交通事故の「むちうち」の症状は、首の痛みと思われがちです。しかし実際には首の痛み以外にも、さまざまな症状をきたします。
むちうちの症状が後遺症として残ると、自賠責保険に後遺障害申請することになります。そして、それぞれの症状で後遺障害に認定されるポイントが異なります。
本記事は、むちうち症状の種類と後遺障害認定のポイントを理解するヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/9/8
Table of Contents
むちうち(頚椎捻挫)の症状
むちうちの症状は首の痛みと思われがちです。しかし実際には、頚部痛や肩こりなどの首を中心にした症状だけではなく、以下のような多岐にわたる症状があります。
- 首の痛み(後頚部痛)
- 肩こり
- 上肢のしびれ、痛み、脱力感
- 頭痛
- めまい
- 嘔気
- 耳鳴り
- 下肢のしびれ
- 動悸
- 全身倦怠感
私たち整形外科医師が日常診療していて最もよく見かける症状は、首の痛み、肩こり、上肢のしびれや痛み、頭痛の4つです。
首の痛み(後頚部痛)
首の痛み(後頚部痛)は、むちうちの症状として最も有名です。実際に、むちうち患者さんのほぼ全員が首の痛みを訴えます。
一方、首の痛みの原因を客観的に証明することは意外なほど難しいです。レントゲン検査やMRI検査では、たしかに骨棘形成や椎間板腔狭小化などの所見を認めるケースが多いです。
しかしこれらの画像所見は、むちうち患者さんに特有の所見というわけではありません。明らかに交通事故が原因と分かる外傷性頚椎椎間板ヘルニアなどは珍しいケースと言えます。
肩こり
肩こりも首の痛みと並んでよく見かける症状です。首の痛みと肩こりは一連の症状と言えます。
あくまで推測の域を出ませんが、交通事故によって頚椎周囲に炎症が発生して、その炎症のために痛みやこりを発症すると考えられています。
上肢のしびれ、痛み、脱力感
上肢のしびれ、痛み、脱力感は、首の痛みとは少し原因が異なります。これらの症状は、首の骨から手に向かう神経が原因となるからです。
上肢のしびれや痛みは、頚椎椎間板ヘルニアによる神経根の圧迫によって発症するケースが多いです。しかし、ほとんどのケースで、交通事故のために頚椎椎間板ヘルニアが発生するわけではありません。
交通事故前から存在した無症候性の頚椎椎間板ヘルニアが、事故を契機にして有症化するのが一般的です。
頭痛
首の痛みや上肢のしびれ・痛みと並んで、頭痛もむちうち症状として有名です。頭痛は頭全体が痛むというよりも、主に後頭部を中心とした痛みであるケースが多いです。
むちうちによる頭痛が後頭部に多い理由は、大後頭神経というC1/2から出てくる神経周囲の炎症による症状だからです。首の痛みも頭痛も、元をたどれば首の骨(頚椎)周囲の炎症による症状なのです。
めまい
交通事故で頚椎の周囲に炎症が発生すると、交感神経が刺激されて耳の機能をつかさどる部分の血流が低下するといわれています。その結果、めまいを発症するのです。
<参考>
嘔気
一般的に、めまいには嘔気を合併しやすいです。むちうちでめまいを発症すると、嘔気を訴えるケースもあります。
耳鳴り
むちうちでは、耳鳴り、目のかすみなどの自律神経失調症の症状が発症する可能性もあります。
むちうちに自律神経失調症が合併した状態は、バレリュー症候群(Barré-Liéou syndrome)と呼ばれています。
<参考>
下肢のしびれ
むちうちでは、上肢のしびれだけではなく下肢のしびれを訴える人もいます。しかし、上肢はともかくとして、下肢のしびれに関しては医学的に説明することができません。
下肢のしびれが続く場合には、中心性脊髄損傷なども考える必要があります。
<参考>
【医師が解説】中心性脊髄損傷が後遺症認定されるポイント|医療鑑定
動悸
むちうちでは、動悸などの自律神経失調症の症状が発症する可能性もあります。
頚椎前方に存在する自律神経周囲に炎症が及んで、自律神経の調整能力が低下して発症すると考えられています。
全身倦怠感
原因は不明ですが、全身倦怠感を訴える人も多いです。むちうち症状が続くことによる精神的ストレスも要因のひとつかもしれません。
<参考>
むちうちで考えられる後遺障害
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
局部とは、頚椎捻挫においては頚椎(首)をさします。神経症状とは、頚椎捻挫に由来する症状をさします。頚部痛に留まらず、肩こり、上肢のしびれや痛み、めまいや頭痛、嘔気なども含まれます。
14級9号との大きな違いは、「障害の存在が医学的に証明できるもの」という箇所です。12級13号認定のためには、レントゲン検査やMRI検査で客観的(他覚的)な異常所見があることが前提になります。
異常所見には骨折や脱臼はもちろんですが、その他にも椎間板ヘルニアや骨棘(頚椎加齢の変化)、椎間板高の減少(加齢による変性で椎間板の厚みが減少する)も含まれます。
神経や椎間板は、レントゲンには写らず、MRIを撮らないと評価ができないため、頚椎捻挫治療の過程で頚椎のレントゲンしか撮影されていない場合は、障害の存在を医学的に証明することが困難なケースが多いです。
また若い患者さんでは、加齢の変化が少ないため、MRIの異常所見が存在しないことも多く、その場合も、12級13号には該当しません。
神経症状に関しても14級9号では、自覚症状(患者さんの訴え)としての痛みで良いのですが、12級13号ではより条件が厳しくなります。
自覚症状だけでは不十分で、客観的な症状が必要とされます。客観的な症状には、筋力低下、筋肉の萎縮(やせて細くなる)、深部腱反射の異常(医師が打腱器を使って行う検査)をさします。
しびれ(知覚障害)の範囲も、損傷された神経の分布に一致している必要があります。頚椎捻挫で行われる頻度は非常に低いですが、筋電図や神経伝導検査といった特殊な検査の異常値も客観的な所見に含まれます。
筋力低下は、医学的には徒手筋力テスト(MMT)で評価され、筋力が正常な5から完全運動麻痺の0までの6段階で記載されます。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
局部とは、頚椎捻挫では頚椎(首)をさします。神経症状とは、頚椎捻挫に由来する症状をさします。頚部痛にとどまらず、上肢のしびれや痛み、めまい、頭痛、嘔気なども含まれます。
将来においても、回復は見込めないと医師が判断した状態であること(症状固定)が前提になります。
症状の常時性(時々痛みがあるのではなく、常に痛みがある)が認定要件です。「天気が悪いときに痛い」といったように症状の消失する時間があると認定されません。
また、交通事故と本人の感じる後遺症に因果関係が認められることが条件となるため、あまりに車体の損傷が小さい軽微な交通事故は非該当とされることが多いです。
<参考>
【医師が解説】頚椎捻挫が後遺症認定されるポイント|医療鑑定
【弁護士必見】むちうち症状別の後遺障害認定ポイント
首の痛み
代表的なむちうち症状である首の痛みは、後遺障害の14級9号に認定されるケースが多いです。弊社の経験では、首の痛みだけで12級13号が認定された事案は存在しません。
首の痛みの原因となりうる画像所見は、比較的高頻度に認められます。しかし、首の痛みが14級9号に認定されるためには、画像所見よりも通院状況や事故態様の影響の方が大きい印象を受けています。
上肢の痛み、しびれ、脱力感
上肢の痛み、しびれ、脱力感に関しては、14級9号だけではなく、12級13号に認定される可能性があります。しかし、14級9号と比較して、かなり認定基準は厳しいです。
身体所見と画像所見が完全に一致するのが最低条件ですが、実臨床ではこの点を満たす事案はそれほど多くありません。
一致しない要因のひとつは、カルテの記載不足です。自賠責認定基準と治療のポイントは異なります。主治医の目的はあくまでも治療なので、自賠責認定基準の記載が抜けているケースが多いです。
めまい、耳鳴り、嘔気
めまい、耳鳴り、嘔気などの自律神経失調症状は、14級9号に認定される可能性があります。
しかし、これらの自律神経失調症状が単独で後遺障害に認定されるというより、首の痛みとの合わせ技であるケースが多いです。
このため、後遺障害診断書に自律神経失調症状の記載しかない場合には、本当に首の痛みが無いのかを被害者に確認する必要があります。
むちうちでお困り事案があれば、こちらから気軽にご相談ください。
【12級13号】むちうちの後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:46歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)
交通事故後に頚部痛と右頚部から母指にかけて放散する痛みが持続していました。痛みのため、1年以上通院、治療を余儀なくされましたが、症状は改善しませんでした。初回申請時には非該当と判定されました。
弊社の取り組み
診療録を詳細に確認すると、受傷直後から頚椎椎間板ヘルニアに特徴的な「スパーリング徴候陽性」と複数箇所に記載されていました。
MRIで、C5/6レベルに椎間板ヘルニア(矢印)を認め、患者さんの上肢痛(右母指にかけての放散痛)は椎間板ヘルニアが圧迫しているC6神経根の知覚領域と完全に一致していました。
脊椎脊髄外科指導医が診療録を確認して、初回申請時に見落とされていた身体所見を記載した医師意見書を作成しました。異議申立てを行ったところ12級13号が認定されました。
【14級9号】むちうちの後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:60歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:14級9号(局部に神経症状を残すもの)
交通事故後に頚部痛と両手のしびれを自覚されていました。受傷から半年間通院されましたが、頚部痛と両手のしびれは改善せず、後遺障害診断書が作成されましたが、非該当と判定されたため、弊社に相談がきました。
弊社の取り組み
MRIを脊椎脊髄外科専門医が読影したところ、頚椎後縦靭帯骨化症が存在していることが明らかになりました。診療録を確認すると、受傷当日から頚部痛と両手がしびれると記載されていました。
身体所見、画像所見および診療経過について、医師意見書を作成して異議申立てを行ったところ14級9号が認定されました。
むちうちの後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、むちうちが後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
むちうちでお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
まとめ
むちうちの症状には、首の痛み以外にも以下のようなものがあります。
- 首の痛み(後頚部痛)
- 肩こり
- 上肢のしびれ、痛み、脱力感
- 頭痛
- めまい
- 嘔気
- 耳鳴り
- 下肢のしびれ
- 動悸
- 全身倦怠感
これらの症状の多くは、自律神経の異常に起因していると考えられています。
むちうちの症状が後遺障害に認定されるケースでは、14級9号もしくは12級13号がほとんどです。
関連ページ
資料・サンプルを無料ダウンロード
以下のフォームに入力完了後、資料ダウンロード用ページに移動します。