高次脳機能障害を客観的に判定することは、とても難しいです。実は、高次脳機能障害の全体を網羅した簡便なスクリーニングテストはありません。
しかし、外傷性の高次脳機能障害に特徴的である、認知障害や行動障害の程度を定量的に測る検査は存在します。
その代表的な検査がウェクスラー成人知能検査(WAIS)とウェクスラー記憶検査(WMS-R)です。
本記事は、WAISとWMS-Rを理解することで、高次脳機能障害が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/9/8
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神経心理学的検査とは
課題に対する被験者の反応を得点化する心理検査のうち、主に脳損傷による高次脳機能障害の診断と評価に用いられるものを神経心理学的検査といいます。神経心理学的検査は大別すると、以下の項目に分類されます。
- 知能検査
- 言語機能検査
- 記憶検査
- 遂行(前頭葉)機能検査
- 人格特定評価法
- 上記以外の心理検査ではない検査
このうち、知能検査の代表的なものがウェクスラー成人知能検査(Wechsler memory scale; WAIS)、記憶検査の代表的なものがウェクスラー記憶検査(Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised; WMS-R)です。
<参考>
【医師が解説】神経心理学的検査は高次脳機能障害の等級認定ポイント
WAIS(ウェクスラー成人知能検査)とは
WAIS-Ⅲとは
WAIS-Ⅲは、世界で最も使用されている成人用(16〜89歳)の本格的な全般性脳機能検査です。テスト内容は、多元的・多面的に構成されていて、現在最も優れた知能検査といえます。
言語性検査としては、知識、数唱、単語、算数、理解、類似、語音配列の各検査からなります。動作性検査としては、絵画完成、絵画配列、積木模様、組合せ、符号、行列推理、記号探しの各検査からなります。
言語性検査と動作性検査の両者を総合して総合IQを算出します。
もともとWAISは多数の正常人の標本を基に標準化されていて、各IQは100点を中心として、100人のうち68人が85点から115点の間にくるように設定されています。
IQは、130点以上は「特に高い」、120点以上129点以下は「高い」、110点以上119点以下は「平均の上」、90点以上109点以下は「平均」、80点以上89点以下は「平均の下」、70点以上79点以下は「境界型」、69点以下は「知的障害」と分類されます。
WAIS-Ⅳとは
近年は、上記のうち、類似、単語、知識、積木模様、行列推理、絵画完成、数唱、算数、符号、記号探しの10種類の検査と、補助的な5つの検査を組み合わせたWAIS-Ⅳも用いられています。
WAISのデメリット
WAISの難点としては、テストに1時間以上要することで、高次脳機能障害患者にとってはつらい検査といえます。
WMS-R(ウェクスラー記憶検査)とは
WMS-Rは国際的に最もよく使用されている総合的な記憶検査であり、日本でも標準化されています。
言葉を使った問題と図形を使った問題で構成され、「一般的記憶」と「注意・集中力」の2つを主要な指標としています。
記憶のあらゆる面を測定し、認知症はじめ様々な疾患の記憶障害を定量的に評価するものです。
16〜74歳に適応され、所要時間は1時間程度です。WAIS-Ⅲ同様、100点を中心として15点が標準偏差です。
高次脳機能障害の評価バッテリー
高次脳機能障害の神経心理学的検査
高次脳機能障害の神経心理学的検査には、全般的認知機能をみる検査と、記憶や前頭葉機能といった個別の認知機能を評価する検査に分けられます。
全般的認知機能を評価する検査
知能検査
- ミニメンタルステート検査 (MMSE)
- 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)
- ウェクスラー成人知能検査 (WAIS-Ⅳ)
- レーブン色彩マトリックス検査(RCPM)
- 幼児や児童用のWPPSIとWISC
記憶検査
- ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
- リバーミード行動記憶検査 (RBMT)
- レイ複雑図形検査 (ROCFT)
- レイ聴覚性言語学習検査 (RAVLT)
個別の認知機能を評価する検査
言語機能検査
注意力検査
遂行(前頭葉)機能検査
推奨されている高次脳機能障害の評価バッテリー
高次脳機能障害の評価では、一般的に以下のような神経心理学的検査の組み合わせ(評価バッテリー)が推奨されています。
全般的認知機能検査
記憶機能検査
ウェクスラー記憶検査(WMS-R)
リバーミード行動記憶検査 (RBMT)
注意機能検査
TMT (trail making test) 線引きテスト
遂行機能検査
遂行機能の行動評価法 (BADS)
ウィスコンシンカードソーティングテスト(WCST)
社会的行動検査
認知-行動障害尺度(TBI-31)
【高次脳機能障害】WAISとWMS-Rは重要検査
自賠責保険の高次脳機能障害の等級認定では、知能検査のWAIS(ウェクスラー成人知能検査)と、記憶検査のWMS-R(ウェクスラー記憶検査)が重視されています。
高次脳機能障害が問題になるのは、頭部外傷後(事故後)の記憶力の減少です。それ以外にも、認知機能全般が低下します。
特に問題となるのは近時記憶であり、言われたことをすぐに忘れて日常生活上支障をきたすようになります。
このため、認知機能を測定する知能検査(WAIS)と、近時記憶を測定する記憶検査(WMS-R)が重要視されています。
<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害が後遺症認定されるポイント|交通事故
【日経メディカル】交通事故における曖昧な高次脳機能障害の定義
【日経メディカル】交通事故後の高次脳機能障害を見逃すな!把握しにくい2つの理由
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※ 本コラムは、脳神経外科専門医の高麗雅章医師が解説した内容を、弊社代表医師の濱口裕之が監修しました。