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腰痛や椎間板ヘルニアは労災認定されるのか|労災事故

仕事中に腰痛や椎間板ヘルニアを発症すると後遺症を残すことがあります。後遺障害に認定されると、労災保険から給付を受けることができます。

 

しかし、腰痛や椎間板ヘルニアは労災認定されにくいと言われています。労働基準監督署に申請すれば、自動的に後遺障害が認定されるわけではないのです。

 

本記事は、腰痛や椎間板ヘルニアが労災保険で後遺障害認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日: 2024/5/13

 

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腰痛と椎間板ヘルニアの症状

椎間板ヘルニアの症状として最も多いのは腰痛やおしりの痛み(殿部痛)です。下肢(足)の痛みやしびれを引き起こす場合があり、この症状を「坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)」と呼びます。

 

坐骨神経は、幾つもの神経が集まった束のようなもので、腰から足の先まで電線のように下肢の内部を走行しています。そのため、腰やおしりから太ももの後ろ側、ふくらはぎにかけて広範囲にしびれや痛みを生じます。

 

 

 

 

腰痛や椎間板ヘルニアの検査所見

 

カルテや診断書に記載されることの多い検査所見について説明します。

 

 

SLRテスト(ラセーグ徴候と同義)

ベッドの上に患者さんに仰向けで横になってもらい、膝を伸ばした状態で下肢を持ち上げる検査です。腰椎椎間板ヘルニアで腰神経の圧迫があると、下肢を持ち上げた際に強い下肢痛を生じ、陽性と判断されます。比較的客観性の高い検査です。

 

<参考>
【医師が解説】SLRとFNSテストはヘルニア後遺症認定のポイント

 

 

FNSテスト(大腿神経伸展テスト)

FNSテストとは、L2/3椎間板ヘルニアやL3/4椎間板ヘルニアで特異的に陽性になる検査です。患者さんにうつ伏せになってもらい、膝を曲げていきます。太ももの前に痛みやしびれが発生すると陽性です。

 

 

<参考>
【医師が解説】SLRとFNSテストはヘルニア後遺症認定のポイント

 

 

徒手筋力テスト(MMT)

患者さんの筋力を0から5までの6段階で評価するものです。5が正常で、0は筋肉の収縮すら確認できないという評価になります。

 

腰椎椎間板ヘルニアで腰神経が圧迫されると、神経を伝わって筋肉の収縮をおこすことができなくなります。その結果、筋肉が麻痺したり、筋萎縮(筋肉がやせて細くなる)を生じます。

 

また、知覚障害の範囲を調べることで、腰椎のどの神経が障害されているかを予測することが可能です。

 

例えばL5神経(Lは腰椎)であれば、下腿の外側から母趾にかけて、S1神経(Sは仙骨)であれば、足底といった感じです。

 

 

<参考>
【医師が解説】徒手筋力検査は後遺症12級認定のポイント

 

 

深部腱反射

ハンマーで患者さんの腱を叩く検査です。患者さんの意思に関係なく反応が現れる為、客観的な検査結果と解釈されます。

 

腰椎椎間板ヘルニアで圧迫される腰神経は、末梢神経に分類されます。末梢神経が圧迫されると、下肢の深部腱反射は低下します。

 

 

<参考>
【医師が解説】深部腱反射は12級の後遺症認定のポイント|交通事故

 

 

DTR

 

 

腰痛や椎間板ヘルニアの後遺障害等級と認定基準

12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの

局部とは腰部を指します。神経症状は腰痛だけでなく、お尻の痛み、下肢のしびれや痛みなども含まれます。

 

12級13号認定のためには、まずレントゲンやMRIで客観的(他覚的)な異常所見があることが必須条件になります。

 

将来においても、回復は見込めないと医師が判断した状態であること(症状固定)が前提になります。後遺障害診断書には、症状の常時性が必要で、天気が悪いときに痛いなどの症状では後遺障害に認定されません。

 

 

14級9号:局部に神経症状を残すもの

14級9号との大きな違いは、障害の存在を明確に証明できない点です。レントゲンやMRIで認められる異常所見の程度が12級13号ほど明らかではない事案が多いです。

 

 

後遺障害に認定されると損害賠償金を請求できる

 

後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。

 

 

後遺障害慰謝料とは

労災事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。

 

 

後遺障害等級

後遺障害慰謝料

1級

2800万円

2級

2370万円

3級

1990万円

4級

1670万円

5級

1400万円

6級

1180万円

7級

1000万円

8級

830万円

9級

690万円

10級

550万円

11級

420万円

12級

290万円

13級

180万円

14級

110万円

 

 

後遺障害逸失利益とは

後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。

 

後遺障害逸失利益は、労災事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。

 

 

<参考>
労働問題に関する記事一覧|法律相談ナビ

 

 

LBP

 

 

腰痛や椎間板ヘルニアが労災認定される3つの条件

腰痛や下肢痛が業務と因果関係がある

腰痛や下肢痛の発生が業務に起因する

 

労災保険の後遺障害は、労災事故や業務によって生じた後遺症が対象です。このため、業務と腰痛や下肢痛に因果関係が無ければ後遺障害に認定されません。

 

腰痛や下肢痛の発生が業務遂行中である

 

腰痛や下肢痛と業務の因果関係を証明するためは、症状の発生が業務遂行中である必要があります。業務時間外に発症しても、業務との因果関係を証明できません。

 

 

腰痛や下肢痛が一貫して続いている

労災事故に遭ってから症状固定までの間に、腰痛や下肢痛が続いていないケースでは、私病(労災事故とは関係の無い病気)と疑われる可能性があります。

 

また、雨が降った日だけ痛いなどの症状も、症状に一貫性が無いと判断されて後遺障害に認定されない可能性が高いです。

 

 

腰痛や下肢痛を医学的に証明できる

いくら労災事故直後から腰痛や下肢痛が一貫して続いていたとしても、レントゲン検査やMRI検査などの画像検査で、腰痛や下肢痛の原因となる所見が無いケースは、後遺障害に認定されにくいです。

 

一方、画像所見だけでは片手落ちです。痛みの存在が客観的に分かる神経学的テスト(SLRテストとFNSテスト)が陰性のケースでは、後遺障害に認定されにくいです。

 

 

<参考>

  • 【医師が解説】SLRとFNSテストはヘルニア後遺症認定のポイント
  •  

     

    【弁護士必見】腰痛や椎間板ヘルニアの労災認定ポイント

    腰痛の労災認定基準(厚生労働省)

    厚生労働省は、腰痛の労災認定において、認定要件を下記のように定めています。

     

     

    災害性の原因による腰痛

     

    負傷などによる腰痛で、次の①、②の要件のどちらも満たすもの

    1. 腰の負傷またはその負傷の原因となった急激な力の作用が、仕事中の突発的な出来事によって生じたと明らかに認められること
    2. 腰に作用した力が腰痛を発症させ、または腰痛の既往症、基礎疾患を著しく悪化させたと医学的に認められること

     

    災害性の原因によらない腰痛

     

    突発的な出来事が原因ではなく、重量物を取り扱う仕事など腰に角の負担のかかる仕事に従事する労働者に発症した腰痛で、作業の状態や作業期間などからみて、仕事が原因で発症したと認められるもの

     

     

    LBP

     

     

    災害性の原因による腰痛の具体例

    「災害性の原因による腰痛」とは、腰に受けた外傷によって生じる腰痛のほか、外傷はないが、突発的で急激な強い力が原因となって筋肉等(筋、筋膜、靭帯など)が損傷して生じた腰痛です。

     

    • 重量物の運搬作業中に転倒した場合
    • 重量物を2人で担いで運搬する際に、そのうち1人が滑って肩から荷をを外した場合のように、突然の出来事により急激な強い力が腰にかかって発生した腰痛
    • 持ち上げる重量物が予想に反して重かったり、逆に軽かったりする場合や、不適当な姿勢で重量物を持ち上げた場合のように突発的で急激な強い力が腰に異常に作用したことにより生じた腰痛

     

     

    災害性の原因によらない腰痛の具体例

    筋肉等の疲労を原因とした腰痛

     

    次のような業務に、約3ヵ月以上従事したことによる筋肉等の疲労を原因とした腰痛は、労災補償の対象となります。

     

    • 20㎏以上の重量物または重量の異なる物品を、繰り返し中腰の姿勢で取り扱う業務(例:港湾荷役など)
    • 毎日、数時間程度、腰に負担のかかる極めて不自然な姿勢を保持して行う業務(例:配電工など)
    • 長時間座ったまま同一の姿勢で行う業務(例:長距離トラックの運転業務など)
    • 腰に著しく大きな振動を受ける作業を継続して行う業務(例:車両系建設用機械の運転業務など)

     

     

    骨の変化を原因とした腰痛

     

    以下のような業務に、約10年間以上にわたって従事し、骨の変化を原因とした腰痛を発症した場合、労災補償の対象となります。

     

    • 労働時間の約1/3以上に及び、30㎏以上の物品を取り扱う業務
    • 労働時間半分以上に及んで、約20㎏以上の物品を取り扱う業務

     

     

    以上が、厚生労働省が具体的に挙げている腰痛や椎間板ヘルニアの労災認定基準です。ひと言で腰痛や椎間板ヘルニアと言っても、労災保険では詳細に後遺障害の認定基準が定められています。

     

     

    整形外科医師から見た実臨床での問題点

    整形外科外来の中でも、腰痛や椎間板ヘルニアの患者さんは大きなウェイトを占めています。そして、仕事がきっかけに腰痛や下肢の痛みを発症したと訴える人が多いです。

     

    整形外科医師は、交通事故や高所からの転落などによって受傷した脊椎圧迫骨折や外傷性腰椎椎間板ヘルニアの患者さんを日常的に診療しています。このような患者さんは、事故と傷害の因果関係が明らかです。

     

    一方、厚生労働省が例示したような腰痛患者さんは、臨床医の立場では因果関係が不明瞭だと感じやすいです。何故なら、患者さんから伝えられた受傷機転の真偽を確認する術が無いからです。

     

    また、厚生労働省による腰痛の労災認定基準を知っている整形外科医師は、ほとんど存在しないものと思われます。

     

    このような理由で、患者さんから腰痛や下肢の痛みを労災申請すると言われると、本当に労災事故に起因する腰痛なのかと警戒する医師が多いのが実情です。

     

    腰椎の椎間板にHIZなどの所見があれば、主治医としても労災事故との因果関係を受け入れやすいです。しかし、多くの事案では、このような急性期所見を認めないのが実情です。

     

     

    <参考>
    【医師が解説】腰椎捻挫の後遺症では椎間板内の高信号領域(HIZ)に注目

     

     

     

    nikkei medical

     

     

    まとめ

     

    腰痛や椎間板ヘルニアは、労災事故の後遺障害に認定されにくいと言われています。労災認定されるためには、以下の3つの条件を満たす必要があります。

     

    • 腰痛や下肢痛が業務と因果関係がある
    • 腰痛や下肢痛が一貫して続いている
    • 腰痛や下肢痛を医学的に証明できる

     

     

    腰痛や下肢痛と業務との因果関係の証明には、画像所見が決めてになるケースもあります。

     

    腰痛や椎間板ヘルニアの労災認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。

     

     

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