交通事故で受傷する頭部外傷のひとつに、びまん性軸索損傷(Diffuse Axonal Injury, DAI)があります。
びまん性軸索損傷は、あまり聞き慣れない傷病名ですが、頭部外傷の中でも重症と言われています。
本記事では、重症度の高い頭部外傷であるびまん性軸索損傷が、後遺障害に認定されるポイントを分かりやすく解説しています。
最終更新日: 2026/3/10
Table of Contents
びまん性軸索損傷とは
びまん性軸索損傷の概要
びまん性軸索損傷(Diffuse Axonal Injury, DAI)は、主に頭部外傷によって引き起こされる脳の損傷です。
この損傷は、脳内の軸索が広範囲に損傷を受けることを特徴としています。その結果、脳の情報伝達が混乱して、様々な神経機能が低下します。
損傷される部位によって頭部外傷を大きく分けると、局所性脳損傷とびまん性脳損傷に分類されます。
局在性脳損傷は、急性硬膜下血腫や脳挫傷に代表されるように、脳組織の部分的な損傷のことで肉眼的に確認することが可能な病変です。
一方、びまん性脳損傷は主に大脳白質を中心とした広汎な脳損傷です。頭蓋内に、CT検査でわかるような局所性の病変は存在しません。
びまん性軸索損傷における重症度の割合は、軽症19%、中等症45%、重症36%と報告されています。

交通事故でのびまん性軸索損傷の受傷機序
交通事故で頭部外傷を受傷した際に、脳実質は勢いよく振られます(回転加速)。
この時、脳の表面(頭蓋骨)の接線方向に外力が加わり、加速と減速により軸索損傷が生じると考えられています。
びまん性軸索損傷の症状
びまん性軸索損傷の症状は、受傷直後から続く意識障害です。重症例では、受傷から24時間以上意識昏睡状態が続き、脳幹損傷を伴います。
死亡率は重症で60%程度、中等症(脳幹損傷のほとんどないもの)で20%程度とされています。
びまん性軸索損傷の約半数で、頭蓋内圧亢進(頭蓋骨の内側の圧が異常に高まる現象)を認めます。
意識昏睡状態から回復しても、植物状態(遷延性意識障害)になったり、高次脳機能障害が残存したりすることがあります。
<参考>
びまん性軸索損傷の診断
受傷直後から意識障害が出現して、CT検査で局所性脳損傷がない場合はびまん性軸索損傷と診断されます。
尚、びまん性軸索損傷では、MRI検査の特殊な撮像方法で、微細な損傷を捉えられることがあります。
ただし、あくまでも画像所見は、外傷性くも膜下出血、脳室内出血、白質内の微小出血とそれに伴う浮腫などを手がかりとするものに限られます。
軸索損傷そのものを画像で描出することは極めて困難なのです。確定診断には、死亡後の病理組織学的診断が必要です。
一方、びまん性軸索損傷では、受傷後3ヵ月程度で脳萎縮をきたすケースが多いです。
脳萎縮は、びまん性軸索損傷に特異的な所見ではありませんが、客観的な画像所見として有用です。
<参考>
びまん性軸索損傷におけるMRIの有効性|交通事故の医療鑑定
びまん性軸索損傷で考えられる後遺障害等級
等級 | 認定基準 | 具体例 |
1級1号 | 高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの |
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2級1号 | 高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの |
|
3級3号 | 生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの |
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5級2号 | 高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの |
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7級4号 | 高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの |
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9級10号 | 通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
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12級13号 | 通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの |
|
14級9号 | 通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの |
|
軽傷例(意識障害が6時間〜24時間のもの)では、約60%が正常に回復するとされています。
一方、その他の例(死亡例、植物状態例を除く)では何らかの後遺症を残すケースが多いです。
このため、びまん性軸索損傷の後遺障害では、遷延性意識障害と高次脳機能障害が問題となります。
1級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの
2級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
- 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
3級3号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害3級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
5級2号
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害5級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
7級4号
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害で7級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
9級10号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
- 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの
問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする
<参考>
高次脳機能障害で9級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
12級13号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの
実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。
臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。
<参考>
高次脳機能障害が12級に後遺障害認定されるポイント|交通事故
14級9号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
- MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの
びまん性軸索損傷の後遺障害認定ポイント【弁護士必見】
びまん性軸索損傷の問題点は画像所見の乏しさ
びまん性軸索損傷の診断で説明したように、軸索の損傷は画像検査で直接捉えることができません。
このため、高次脳機能障害が残っても、画像所見の証明に苦労するケースがあります。
びまん性軸索損傷では、慢性期に脳室拡大や大脳白質の低吸収化など認めるケースがありますが、出現頻度は不明です。
脳神経外科学の成書にも、びまん性軸索損傷慢性期における脳萎縮の頻度は明確に記載されていません。
小児や若年者は軸索損傷の病理学的変化が軽度で可逆的なこともあるので、慢性期の脳萎縮は少ないと思われます。
このため、慢性期に脳萎縮を起こすのは中年以降に多いのではないでしょうか。
一方、重度であるほど慢性期に脳萎縮を来たすと思われますが、重症であるほど死亡率が高いので慢性期の事例が少ないのかもしれません。
すなわち、慢性期のびまん性軸索損傷のMRI検査が実施できる症例はそもそも軽症なので、脳萎縮所見が少ないのでしょう。
このように、後遺障害認定の実務において、びまん性軸索損傷では画像所見の乏しさが問題になります。
症状固定時期の頭部CTや頭部MRIにおいて、脳萎縮が存在するか否かを確認することが後遺障害認定のひとつのポイントと考えています。
争点は高次脳機能障害
びまん性軸索損傷の後遺症として、遷延性意識障害と高次脳機能障害が挙げられます。
遷延性意識障害は後遺障害という観点では争いになりにくです。このため、実質的には高次脳機能障害の後遺障害等級認定が問題になります。
高次脳機能障害が等級認定されるポイントは、以下のコラム記事にまとめていますので参考にしてください。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
びまん性軸索損傷の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で受傷したびまん性軸索損傷の後遺症が、後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング®
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニング®は、年間1000事案の圧倒的データ量をベースにしています。整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニング®の有用性を実感いただくため、初回事務所様は無料で承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング®】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定

医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した専門医が作成します。作成前に検討項目を共有して、クライアントと意見書の内容を擦り合わせます。
必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックで、意見書の質を担保しています。
弊社は、数千におよぶ医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例があります。是非、弊社の医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの画像検査や資料を精査して、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では、事案の分析から画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
びまん性軸索損傷の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解のほどお願いいたします。

びまん性軸索損傷が後遺障害認定されると損害賠償金を請求できる
びまん性軸索損傷による高次脳機能障害で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料とは
びまん性軸索損傷による後遺症が残った精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料の相場は?
後遺障害慰謝料は等級によって異なります。例えば、9級は約690万円、7級は約1000万円、5級は約1400万円、3級は約1990万円です。
さらに、1級や2級の場合には将来の介護費として数千万円から1億円を超える額が認められることがあります。
このように、びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料は等級によって大きく異なり、適切な後遺障害等級を獲得することが重要です。
びまん性軸索損傷の後遺障害逸失利益とは
びまん性軸索損傷で後遺症が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、被害者の年収や年齢をベースにして、等級に応じた労働能力喪失率と喪失期間で決まります。以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
びまん性軸索損傷の後遺障害逸失利益の相場は?
びまん性軸索損傷の逸失利益は、後遺障害等級によって異なります。一般的に、後遺障害等級が高いほど逸失利益の金額も高くなります。
例えば、1級の後遺障害の場合、逸失利益は約1億円前後となる可能性があります。一方、9級の場合は約1000万円程度のケースが多いです。
後遺障害逸失利益の金額は、被害者の年収や年齢、労働能力喪失率などによっても大きく変動します。
びまん性軸索損傷の後遺障害でよくある質問
びまん性軸索損傷とはどのような後遺障害が残りますか?
びまん性軸索損傷では、脳内の神経線維が広範囲に損傷するため、高次脳機能障害が後遺症として残ることが多いです。
具体的には、記憶力低下、注意力低下、判断力の低下、感情のコントロール障害、意欲低下などがみられます。
外見上は回復しているように見えても、社会生活や仕事に大きな支障が出るケースが少なくありません。
びまん性軸索損傷は後遺障害等級に認定されますか?
はい、症状の程度に応じて後遺障害等級に認定される可能性があります。高次脳機能障害として、1級から14級までの等級が判断されます。
日常生活に常時介護が必要な場合は重い等級となり、就労は可能だが能力低下がある場合は中等度、軽度の認知障害は軽い等級に認定されます。
MRIで異常がない場合でも認定されますか?
びまん性軸索損傷は画像に写りにくいことがあり、MRIで明確な異常が確認できない場合もあります。
その場合でも、事故直後の意識障害の有無、診療記録、神経心理学検査、日常生活での支障などを総合的に評価して認定される可能性があります。
高次脳機能障害の検査はどのようなものがありますか?
主に神経心理学検査が行われます。代表的な検査にはWAIS、WMS、TMT、FABなどがあります。
これらの検査により、記憶力、注意力、遂行機能、処理速度などを客観的に評価します。
後遺障害認定では、これらの検査結果と医師の診断、生活状況を総合して判断されます。
びまん性軸索損傷はどのくらいで症状固定になりますか?
一般的には受傷から1年前後で症状固定と判断されることが多いですが、回復の程度やリハビリ状況によって異なります。
高次脳機能障害は回復に時間がかかることもあり、医師が症状の改善がこれ以上見込めないと判断した時点で症状固定とされます。
仕事に復帰していても後遺障害は認定されますか?
就労していても後遺障害に認定されることはあります。後遺障害は就労の有無だけでなく、能力低下や社会生活への影響を基準に判断されます。
例えば、事故前より作業効率が大きく低下している、簡単なミスが増えた、同僚の支援が必要になったなどの場合です。
事故との因果関係はどのように判断されますか?
事故直後の意識障害の程度や救急搬送記録、CTやMRI、入院記録が判断材料になります。特にJCSやGCSによる意識レベルの記録は重視されます。
また、事故前には問題がなかったこと、事故後に認知機能障害が出現した経過なども総合的に評価されます。
後遺障害等級に納得できない場合はどうすればよいですか?
認定結果に納得できない場合は、自賠責保険に対して異議申し立てを行うことが可能です。
追加のMRI画像、神経心理学検査、医師意見書などの医学的資料を補強することが、認定変更の可能性を高める重要なポイントです。
家族の証言は後遺障害認定で役立ちますか?
はい、家族の証言は重要な資料となります。高次脳機能障害は外見では分かりにくいため、日常生活での変化を示す資料が重視されます。
例えば、怒りっぽくなった、約束を忘れる、段取りができないなど、事故前後の生活の違いを具体的に記録した陳述書が評価されます。
びまん性軸索損傷は完全に回復することはありますか?
症状の程度によっては大きく回復する場合もありますが、完全に元の状態に戻ることは難しいケースが多いとされています。
特に、高次脳機能障害は長期間残ることがあり、リハビリや環境調整を行いながら社会生活に適応していくことが重要とされています。
びまん性軸索損傷に対する治療
残念ながら、びまん性軸索損傷に対する有効な治療法はなく、血圧管理や脳圧管理が中心になります。
まとめ
びまん性軸索損傷は頭部外傷の中で最も予後不良です。有効な治療法がなく、医師も祈るような思いで急性期治療を行っているのが現状です。
一方、救命できた場合には、びまん性軸索損傷の後遺症として遷延性意識障害と高次脳機能障害が問題になります。
また、びまん性軸索損傷では、画像所見が乏しいケースが多いので注意が必要です。
びまん性軸索損傷でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。尚、初回の法律事務所様は無料で等級スクリーニング®を承ります。
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