「もっと早く見つけていれば…」――医師の診断で癌が見落とされ、手遅れになってしまったという現実に直面した方やそのご家族にとって、その悔しさと怒りは計り知れません。
医療の現場でのミスや判断の誤りによって癌の発見が遅れたら、それが医療過誤にあたる可能性があり、損害賠償を請求できるケースもあります。
しかし、すべての見落としが法律上の過失と認定されるわけではなく、因果関係や注意義務の有無など、専門的な検討が必要です。
本記事では、癌の見落としによる損害賠償の条件や実際の賠償事例、請求手続きの流れまで、知っておくべき情報をわかりやすく解説します。
まずは、そもそもどのような場合に「癌の見落とし」が損害賠償の対象となるのかを見ていきましょう。
最終更新日: 2025/6/10
Table of Contents
癌の見落としによる損害賠償とは
癌の見落としが医療過誤となるケース
医師が癌の兆候を見逃して、適切な診断や治療を行わなかったら、医療過誤と認定される可能性があります。
例えば、画像診断の結果を見落としたり、必要な検査を怠ったりしたケースが挙げられます。
見落としによって患者の病状が悪化して、治療の機会を逸したと認められれば、損害賠償の対象となります。
病院や医師の責任が認められるポイント
損害賠償請求が認められるためには、医師や病院の過失と患者の被害との因果関係を明確にする必要があります(医療過誤の3要件)。
具体的には、医療記録や診療経過の分析を通じて、注意義務違反があったかどうかを検証します。
また、弁護士や専門医による医療調査の結果も重要な証拠となります。これらを基に、示談交渉や裁判を進めることが一般的です。
<参考>
医療過誤の3要件とは?損害賠償請求の流れも解説|医療調査・医師意見書
癌の見落としが過失と認定される条件
見落としが医療ミスとは限らない理由
癌の見落としは、必ずしも医師の過失と認定されるわけではありません。医療ミス(医療過誤)と判断されるには、医師が当時の医療水準に照らして注意義務を怠ったかどうかが問われます。
例えば、診断が困難な症例や、検査結果が曖昧な場合など、医師の判断が合理的であったと認められるケースでは、過失とされない可能性があります。
したがって、見落としがあったからといって直ちに医療ミスと断定することはできません。
診断や検査の流れと注意義務
医師は、患者の症状や検査結果に基づいて、適切な診断と治療を行う義務があります。
例えば、画像診断で異常が認められたら、追加の検査や専門医への紹介を行うなど、慎重な対応が求められます。
これらの注意義務を怠り、適切な診断や治療が行われなかったら、医療ミスと認定される可能性があります。
見落としの期間と因果関係の立証
癌の見落としによる損害賠償請求では、見落としと患者の被害との因果関係を立証することが重要です。
具体的には、見落としがなければ早期に癌が発見されて、治療によって予後が改善された可能性があることを示す必要があります。
このためには、医療記録や専門家の意見書などの証拠が必要となります。因果関係の立証が困難なケースでは、損害賠償請求が認められません。
癌の種類と損害賠償への影響
悪性度が高い癌・低い癌で異なる判断
癌の悪性度は、損害賠償請求において重要な要素となります。悪性度が高い癌(例:スキルス胃癌や小細胞肺癌)は進行が早く、早期発見が予後に大きく影響するため、見落としによる損害が大きいと判断される傾向があります。
一方、悪性度が低い癌(例:一部の甲状腺癌など)は進行が遅く、見落としによる影響が比較的少ないとされ、損害賠償額も低くなる可能性があります。
このように、癌の種類や悪性度によって、見落としが与える影響や損害賠償の判断が異なる可能性があります。
癌の種類ごとの損害賠償事例
実際の裁判事例では、癌の種類によって損害賠償額に差が見られます。例えば、肺癌の見落としでステージⅣまで進行して、余命が短くなった事例では、4,630万円の損害賠償が認められました。
また、胃癌の見落としで患者が亡くなった事例では、3,000万円の賠償が成立しています。
一方、見落としによって生存率が低下したものの、手術が成功して再発もない場合には、精神的損害として400万円の賠償が認められたケースもあります。
これらの事例から、癌の種類や進行度、見落としの影響度合いによって、損害賠償額が大きく変動することがわかります。
癌の見落としの原因と具体的なパターン
画像診断報告書の未確認
医師が画像診断報告書を確認しないことにより、癌の所見を見落とすケースがあります。
例えば、CT検査やMRI検査の画像を確認しても、報告書に記載された異常所見を見逃すことで、治療の遅れが生じることがあります。
医療者間の連絡ミス
医療者間の情報共有が不十分な場合、癌の見落としが発生する可能性があります。
例えば、放射線科医が画像診断で異常を指摘しても、その情報が主治医に適切に伝達されないと、必要な検査や治療が行われず、癌の進行を許してしまうケースがあります。
画像評価の誤り
画像診断において、医師が異常所見を正確に評価できないことがあります。
例えば、肺の陰影を良性と誤認して、精密検査を行わなかった結果、癌の発見が遅れることがあります。
適時の検査未実施
患者の症状や検査結果から追加の検査が必要と判断される場合でも、医師がそれを実施しないことで、癌の見落としが生じることがあります。
例えば、胃カメラ検査で異常が見つかったにもかかわらず、再検査を行わなかった結果、癌の進行を許してしまうケースです。
実際の損害賠償額と算定基準
死亡・生存別の慰謝料と損害額
癌の見落としによる損害賠償額は、患者が死亡した場合と生存している場合で大きく異なります。
死亡した場合、遺族が逸失利益や慰謝料を請求でき、賠償額が高額になる傾向があります。
一方、生存している場合でも、治療の遅れや生存率の低下に対する慰謝料が認められることがあります。
例えば、初回検診での見落としにより5年生存率が低下したとして、400万円の慰謝料が支払われた事例があります。
判例にみる賠償金額の目安
判例では、癌の見落としによる損害賠償額は症状の進行度や見落とし期間に応じて異なります。
例えば、肺癌の見落としでステージⅣまで進行して、余命が短くなった事例では、4,630万円の損害賠償が認められました。
また、見落としによって生存率が低下したものの、手術が成功し再発もない場合には、精神的損害として400万円の賠償が認められたケースもあります。
弁護士費用と手元に残る金額
損害賠償請求には、高額な弁護士費用が発生して、手元に残る金額が少なくなる可能性があります。特に、患者が生存している場合は賠償額が低くなる傾向があります。
そのため、損害賠償請求を検討する際は、弁護士費用を含めた全体の費用対効果を考慮することが重要です。
損害賠償請求の流れと注意点
証拠収集と因果関係の立証
医療ミス(医療過誤)による損害賠償請求では、医師の過失と損害との因果関係を立証する必要があります。このためには医療調査が必須です。
医療調査で診療録(カルテ)、検査結果、画像データなどの証拠を収集して、医療行為が標準的な医療水準に照らして適切であったかを検討します。
また、適切な医療が行われていれば損害が発生しなかったことを示すために、統計データや医学的知見を活用することが重要です。
<参考>
医療事故における医療調査の基本内容とは?費用も解説|医師意見書
交渉・示談・訴訟の進め方
損害賠償請求の手続きは、まず病院からの説明を受けて、必要に応じて弁護士に相談することから始まります。
その後、証拠を収集して、弁護士や協力医(専門医)による医療調査を実施して方針を決定します。
示談交渉では、賠償金額や支払い方法、再発防止策などについて話し合い、合意に達すれば契約を締結します。
示談が成立しない場合は、裁判外紛争解決手続(ADR)や調停を経て、それでも解決しない場合は訴訟に進みます。
<参考>
医療過誤の3要件とは?損害賠償請求の流れも解説|医療調査・医師意見書
弁護士に依頼すべきケース
医療過誤の損害賠償請求は、専門的な知識や証拠収集が必要であり、患者側が不利な立場に置かれやすいことから、弁護士に依頼することが望ましいです。
特に、病院側が過失を否定している場合や、損害額が高額になる可能性がある場合、または示談交渉が難航している場合には、弁護士の専門的な助言と交渉力が重要となります。
癌の見落とし防止のための対策と再発防止策
病院側のシステム改善例
病院では、癌の見落としを防ぐために、情報システムの改善が進められています。具体的には、画像診断レポートの見落としを防止するためのシステム機能が導入されています。
これには、レポートの存在を知らせるアラート機能や、レポート参照システム、監査システムなどが含まれます。
これらの機能により、医師が重要な所見を見逃すリスクを低減し、患者の安全性を高めることが期待されています。
患者ができる自己防衛策
患者自身も、癌の見落としを防ぐための対策を講じることが重要です。具体的には、検査結果や診断内容について積極的に質問して、疑問点を解消することが推奨されます。
また、定期的な健康診断やがん検診を受けることで、早期発見の可能性を高めることができます。
さらに、医療機関から提供される情報をしっかりと確認して、必要に応じてセカンドオピニオンを求めることも有効です。
メディカルコンサルティングができること
医療ミスなのかについての医療調査
医療訴訟の多くは、単に治療結果が悪いだけで医療ミスではありません。単に治療結果が悪いだけでは、医療訴訟で勝てる確率は著しく低いです。
勝訴できる可能性の無い不毛な医療訴訟を防ぐためには、第三者による、医療ミスかどうかについての医療調査の実施が望ましいです。
弊社では、ほぼすべての科の事案で医療ミスか否かの医療調査(意見書作成可否調査)が可能です。詳細は、以下のコラム記事をご確認ください。
<参考>
医療事故における医療調査の基本内容とは?費用も解説|医師意見書
医療調査できる診療科一覧
弊社では、以下のようにほぼ全科の医療調査を実施できます。
- 整形外科
- 脳神経外科
- 耳鼻咽喉科
- 眼科
- 消化器外科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科
- 産婦人科
- 泌尿器科
- 脳神経内科
- 循環器内科
- 消化器内科
- 呼吸器内科
- 腎臓内科
- 血液内科
- 小児科
- 放射線科
- 精神科
- 皮膚科
- 形成外科
- ⻭科
- 麻酔科
- 救急科
- 感染症科
- ペイン科
- 病理
医療訴訟で使用する医師意見書
意見書作成可否調査で医療ミスであることが判明した場合、各科の専門医による顕名の医師意見書を作成することが可能です。
医療ミスの可能性がある事案で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
<参考>
医療訴訟の医師意見書|160名の各科専門医による圧倒的実績
医師意見書の作成にかかる費用
医療調査(意見書作成可否調査)
医療訴訟用の医師意見書を作成できるのかを判断するために、医療調査(意見書作成可否調査)を必須とさせていただいています。
意見書作成可否調査では、各科の専門医が、診療録や画像検査などの膨大な資料を精査いたします。
概要 | 価格 |
基本料 | 140,000円 |
動画の長い事案 | 170,000円 |
追加質問 | 45,000円 / 回 |
※ すべて税抜き価格
※ 意見書作成には医療調査(意見書作成可否調査)が必須です
※ 意見書作成には別途で意見書作成費用がかかります
※ 意見書作成に至らなくても医療調査の返金は致しません
医師意見書
医療調査(意見書作成可否調査)の結果、医療ミスが判明して、医師意見書を作成する際には、別途で医師意見書作成費用がかかります。
概要 | 価格 |
一般の科 | 400,000円~ |
精神科 | 450,000円~ |
心臓血管外科 | 500,000円~ |
施設(老健、グループホームなど) | 350,000円~ |
弊社が医療訴訟で医師意見書を作成した実例
弊社には全国の法律事務所から医療訴訟の相談が寄せられます。これまで下記のような科の医師意見書を作成してきました。
- 脳神経外科
- 脳神経内科(神経内科)
- 整形外科
- 一般内科
- 消化器外科
- 消化器内科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科(成人)
- 心臓血管外科(小児)
- 循環器内科
- 産科
- 婦人科
- 泌尿器科
- 精神科
- 歯科
一方、眼科や美容整形外科に関しては相談件数が多いものの、実際に医療過誤である事案はほとんど無いです。このため弊社においても、医師意見書の作成実績がありません。
癌の見落としの損害賠償でよくある質問
癌の見落としで損害賠償を請求できるのはどんな場合?
医師や病院に対して損害賠償を請求するには、以下の3つの要件を患者側が主張・立証する必要があります:
- 医師に過失があったこと(例:検査や診断のミス)
- その過失によって損害が発生したこと(例:治療の遅れによる病状の悪化)
- 過失と損害との間に因果関係があること
これらの要件がすべて満たされる場合に、損害賠償請求が認められる可能性があります。
<参考>
医療過誤の3要件とは?損害賠償請求の流れも解説|医療調査・医師意見書
どのくらいの金額が請求できる?
損害賠償額はケースによって大きく異なります。死亡との因果関係が認められる場合は2,000万円~数千万円、死亡回避の可能性が低い場合でも100万円~数百万円が認められることがあります。
進行度や年齢、職業、見落としによる生存率低下の程度などが金額に影響します
弁護士費用はどれくらいかかる?
弁護士費用は事務所や案件によって異なりますが、相談料1万円前後、調査費用10~40万円、訴訟着手金50万円前後、報酬金は獲得額の10~15%が目安です。
実際には賠償金の一部から支払われることもあり、最終的な自己負担額は減るケースもあります
医療訴訟で勝てる確率は?
医療訴訟で勝訴する確率は、一般的には約20%程度と言われています。医療訴訟で勝訴するには、医療側の過失と損害、その因果関係を患者側が証明する必要があり、ハードルは高めです。
がんの見落としは証拠や医学的知見が重要視され、進行が遅いがんや希少がんでは立証が難しいケースも多いです。
まとめ
医師が癌の兆候を見逃して、適切な検査や治療を行わなかったら、医療過誤と認定されて、損害賠償が発生する可能性があります。
ただし、見落としがすべて過失とされるわけではなく、当時の医療水準と医師の判断が合理的かどうかが問われます。
損害賠償には、見落としと病状悪化との因果関係を証明する必要があり、専門医による医療調査や意見書が重要です。
癌の種類や進行度により賠償額は異なり、最大で数千万円に達するケースもあります。
癌の見落としの損害賠償請求で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
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