骨折が治っても痛みがある理由はいくつか考えられます。そして骨折が治っても残っている痛みは、後遺障害に認定される可能性があります。
本記事は、整形外科専門医が、骨折が治っても痛みがある理由と、痛みなどの後遺症が後遺障害認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/13
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骨折が治っても痛みがある理由
骨折が治っても痛みがある理由として、主なものだけでも以下のような原因が考えられます。
- 関節内骨折で外傷性変形性関節症を併発した
- 関節内骨折ではないが関節に近い骨折
- 骨折時の軟部組織損傷が激しかった
- 骨折時に皮神経を損傷した
- 骨折の手術で皮神経を損傷した
- 骨折部の一部が治っていない(遷延癒合)
- CRPSを合併した
骨折が治ったにもかかわらず、痛みが続くケースは決して稀ではありません。痛みの原因はケースバイケースなので、必ず主治医に相談しましょう。
関節内骨折で外傷性変形性関節症を併発した
膝や肘などの関節がスムーズに動くためには、相対する2つの骨の関節面がぴったり合っている状態である必要があります。
関節面にまで骨折が及ぶと、関節の表面がずれてしまい段差ができます。この状態は、関節内骨折と呼ばれています。
骨折によって発生した関節表面の段差がわずかなものであっても、関節面の嚙み合わせが悪くなってしまいます。
関節面の噛み合わせが悪いと、時間の経過とともに関節に痛みが出たり、関節の動きが悪くなる可能性があります(関節可動域制限)。
膝、足首、肩、肘、手首などの骨折は関節内骨折である可能性が高く、痛みや関節可動域制限が残りやすいです。
<参考>
【医師が解説】関節内骨折の後遺症が等級認定されるヒント|交通事故
関節内骨折ではないが関節に近い骨折
関節内骨折ではなくても関節に近い部位で骨折すると、その影響は関節にまで及びます。例えば、脛骨骨折でも足関節に近い部位で折れた場合には、足関節の拘縮を合併するケースが多いです。
足関節が拘縮すると、歩行時の足関節痛が残るケースがあります。このことは、膝関節、股関節、手関節の近くで骨折した場合にも当てはまります。
骨折時の軟部組織損傷が激しかった
骨折部に大きな外力が加わると、骨だけではなく周囲の軟部組織にも大きなダメージが加わります。
また、骨折した部分は内出血して、血種という血の溜まりができます。血種は少しずつ吸収されて、固い瘢痕組織に置き換わります。
骨折部周囲の軟部組織への大きなダメージや、その部分に瘢痕組織ができることによって、痛みの原因になる可能性があります。
骨折時に皮神経を損傷した
皮膚と骨の間にある軟部組織には、網の目状に小さな近く神経が走行しています。骨折して軟部組織に大きなダメージが加わると、これらの網目状の神経も損傷されます。
一度損傷した神経は元には戻りにくいです。このため、損傷した神経による痛みが残るケースがあります。
骨折の手術で皮神経を損傷した
骨折の治療では、手術療法を選択するケースも多いです。手術を施行する場合には皮膚や皮下組織を切開しますが、その際に皮神経を損傷することがあります。
代表的なものとして、脛骨骨折の髄内釘手術時に併発する伏在神経膝蓋下肢損傷や、鎖骨骨折のプレート固定術の際に併発する鎖骨上神経損傷です。特に鎖骨上神経損傷は、鎖骨骨折のプレート固定術を選択した場合にはほぼ必発の神経損傷です。
<参考>
【医師が解説】脛骨骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】鎖骨骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】鎖骨骨折のプレート固定はシビレが必発
骨折部の一部が治っていない(遷延癒合)
レントゲン検査では骨折が治ったように見えても、実際には骨折の一部が治っていない場合があります。このようなケースでは、骨折部に負荷がかかると痛みを感じます。
完全に骨折が治っているか否かは、CT検査を実施しなければ分からないケースもあるので注意が必要です。
<参考>
【医師が解説】偽関節の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
CRPSを合併した
CRPSとは、複合性局所疼痛症候群(Complex Regional Pain Syndrome; CRPS)の略称です。骨折が治癒した後にも高度の疼痛が残存することが特徴です。
原因となる外傷は、骨折や神経損傷後だけではなく、単なる打撲のような軽い外傷後にも発症することが多いです。交通事故実務でも決して稀な傷病ではありません。
<参考>
【医師が解説】CRPSの後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】CRPS、RSD、カウザルギーの違いと後遺障害
骨折が治っても痛みがある場合の後遺障害
神経障害(痛み)
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
骨折においては、局所の神経損傷を伴っていることが多く経験します。その際は、tinel徴候(損傷部位を軽く叩打すると、その遠位部にチクチクと響く症状)を確認します。
例えば、脛骨骨幹部骨折で髄内釘を施行した事案では、高率に伏在神経膝蓋下枝損傷を併発します。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
骨折後に残った痛みで最も認定されやすいのは14級9号です。大腿骨骨幹部骨折や脛骨骨幹部骨折などでしっかり骨癒合している事案では、客観的な痛みの原因を証明することは難しいケースが多いです。
このような事案では、12級13号が認定される可能性は非常に低いですが、14級9号が認定される可能性は十分にあります。
機能障害(上肢の関節可動域制限)
8級6号:1上肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの
関節が全く動かないか、これに近い状態(関節可動域の10%程度以下)です。実臨床では、ここまで高度の関節可動域制限をきたすケースはほとんど無いです。
10級10号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。重度の粉砕骨折では、10級10号に該当する関節機能障害を残すことが時々あります。
12級6号:1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。実臨床でよく見かける関節機能障害です。
小関節(手指)について
- 4級6号:両手の手指の全部の用を廃したもの
- 7級7号:1手の5の手指又は母指を含み4の手指の用を廃したもの
- 8級4号:1手の母指を含み3の手指又は母指以外の4の手指の用を廃したもの
- 9級9号:1手の手指を含み2の手指又は母指以外の3の手指の用を廃したもの
- 10級6号:1手の母指又は母指以外の2の手指の用を廃したもの
- 12級9号:1手の手指、中指又は監視の用を廃したもの
- 13級4号:1手の小指の用を廃したもの
- 14級7号:1手の母指以外の手指の遠位指節間関節(=DIP関節)を屈伸することができなくなったもの
機能障害(下肢の関節可動域制限)
8級7号:1下肢の三大関節中の1関節の用を廃したもの
関節が全く動かないか、これに近い状態(関節可動域の10%程度以下)です。実臨床では、ここまで高度の関節可動域制限をきたすケースはほとんど無いです。
10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。重度の粉砕骨折では、10級11号に該当する関節機能障害を残すことが時々あります。
12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
関節の可動域が健側の可動域の3/4以下に制限されているものです。膝関節や足関節では、よく見かける関節機能障害です。
小関節(足指)について
- 7級11号:両足の足指の全部の用を廃したもの
- 9級11号:1足の足指の全部の用を廃したもの
- 11級8号:1足の第1の足指を含み2以上の足指の用を廃したもの
- 12級11号:1足の第1の足指又は他の4の足指の用を廃したもの
- 13級10号:1足の第2の足指の用を廃したもの、第2の足指を含み2の足指の用を廃したもの又は第3の足指以下の3の足指の用を廃したもの
- 14級8号:1足の第3の足指以下の1又は2の足指の用を廃したもの
変形障害(上肢)
7級9号:1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
上腕骨骨幹部や前腕骨幹部に癒合不全を残した場合、日常生活への支障が大きく出ます。そのため、補装具が必要なことがあります。常に硬性装具が必要であれば7級9号となります。
8級8号:1上肢に偽関節を残すもの
硬性装具を常に必要とするわけではない上腕骨もしくは前腕に偽関節を残す状態です。
12級8号:長管骨に変形を残すもの
上肢の長管骨に変形を残すものとは、次のいずれかに該当するものです。尚、同一の長管骨に以下の障害を複数残す場合でも12級8号になります。
- 上腕骨または橈骨と尺骨の両方で、15度以上変形癒合したもの
- 上腕骨、橈骨又は尺骨の骨端部にゆ合不全を残すもの
- 橈骨または尺骨の骨幹部等にゆ合不全を残すもので、硬性補装具を必要としないもの
- 上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
- 上腕骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に、または橈骨若しくは尺骨(それぞれの骨端部を除く)の直径が1/2以下に減少したもの
- 上腕骨が50度以上外旋または内旋変形ゆ合しているもの
6.上腕骨が50度以上外旋または内旋変形癒合しているものとは、次のいずれにも該当することを確認することによって判定します。
- 外旋変形癒合にあっては肩関節の内旋が50度を超えて可動できないこと、また、内旋変形ゆ合にあっては肩関節の外旋が10度を超えて可動できないこと
- エックス線写真等により、上腕骨骨幹部の骨折部に回旋変形ゆ合が明らかに認められること
実臨床の観点からは、外見から想定できる程度(15度以上屈曲して不正癒合したもの)の変形はあまり経験しません。また、上腕骨が50度以上回旋変形癒合することも、ほとんど存在しません。
変形障害(下肢)
7級10号:1下肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
大腿骨や脛骨、腓骨に癒合不全を残すもので、常に硬性補装具が必要であるものです。
プレート固定や髄内釘固定を行った後に偽関節となると、補装具なしに全荷重歩行するとスクリューやプレートが折れる可能性があります。
8級9号:1下肢に偽関節を残すもの
硬性装具を常に必要とするわけではない大腿骨もしくは脛骨に偽関節を残す状態です。
12級8号:長管骨に変形を残すもの
下肢の長管骨に変形を残すものとは、次のいずれかに該当するものです。尚、同一の長管骨に以下の障害を複数残す場合でも12級8号になります。
- 大腿骨または脛骨で、15度以上変形癒合したもの
- 大腿骨もしくは脛骨の骨端部に癒合不全を残すもの、または腓骨の骨幹部等に癒合不全を残すもの
- 大腿骨または脛骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
- 上腕骨、橈骨または尺骨の骨端部のほとんどを欠損したもの
- 大腿骨または脛骨(骨端部を除く)の直径が2/3以下に減少したもの
- 大腿骨が外旋45度以上または内旋30度以上回旋変形ゆ合しているもの
6.大腿骨が45度以上外旋または内旋変形癒合しているものとは、次のいずれにも該当することを確認することによって判定します。
- 外旋変形癒合にあっては股関節の内旋が0度を超えて可動できないこと、内旋変形癒合にあっては、股関節の外旋が15度を超えて可動できないこと
- エックス線写真等により、大腿骨の骨折部に回旋変形癒合が明らかに認められること
骨欠損が生じて大腿骨や脛骨の直径が2/3以下に減少したものは比較的よく見られます。下腿の変形障害で認定されるのは、このケースが多いかと考えられます。
【弁護士必見】骨折が治っても痛みがある事案は難しい
これまで見てきたように、骨折が治っても痛みがある理由として、関節内骨折で外傷性変形性関節症を併発した、関節に近い骨折、骨折時の軟部組織損傷が激しい、骨折時に皮神経を損傷した、骨折の手術で皮神経を損傷した、骨折部の一部が治っていない(遷延癒合)、CRPSを合併した、などがあります。
これらの後遺症の原因を探るためには、レントゲン検査だけではなくCT検査やMRI検査などが必要なケースもあります。骨折後に後遺症が残る原因はたくさん考えられるため、整形外科専門医による分析が必要な事案が多いです。
骨折が治っても痛みがある事案でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
【12級13号】骨折後の痛みの後遺障害認定事例
事例サマリー
- 被害者:30歳代
- 初回申請:14級9号
- 異議申立て:12級13号
高所からの転落により受傷しました。初回申請で14級9号の認定を受けましたが、症状との乖離があるため、弊社に医療相談を依頼されました。
弊社の取り組み
弊社で調査したところ、骨折部にわずかな変形が残存している可能性がありました。被害者に追加CT撮像を受けていただいたところ、脛骨外側関節面の変形が残存する画像所見が得られました(赤丸)。
後遺障害の蓋然性を主張する医師意見書を作成し、異議申し立てを行ったところ、12級13号が認定されました。
まとめ
骨折が治っても痛みがある理由として主に以下のような原因が考えられます。
- 関節内骨折で外傷性変形性関節症を併発した
- 関節内骨折ではないが関節に近い骨折
- 骨折時の軟部組織損傷が激しかった
- 骨折時に皮神経を損傷した
- 骨折の手術で皮神経を損傷した
- 骨折部の一部が治っていない(遷延癒合)
- CRPSを合併した
一方、骨折が治っても痛みがある場合には、以下のような後遺障害が考えられます。
- 神経障害(痛み)
- 機能障害(関節可動域制限)
- 変形障害
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