交通事故で発生する代表的な外傷のひとつに頚椎捻挫(むちうち)があります。むちうちの後遺症に悩む人は多いですが、自賠責保険で後遺障害等級が非該当になるケースが多いです。
むちうちの後遺症が等級認定されるためには、いくつかの要件があります。MRIなどの画像検査もそのひとつです。本記事は、むちうちの後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日:2022/12/1
Table of Contents
むちうちとは
むちうちの特徴
正式な傷病名は外傷性頚部症候群ですが、慣習的に頚椎捻挫や「むちうち」と呼ばれることが多いです。
頚椎のレントゲンやMRI検査で異常所見がないにも関わらず、頚部痛、肩こり、上肢のしびれや痛みなどの症状が持続する症例も多いです。
症状の持続期間は、事故から数日で治癒することもあれば、1年以上持続することもあります。症状の重症度も軽傷なものから、日常生活に支障をきたすような重篤なものまでさまざまです。
むちうちの症状
むちうちの症状は多彩で、下記の症状を自覚するケースがあります。
- 頚部痛
- 肩こり
- 上肢のしびれや痛み
- めまい
- 頭痛
- 嘔気
- 耳鳴り
- 全身倦怠
- 動悸
めまいや頭痛、嘔気、耳鳴、全身倦怠、動悸などの症状に関しては、バレリュー症候群、自律神経失調症と診断されることもあります。
<参考>
【医師が解説】頚椎捻挫(むちうち)の後遺症認定のヒント|交通事故
MRIとは
MRIの特徴
MRIとは、Magnetic Resonance Imagingの略称で、日本語で言うと磁気共鳴画像撮影法です。
トンネル型の大きな装置の内部で強力な磁場を発生させる検査で、レントゲン検査ではうつらない脳や脊髄などの軟部組織を観察することができます。
撮像する部位や機種の性能の違いにもよりますが、MRI検査は比較的長い時間が必要です。おおむね30分程度かかると思っておけばよいでしょう。
MRIでかかる費用
MRI検査にかかる費用は、3割負担の保険診療では約8,000円です。自費診療では約25,000円かかる施設が多いです。
MRIの注意点
MRI検査では、トンネル型の大きな装置の内部に入る必要があります。このため、閉所恐怖症の人は注意が必要です。
また、検査中はうるさい音がします。一応、耳栓やヘッドホンを貸してくれる施設が多いですが、ほとんど役に立たないのが実情です。
体内に下記のような金属が入っている人も注意が必要です。
- 心臓ペースメーカー
- 2000年より前の脳動脈クリップ
- 体内埋め込み装置(ICD・人工内耳・神経刺激装置)
- 可動型義眼
一方、交通事故被害者に多い、骨折の手術で使用したチタン製のプレートやスクリューは問題ありません。また人工関節が入っていてもMRIを撮像することができます。
MRIとCTの違い
MRI検査とCT検査は、一般の方から見ると検査の装置や画像所見が似ているかもしれません。
CT検査は、Computed Tomographyの略称で、X線を用いて撮影する検査です。装置の外観は、MRIと同じように筒状の検査装置でよく似ています。
しかし磁気を用いるMRI検査と、X線を用いるCT検査とでは、得られる画像結果も全く異なります。また、CT検査にかかる費用は、MRI検査よりも安価なケースが多いです。
MRIの得意な部位
MRI検査では全身のどこでも検査できますが、特に頭部、脊椎、四肢の関節を得意としています。
交通事故では、四肢や脊椎、そして頭部の外傷が多いです。このため、MRI検査は交通事故診療では有用性の高い検査と言えます。
このような理由で、むちうちも含めて交通事故の被害者がMRI検査を受ける機会が多いのです。
頚椎MRIでわかること
頚椎MRI検査では、以下のようなことが分かります。
- 椎間板の異常
- 背骨(椎体)の異常
- 脊髄の異常
- 神経根の異常
- 神経の圧迫度合い
レントゲン検査では骨しか分かりませんが、MRI検査では椎間板や神経などの軟部組織を観察することが可能です。
このため、頚椎MRI検査を撮像すると椎間板や神経の状態を詳細に知ることができます。
むちうちでMRIを受けるべき理由
痛みやしびれの原因が分かる可能性がある
交通事故をきっかけにして、頚部痛や上肢の痛みやしびれが出現することは非常に多いです。いつまで経っても症状が軽快しない場合には、MRIを撮像することが望ましいです。
その理由は、もともと存在した頚椎椎間板ヘルニアなどが、交通事故を契機に顕在化するケースがあるからです。頚椎椎間板ヘルニアだけではなく、後縦靭帯骨化症(OPLL)や頚髄腫瘍が見つかることさえあります。
単なる「むちうち」だから...と、安易に痛み止めや物療を続けるだけでは根本的な解決にならないケースもあります。症状が続く場合にはMRI検査で詳しく調べておく必要があるでしょう。
後遺障害等級認定で有利
12級13号の等級認定には必須
12級13号とは「局部に頑固な神経症状を残すもの」です。具体的にどのような状態かよく分からない文言ですが、自賠責用語を翻訳すると「画像所見で症状の存在を証明できるもの」という意味となります。
この場合の画像所見とは、MRI検査の画像所見です。単純X線像(レントゲン)やCTでは不可であることに注意が必要です。
もちろん、MRI検査で有意な画像所見が存在するだけでは12級13号が認定されることはありません。しかし、MRI検査を実施していないと12級13号に認定される可能性はありません。
14級9号の等級認定でも有利
14級9号とは「局部に神経症状を残すもの」です。こちらも具体的にどのような状態かよく分からない文言ですが、自賠責用語を翻訳すると「画像所見で症状の存在を証明できなくても、治療経過から症状の存在を類推できるもの」という意味です。
つまり、レントゲンやMRIで画像所見が無くても、通院頻度などのいくつかの条件をクリアしていれば「症状は存在するだろう」ということになります。
さすがにレントゲンが無いと厳しいですが、MRI検査が実施されていなくても後遺障害が等級認定される可能性はあります。
<参考>
【医師が解説】頚椎捻挫(むちうち)の後遺症で必要な検査|交通事故
ただし、14級9号であってもMRI検査が実施されていると、それだけ痛みで困っている客観的証拠とみなされます。このためMRI検査は必須ではないものの、後遺障害等級認定には有利と考えて良いでしょう。
むちうちのMRIで異常なしは打ち切りになる?
むちうちで頚椎MRI検査を実施したものの、異常所見が無ければ、保険会社から一括対応の打ち切りを打診される可能性があります。
しかし、むちうち治療継続の要否を決めるのは主治医です。保険会社に言われたからといって、必ずしも従う必要はありません。
頚椎MRI検査はあくまでも参考資料のひとつに過ぎません。医師はMRI検査だけで治療方針を決定するわけではないのです。
MRI検査で異常がなくても、医師が治療の必要性を認めているケースでは、保険会社は一括対応を打ち切りにくいのも事実です。
明らかにむちうちの症状が軽快しつつあれば、安易に保険会社の言い分に応諾しない方が良いでしょう。
【弁護士必見】むちうちMRIの注意点
若年者で訴訟前提の事案では慎重に
MRI検査が実施されていると、それだけ痛みで困っている客観的証拠とみなされますが、留意するべき点もあります。
それは、MRI検査を実施したものの、有意所見の無いケースです。特に30歳までの若年者ではMRI検査が正常であるケースが多いです。
このような事案で新たにMRI検査を施行すると藪蛇になってしまう可能性があります。異議申立てでは有意所見が無ければMRI検査を提出しない手があります。
しかし訴訟では難しいため、MRI検査未実施の事案では慎重な判断が望まれるでしょう。
低品質MRIは非該当の原因となる
医療現場でも問題になっているのが、オープン型を隠れ蓑にした低品質MRIの存在です。MRI検査は、磁場の強さで解像度が全く異なります。
最近、クリニックでもMRIを導入する施設が増えてきましたが、クリニックのMRIは性能の悪い機種が多いです。
例えば 0.3テスラのMRIは、オープン型という謳い文句と磁場が小さくて設備負担も小さいことがメリットです。施設面積に限りがあり、設備投資を抑えたいクリニックのニーズに合致します。
しかし、0.3テスラのMRI検査は当然のごとく解像度が低いです。頚椎や肩関節を検査しても、正常なのか異常なのかさえ分からないケースが多いです。
このような事案は、自賠責保険では「有意な画像所見無し」と判断されます。オープン型の低品質MRIを施行されたがために非該当になるという本末転倒なことが多発しています。
0.3~0.5テスラのMRI検査を受けると非該当になってしまう可能性が高まることに留意が必要でしょう。
まとめ
頚椎捻挫(むちうち)で症状が続くケースでは、原因を調べるためにMRI検査の実施が望ましいです。また、むちうちの後遺症が後遺障害等級認定されるためにも、MRI検査を実施する方が有利と言えます。
ただし、どのような状況でもMRI検査を施行すれば良いというわけではありません。若年者で訴訟前提の事案や低品質MRIには注意が必要でしょう。
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