びまん性軸索損傷(DAI)は、交通事故の頭部外傷によって発生することが多い深刻な脳損傷の1つです。
びまん性軸索損傷の診断には、高度な専門知識と画像検査が必要であり、MRI検査は重要な役割を果たしています。
本記事では、びまん性軸索損傷におけるMRI検査の有効性、画像所見、さらには他の画像検査との比較について詳しく解説しています。
また併せて、びまん性軸索損傷が、後遺障害に認定されるポイントにも触れています。
最終更新日: 2025/1/8
Table of Contents
びまん性軸索損傷とは
びまん性軸索損傷の概要
びまん性軸索損傷(Diffuse Axonal Injury, DAI)は、交通事故や転倒などの外傷によって、脳の神経線維が広範囲にわたって損傷する状態です。
頭部に強い衝撃が加わることで、脳が頭蓋骨内で急激に動き、神経線維が断裂することが原因です。神経線維の損傷のため、意識障害や高次機能障害を引き起こします。
びまん性軸索損傷における重症度の割合は、軽症19%、中等症45%、重症36%と報告されています。
びまん性軸索損傷の原因と発症メカニズム
びまん性軸索損傷の主な原因は、交通事故などの外傷です。外傷のために、脳が頭蓋骨内で急激に動き、神経線維が引っ張られたり捻じれたりして損傷します。
特に回転加速度がかかる外力が加わると、軸索が広範囲で断裂して、脳白質の損傷が生じます。
症状と診断の難しさ
びまん性軸索損傷の症状は多岐にわたり、意識障害や高次機能障害、運動障害などが見られます。
特に、初期段階では高度の意識障害にもかかわらず、CT検査では異常が見つからないケースが多いため、診断が難しいです。
<参考>
びまん性軸索損傷のCT検査での特徴は?|交通事故の医療鑑定
MRIによる診断の重要性
MRI検査は、びまん性軸索損傷の診断において非常に有用です。MRI検査は、微小出血や軸索損傷の特徴を高解像度で捉えることができ、他の画像診断法と比較しても優れた診断能力を持っています。
特に、MRIの拡散強調画像(DWI)は、急性期のびまん性軸索損傷を検出するのに有効です。
MRIとCTの比較
MRIは、CT検査と比較して、放射線被爆がないため安全性が高く、軟部組織や神経の描出に優れています。
CTは骨や急性出血の評価に優れていますが、MRIは脳や脊髄、関節などの詳細な所見を得ることができます。
びまん性軸索損傷におけるMRIの具体的特徴
びまん性軸索損傷に典型的なMRI所見
びまん性軸索損傷のMRI所見は、T2強調画像やFLAIR画像で長円形または円形の高信号が見られることが特徴です。特に脳梁や大脳皮質下白質、基底核、中脳、橋上部に多く現れます。
出血を伴う場合、T1強調画像で高信号、T2強調画像で低信号となり、微小血腫はT2*強調画像で低信号として検出されます。
MRIで見られる微小出血
MRIで微小出血を検出する際には、T2*強調画像や磁化率強調画像(SWI)が有用です。
これらの画像は、微小出血や虚血などで起こる磁化率の変化を鋭敏に捉え、脳内の「鉄」の分布を画像化します。
特に、微小出血は低信号として描出され、出血の範囲や程度を明瞭に示します。
拡散強調画像の役割
拡散強調画像(DWI)は、びまん性軸索損傷の急性期診断において重要な役割を果たします。
DWIは、水分子の拡散現象を画像コントラストに反映させる技術で、急性期の軸索損傷を高信号として検出します。
DWIによって、軸索損傷の範囲や程度を詳細に評価できるケースがあります。
びまん性軸索損傷で考えられる後遺障害
等級 |
認定基準 |
具体例 |
1級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの |
|
2級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの |
|
3級3号 |
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの |
|
5級2号 |
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの |
|
7級4号 |
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの |
|
9級10号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
|
12級13号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの |
|
14級9号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの |
|
軽傷例(意識障害が6時間〜24時間のもの)では、約60%が正常に回復するとされています。一方、その他の例(死亡例、植物状態例を除く)では何らかの後遺症を残すケースが多いです。
このため、びまん性軸索損傷の後遺障害では、遷延性意識障害と高次脳機能障害が問題となります。
1級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの
2級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
- 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
3級3号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害3級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
5級2号
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害5級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
7級4号
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害で7級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
9級10号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
- 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの
問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする
<参考>
高次脳機能障害で9級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
12級13号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの
実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。
<参考>
高次脳機能障害が12級に後遺障害認定されるポイント|交通事故
14級9号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
- MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの
びまん性軸索損傷の後遺障害認定ポイント【弁護士必見】
びまん性軸索損傷はCTなどの画像所見に乏しい
びまん性軸索損傷は、CT検査では異常が見つかりにくいことが特徴です。これは、軸索の損傷が微細であり、出血を伴わない場合が多いためです。
MRI検査が有効であり、特にT2強調画像やFLAIR画像で高信号が見られることが多いです。しかし、MRI検査でも診断が難しい場合があり、症状や臨床経過を総合的に判断する必要があります。
<参考>
症状固定前にも画像検査を受ける
びまん性軸索損傷では、高次脳機能障害などの後遺症が残りやすいものの、画像所見の乏しいため後遺障害認定されにくいという問題点があります。
急性期の画像所見に乏しい事案では、症状固定時期の頭部CTや頭部MRIにおいて、脳萎縮が存在するか否かを確認することが後遺障害等級認定のひとつのポイントと考えています。
びまん性軸索損傷では高次脳機能障害が問題になる
びまん性軸索損傷の後遺症として、遷延性意識障害と高次脳機能障害が挙げられます。
遷延性意識障害は後遺障害という観点では争いになりにくです。このため実質的には、びまん性軸索損傷では高次脳機能障害が、後遺障害認定の問題になります。
高次脳機能障害が等級認定されるポイントは、以下のコラム記事にまとめていますので参考にしてください。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
びまん性軸索損傷の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、びまん性軸索損傷が後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
びまん性軸索損傷の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
びまん性軸索損傷が後遺障害認定されると損害賠償金を請求できる
びまん性軸索損傷による高次脳機能障害で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料とは
びまん性軸索損傷による高次脳機能障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料の相場は?
びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって異なります。例えば、9級の場合は約690万円、7級は約1000万円、5級は約1400万円、3級は約1990万円、2級は約2370万円、1級は約2800万円となります。
また、近親者の慰謝料として数百万円程度が加算されることがあります。さらに、1級や2級の場合には将来の介護費として数千万円から1億円を超える額が認められることがあります。
このように、びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料は等級によって大きく異なり、適切な後遺障害等級を獲得することが重要です。
びまん性軸索損傷の後遺障害逸失利益とは
びまん性軸索損傷で後遺症が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
びまん性軸索損傷の後遺障害逸失利益の相場は?
びまん性軸索損傷の逸失利益は、後遺障害等級によって異なります。一般的に、後遺障害等級が高いほど逸失利益の金額も高くなります。
例えば、1級の後遺障害の場合、逸失利益は約1億円前後となる可能性があります。一方、9級の場合は約1000万円程度のケースが多いです。
後遺障害逸失利益の金額は、被害者の年収や年齢、労働能力喪失率などによっても大きく変動します。
びまん性軸索損傷でよくある質問
びまん性軸索損傷の検査方法は?
びまん性軸索損傷の検査方法には、主にMRI検査とCT検査が用いられます。CT検査では異常が見つかりにくいことが多いため、MRI検査が重要です。
特に、T2強調画像やFLAIR画像、拡散強調画像(DWI)が有効で、微小出血や軸索損傷の特徴を高解像度で捉えることができます。また、磁化率強調画像(SWI)も微小出血の検出に役立ちます。
びまん性軸索損傷と局所性脳損傷の違いは?
びまん性軸索損傷は、脳全体にわたる神経線維の損傷を指し、局所性脳損傷とは異なります。局所性脳損傷は、特定の部位に限られた損傷であり、CTやMRIで明確に確認できることが多いです。
一方、びまん性軸索損傷は微細な損傷が広範囲にわたるため、診断が難しく、特に初期段階では症状が明確に現れないことが多いです。
びまん性軸索損傷の重症の症状は?
びまん性軸索損傷の重症の症状には、長期の意識障害や昏睡状態が含まれます。患者は意識を失い、回復が難しい場合があります。
また、運動機能障害や認知機能の低下、自律神経系の乱れなども見られます。これらの症状は、脳全体にわたる神経線維の損傷によるものです。
まとめ
びまん性軸索損傷(DAI)は、交通事故や転倒などによる外傷で、脳の神経線維が広範囲に損傷される状態です。
頭部への強い衝撃で脳が急激に動き、神経線維が断裂し、意識障害や高次機能障害が起こります。
MRI検査は、微小出血や軸索損傷を高解像度で捉え、特に急性期の診断に有用です。DWIは軸索損傷を詳細に検出します。
MRIとCTを比較すると、MRIは軟部組織の描出に優れています。びまん性軸索損傷の診断には、MRIが重要な役割を果たします。
びまん性軸索損傷による高次脳機能障害に関してお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
関連ページ
資料・サンプルを無料ダウンロード
以下のフォームに入力完了後、資料ダウンロード用ページに移動します。