交通事故で肩関節脱臼を受傷したのに、後遺障害認定で「非該当」とされたり、想定より低い等級と判断されてしまうケースは少なくありません。
肩関節は一度脱臼すると再発しやすく、慢性的な不安定感が残ることも多いため、被害者にとって生活や仕事への影響は大きいです。
それにもかかわらず、実際の症状が十分に評価されないまま非該当になるケースがあります。こうした場合に有効なのが「異議申し立て」です。
本記事では、肩関節脱臼の後遺障害が非該当となる理由や異議申し立ての手順、成功のポイントを分かりやすく解説しています。
最終更新日: 2025/9/25
Table of Contents
肩関節脱臼が非該当になる理由
肩関節脱臼で非該当と判断されやすいケース
骨折の無い肩関節脱臼は、可動域制限をきたしにくいため、後遺障害が非該当になりやすいです。
可動域制限をきたしにくい代わりに、習慣性脱臼(反復性肩関節脱臼)に移行する可能性はありますが、動揺関節にも認定されにくいです。
また、事故規模が軽微だったり、受傷機序を客観的に説明できないと、事故との因果関係が認められず非該当になります。
肩関節脱臼の後遺障害認定基準(動揺関節)
12級: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
肩関節の習慣性脱臼(反復性肩関節脱臼)は、12級に認定されますが、事故との因果関係が問題になるケースが少なくありません。
<参考>
動揺関節の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
肩関節脱臼の後遺障害認定基準(肩の可動域制限)
等級 | 認定基準 |
8級6号 | 上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 人工骨頭置換術が施行されており、かつ肩関節の可動域が2分の1以下に制限されるもの
8級6号に該当する可能性がある傷病は、肩関節脱臼骨折です。肩関節脱臼骨折では、高い確率で肩関節の可動域制限をきたします。
その理由は、肩関節脱臼骨折は関節内の骨折だからです。一般的に関節内骨折は、可動域制限を残しやすいと言われています。
臨床的には、人工骨頭置換術後に肩関節の可動域制限を残す症例が多いです。外転90度に満たない症例も珍しくありません。
10級10号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて2分1以下に制限されるもの
- 人工骨頭置換術により人工骨頭を挿入したもの
肩関節脱臼骨折は、肩関節の可動域制限を残しやすいです。2分1以下に制限されるケースも珍しくありません。
一方、人工骨頭置換術が施行された場合には、肩関節の可動域制限の有無にかかわらず、最低でも10級10号に該当します。
12級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて4分3以下に制限されるもの
骨折の無い肩関節脱臼であっても、肩関節の可動域制限を残す可能性があります。
<参考>
肩関節拘縮(拘縮肩)の原因と画像所見|交通事故の後遺障害
肩関節脱臼の後遺障害認定基準(神経障害)
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号: 局部に頑固な神経症状を残すもの
肩関節脱臼骨折では、関節の可動域制限と一緒に肩関節の痛みが残存しやすいです。また上腕骨頭の骨折で関節面の不整を残して骨癒合したなど、明らかな痛みの原因を認める症例も散見します。
14級9号: 局部に神経症状を残すもの
12級13号には至らない程度の肩関節脱臼骨折の変形や、骨折の無い肩関節脱臼では、14級9号に認定される可能性もあります。
肩関節脱臼の後遺障害認定基準(変形障害)
等級 | 認定基準 |
7級9号 | 偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級8号 | 偽関節を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
8級8号: 1上肢に偽関節を残すもの
何らかの理由で、高齢者の肩関節脱臼骨折で保存療法が選択された場合、最終的に骨折部が偽関節になる場合があります。
自賠責保険では、骨幹端部は骨幹部等に分類されます。このため、上腕骨近位端骨折が偽関節になると8級8号に認定される可能性があります。
尚、肩関節脱臼骨折では偽関節になったとしても常に硬性補装具が必要になる症例はほとんどありません。このため、7級9号に認定されることはほとんど無いといえます。
12級8号: 長管骨に変形を残すもの
肩関節脱臼骨折で、上腕骨大結節が中枢側に大きく転位した症例は比較的良くみられます。
肩関節脱臼の異議申し立て手順ガイド
異議申し立ての流れと必要書類
異議申し立ては、認定結果に不服がある場合に書面で行います。必要書類として、前回の認定で不足していた医学的証拠を準備します。
具体的には、異議申立書、新たな診断書や画像検査、診療録、医師意見書、画像鑑定報告書などです。
肩関節脱臼の異議申し立ての申請先
申請先は、事前認定の場合は加害者側の任意保険会社、被害者請求では加害者の自賠責保険会社へ提出します。
その後、資料は損害保険料率算出機構の自賠責損害調査事務所に送付されて再審査されます。
異議申し立ての費用と時間は?
異議申し立て自体の手数料は不要ですが、診断書や画像検査の費用として1万~5万円程度がかかります。
弁護士へ依頼する場合は、弁護士報酬も必要です。審査期間は、おおよそ2~4ヶ月程度が目安です。
肩関節脱臼の効果的な異議申し立て準備
効果的な準備には医学的証拠の補強が極めて重要です。非該当理由を精査して、追加の画像検査や診断書、医師意見書、画像鑑定報告書などを提出します。
肩関節脱臼の異議申し立て成功のポイント【弁護士必見】
肩関節脱臼が非該当になる原因を分析
肩関節脱臼が非該当となる主な原因は、後遺症の存在を証明できる医学的証拠の不足や、事故との因果関係が不明瞭などが挙げられます。
また、症状が軽微で一時的であったり、可動域制限の客観的な原因を確認できないケースも非該当になります。
<参考>
後遺障害の異議申し立て成功のポイント|交通事故の医療鑑定
肩関節脱臼の後遺障害認定条件をクリア
認定条件は主に可動域制限(健側比2分の1以下で10級、4分の3以下で12級)、反復性脱臼(動揺関節、習慣性脱臼)、著しい変形所見、神経損傷(痛み)などです。
後遺障害に認定されるためには、後遺症の存在を画像検査などの医証で証明できることが重要です。
異議申し立てでは新たな医証が必須
肩関節脱臼の異議申し立ての成功には、後遺障害認定基準を満たすための新たな医証が必要不可欠です。
具体的には、追加の画像検査、第三者による医師意見書、画像鑑定報告書などです。
新たな医証がない異議申し立ては、後遺障害認定に結びつきにくいです。足りない検査や診断記録を補う医学的資料を集めることが重要です。
<参考>
肩関節脱臼の後遺障害認定ポイント
肩関節脱臼の後遺症が後遺障害認定されるポイントは、こちらのコラム記事でも紹介しています。是非、参照していただきたいと思います。
<参考>
肩関節脱臼の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
肩関節脱臼の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で受傷した肩関節脱臼の後遺症が、後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング®
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニング®は、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニング®の有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニング®を承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング®】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
肩関節脱臼の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
肩関節脱臼の異議申し立てでよくある質問
肩関節脱臼は後遺障害として認定されやすいのか?
骨折を伴う肩関節脱臼は比較的認定されやすいですが、骨折の無い肩関節脱臼は事故との因果関係の証明が難しいため認定されにくいです。
反復性脱臼や手術歴がある場合、等級認定に有利になるのか?
反復性脱臼は12級認定の可能性がありますが、手術で症状が消失すると動揺関節では認定されません。
一方、症状固定時に可動域制限が残っていれば、機能障害として後遺障害に認定される可能性があります。
画像所見(MRIやCT)がなくても異議申し立ては可能か?
画像所見がなくても異議申立てできますが、医学的証拠が乏しいため非該当になりやすいです。追加の画像検査を検討しましょう。
医師の診断書に「肩の不安定性」や「脱臼癖」が記載されていないと不利になるか?
後遺障害診断書に、不安定性や習慣性脱臼の記載がないと、後遺障害の認定は不利になりやすいです。
異議申立ての際には、後遺障害診断書への追記依頼を検討しましょう。
異議申し立ての際に提出すべき資料や検査結果はどのようなものか?
新たな診断書や画像検査(MRI・CT)、診療録、医師意見書、画像鑑定報告書などが有効です。後遺障害認定基準を満たすための医証を収集しましょう。
可動域制限があるが、検査数値が基準に満たない場合はどうすればよいか?
可動域制限が後遺障害認定基準に満たない場合でも、反復性脱臼や痛みの症状があれば認定対象となる可能性があります。
まとめ
肩関節脱臼は交通事故で多くみられる外傷ですが、骨折を伴わない事案は可動域制限が残りにくく、後遺障害が非該当になるケースも少なくありません。
また、事故規模が小さかったり受傷の経緯を医学的に説明できないと、事故との因果関係が否定される可能性もあります。
後遺障害等級には、可動域制限や習慣性脱臼、神経障害、変形障害などの基準があります。
異議申し立ての際には、認定基準に足りない要素を補強して、事故と後遺症の因果関係を丁寧に立証することが成功のポイントとなります。
肩関節脱臼の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。尚、初回の法律事務所様は無料で承ります。
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