健康診断や人間ドックなどで広く行われている胸部レントゲン検査。しかしこの検査で「異常なし」と診断されたにもかかわらず、後に肺がんが発見される――こうした“見落とし”の事例が少なくありません。
特に肺がんは早期発見が治療の鍵を握る疾患であり、診断の遅れは患者に深刻な影響を及ぼします。
本記事では、胸部レントゲンによる肺がんの見落としがなぜ起こるのか、どれほどの頻度で起きているのかといった実態を掘り下げます。
また、見落としによって被害を受けた場合に損害賠償請求は可能なのか、法的責任や過去の判例、訴訟の流れについても詳しく解説していきます。
最終更新日: 2025/5/30
Table of Contents
肺がんの見落としは損害賠償請求できる可能性がある
損害賠償請求には医療過誤の3要件が必要
胸部レントゲンで見逃しがあっても、それだけでは損害賠償を請求できません。損害賠償請求には医療過誤の3要件が必要です。医療過誤の3要件とは、「過失」「損害」「因果関係」です。
具体的には、見逃しが過失(医療ミス)として認められ、そのために実際に被害が出たと証明できたときに、はじめて請求が可能になります。
つまり、医師にミスがあったことと、そのミスが原因で被害が出たことを証明する必要があります。
<参考>
医療過誤の3要件とは?損害賠償請求の流れも解説|医療調査・医師意見書
医療過誤の3要件を証明するには医療調査が必須
医療過誤の3要件を証明するためには、専門的な資料を収集して分析する必要があるので、弁護士や協力医による医療調査が必要になるケースが多いです。
<参考>
胸部レントゲンで肺がんは見落とされる?その理由と限界
胸部レントゲン検査の基本と検出できる疾患
胸部レントゲン検査は、X線を用いて肺や心臓、縦隔などの胸部構造を撮影して、肺炎、肺結核、肺がん、気胸などの異常を検出する基本的な画像診断法です。
健康診断や初期診療で広く利用され、迅速かつ低コストで実施可能ですが、微細な病変の検出には限界があります。
小さな肺がんや心臓・隔膜などに隠れる病変の見落としリスク
胸部レントゲン検査では、肺尖部、肺門部、肋骨や心臓、横隔膜と重なる部位に腫瘍が存在すると、正常構造と重なり病変が識別しにくくなります。
特に小さな肺がんは、これらの部位に位置すると見落としてしまうリスクが高まります。
胸部CT検査との違いと精度比較
胸部CT検査は、X線を用いて身体の断面画像を取得して、肺の微細な病変や腫瘍の位置・大きさを詳細に評価できます。
胸部レントゲン検査に比べて解像度が高く、特に小さな肺がんの検出に優れていますが、被ばく量やコストが高くなるため、必要に応じて使い分けられます。
胸部レントゲンで肺がんを見落とすケースの実態
胸部レントゲン検査は、肺がんの早期発見に有用ですが、すべての病変を確実に捉えるわけではありません。
特に小さな腫瘍や、心臓や横隔膜などの陰影に隠れた病変は見落とされるリスクがあります。
実際、健康診断で異常なしとされた後に進行した肺がんが発見されるケースも報告されています。
これらの事例は、胸部レントゲン検査における肺がんの見落としが、患者の生命や生活に重大な影響を及ぼす可能性があることを示しています。
検査結果に疑問を感じた場合や症状が続く場合は、医師に相談して、必要に応じて胸部CT検査などの精密検査を受けることが重要です。
胸部レントゲンによる肺がん見落としの医師・医療機関の法的責任
医師・医療機関の注意義務と法的根拠
胸部レントゲン検査で肺がんを見落とした場合、医師や医療機関は民法第709条の不法行為責任や第715条の使用者責任を問われる可能性があります。
国立病院や公立病院でも、医師の行為が「公権力の行使」に該当しない限り、私立病院と同様に責任を負うとされています。これは、最高裁昭和57年4月1日判決に基づいています。
判例紹介:見落としによる損害賠償が認められた事例
東京地裁平成18年4月26日判決では、胸部レントゲン検査での肺がんの見落としにより、術後5年生存率が30%低下したと認定され、医師および医療機関に対して450万円の損害賠償が命じられました。この判決は、医師の注意義務違反と患者の精神的苦痛を認めたものです。
肺がん見落とし事例の損害賠償請求の流れ
医療調査の進め方と証拠収集
肺がんの見落としによる損害賠償請求を行うには、まず医療調査を進めて、証拠を収集することが重要です。
具体的には、診療録(カルテ)、検査結果、画像データなどを取得して、医療機関の対応や診断過程を確認します。
また、協力医(専門医)の意見を仰ぎ、医師の過失の有無を医学的に評価することも必要です。
<参考>
医療事故における医療調査の基本内容とは?費用も解説|医師意見書
示談交渉
証拠が揃った段階で、医療機関との示談交渉を行います。示談は、訴訟を避けて早期に解決を図る手段であり、双方の合意により損害賠償金額や謝罪の有無などを決定します。
調停と医療ADR
示談が成立しない場合、裁判所の調停や医療ADR(裁判外紛争解決手続)を利用することができます。
医療ADRは、専門の仲裁人が関与して、非公開で柔軟な解決を目指す制度です。訴訟に比べて時間や費用の負担が少なく、和解に至るケースも多いです。
訴訟
調停やADRでも解決しない場合、最終手段として訴訟を提起します。訴訟では、医師の過失や因果関係を立証する必要があり、専門的な知識や証拠が求められます。
判決が確定するまでに時間がかかるケースが多いため、訴訟提起には慎重な判断が必要です。
医療訴訟を行う前に知っておきたい注意点
医師の過失立証の難しさと訴訟の見通し
医療訴訟では、医師の過失を立証することが困難であり、患者側の勝訴率は約20%と低い水準です。
専門的な医学知識が必要であり、協力医の意見書や専門文献を用いて過失を証明する必要があるためです。また、裁判官に対して医学的内容を分かりやすく伝える工夫も求められます。
損害賠償請求の要件と立証方法
損害賠償請求を行うには、医師の過失、損害の発生、そして過失と損害との因果関係を立証する必要があります(医療過誤の3要件)。
これには、診療録(カルテ)、検査結果、画像データなどの証拠が不可欠です。これらの証拠は、患者自身や家族が病院に開示請求を行うことで入手可能です。
<参考>
医療過誤の3要件とは?損害賠償請求の流れも解説|医療調査・医師意見書
医療訴訟は長期戦を覚悟する
医療訴訟は、通常の民事訴訟よりも審理期間が長く、第一審だけでも約2~3年を要することがあります。
これは、医学的な専門知識の必要性や、証拠の収集・分析に時間がかかるためです。そのため、訴訟を起こす際には長期戦を覚悟する必要があります。
示談や調停が現実解のケースも多い
医療訴訟は長期化しやすく、費用や精神的負担も大きいため、示談や調停による解決が現実的な選択肢となることが多いです。
実際、訴訟に至る前に示談で解決するケースや、訴訟中に和解に至るケースも少なくありません。これらの方法は、迅速な解決やプライバシーの保護といった利点もあります。
メディカルコンサルティングができること
医療ミスなのかについての医療調査
医療訴訟の多くは、単に治療結果が悪いだけで医療ミスではありません。単に治療結果が悪いだけでは、医療訴訟で勝てる確率は著しく低いです。
勝訴できる可能性の無い不毛な医療訴訟を防ぐためには、第三者による、医療ミスかどうかについての医療調査の実施が望ましいです。
弊社では、ほぼすべての科の事案で医療ミスか否かの医療調査(意見書作成可否調査)が可能です。詳細は、以下のコラム記事をご確認ください。
<参考>
医療事故における医療調査の基本内容とは?費用も解説|医師意見書
医療調査できる診療科一覧
弊社では、以下のようにほぼ全科の医療調査を実施できます。
- 整形外科
- 脳神経外科
- 耳鼻咽喉科
- 眼科
- 消化器外科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科
- 産婦人科
- 泌尿器科
- 脳神経内科
- 循環器内科
- 消化器内科
- 呼吸器内科
- 腎臓内科
- 血液内科
- 小児科
- 放射線科
- 精神科
- 皮膚科
- 形成外科
- ⻭科
- 麻酔科
- 救急科
- 感染症科
- ペイン科
- 病理
医療訴訟で使用する医師意見書
意見書作成可否調査で医療ミスであることが判明した場合、各科の専門医による顕名の医師意見書を作成することが可能です。
医療ミスの可能性がある事案で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
<参考>
医療訴訟の医師意見書|160名の各科専門医による圧倒的実績
医師意見書の作成にかかる費用
医療調査(意見書作成可否調査)
医療訴訟用の医師意見書を作成できるのかを判断するために、医療調査(意見書作成可否調査)を必須とさせていただいています。
意見書作成可否調査では、各科の専門医が、診療録や画像検査などの膨大な資料を精査いたします。
概要 | 価格 |
基本料 | 140,000円 |
動画の長い事案 | 170,000円 |
追加質問 | 45,000円 / 回 |
※ すべて税抜き価格
※ 意見書作成には医療調査(意見書作成可否調査)が必須です
※ 意見書作成には別途で意見書作成費用がかかります
※ 意見書作成に至らなくても医療調査の返金は致しません
医師意見書
医療調査(意見書作成可否調査)の結果、医療ミスが判明して、医師意見書を作成する際には、別途で医師意見書作成費用がかかります。
概要 | 価格 |
一般の科 | 400,000円~ |
精神科 | 450,000円~ |
心臓血管外科 | 500,000円~ |
施設(老健、グループホームなど) | 350,000円~ |
弊社が医療訴訟で医師意見書を作成した実例
弊社には全国の法律事務所から医療訴訟の相談が寄せられます。これまで下記のような科の医師意見書を作成してきました。
- 脳神経外科
- 脳神経内科(神経内科)
- 整形外科
- 一般内科
- 消化器外科
- 消化器内科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科(成人)
- 心臓血管外科(小児)
- 循環器内科
- 産科
- 婦人科
- 泌尿器科
- 精神科
- 歯科
一方、眼科や美容整形外科に関しては相談件数が多いものの、実際に医療過誤である事案はほとんど無いです。このため弊社においても、医師意見書の作成実績がありません。
胸部レントゲンの肺がん見落としでよくある質問
診断ミスの慰謝料の相場は?
胸部レントゲンでの肺がん見落としによる診断ミスに対する慰謝料は、事案の内容や被害の程度により異なります。
例えば、東京地裁平成18年4月26日判決では、医師の見落としにより肺がんの発見が約11か月遅れ、術後5年生存率が30%低下したことから、慰謝料400万円と弁護士費用50万円の合計450万円の損害賠償が認められました。
医者の診断ミスを訴えることはできますか?
医師の診断ミスにより損害が生じたら、患者や遺族は医師や医療機関に対して損害賠償請求を行うことができます。
この請求は、民法第709条の不法行為責任や第715条の使用者責任に基づいて行われます。
国立病院や公立病院などの公的医療機関においても、医師の行為が「公権力の行使」に該当しない限り、私立病院と同様に責任を問われる可能性があります。
診断ミスは医療過誤に当たりますか?
診断ミスは、医師が通常求められる注意義務を怠った結果、患者に損害を与えたら、医療過誤に該当します。
例えば、胸部レントゲン検査で肺がんを見落とし、適切な診断や治療が遅れた場合、医師の注意義務違反として医療過誤と認定される可能性があります。
まとめ
胸部レントゲン検査は肺の病気を見つける基本的な方法ですが、小さな肺がんや心臓・横隔膜の陰に隠れた病変は見逃されやすいという限界があります。
特に健康診断で見落とされることもあり、後から進行した肺がんが見つかるケースもあります。
医師や病院が見落とした場合、民法上の責任が問われて、実際に損害賠償が認められた例もあります。
胸部レントゲンの肺がん見落としの損害賠償請求で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
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