交通事故に遭った際、「自賠責保険」と「労災保険」のどちらが使えるのか、またその違いに戸惑う方は少なくありません。
特に業務中の事故では、労災が先行することが多く、その際に「自賠責が労災準拠で判断される」という言葉を耳にすることがあります。
しかし、この“労災準拠”という考え方は一見わかりやすそうでいて、実は落とし穴も。
労災で後遺障害が認められても、自賠責では非該当になるケースもあり、補償に差が生じる原因となります。
本記事では、「労災準拠」とは何かを基本から丁寧に解説し、自賠責と労災の違い、後遺障害が非該当とされる理由、そしてその対処法まで、具体的な事例を交えてわかりやすく紹介します。
最終更新日: 2025/6/26
Table of Contents
労災認定後に自賠責で非該当となる理由と「労災準拠」とは?
労災認定と自賠責認定の違いに戸惑う方へ
労災と自賠責は同じ基準をベースにしているにもかかわらず、実際には等級や認定可否が異なるケースが見られます。
たとえば同じ怪我で労災に認められても、自賠責では非該当になることもあり、戸惑いや不安を感じる被害者は少なくありません。
通知内容の「非該当」という表現に驚く方も多く、どうして認められないのか、その理由を知りたいというニーズは非常に高いと言えるでしょう。
「労災準拠」とは何か、その基本的な意味
「労災準拠」とは、自賠責保険の後遺障害等級や診療報酬算定において、労災保険の基準を参考にして、一定程度整合を図る仕組みです。
ただし「そのまま採用」ではなく、運用や判断基準には独自の調整や解釈が加わります。
具体的には等級基準や診療報酬を労災準拠で設定しており、自賠責は労災と同等かやや厳しめの基準で審査します。
実運用では、書式や審査主体(自賠責は書類中心、労災は面談中心)や医学的証拠の評価の違いから、認定差が生じるのが現実です。
労災保険と自賠責保険の後遺障害認定の関係性
自賠責保険が労災基準に「準拠」しているとは?
自賠責保険は、交通事故による損害への対応として、労災保険の後遺障害認定や診療費算定の基準に「準拠」しています。
自賠責保険の診療報酬は、労災保険の診療報酬点数表を基準として、1点あたりの単価や加算率(自賠責は1点12円×1.2倍、労災は1点10円×1.2倍)など一部異なります。単純な20%加算ではなく、単価や算定方法の違いがあります。
この仕組みにより、自賠責でもある程度労災と整合性のある判断が期待されるものの、実際の認定には運用面の差もあります。
具体的にどのような基準や資料を共有しているのか
自賠責と労災は、後遺障害等級表や支払い基準、診療費点数表などの資料を共有しています。
国土交通省では自賠責保険支払基準・後遺障害等級表等をPDF形式で公開しており、事務的な基準の整合性が担保されています。
また、医師会が提供する「緑本」と呼ばれるガイドブックでは、労災保険・自賠責保険双方の算定比較表や請求手続きがまとめられており、運用時の参考資料として活用されています。
なぜ「労災準拠」でも自賠責で非該当になるのか?
認定基準の解釈・運用の違い
自賠責と労災は後遺障害等級表を共有しているものの、その解釈や運用には差があります。
法律の目的や対象者の違いから、医学的所見の評価や等級判断の厳しさにも差が生じやすく、同じ症状でも自賠責では非該当、労災では認定されるケースが発生します。
医学的証拠の評価の差
医師による記載の内容や時期、検査結果の有無が自賠責と労災で異なると、判断にもズレが出ます。
特に自賠責は診断書を重視しており、カルテや画像検査などの詳しい証拠が十分でないと、因果関係を否定して非該当になる可能性があります。
認定機関の審査方法の違い(書面審査 vs 面談調査など)
自賠責の後遺障害認定は、主に書類審査で行われます。面談調査は外貌醜状に限られています。
一方、労災は労働基準監督署が面談を交え被災者の症状や就労への支障を直接確認します。この違いが、実際の認定結果に大きく影響します。
<参考>
【日経メディカル】「美形」は外貌醜状の後遺障害認定で有利?
労災準拠の自賠責認定で後遺障害等級が違う具体例
高次脳機能障害
高次脳機能障害では、労災認定では等級が重く評価される一方、自賠責では画像所見がないと非該当になりやすい傾向があります。
実際、労災で認定された事例でも、自賠責では非該当だったケースがあり、その場合は裁判で総合的判断に基づき等級を認められた例も報告されています。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
神経障害(脊髄損傷)
脊髄損傷は、労災・自賠責ともに「神経系統の機能障害」として等級が判断されます。
労災では面談等で生活影響や医療状況を重視するために高い等級が付きやいです。
一方、自賠責は書面中心で、症状や検査結果の明確さが重視されるため、等級が低くなる傾向があります。
<参考>
脊髄損傷の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
CRPS(複合性局所疼痛症候群)
CRPSは非常に微妙な症状を含む疾患です。労災・自賠責ともに骨萎縮などの客観的画像所見を条件としていますが、画像で確認できない場合、自賠責で非該当となる可能性が高いです。
裁判では症状全体を総合的に評価して、後遺障害認定されたケースもあります。
<参考>
CRPSの後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
労災と自賠責の補償内容の違いと「労災準拠」の限界
補償範囲や給付額の違い
労災保険は業務・通勤中のケガに対して、治療費や休業補償、後遺障害給付などを行います。
治療費に上限はありませんが、休業補償や障害給付は基礎日額や等級に応じて計算され、給付内容には上限や条件があります。
一方、自賠責は最大120万円(傷害)・等級別限度(後遺障害)で設定され、上限を超える治療費や休業補償は対象外です。
この制度構造が両者の補償範囲と給付額の根本的違いとなっています。
慰謝料や休業補償の違い
自賠責では傷害・後遺障害・死亡に対して慰謝料や休業損害(上限あり)が支給されます。
労災では慰謝料の支給はありませんが、障害特別支給金や休業特別支給金など独自の一時金が支給されます。
休業補償は原則として給付基礎日額の60%、休業特別支給金が20%で、休業4日目以降が対象です。
また、労災特有の「休業特別支給金」は自賠責の休業損害と併用可能です。
「労災準拠」であっても補償内容が異なる理由
「労災準拠」は後遺障害等級や診療報酬点数など一定基準の整合を図る仕組みですが、給付額・対象項目には独自規定があるため、完全一致しません。
労災は治療費や給付額に上限がない一方、自賠責は支払い限度額を設け、慰謝料支給の有無や算定方法も異なるためです。
「労災準拠」の自賠責認定で後遺障害非該当となった場合の対処法
自賠責で後遺障害認定されるには労災先行が望ましい
後遺障害認定の申請順序は「労災先行」「自賠責先行」いずれも可能です。
「労災先行」では、労災認定の結果を自賠責申請時の参考資料とすることで、説得力が増す可能性があります。
ただし、必ずしも労災認定が自賠責認定に直結するわけではありません。
<参考>
労災先行が後遺障害認定の王道である理由|交通事故の医療鑑定
異議申立ての具体的な手順とポイント
自賠責保険で後遺障害が「非該当」または低等級となった場合、まずは結果通知とその理由が記された「別紙」を確認して、異議申立てを行いましょう。
手続きは事前認定または被害者請求のどちらかを選択して、異議申立書に加え、新たな医学的証拠(診断書、カルテ、画像診断など)を添付することが成功の鍵です。
新たな医学的証拠を添付しないと、何度異議申立てしても等級結果は覆りません。尚、新たな医学的証拠には、医師意見書や画像鑑定報告書も含まれます。
<参考>
診断書や検査結果が自賠責の基準に合っているかの重要
自賠責保険における後遺障害等級の認定では、診断書や検査結果の記載内容が具体的かつ明確であることが不可欠です。
とくに、症状固定の時点で神経症状や関節の可動域など、評価に必要な項目が正しく記録されているかを確認する必要があります。
医師の記載の仕方によっては、労災では重く評価されたケースでも、自賠責では低い等級や「非該当」と判断されてしまう可能性があります。
後遺障害認定基準の運用の違いを理解して、適切に対応する
労災と自賠責では、共通の後遺障害認定基準が使われていますが、その解釈や実際の運用には違いがあります。
労災保険は、労働者の保護を重視するため、自覚症状や日常生活への支障なども加味して、比較的柔軟な判断がなされる傾向があります。
一方、自賠責保険では、医学的な証拠や画像診断など、客観的なデータに基づく厳密な審査が行われます。
したがって、異議申立てや再審査を求める場合には、両者の基準運用の違いを理解したうえで、必要な医療資料や補足説明を丁寧に準備することが大切です。
労災と自賠責の後遺障害認定の違いでお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
労災保険や自賠責保険の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で受傷したケガの後遺症が、後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング®
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等級スクリーニング®は、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニング®の有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニング®を承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング®】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
労災事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
労災保険や自賠責保険の後遺障害認定でお悩みの患者さんへ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では労災事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
自賠責の労災準拠でよくある質問
自賠責と労災のどちらを優先すべきですか?
両保険は「労災先行」「自賠責先行」のいずれも選択可能です。自賠責は仮渡金や慰謝料を早期請求したい場合に有効です。
一方、治療費が高額・長期になるときは、療養補償に制限のない労災先行が有利です。時効や過失割合の影響も踏まえて状況に応じた選択が重要です。
自賠責と労災は併用できますか?
業務中・通勤中の事故では、自賠責と労災の両方請求が可能です。ただし同じ損害項目(治療費や休業補償など)については、二重受給は認められず、支給調整が行われます。
重複しない特別支給金(休業特別支給金など)は控除対象外で、併用によるメリットもあります。
自賠責と労災の診療報酬はいくら違いますか?
診療報酬単価は、自賠責が点数×12円×1.2倍、労災は点数×10円×1.2倍が基本ですが、医療機関の種類や診療内容によって異なる場合があります。実際の請求金額には、その他の算定項目や加算要素も影響します。
また、労災には「療養の給付請求書取り扱い料」など独自の項目があり、自賠責では算定されません。実務では算定基準の違いにより、請求金額に差が生じます。
まとめ
自賠責保険は労災保険の基準を参考にしているものの、実際の後遺障害等級の認定では差が出ることがあります。
労災で認められた後遺障害でも、自賠責では非該当となるケースがあり、その背景には基準の解釈や審査方法の違いがあります。
労災は面談や柔軟な判断が行われるのに対して、自賠責は書類審査と医学的証拠を重視する厳格な運用です。
労災と自賠責の後遺障害等級が違っていて、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。尚、初回の法律事務所様は無料で承ります。
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