大腿骨骨折は高齢者を中心に多く発生して、転倒や交通事故などが主な原因となります。
骨折の種類や年齢、既往症の有無によって治療法や回復のスピードには個人差があります。共通して言えるのは「入院による治療とリハビリが長期に及ぶことが多い」という点です。
特に初期治療から回復期までを見越した入院生活には、数週間から数ヶ月にわたる期間が必要となり、それに伴う医療費や介護の備えも重要です。
本記事では、大腿骨骨折の入院期間の平均日数やリハビリの流れ、入院中の生活に必要な準備、さらには退院後に残る後遺症についても詳しく解説しています。
入院に向けた不安や疑問を解消して、治療やリハビリに前向きに取り組めるよう、具体的な情報をお届けします。
最終更新日: 2025/8/8
Table of Contents
大腿骨骨折の基礎知識
大腿骨骨折の主な種類
大腿骨骨折は、主に「大腿骨頚部骨折」と「大腿骨転子部骨折」に分類されます。頚部骨折は股関節包の内側で発生して、骨癒合が難しく偽関節や骨頭壊死のリスクが高いのが特徴です。
一方、転子部骨折は股関節包の外側で起こり、骨癒合しやすい傾向がありますが、強い痛みを伴い歩行不能となることが多いです。
さらに、転子部より下で発生する「転子下骨折」もあり、これらの骨折は治療法や予後に違いがあります。
骨折原因と発生しやすい年齢層
大腿骨骨折の主な原因は、転倒や転落によるものが圧倒的に多く、特に高齢者に多発します。
高齢者では骨粗鬆症の進行により、軽い転倒でも骨折しやすくなります。発生年齢は80歳代が最も多く、90歳以上の患者も増加傾向です。
また、女性は男性より骨粗鬆症になりやすいため、骨折リスクが高く、男女比は1:3~1:4で女性が多いとされています。
若年層では、交通事故やスポーツ外傷などの強い外力が原因となるケースが多いです。
大腿骨骨折の標準的な入院期間
急性期病院での入院期間
大腿骨骨折の治療では、まず急性期病院での入院が必要となります。急性期病院での入院期間は一般的に2~4週間程度が目安です。
この期間中に手術や初期治療が行われ、早期離床やリハビリの導入も始まります。
患者の年齢や全身状態、合併症の有無によって入院期間には個人差がありますが、状態が安定すれば早期退院や回復期リハビリテーション病院への転院が検討されます。
手術後の入院スケジュールとリハビリ開始時期
手術後は、翌日からリハビリが開始されることが多いのが特徴です。早期の歩行訓練や日常生活動作の回復を目指して、理学療法士や作業療法士による治療が行われます。
術後1~2週間で全身状態が安定して、歩行や基本動作がある程度できるようになれば、次の段階として回復期リハビリ病院への転院が検討されます。
リハビリの進行状況や合併症の有無によって、急性期病院での滞在期間が前後する場合もあります。
回復期リハビリ病院への転院と在院期間
急性期治療後、回復期リハビリテーション病院へ転院するケースが多くなっています。ここでの在院期間は1~2ヶ月(約30~60日)が目安とされています。
回復期病院では、より集中的かつ個別的なリハビリが行われ、歩行や日常生活動作のさらなる回復、社会復帰や自宅退院を目指します。
入院期間は患者の回復状況やリハビリの進捗、退院後の受け入れ体制によって調整されます。
入院期間が長引くケースとその要因
大腿骨骨折の入院期間が長引く主な要因には、高齢や認知症、合併症(感染症や肺炎など)の発生、手術後のリハビリの遅れ、退院先の調整の難しさなどが挙げられます。
また、家庭での介護体制が整わない場合や、施設入所の待機が必要な場合も、入院期間が延長されることがあります。
患者の全身状態や社会的背景によっては、急性期・回復期病院ともに在院日数が長くなる傾向が見られます。
退院後のリハビリ・社会復帰までの流れ
自宅退院・施設入所・転院の選択肢
大腿骨骨折の退院後は、患者の身体状態や介護の必要性に応じて「自宅退院」「介護施設入所」など複数の選択肢があります。
自宅退院は、日常生活動作がある程度自立しており、家族の支援が得られる場合に適しています。
介護施設は、介護や医療管理が必要な高齢者向けで、日常生活のサポートが充実しています。患者の状態や家庭環境を総合的に評価し、最適な退院先が選ばれます。
歩行再開や日常生活動作の回復目安
大腿骨骨折後の歩行再開は、手術後数日からリハビリを開始して、4~6週間で松葉杖を使った歩行が可能になることが多いです。
日常生活動作の回復には個人差がありますが、約2~3ヶ月で基本的な動作ができるようになることが一般的です。
リハビリでは筋力強化やバランス訓練を中心に、段階的に歩行能力を向上させていきます。
高齢者や重症例では回復に時間がかかる場合もありますが、医師やリハビリスタッフの指導のもと、無理のない範囲で進めることが大切です。
仕事復帰や社会復帰までの期間と注意点
大腿骨骨折後の仕事復帰は、骨折の部位や治療法、職種によって異なります。
デスクワークであれば2~3ヶ月程度で復帰可能な場合が多いですが、立ち仕事や重労働の場合は4~6ヶ月以上かかることもあります。
復帰前には必ず医師の許可を得て、リハビリの継続や職場での業務調整が重要です。復帰後も継続的なリハビリや定期受診を心がけましょう。
無理な復帰は再骨折や症状悪化のリスクがあるため、段階的な復職と職場環境の整備が求められます。
大腿骨骨折後に残りやすい後遺症
大腿骨骨折は治療やリハビリを行っても、さまざまな後遺症が残る可能性があります。
代表的な後遺症には、足の長さの左右差(短縮障害)、股関節や膝関節の可動域制限(機能障害)、骨の変形(変形障害)、慢性的な痛みやしびれ(神経症状)などが挙げられます。
これらの後遺症は歩行困難や日常生活の制限を引き起こして、生活の質(QOL)にも大きな影響を及ぼします。特に高齢者や重症例では、長期間にわたりリハビリが必要となる場合が多いです。
大腿骨骨折で考えられる後遺障害等級
交通事故で受傷した大腿骨骨折で後遺症が残ると、以下のような後遺障害に認定される可能性があります。
機能障害
等級 | 認定基準 |
8級7号 | 下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級11号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級7号 | 1下肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級7号:1下肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 股関節がほとんと動かない状態(関節可動域が10%以下)
- 人工関節を挿入して、関節可動域が2分の1以下に制限された状態
10級11号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 関節可動域が2分の1以下に制限された状態
12級7号:1下肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 関節可動域が4分の3以下に制限された状態
神経障害(痛み)
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
- 画像所見などで痛みの原因を証明できるもの
14級9号:局部に神経症状を残すもの
- 画像所見で痛みの原因を証明できないものの、治療内容などから痛みの存在を類推できるもの
変形障害(骨が治癒しなかった)
12級8号:長管骨に変形を残すもの
- 大腿骨または脛骨の骨端部に癒合不全を残すもの
短縮障害(下肢が短くなった)
等級 | 認定基準 |
8級5号 | 1下肢を5センチメートル以上短縮したもの |
10級8号 | 1下肢を3センチメートル以上短縮したもの |
13級8号 | 1下肢を1センチメートル以上短縮したもの |
いずれも下肢の長さはSMDで計測します。SMD(Spina Malleollar Distance:棘果長)は、下肢の長さの計測法のひとつです。骨盤にある上前腸骨棘から足関節の内果(内くるぶし)までの距離をメジャーを用いて計測します。
<参考>
脚長差(短縮障害)の評価はSMDが妥当?|交通事故の後遺障害
大腿骨骨折の後遺障害認定ポイント【弁護士必見】
大腿骨骨折は、強い衝撃を受けたときに起こることが多く、被害にあった人は「重傷だ」と感じやすい傾向があります。
たしかに、大腿骨骨折は重大な外傷であることは間違いありませんが、それが必ずしも自賠責保険における後遺障害認定の対象となるような後遺症を残すとは限りません。
むしろ、受傷時の衝撃の大きさに比べて、実際には後遺症が残らないことも多いのが実情です。これは、近年の治療技術が飛躍的に進歩したことが大きな理由のひとつです。
たとえば、数十年前であれば確実に重い後遺症が残っていたような骨折であっても、現在では高度な医療により、回復が見込めるケースが増えているのです。
このため、大腿骨骨折は争いが起こりやすい外傷の1つと言えます。大腿骨骨折の後遺障害認定のポイントは、こちらのコラムで詳述しています。
<参考>
大腿骨骨折の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
大腿骨骨折の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
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等級スクリーニング
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等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
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医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
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<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
大腿骨骨折の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
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大腿骨骨折の入院期間でよくある質問
高齢者の大腿骨骨折の入院日数は?
高齢者が大腿骨骨折で入院する場合、急性期病院での入院は2~4週間程度が一般的です。
その後、リハビリ病院へ転院して、集中的なリハビリを1~2ヶ月行うケースが多くなっています。
一方、合併症や全身状態によってはさらに入院期間が延びる可能性もあります。
大腿骨骨折で入院すると何ヶ月くらい入院しますか?
大腿骨骨折の入院期間は、骨折の部位や患者の状態や、リハビリの進行や退院先の調整によっても期間は前後します。
一般的には、急性期入院2~4週間に加えて、回復期リハビリ入院が1~2ヶ月程度となるため、合計で約3ヶ月の入院となることが多いです。
大腿骨骨折は歩行困難になりますか?
大腿骨骨折は歩行困難を引き起こす可能性があります。特に高齢者では、骨折による股関節の可動域制限や痛み、不安定さが生じて、歩行が難しくなることがあります。
ただし、適切な手術とリハビリによって歩行能力の回復が期待できる場合も多く、個人差があります。
大腿骨骨折は全治何日ですか?
大腿骨骨折の全治期間は、骨折部位や治療法によって異なりますが、一般的には約3~6ヶ月です。
手術後1~2ヶ月で歩行が安定し、その後2~3ヶ月のリハビリを経て回復するケースが多いです。
高齢者や重症例では回復にさらに時間がかかることもあります。
まとめ
大腿骨骨折は、高齢者に多く見られる重大なけがで、主に頚部骨折と転子部骨折に分けられます。
原因の多くは転倒や転落で、入院は通常、急性期病院に2~4週間、リハビリテーション病院で1~2ヶ月程度です。
手術翌日からリハビリが始まり、早ければ数週間で歩行訓練も可能になります。ただし、高齢や合併症があると入院が長引くこともあります。
交通事故で受傷した大腿骨骨折に後遺症が残るケースでは、自賠責保険の後遺障害認定を受ける可能性があります。
大腿骨骨折の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。尚、初回の法律事務所様は無料で承ります。
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