びまん性軸索損傷(DAI)は、交通事故などによる深刻な頭部外傷です。びまん性軸索損傷は診断が難しく、受傷早期にはCT検査でほとんど画像所見を認めません。
本記事では、びまん性軸索損傷の基本的な定義や原因、CT検査で確認できる特徴的な所見、MRI検査との比較などについて詳しく解説します。
併せて、びまん性軸索損傷が、自賠責保険で後遺障害に認定されるポイントについても触れています。
最終更新日: 2025/1/10
Table of Contents
びまん性軸索損傷とは?
びまん性軸索損傷の定義と原因
びまん性軸索損傷(Diffuse Axonal Injury, DAI)は、頭部に強い回転性の外力が加わることで、脳内の神経細胞の軸索が広範囲に損傷する外傷性脳損傷の一種です。
主な原因は、交通事故や転倒などで、脳が急激に揺さぶられることで、びまん性軸索損傷が発生します。
びまん性軸索損傷の症状経過
受傷直後から意識障害が現れるケースが多く、重症の場合は長時間の昏睡状態が続くことがあります。
意識が回復しても、認知障害や行動障害、人格変化、失行などの高次脳機能障害が生じる可能性があります。
びまん性軸索損傷の後遺症
びまん性軸索損傷の後遺症は多岐にわたり、意識障害や高次機能障害、運動障害などが見られます。
特に、初期段階では高度の意識障害にもかかわらず、CT検査では異常が見つからないケースが多いため、診断が難しいです。
びまん性軸索損傷のCT所見
受傷早期はCTで特徴的な所見は無い
びまん性軸索損傷の初期段階では、CT検査で明確な異常が検出されないことが多いです。CT検査は出血や骨折の検出には優れていますが、微細な軸索損傷や広範な脳損傷を見つけることは困難です。
そのため、受傷直後にCT検査で異常が見られなくても、びまん性軸索損傷を否定することはできません。臨床症状や意識障害の有無を総合的に評価する必要があります。
びまん性軸索損傷の診断ではMRIが必須
びまん性軸索損傷の診断にはMRI検査が重要です。MRI検査はCT検査よりも高い感度を持ち、微細な出血や軸索損傷を検出できます。
特に、T2*-強調画像や拡散強調画像(DWI)は軸索損傷の評価に有用とされています。脳の広範な損傷部位を特定して、臨床症状と結びつけた診断が可能なケースがあります。
<参考>
びまん性軸索損傷におけるMRIの有効性|交通事故の医療鑑定
症状固定期はCTで脳萎縮を認める
受傷から時間が経過して、症状固定の段階になると、CT検査で脳萎縮が確認されるケースがあります。脳の体積減少や、脳室の拡大が見られることが一般的です。
これらの所見は、軸索損傷による神経細胞の消失や組織の萎縮を反映しています。脳萎縮は高次脳機能障害や遷延性意識障害と関連があり、患者の予後評価やリハビリ計画の策定において重要な情報となります。
びまん性軸索損傷におけるCTとMRIの比較
CTの目的は頭部外傷のスクリーニング
頭部外傷の初期評価において、CT検査は迅速に出血や骨折の有無を確認するためのスクリーニング手段として広く用いられています。その簡便さと即時性から、救急現場での初期対応に適しています。
しかし、CTでは検出が難しい微細な損傷や軟部組織の評価には限界があるため、必要に応じてMRI検査を追加して、詳細な評価を行うことが推奨されます。
それぞれの利点と限界
びまん性軸索損傷の診断において、CT検査とMRI検査はそれぞれ異なる特徴を持っています。
CT検査は、急性期の頭蓋内出血や骨折の検出に優れており、迅速なスクリーニングが可能です。しかし、微細な軸索損傷の検出には限界があります。
一方、MRI検査はコントラスト分解能が高く、微小な出血や軸索損傷の描出に優れています。特に、拡散強調画像(DWI)は急性期のびまん性軸索損傷の検出に有効とされています。
ただし、MRI検査は撮影時間が長く、急性期の不安定な患者には適さないケースがあります。
びまん性軸索損傷で考えられる後遺障害
等級 |
認定基準 |
具体例 |
1級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの |
|
2級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの |
|
3級3号 |
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの |
|
5級2号 |
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの |
|
7級4号 |
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの |
|
9級10号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
|
12級13号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの |
|
14級9号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの |
|
軽度のびまん性軸索損傷(意識障害が6~24時間続くケース)では、約60%の患者が通常の生活に復帰できるとされています。
しかし、重症例や中等度の損傷では、多くの場合、後遺症が残ると言われています。具体的には、遷延性意識障害や高次脳機能障害が大きな課題となるケースが多いです。
1級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの
2級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
- 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
3級3号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害3級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
5級2号
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害5級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
7級4号
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害で7級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
9級10号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
- 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの
問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする
<参考>
高次脳機能障害で9級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
12級13号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの
実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。
<参考>
高次脳機能障害が12級に後遺障害認定されるポイント|交通事故
14級9号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
- MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの
びまん性軸索損傷の後遺障害認定ポイント【弁護士必見】
びまん性軸索損傷は画像診断が困難
びまん性軸索損傷は、CT検査では異常が検出されにくい特徴があります。その理由は、損傷が微細であり出血を伴わないケースが多いためです。
一方、MRI検査は診断に有用で、特にT2強調画像やFLAIR画像で高信号が確認されるケースが多いです。しかし、MRIでも診断が難しい場合があり、臨床症状や経過観察を総合的に判断する必要があります。
<参考>
症状固定直前の画像検査の重要性
びまん性軸索損傷では、後遺症として高次脳機能障害が残ることが多いですが、急性期の画像検査で目立った異常が確認されないケースが少なくありません。
このため、慢性期(症状固定の直前)に撮像されるCT検査やMRI検査で脳萎縮が認められるかどうかが、後遺障害認定の重要な判断材料となります。
高次脳機能障害が後遺障害認定の焦点に
びまん性軸索損傷による後遺症には、遷延性意識障害や高次脳機能障害が問題になりやすいですが、それぞれの争点は異なります。
遷延性意識障害は後遺障害等級では争いになりませんが、以下のような3つ争点があります。
- 症状固定時期
- 平均余命期間
- 在宅介護の可否
一方、高次脳機能障害は、後遺障害等級が争点になりやすいです。高次脳機能障害が後遺障害認定されるポイントは、以下のコラム記事にまとめていますので参考にしてください。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
びまん性軸索損傷の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、びまん性軸索損傷が後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
びまん性軸索損傷の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
びまん性軸索損傷が後遺障害認定されると損害賠償金を請求できる
びまん性軸索損傷による高次脳機能障害で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料とは
びまん性軸索損傷による高次脳機能障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料の相場は?
びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって異なります。例えば、9級の場合は約690万円、7級は約1000万円、5級は約1400万円、3級は約1990万円、2級は約2370万円、1級は約2800万円となります。
また、近親者の慰謝料として数百万円程度が加算されることがあります。さらに、1級や2級の場合には将来の介護費として数千万円から1億円を超える額が認められることがあります。
このように、びまん性軸索損傷の後遺障害慰謝料は等級によって大きく異なり、適切な後遺障害等級を獲得することが重要です。
びまん性軸索損傷の後遺障害逸失利益とは
びまん性軸索損傷で後遺症が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
びまん性軸索損傷の後遺障害逸失利益の相場は?
びまん性軸索損傷の逸失利益は、後遺障害等級によって異なります。一般的に、後遺障害等級が高いほど逸失利益の金額も高くなります。
例えば、1級の後遺障害の場合、逸失利益は約1億円前後となる可能性があります。一方、9級の場合は約1000万円程度のケースが多いです。
後遺障害逸失利益の金額は、被害者の年収や年齢、労働能力喪失率などによっても大きく変動します。
びまん性軸索損傷のCTでよくある質問
びまん性軸索損傷の特徴は?
びまん性軸索損傷(DAI)は、頭部に強い回転力や衝撃が加わることで、脳内の神経線維(軸索)が広範囲に損傷を受ける外傷性脳損傷の一種です。
主な特徴として、受傷直後から重度の意識障害が6時間以上続くことが挙げられます。また、CT検査では明確な異常が検出されにくいものの、MRI検査で微小な出血や損傷が確認される場合があります。
びまん性軸索損傷の診断基準は?
びまん性軸索損傷の診断は、受傷後の意識障害の程度と持続時間、神経学的所見、そして画像検査の結果を総合的に評価して行われます。
特に、CT検査で明らかな異常が見られない場合でも、MRI検査で微小な損傷が確認されることがあります。
びまん性軸索損傷は高次脳機能障害と関係ありますか?
びまん性軸索損傷は、高次脳機能障害と深く関連しています。軸索の広範な損傷により、認知機能や情動のコントロールに影響を及ぼし、記憶障害、注意力の低下、人格変化などの症状が現れることがあります。
まとめ
びまん性軸索損傷は、交通事故や転倒などで脳が急に揺さぶられる際に起こる外傷性脳損傷です。脳内の神経細胞が広範囲で傷害されて、意識障害、認知障害や人格変化などの後遺症が見られることがあります。
初期にはCT検査で異常が見つからないことが多く、MRI検査が診断に役立ちます。症状固定時には、CT検査で脳萎縮が見られる場合があります。
びまん性軸索損傷の後遺症として、高次脳機能障害と遷延性意識障害が重要です。びまん性軸索損傷による高次脳機能障害や遷延性意識障害に関してお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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