こりとは原因が異なります。これらの症状は、首の骨から手に向かう神経が原因となるからです。
上肢の痛み、しびれ、脱力感は、首の骨から出て手の方に向かって伸びている神経が、頚椎椎間板ヘルニアによって圧迫されて発症するケースが多いです。
しかし、ほとんどのケースで、交通事故のために頚椎椎間板ヘルニアが発生するわけではありません。
交通事故前から存在した無症状の頚椎椎間板ヘルニアが、事故をきっかけにして上肢の症状を引き起こすのが一般的です。
頭痛
首の痛みや上肢の痛み・しびれ・脱力感と並んで、頭痛も首の捻挫の症状として有名です。頭痛は頭全体ではなく、後頭部を中心とした痛みであるケースが多いです。
首の捻挫による頭痛が後頭部に多い理由は、大後頭神経というC1/2から出てくる神経周囲の炎症による症状だからです。首の痛みも頭痛も、首の骨(頚椎)周囲の炎症による症状なのです。
めまい
交通事故で首の骨(頚椎)の周囲に炎症が発生すると、交感神経が刺激されて耳の機能をつかさどる部分の血流が低下します。その結果、めまいを発症するのです。
<参考>
嘔気
一般的に、めまいには吐き気を伴いやすいです。首の捻挫でめまいを発症すると、吐き気を訴えるケースもあります。
耳鳴り
首の捻挫では、耳鳴り、目のかすみなどの自律神経失調症の症状が発症する可能性もあります。
首の捻挫に自律神経失調症が合併した状態は、バレリュー症候群(Barré-Liéou syndrome)と呼ばれています。
<参考>
下肢のしびれ
首の捻挫では、上肢だけではなく下肢のしびれを訴える人もいます。しかし、下肢のしびれを医学的に説明することはできません。
下肢のしびれが続く場合には、首の骨周囲の炎症ではなく中心性脊髄損傷などの神経そのものの傷害も考える必要があります。
<参考>
【医師が解説】中心性脊髄損傷が後遺症認定されるポイント|交通事故
動悸
首の捻挫では、動悸などの自律神経失調症の症状が発症する可能性もあります。
首の骨の前方に存在する自律神経周囲に炎症が及んで、自律神経の調整能力が低下して発症すると考えられています。
全身倦怠感
原因は不明ですが、首の捻挫では全身倦怠感を訴える人も多いです。首の捻挫の症状が続くことによる精神的ストレスも要因のひとつかもしれません。
<参考>
首の捻挫の治療
首の捻挫の保存療法
首の捻挫では、首の安静と消炎鎮痛剤(お薬、シップ)の処方が一般的です。首を保護するため、頚椎装具(ソフトカラー)を処方することもあります。
交通事故から1~2週間経過すると、物理療法(温熱、低周波、牽引など)、理学療法士などによるリハビリテーションが行われます。
<参考>
【医師が解説】むちうちの首コルセットは寝るときも装着?|交通事故
首の捻挫で手術を行う?
首の捻挫に対して手術が行われることは一般的にはまれです。しかし、頚椎椎間板ヘルニア、頚椎症、頚椎後縦靭帯骨化症などに由来する症状がある場合は、頚椎の手術が行われることもあります。
具体的には、上肢の強い痛みやしびれが持続するケース、上肢や下肢に麻痺(まひ)を生じているケースなどが該当します。
頚髄という神経本体が損傷を受けると、両手の巧緻性障害(こうちせいしょうがい:細かい作業ができない)、四肢のしびれ、感覚異常などの症状が出てきます。
症状が重症化してくると歩行障害(痙性や失調によるもの)や直腸膀胱障害(自力で尿が出せない、失禁するなど)を生じることもあります。
よく見かけるパターンは、受傷する前から神経の通り道(脊柱管)が狭い方が、交通事故をきっかけにして麻痺症状が出現してしまうケースです。
脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)の原因として多いのは、発育性脊柱管狭窄と頚椎後縦靭帯骨化症によるものです。
日本人の頚椎脊柱管は欧米の方と比較すると、狭い傾向があり、無症状で生活されている方の中にも潜在的な脊柱管狭窄を有する人がいます。
また、頚椎後縦靭帯骨化症は、アジア人に多いとされており、脊柱管狭窄症の原因となります。
<参考>
【医師が解説】後縦靭帯骨化症(OPLL)と後遺症|交通事故
整骨院の施術には医学的エビデンスが無い
整骨院へ通う理由は、至る所に存在することや夜遅くまで営業していること以外にも、施術そのものに効果を感じることが挙げられます。
しかし残念ながら、整骨院の施術で、むちうち症状を改善させたという医学的エビデンスは存在しません。自然科学では、ランダム化比較試験(Randomised Controlled Trial; RCT)の有意結果が最上位のエビデンスです。
一方、医学的な治療法や薬物療法で使用される薬剤は、ランダム化比較試験で効果を確認されたものがほとんどです。やはり科学的に効果が確認されている整形外科の治療を優先させるべきでしょう。
首の捻挫で考えられる後遺障害
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
局部とは、頚椎捻挫においては頚椎(首)をさします。神経症状とは、頚椎捻挫に由来する症状をさします。頚部痛に留まらず、肩こり、上肢のしびれや痛み、めまいや頭痛、嘔気なども含まれます。
14級9号との大きな違いは、「障害の存在が医学的に証明できるもの」という箇所です。12級13号認定のためには、レントゲン検査やMRI検査で客観的(他覚的)な異常所見があることが前提になります。
異常所見には骨折や脱臼はもちろんですが、その他にも椎間板ヘルニアや骨棘(頚椎加齢の変化)、椎間板高の減少(加齢による変性で椎間板の厚みが減少する)も含まれます。
神経や椎間板は、レントゲンには写らず、MRIを撮らないと評価ができないため、頚椎捻挫治療の過程で頚椎のレントゲンしか撮影されていない場合は、障害の存在を医学的に証明することが困難なケースが多いです。
また若い患者さんでは、加齢の変化が少ないため、MRIの異常所見が存在しないことも多く、その場合も、12級13号には該当しません。
神経症状に関しても14級9号では、自覚症状(患者さんの訴え)としての痛みで良いのですが、12級13号ではより条件が厳しくなります。
自覚症状だけでは不十分で、客観的な症状が必要とされます。客観的な症状には、筋力低下、筋肉の萎縮(やせて細くなる)、深部腱反射の異常(医師が打腱器を使って行う検査)をさします。
しびれ(知覚障害)の範囲も、損傷された神経の分布に一致している必要があります。頚椎捻挫で行われる頻度は非常に低いですが、筋電図や神経伝導検査といった特殊な検査の異常値も客観的な所見に含まれます。
筋力低下は、医学的には徒手筋力テスト(MMT)で評価され、筋力が正常な5から完全運動麻痺の0までの6段階で記載されます。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
局部とは、頚椎捻挫では頚椎(首)をさします。神経症状とは、頚椎捻挫に由来する症状をさします。頚部痛にとどまらず、上肢のしびれや痛み、めまい、頭痛、嘔気なども含まれます。
将来においても、回復は見込めないと医師が判断した状態であること(症状固定)が前提になります。
症状の常時性(時々痛みがあるのではなく、常に痛みがある)が認定要件です。「天気が悪いときに痛い」といったように症状の消失する時間があると認定されません。
また、交通事故と本人の感じる後遺症に因果関係が認められることが条件となるため、あまりに車体の損傷が小さい軽微な交通事故は非該当とされることが多いです。
<参考>
【日経メディカル】むち打ちの後遺障害が非該当になる理由
【医師が解説】頚椎捻挫(むちうち)の後遺症認定のヒント|交通事故
【弁護士必見】首の捻挫の後遺障害認定ポイント
首の痛み
代表的な首の捻挫(むちうち)の症状である首の痛みは、後遺障害の14級9号に認定されるケースが多いです。弊社の経験では、首の痛みだけで12級13号が認定された事案は存在しません。
首の痛みの原因となりうる画像所見は、比較的高頻度に認められます。しかし、首の痛みが14級9号に認定されるためには、画像所見よりも通院状況や事故態様の影響の方が大きい印象を受けています。
上肢の痛み、しびれ、脱力感
上肢の痛み、しびれ、脱力感に関しては、14級9号だけではなく、12級13号に認定される可能性があります。しかし、14級9号と比較して、かなり認定基準は厳しいです。
身体所見と画像所見が完全に一致するのが最低条件ですが、実臨床ではこの点を満たす事案はそれほど多くありません。
一致しない要因のひとつは、カルテの記載不足です。自賠責認定基準と治療のポイントは異なります。主治医の目的はあくまでも治療なので、自賠責認定基準の記載が抜けているケースが多いです。
めまい、耳鳴り、嘔気
めまい、耳鳴り、嘔気などの自律神経失調症状は、14級9号に認定される可能性があります。
しかし、これらの自律神経失調症状が単独で後遺障害に認定されるというより、首の痛みとの合わせ技であるケースが多いです。
このため、後遺障害診断書に自律神経失調症状の記載しかない場合には、本当に首の痛みが無いのかを被害者に確認する必要があります。
むちうちなどの首の捻挫でお困り事案があれば、こちらから気軽にご相談ください。
【12級13号】首の捻挫の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:46歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)
交通事故後に頚部痛と右頚部から母指にかけて放散する痛みが持続していました。痛みのため、1年以上通院、治療を余儀なくされましたが、症状は改善しませんでした。初回申請時には非該当と判定されました。
弊社の取り組み
診療録を詳細に確認すると、受傷直後から頚椎椎間板ヘルニアに特徴的な「スパーリング徴候陽性」と複数箇所に記載されていました。
MRIで、C5/6レベルに椎間板ヘルニア(矢印)を認め、患者さんの上肢痛(右母指にかけての放散痛)は椎間板ヘルニアが圧迫しているC6神経根の知覚領域と完全に一致していました。
脊椎脊髄外科指導医が診療録を確認して、初回申請時に見落とされていた身体所見を記載した医師意見書を作成しました。異議申立てを行ったところ12級13号が認定されました。
【14級9号】首の捻挫の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:60歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:14級9号(局部に神経症状を残すもの)
交通事故後に頚部痛と両手のしびれを自覚されていました。受傷から半年間通院されましたが、頚部痛と両手のしびれは改善せず、後遺障害診断書が作成されましたが、非該当と判定されたため、弊社に相談がきました。
弊社の取り組み
MRIを脊椎脊髄外科専門医が読影したところ、頚椎後縦靭帯骨化症が存在していることが明らかになりました。診療録を確認すると、受傷当日から頚部痛と両手がしびれると記載されていました。
身体所見、画像所見および診療経過について、医師意見書を作成して異議申立てを行ったところ14級9号が認定されました。
まとめ
首の捻挫の症状には、首の痛み以外にも以下のようなものがあります。
- 首の痛み(後頚部痛)
- 肩こり
- 上肢の痛み、しびれ、脱力感
- 頭痛
- めまい
- 嘔気
- 耳鳴り
- 下肢のしびれ
- 動悸
- 全身倦怠感
これらの症状の多くは、自律神経の異常に起因していると考えられています。
首の捻挫の治療は、首の安静と消炎鎮痛剤(お薬、シップ)の処方などの保存療法が一般的です。
首の捻挫の症状が後遺障害に認定されるケースでは、14級9号もしくは12級13号がほとんどです。
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