年に一度の健康診断は、自覚症状のない病気の早期発見や予防のために欠かせないものです。
しかし、その健康診断で異常が見逃されたら、重大な病気の進行を許して、命に関わる深刻な結果を招く可能性もあります。
実際に「見落とし」によって治療が遅れたケースでは、医療機関や医師に対して損害賠償を求める事例も発生しています。
こうした診断ミスに対して、どのような法的責任が問われるのか、損害賠償請求を行うにはどのような手続きが必要なのか、ご存じでしょうか?
本記事では、健康診断での見落としの原因や責任の所在、具体的な事例を交えながら、被害を受けた方が知っておくべき情報を詳しく解説します。
最終更新日: 2025/6/10
Table of Contents
健康診断の見落としは損害賠償請求できる可能性がある
損害賠償請求には医療過誤の3要件が必要
健康診断で見逃しがあっても、それだけでは損害賠償を請求できません。損害賠償請求には医療過誤の3要件が必要です。医療過誤の3要件とは、「過失」「損害」「因果関係」です。
具体的には、見逃しが過失(医療ミス)として認められ、そのために実際に被害が出たと証明できたときに、はじめて請求が可能になります。
つまり、医師にミスがあったことと、そのミスが原因で被害が出たことを証明する必要があります。
<参考>
医療過誤の3要件とは?損害賠償請求の流れも解説|医療調査・医師意見書
医療過誤の3要件を証明するには医療調査が必須
医療過誤の3要件を証明するためには、専門的な資料を収集して分析する必要があるので、弁護士や協力医による医療調査が必要になるケースが多いです。
<参考>
健康診断の見落としが生じる主な原因とは?
画像検査(レントゲン・CT・MRI)の読影ミス
画像検査では、医師の技術や画像の質、がんの部位などが見落としの要因となります。特に膵臓がんは位置的に観察が難しく発見が困難です。
また、読影医の不足のため、1人の医師が短時間で大量の画像検査を確認する必要があり、見落としのリスクが高まります。
健診現場の流れ作業化による診断精度の低さ
集団検診では、多数の受診者の画像検査を短時間で処理する必要があり、流れ作業的な対応になりがちです。
このような状況では、医師が詳細に画像検査を読影することが難しく、異常所見の見落としが発生する素地となります。
経験不足や専門知識が乏しい医師による診断のリスク
健康診断では、必ずしも専門医が対応するわけではありません。医師の経験や専門知識にバラつきがあるため、見落としが発生する原因のひとつになります。
誤診されやすい健康診断の検査項目一覧
胸部レントゲン検査
胸部レントゲンは、肺や心臓の状態を確認するための基本的な検査ですが、微細な病変や特定の部位の異常を見逃す可能性があります。
特に、肺の奥深くに位置する病変や小さな腫瘤は、画像上で判別が難しく、誤診のリスクが高まります。
また、撮影条件や医師の経験によっても診断精度が左右されるため、異常が無いと診断されても確実に正常とは言い切れません。
<参考>
胸部レントゲンの肺がん見落としは損害賠償請求できる?|医療調査・意見書
心電図検査
心電図は、心臓の電気的活動を記録する検査で、不整脈や心筋梗塞の兆候を検出するのに有用です。しかし、機械による自動解析に依存しすぎると、誤診のリスクが高まります。
特に、医師が患者の症状や既往歴を考慮せず、機械の判定結果をそのまま診断に用いると、重大な疾患を見逃す可能性があります。正確な診断には、専門医による総合的な評価が不可欠です。
便潜血検査
便潜血検査は、大腸がんなどの消化管出血を早期に発見するためのスクリーニング検査です。
しかし、出血が断続的でない場合や、検体の採取方法が適切でない場合、偽陰性となり、病変を見逃す可能性があります。
また、陽性反応が出た場合でも、必ずしもがんが存在するとは限らないため、内視鏡検査などの精密検査による確認が必要です。
腹部エコー検査
腹部エコーは、肝臓、胆のう、腎臓などの臓器を非侵襲的に評価する検査です。しかし、医師や検査技師の技術や経験、患者の体型や腸内ガスの影響により、病変の検出が困難な場合があります。
特に、膵臓や腎臓の深部に位置する病変は見逃されやすいため、異常が疑われる場合はCT検査などの追加検査が推奨されます。
腫瘍マーカー
腫瘍マーカーは、がんの存在を示唆する血液中の物質を測定する検査です。しかし、特異性や感度に限界があり、良性疾患や炎症性疾患でも数値が上昇するケースがあります。
また、がんが進行していてもマーカー値が正常範囲内に留まる可能性もあるため、単独での診断には適していません。他の検査結果や画像診断と併せて総合的に判断する必要があります。
MRI検査やCT検査(オプション検査)
MRI検査やCT検査は、高解像度の画像を提供する先進的な検査ですが、読影には高度な専門知識が求められます。経験の浅い医師が読影を行うと、微細な病変を見落とすリスクがあります。
また、過剰な検査の実施や、不必要な異常所見の指摘により、患者に不安を与える可能性もあります。これらの検査を受ける際は、信頼できる専門医のもとで適切な評価を受けることが重要です。
健康診断の見落としは企業や医療機関に責任がある?
企業の安全配慮義務と損害賠償責任の有無
企業は労働安全衛生法に基づき、定期的な健康診断を実施する義務がありますが、診断結果の見落としによる損害賠償責任が認められるかは、状況によります。
判例では、企業が適切な医療機関に健康診断を委託して、一般的な医療水準を満たしていれば、企業の責任は否定される傾向にあります。
医師の過失が問われるケース
医師が健康診断で異常所見を見落としたら、その過失が問われる可能性があります。
しかし、定期健康診断は多くの受診者を対象としており、短時間で多くの画像検査を読影する必要があるため、医師の注意義務には限界があるとされています。
そのため、明らかな過失がない限り、医師の責任が認められないケースも少なくありません。
判例にみる健康診断の見落とし事例
過去の判例では、健康診断での見落としに対する企業や医療機関の責任が争点となる事案が多いです。
例えば、定期健康診断で肺がんの兆候を見逃して、従業員が死亡した事例では、企業が適切な医療機関に健診を委託していたことから、企業の責任は認められませんでした。
一方で、医療機関の読影体制に問題があった場合、医師や医療機関の責任が問われる可能性があります。
健康診断で損害賠償請求されやすい実例
がん(特に肺がん)の見落とし
胸部レントゲン検査では、微小な病変や特定の部位の異常を見逃す可能性があり、早期発見が困難です。
また、医師の技量や放射線科技師の撮影技術によって診断精度が左右されるため、見落としのリスクが常に存在します。
見落としによって治療が遅れたり、患者の生命に重大な影響を及ぼすと、医療機関や医師に対して損害賠償請求が行われるケースがあります。
検査結果の見落としや誤読による治療遅延
健康診断の結果通知において、異常所見が記載されていたにもかかわらず、医療機関や担当者が見落としたり、誤って正常と判断したりするケースもあります。
特に、がんや心疾患などの早期発見が重要な疾患では、治療のタイミングを逃すと患者の予後に重大な影響を及ぼす可能性があります。
このようなケースでは、医療機関や担当医師に対して損害賠償請求が行われる可能性があります。
不必要な検査や処置による健康被害
健康診断の結果を過剰に解釈して、必要のない検査や処置を行った結果、患者に健康被害が生じるケースも少なくありません。
例えば、良性腫瘍に対して過剰な検査や手術を行って患者に身体的・精神的な負担をかけた場合、医師の判断に過失があったとされて損害賠償請求の対象となる可能性があります。
メディカルコンサルティングができること
医療ミスなのかについての医療調査
医療訴訟の多くは、単に治療結果が悪いだけで医療ミスではありません。単に治療結果が悪いだけでは、医療訴訟で勝てる確率は著しく低いです。
勝訴できる可能性の無い不毛な医療訴訟を防ぐためには、第三者による、医療ミスかどうかについての医療調査の実施が望ましいです。
弊社では、ほぼすべての科の事案で医療ミスか否かの医療調査(意見書作成可否調査)が可能です。詳細は、以下のコラム記事をご確認ください。
<参考>
医療事故における医療調査の基本内容とは?費用も解説|医師意見書
医療調査できる診療科一覧
弊社では、以下のようにほぼ全科の医療調査を実施できます。
- 整形外科
- 脳神経外科
- 耳鼻咽喉科
- 眼科
- 消化器外科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科
- 産婦人科
- 泌尿器科
- 脳神経内科
- 循環器内科
- 消化器内科
- 呼吸器内科
- 腎臓内科
- 血液内科
- 小児科
- 放射線科
- 精神科
- 皮膚科
- 形成外科
- ⻭科
- 麻酔科
- 救急科
- 感染症科
- ペイン科
- 病理
医療訴訟で使用する医師意見書
意見書作成可否調査で医療ミスであることが判明した場合、各科の専門医による顕名の医師意見書を作成することが可能です。
医療ミスの可能性がある事案で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
<参考>
医療訴訟の医師意見書|160名の各科専門医による圧倒的実績
医師意見書の作成にかかる費用
医療調査(意見書作成可否調査)
医療訴訟用の医師意見書を作成できるのかを判断するために、医療調査(意見書作成可否調査)を必須とさせていただいています。
意見書作成可否調査では、各科の専門医が、診療録や画像検査などの膨大な資料を精査いたします。
概要 | 価格 |
基本料 | 140,000円 |
動画の長い事案 | 170,000円 |
追加質問 | 45,000円 / 回 |
※ すべて税抜き価格
※ 意見書作成には医療調査(意見書作成可否調査)が必須です
※ 意見書作成には別途で意見書作成費用がかかります
※ 意見書作成に至らなくても医療調査の返金は致しません
医師意見書
医療調査(意見書作成可否調査)の結果、医療ミスが判明して、医師意見書を作成する際には、別途で医師意見書作成費用がかかります。
概要 | 価格 |
一般の科 | 400,000円~ |
精神科 | 450,000円~ |
心臓血管外科 | 500,000円~ |
施設(老健、グループホームなど) | 350,000円~ |
弊社が医療訴訟で医師意見書を作成した実例
弊社には全国の法律事務所から医療訴訟の相談が寄せられます。これまで下記のような科の医師意見書を作成してきました。
- 脳神経外科
- 脳神経内科(神経内科)
- 整形外科
- 一般内科
- 消化器外科
- 消化器内科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科(成人)
- 心臓血管外科(小児)
- 循環器内科
- 産科
- 婦人科
- 泌尿器科
- 精神科
- 歯科
一方、眼科や美容整形外科に関しては相談件数が多いものの、実際に医療過誤である事案はほとんど無いです。このため弊社においても、医師意見書の作成実績がありません。
健康診断の見落としでよくある質問
健康診断の誤診の責任は?
健康診断で誤診や見落としがあった場合、医師や医療機関が法的責任を問われる可能性があります。
しかし、責任が認められるためには、医師に過失があり、その過失によって患者に損害が生じたこと、そしてその損害と医師の行為との間に因果関係があることを証明する必要があります。
例えば、肺がんの兆候を見落として治療が遅れて患者が死亡したら、医療機関に対して損害賠償請求が行われるケースが多いです。
ただし、医師の診療行為が一般的な医療水準を満たしていたら、責任を認められない可能性が高いです。
<参考>
医療過誤の3要件とは?損害賠償請求の流れも解説|医療調査・医師意見書
健康診断の誤診の確率は?
健康診断における誤診の確率は、診断の種類や定義によって幅があり、参考となるデータや医療現場の実態から、以下のように考えられます。
- 東大名誉教授の沖中重雄氏による臨床診断と剖検の比較では、誤診率は14.2%と報告されています
- 米国の大規模研究では、血管イベント・感染症・がんの「重大な誤診率」は11.1%とされています
以上から、健康診断の誤診率(見逃しや誤った判定を含む)は、10~15%程度とする報告が多いようです。
診断ミスは医療過誤に当たりますか?
診断ミスが医療過誤と認定されるためには、医師や医療機関に過失があり、その過失によって患者に損害が生じたこと、そしてその損害と医師の行為との間に因果関係があることを証明する必要があります。
医療過誤が認定されると、医師や医療機関には民事責任(損害賠償)、刑事責任(業務上過失致死傷罪など)、行政責任(医師免許の停止や取り消しなど)が問われる可能性があります。
ただし、診断ミスがあっても、医師が一般的な医療水準を満たしていた場合や、損害との因果関係が認められない場合には、医療過誤と認定されない可能性が高いです。
<参考>
医療過誤の3要件とは?損害賠償請求の流れも解説|医療調査・医師意見書
まとめ
健康診断での見落としは、読影ミスや医師の経験不足、検査体制の問題などが主な原因です。
特に肺がんや膵臓がんなどは、画像での判別が難しく、専門的な知識と注意が求められます。
また、健診現場の流れ作業や自動解析への過度な依存により、異常を見逃すこともあります。
見落としによる診断遅延や誤診は、治療の遅れにつながり、医療機関や医師に損害賠償責任が問われる可能性もあります。
健康診断の見落としの損害賠償請求で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
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