交通事故が原因になって、頚椎症性脊髄症の症状が増悪するケースがあります。一般的に、頚椎症性脊髄症は加齢性変化をベースにした慢性疾患です。
このため、交通事故が原因で頚椎症性脊髄症を発症しても、自賠責保険では後遺障害が認定されない傾向にあります。
本記事は、交通事故をきっかけにして発症した頚椎症性脊髄症が、後遺障害に認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/11
Table of Contents
頚椎症性脊髄症とは
頚椎症性脊髄症の原因
頚椎症性脊髄症とは、加齢によって首の骨が変形したり椎間板が膨隆して、首の骨の中にあるトンネル(脊柱管)が狭くなってしまい、中に入っている脊髄(神経)が圧迫されてしまう傷病です。
日本人は首の骨の中にあるトンネル(脊柱管)が生まれつき欧米人より狭いため、脊髄が圧迫されやすいです。
頚椎症性脊髄症の症状
頚椎症性脊髄症では、以下のような症状が認められるケースが多いです。
- ボタンのはめ外しを上手くできない
- 箸が使いにくくなる
- 字を書きづらくなる
- 歩くときに足が絡まる
- 階段で手すりをつかむようになる
- 手や足のしびれ
比較的若い人なら軽い症状であっても、足がもつれやすくなったり、跳び跳ねる動作がしにくくなったりして、症状に気付きやすいです。しかし、高齢者では症状に気付くのが遅れることがあります。
頚椎症性脊髄症の診断
頚椎症性脊髄症では、四肢の症状や深部腱反射亢進などの身体所見を評価します。レントゲン検査では頚椎症性変化(加齢によって首の骨が変形したり椎間板が膨隆)を、MRI検査では脊髄の圧迫を確認します。
ただし、中年以降の多くの人では、レントゲン検査で頚椎症性変化をみとめ、MRI検査でも脊髄圧迫の所見がある場合でも、症状が無いケースも珍しくありません。
このため、画像検査だけでは頚椎症性脊髄症を診断できません。また、神経内科の病気の中には、頚椎症性脊髄症と症状が似ている場合があるため注意が必要です。
<参考>
【医師が解説】腱反射亢進する原因、後遺障害への影響は?|交通事故
頚椎症性脊髄症の予防と治療
軽いけがや転倒でも、四肢麻痺(脊髄損傷)になる可能性があるため、転倒には注意が必要です。
手指の巧緻運動障害や、日常生活に支障が出たり、階段昇降の際に手すりが必要になると、手術療法を選択されるケースが多いです。
頚椎症性脊髄症で考えられる後遺障害
頚椎症性脊髄症で考えられる後遺障害は、頚髄損傷に準ずる事案が多いです。
神経障害(麻痺)
1級1号
せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
- 高度の四肢麻痺が認められるもの
- 高度の対麻痺(両下肢麻痺)が認められるもの
- 中等度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
- 中等度の対麻痺(両下肢麻痺)であって、食事・入浴・用便・更衣等について常時介護を要するもの
高度の四肢麻痺や対麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性がほとんど失われている状態
- 障害のある上肢または下肢の基本動作(物を持ち上げて移動させたり、立ったり歩行すること)ができない状態
- 完全強直またはこれに近い状態にあるもの
- 三大関節および5つの手指のいずれの関節も自動運動によって可動させることができないもの、またはこれに近い状態にあるもの
- 随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの
- 随意運動の顕著な障害により、一下肢の支持性および随意的な運動性をほとんど失ったもの
中等度の四肢麻痺や対麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(おおむね500g)を持ち上げることができないもの、または障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
2級1号
せき髄症状のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、随時介護を要するもの
- 中等度の四肢麻痺が認められるもの
- 軽度の四肢麻痺であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
- 中等度の対麻痺(両下肢麻痺)であって、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要するもの
中等度の四肢麻痺や対麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われている状態
- 障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限があるもの
- 障害を残した一上肢では、仕事に必要な軽量の物(おおむね500g)を持ち上げることができないもの、または障害を残した一上肢では文字を書くことができないもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
軽度の四肢麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
3級3号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、せき髄症状のために労務に服することができないもの
- 軽度の四肢麻痺が認められるもので、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの
- 中等度の対麻痺(両下肢麻痺)が認められるもので、食事・入浴・用便・更衣等について随時介護を要しないもの
軽度の四肢麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害を残した一上肢では文字を書くことに困難を伴うもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
中等度の対麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害のある上肢または下肢の運動性・支持性が相当程度失われている状態
- 障害のある上肢または下肢の基本動作にかなりの制限があるもの
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
5級2号
せき髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができないもの
- 軽度の対麻痺が認められるもの
- 一下肢の高度の単麻痺(片腕、もしくは片足の麻痺)が認められるもの
軽度の対麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
一下肢の高度の単麻痺(片腕、もしくは片足の麻痺)の具体例は以下のごとくです。
- 完全強直またはこれに近い状態にあるもの
- 三大関節および5つの手指のいずれの関節も自動運動によって可動させることができないもの、またはこれに近い状態にあるもの
- 随意運動の顕著な障害により、障害を残した一上肢では物を持ち上げて移動させることができないもの
- 随意運動の顕著な障害により、一下肢の支持性および随意的な運動性をほとんど失ったもの
7級4号
せき髄症状のため、軽易な労務以外には服することができないもの
- 一下肢の中等度の単麻痺が認められるもの
一下肢の中等度の単麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 障害を残した一下肢を有するため、杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには歩行が困難であること
9級10号
通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
- 一下肢の軽度の単麻痺が認められるもの
一下肢の軽度の単麻痺の具体例は以下のごとくです。
- 日常生活はおおむね独歩であるが、障害を残した一下肢を有するため不安定で転倒しやすく速度も遅いもの、または障害を残した両下肢を有するため杖もしくは硬性装具なしには階段を上ることができないもの
12級13号
通常の労務に服することはできるが、せき髄症状のため、多少の障害を残すもの
- 運動性、支持性、巧緻性(手の細かい動き)及び速度についての障害はほとんど認められない程度の軽微な麻痺を残すもの
- 運動障害は認められないものの、広範囲にわたる感覚障害が認められるもの
脊柱の変形障害
頚椎症性脊髄症では四肢の麻痺だけではなく、脊椎固定術などの脊柱の障害を併発する可能性があります。このようなケースでは、併合の取扱いは行わず、脊髄の障害として認定します。
ただし、頚椎症性脊髄症に伴う脊柱の障害が麻痺の範囲と程度により判断される後遺障害等級よりも重い場合には、それらの障害の総合評価により等級を認定することになります。
このようなケースでは、随伴する脊柱の障害の後遺障害等級を下回りません。
【具体例1】
- 麻痺:7級4号
- 頚椎症性脊髄症に対する椎弓形成術による脊柱の変形:11級7号
- 脊髄の障害として7級4号に認定される
【具体例2】
- 現症として頚椎症性脊髄症に対する椎弓形成術による脊柱の変形:11級7号
- 既存症として頚椎椎間板ヘルニアに対して頚椎前方固定術施行:11級7号
- 併合して10級相当、既存障害11級7号の加重障害
<参考>
【医師が解説】圧迫骨折の後遺症が等級認定されるポイント
骨盤骨等の変形障害
頚椎症性脊髄症では四肢麻痺だけではなく、脊椎固定術などの際の採骨によって骨盤骨等の変形障害を併発する可能性があります。このようなケースでは、併合の取扱いは行わず、脊髄の障害として認定します。
【弁護士必見】頚椎症性脊髄症の後遺障害認定ポイント
交通事故直後からの症状出現が重要
交通事故をきっかけに発症した頚椎症性脊髄症が後遺障害に認定されるためには、受傷直後からの発症が必須です。
頚椎症性脊髄症で争いになりやすいのは、交通事故後は無症状だったのに、しばらくしてから発症・増悪した事案でしょう。このような事案が後遺障害に認定される可能性は低いです。
自賠責保険は、受傷直後の症状が最も強く、その後は少しずつ軽快もしく変化しない経過を典型例にしています。
交通事故被害者の立場では、明らかに交通事故がきっかけになっている事案であっても、頚椎症性脊髄症では非該当になるケースが多いのです。
頚椎症性脊髄症で非該当になった事案では、診療録や看護記録を精査して本当に事故直後に症状が無かったのかを確認する必要があります。
交通事故後1ヵ月で発症した事案は?
弊社が取り扱った頚椎症性脊髄症の事案で最も多いのは、交通事故後1~3ヵ月で発症した事案です。例外なく全例非該当になっています。
たしかに臨床的にも交通事故との因果関係を主張しにくいですが、多発外傷で交通事故直後は症状がマスクされていた事案も散見します。
このような事案では、診療録や画像検査を精査して、医師意見書で異議申し立てすることを検討するべきでしょう。
自賠責保険が考える頚椎症性脊髄症の典型的事案
自賠責保険が考える頚椎症性脊髄症の典型例は、以下のような症状と発症時期の2つを同時に満たす事案です。
頚椎症性脊髄症の典型的症状
四肢のしびれ、上肢の巧緻障害、下肢の痙性のすべてを同時に満たします。具体例は以下のごとくです。
- ボタンのはめ外しを上手くできない
- 箸が使いにくくなる
- 字を書きづらくなる
- 歩くときに足が絡まる
- 階段で手すりをつかむようになる
- 手や足のしびれ
頚椎症性脊髄症の典型的発症時期
交通事故直後が、頚椎症性脊髄症の典型的な発症時期です。事故直後の症状が最も強く、その後は少しずつ軽快、もしく変化しません。
頚椎症性脊髄症の非典型的事案への対応法
自賠責保険が考える頚椎症性脊髄症の典型例から外れた事案では、典型的ではない部分を補強する必要があります。
症状が典型的でないのであれば、非定型的である理由を考察して主張する必要があります。
また、発症時期が典型的でなければ、交通事故受傷直後が最も強くならなかった理由を精査します。
頚椎症性脊髄症を既往症とされた事案の対応法
加齢性変化の強い画像検査結果であれば、ある程度の素因減額は避けられません。しかし、100%私病であるとされた場合には反論する必要があります。
この場合にポイントになるのは、交通事故前の治療歴です。交通事故前に治療歴があると苦しいですが、診療録で症状の程度を確認します。
症状が軽度であれば、交通事故をきっかけにして増悪したと主張することが可能です。
一方、交通事故前に治療歴が無ければ、医師意見書で頚椎症性脊髄症の自然経過を説明して、交通事故の影響が大きいことを主張します。
頚椎症性脊髄症でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
まとめ
頚椎症性脊髄症とは、加齢によって首の骨が変形したり椎間板が膨隆して、脊髄(神経)が圧迫されてしまう傷病です。
頚椎症性脊髄症は、脊髄損傷に準じた後遺障害が認定される可能性があります。
頚椎症性脊髄症が後遺障害に認定されるためには、受傷直後の発症と、上肢の巧緻障害や下肢の痙性などの典型的症状が必須です。
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