高次脳機能障害とは、脳組織の傷害によって生じる症状の総称です。具体的には、思考、判断、記憶、言語、注意、抑制、計画的行動などの機能が障害されます。
しかし、高次脳機能障害にはさまざまな症状があるため、ひとつの検査だけで全ての障害を評価できません。このため、高次脳機能障害を総合的に評価するため、神経心理学的検査の組み合わせ(評価バッテリー)が提唱されています。
本記事は、高次脳機能障害の神経心理学的検査一覧を挙げたうえで、評価バッテリーを説明しています。高次脳機能障害が後遺障害認定される一助になれば幸いです。
最終更新日: 2024/7/3
Table of Contents
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、脳組織の傷害によって生じる症状の総称です。具体的には、思考、判断、記憶、言語、注意、抑制、計画的行動などの機能が障害されます。
<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害が後遺症認定されるポイント|医療鑑定
神経心理学的検査とは
課題に対する被験者の反応を得点化する心理検査のうち、高次脳機能障害や認知症の診断と評価に用いられるものを神経心理学的検査といいます。
高次脳機能障害にはさまざまな症状があります。このため、ひとつの神経心理学的検査だけで、高次脳機能障害の全ての障害を評価できません。
神経心理学的検査を大別すると、以下の項目に分類されます。
- 知能検査
- 記憶検査
- 言語機能検査
- 注意力検査
- 遂行(前頭葉)機能検査
- その他
高次脳機能障害の診断テストと検査一覧
高次脳機能障害では、数ある神経心理学的検査の中から、患者さんそれぞれの機能障害に応じた検査を選択して、定量的評価や経過観察などの目的で検査を実施します。
高次脳機能障害にはさまざまな症状があるため、後遺症を総合的に評価する目的で、神経心理学的検査の組み合わせ(評価バッテリー)が提唱されています。
知能検査
知識、見当識(時・場所・人の認識)、記憶、計算などの検査であり、脳機能を全般的に評価するものです。主な知能検査は以下のごとくです。
- ミニメンタルステート検査 (MMSE)
- 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
- ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-Ⅳ)
- レーブン色彩マトリックス検査(RCPM)
- 幼児や児童用のWPPSIとWISC
<参考>
【医師が解説】MMSEと長谷川式認知症スケールの違い|遺言能力鑑定
記憶検査
記憶の過程は、情報の脳への取り込み、把持、再生の3段階があります。また、言葉に直せる陳述記憶と、本人の習慣や技量などの手続記憶があります。
また、作業記憶という概念があり、日常生活のおける判断能力に非常に重要なものです。さらに、時間的な貯蔵期間の長さで、即時記憶、短期記憶、近時記憶、長期記憶などに分類されます。
- ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
- リバーミード行動記憶検査 (RBMT)
- レイ複雑図形検査 (ROCFT)
- レイ聴覚性言語学習検査 (RAVLT)
言語機能検査
言語機能検査は、個人の言語能力を評価するための検査です。発語、聴覚理解、読解などの言語能力を測定することにより、言語障害を特定するために使用されます。
言語機能検査は、言語聴覚士、精神科医、神経科医などの専門家によって行われ、評価には言語テストやアセスメントなどが含まれることもあります。
注意力検査
注意力検査とは、個人の注意力を測定するための検査です。注意力は、人が外部刺激に反応し、集中して課題を遂行する能力を指します。
遂行(前頭葉)機能検査
遂行機能検査は、前頭葉の機能を評価するための検査です。前頭葉は、人間の脳の最前部に位置し、人格、判断力、思考、記憶、感情の調節、自己制御、意思決定などの高次の認知機能を担っています。
前頭葉が傷害されると、遂行機能に問題が生じることがあります。遂行機能検査には、課題に対する反応時間、ミスの数、正答率などを測定するものがあります。
高次脳機能障害の評価バッテリー
高次脳機能障害の神経心理学的検査
高次脳機能障害の神経心理学的検査には、全般的認知機能をみる検査と、記憶や前頭葉機能といった個別の認知機能を評価する検査に分けられます。
全般的認知機能を評価する検査
知能検査
- ミニメンタルステート検査 (MMSE)
- 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
- ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-Ⅳ)
- レーブン色彩マトリックス検査(RCPM)
- 幼児や児童用のWPPSIとWISC
記憶検査
- ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
- リバーミード行動記憶検査 (RBMT)
- レイ複雑図形検査 (ROCFT)
- レイ聴覚性言語学習検査 (RAVLT)
個別の認知機能を評価する検査
言語機能検査
注意力検査
遂行(前頭葉)機能検査
推奨されている高次脳機能障害の評価バッテリー
高次脳機能障害の評価では、一般的に以下のような神経心理学的検査の組み合わせ(評価バッテリー)が推奨されています。
全般的認知機能検査
記憶機能検査
ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
リバーミード行動記憶検査 (RBMT)
注意機能検査
TMT (trail making test) 線引きテスト
遂行機能検査
遂行機能の行動評価法 (BADS)
ウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST)
社会的行動検査
認知-行動障害尺度(TBI-31)
高次脳機能障害の評価バッテリーの意義
高次脳機能障害の評価バッテリーは、脳機能障害の部位が神経心理学的検査によって、ある程度推測できるように考えられています。
前頭葉は言葉の流暢性、側頭葉は言葉の理解、頭頂葉は手指模倣や書字、後頭葉は視知覚検査が、高次脳機能障害の評価バッテリーとして採用されています。
【弁護士必見】高次脳機能障害の認定ポイント
高次脳機能障害が後遺障害等級認定されるためには、第一段階として3要件を満たす必要があります。
<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害が後遺症認定されるポイント|医療鑑定
第一段階をクリアすると、高次脳機能障害が存在するとみなされます。第二段階では、高次脳機能障害が何級に該当するのかの判断です。自賠責保険では、以下の4能力で高次脳機能障害の等級評価を行います。
- 意思疎通能力(記名・記憶力、認知力、言語力等)
- 問題解決能力(理解力、判断力等)
- 作業負荷に対する持続力・持久力
- 社会行動能力(協調性等)
その判断材料が、
- 神経系統の障害に関する医学的意見
- 日常生活状況報告
- 神経心理検査
です。
その中でも
- 意思疎通能力(記名・記憶力、認知力、言語力等)
- 問題解決能力(理解力、判断力等)
を評価するために、WAISとWMS-Rが重視されています。
<参考>
【医師が解説】WAISとWMS-Rは高次脳機能障害の等級認定ポイント
【医師が解説】高次脳機能障害が後遺症認定されるポイント|医療鑑定
【日経メディカル】交通事故における曖昧な高次脳機能障害の定義
【日経メディカル】交通事故後の高次脳機能障害を見逃すな!把握しにくい2つの理由
【日経メディカル】定量化が難しい交通事故による高次脳機能障害
まとめ
高次脳機能障害にはさまざまな症状があるため、ひとつの検査だけで全ての障害を評価できません。このため、高次脳機能障害を評価するために、神経心理学的検査の組み合わせ(評価バッテリー)が提唱されています。
高次脳機能障害の評価バッテリーとして、一般的に以下のような神経心理学的検査の組み合わせが推奨されています。
全般的認知機能検査
記憶機能検査
ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
リバーミード行動記憶検査 (RBMT)
注意機能検査
TMT (trail making test) 線引きテスト
遂行機能検査
遂行機能の行動評価法 (BADS)
ウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST)
社会的行動検査
認知-行動障害尺度(TBI-31)
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※ 本コラムは、脳神経外科専門医の高麗雅章医師が解説した内容を、弊社代表医師の濱口裕之が監修しました。