寝たきりの家族を介護施設に預けている方にとって、「まさか骨折するなんて…」という事態は想定外であり、大きなショックや不安を伴います。
オムツ交換や体位変換といった日常的なケアの中で起こる骨折は、専門知識がない家族にとって理解しがたい出来事かもしれません。
「なぜこんなことが起きたのか」「施設に責任はないのか」「今後どう対応すればよいのか」といった疑問や不安に直面する方も多いでしょう。
本記事では、寝たきり患者に起こる“介護骨折”の原因やリスク、介護施設の法的責任、損害賠償の可能性、そして家族が取るべき対応について、わかりやすく丁寧に解説していきます。
最終更新日: 2025/6/16
Table of Contents
寝たきり患者における介護骨折の原因と背景
寝たきり患者に多い骨折事故の現状
近年、高齢者や要介護者における骨折は深刻な問題です。厚生労働省によれば、介護が必要となった原因の約13〜14%は「骨折・転倒」に起因しており、これらは寝たきり状態へ移行する大きなリスク要因とされています。
骨折の多くは、大腿骨近位部、脊椎圧迫、上腕骨近位部、橈骨遠位端などに集中しています。
主な原因は転倒ですが、骨粗鬆症や関節拘縮が進行している場合には、体位変換やオムツ交換といった日常的な介助動作でも骨折が発生することがあります。
家族の不安や疑問―「なぜ骨折したのか?」
骨折が起きると、ご家族は「日常的な介護でなぜ?」「施設に過失は?」など多くの疑問を抱えます。
主な要因は、
- 加齢や疾患による筋力低下からくる転倒
- 骨粗鬆症による骨の脆弱化
- 日常ケア時の小さな外力(例:体位変換、オムツ交換)
など複数が重なって起こります。環境調整や予防策が不足すると、そのリスクは一層高まります。
介護骨折の主な原因とリスク要因
寝たきり患者特有の骨折リスク
長期寝たきりの高齢患者は骨密度が著しく低下して、骨粗鬆症の進行した状態にあります。
臥床が長引くほど骨密度低下が顕著で、転倒や介助時の軽微な力でも大腿骨頚部骨折など重篤な骨折を引き起こすリスクが高いと報告されています。
介護現場で起こりやすい事故のパターン
介護施設では、入浴・移乗・送迎時の事故が骨折事故としてしばしば発生します。
転倒による大腿骨頸部や橈骨遠位、介助中の不適切な体勢での力の加え方などが典型的です。
対策としては、環境整備・職員教育・見守り体制の徹底が重要です。
過去の事故例・判例紹介
報道例として、特養で原因不明の上腕骨骨折が発生して、施設は骨粗鬆症による自然骨折と説明しましたが、家族が不信を抱き苦情に発展しました。
また東京地裁では、骨粗鬆症利用者の骨折に対し、施設に注意義務は重く問われるものの、証拠不十分で過失は認められないとの判決もあります。
介護施設・事業者の法的責任とは
債務不履行責任と不法行為責任の違い
介護施設は契約に基づき、安全配慮義務を負い(債務不履行責任)。一方、不法行為責任は故意・過失によって損害を与えた場合に成立します。
法的根拠は異なるものの、実務上はどちらか一方ではなく、両方を併用して請求されることが一般的です。
なお、時効(債務不履行10年/不法行為3年)や遅延損害金の起算、近親者の慰謝料の有無などに差があります。
安全配慮義務の内容と具体例
施設は、転倒歴のある利用者への見守り強化や、滑り止め設置、段差解消など環境整備、職員研修や巡回など具体的な安全措置を講じる義務があります。
実際に、転倒防止のため離床センサー未設置での転倒で安全配慮義務違反と認定された裁判例もあります。
「過失」と「因果関係」の立証ポイント
施設責任の有無は、「過失」(注意義務違反)と「因果関係」の立証が鍵。利用者に適正な対応を怠った点や、環境不備が骨折と直接繋がることを示す必要があります。
骨折事故後は、記録提出や医療鑑定による立証が重要であり、訴訟・示談時に、弁護士などの専門家を交えた証拠整理が求められます。
損害賠償請求の基礎知識
請求できる慰謝料と損害賠償金の種類
骨折事故では、精神的苦痛に対する慰謝料に加え、治療費・付添看護費・将来介護費・入院雑費・通院交通費・装具費用・住宅改修費・休業損害・逸失利益など、幅広い賠償項目が対象となります。
尚、逸失利益は、主に現役で就労している方が事故によって働けなくなった場合に認められる賠償項目です。高齢で既に就労していない被介護者の場合、逸失利益が認められるケースは限定的です。
慰謝料の相場と過失相殺の考え方
介護事故における骨折慰謝料は、交通事故の基準を参考としており、入通院慰謝料・後遺障害慰謝料・死亡慰謝料の3種類が認められます。
過失相殺により、利用者側の過失が一定割合認定されると賠償額は減少しますので、過失割合の主張・立証が重要です。
また施設側の提示額が低い場合は、弁護士基準による交渉が有効です
事故発生後に家族がとるべき初動対応
事故状況の記録と証拠保全
事故が発生したら、できるだけ早く現場の状態を時系列に整理して、写真・動画で記録します。介護記録やカルテ、事故報告書、救急搬送記録票なども必ず保存します。
家族や第三者の証言も収集して、証拠隠滅を防ぐために裁判所への証拠保全申立を行うことも重要です。
医療機関への対応と診断書の取得
骨折が疑われる場合は速やかに医療機関へ搬送して、診断書の取得を依頼します。示談調整にも重要な資料となります。
診断書には受傷日時・部位・骨折の状態・治療方法などを詳細に記載してもらい、事故との因果関係を明確にします。
施設への報告・再発防止策の確認
事故報告書は所定の様式で作成して、市町村や介護保険事業者にも報告します。
報告書には「日時・場所・概要・原因・初期対応・再発防止策」を盛り込み、家族にも説明します。
さらに、同様事故防止のため、環境改善・職員教育・研修内容を確認して、その実施状況を文書で証明できるようにしておくことが大切です。
施設側への責任追及・損害賠償請求の進め方
示談/調停/裁判の違いと選び方
示談は最も簡易で迅速な解決手段で、双方の合意に基づき示談書を作成し終了します。
調停は裁判所の調停委員が間に入り話し合いを進める中間的手段で、非公開かつ費用負担も抑えられます。
一方、裁判は訴状提出から判決まで進む司法手続きで、相手の同意なしに進行し、1~2年以上かかることもあります。
ケースごとに、スピード・コスト・公開・証拠の有無を比較し最適な方法を選びましょう。
弁護士への相談タイミングとポイント
事故発生直後、まず専門家である弁護士に相談することが重要です。初動段階で事故記録や介護記録、証拠保全の助言を得ることで、手続きの見通しや請求の可能性を把握できます。
さらに、示談交渉・調停・訴訟では法的知識と交渉力が不可欠なため、介護分野に強い実績ある弁護士を選ぶことで、適切な賠償額の提示や手続きの円滑化が期待できます。
メディカルコンサルティングができること
介護事故についての医療調査
介護事故における医療的な争点は、被害者側、介護施設側とも詳細をつかみにくいのが現実です。不毛な争いを防ぐためには、第三者による、医療調査の実施が望ましいです。
弊社では、ほぼすべての科の事案で、介護事故に関する医療調査(意見書作成可否調査)が可能です。詳細は、以下のコラム記事をご確認ください。
<参考>
医療事故における医療調査の基本内容とは?費用も解説|医師意見書
医療調査できる診療科一覧
弊社では、以下のようにほぼ全科の医療調査を実施できます。
- 整形外科
- 脳神経外科
- 耳鼻咽喉科
- 眼科
- 消化器外科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科
- 産婦人科
- 泌尿器科
- 脳神経内科
- 循環器内科
- 消化器内科
- 呼吸器内科
- 腎臓内科
- 血液内科
- 小児科
- 放射線科
- 精神科
- 皮膚科
- 形成外科
- ⻭科
- 麻酔科
- 救急科
- 感染症科
- ペイン科
- 病理
訴訟で使用する医師意見書
意見書作成可否調査で、介護事故に医療的な問題が存在することが判明した場合、各科の専門医による顕名の医師意見書を作成することが可能です。
介護事故の可能性がある事案で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
<参考>
医療訴訟の医師意見書|160名の各科専門医による圧倒的実績
医師意見書の作成にかかる費用
医療調査(意見書作成可否調査)
訴訟用の医師意見書を作成できるのかを判断するために、医療調査(意見書作成可否調査)を必須とさせていただいています。
意見書作成可否調査では、各科の専門医が、診療録や画像検査などの膨大な資料を精査いたします。
概要 | 価格 |
基本料 | 140,000円 |
動画の長い事案 | 170,000円 |
追加質問 | 45,000円 / 回 |
※ すべて税抜き価格
※ 意見書作成には医療調査(意見書作成可否調査)が必須です
※ 意見書作成には別途で意見書作成費用がかかります
※ 意見書作成に至らなくても医療調査の返金は致しません
医師意見書
医療調査(意見書作成可否調査)の結果、医師意見書を作成する際には、別途で医師意見書作成費用がかかります。
概要 | 価格 |
一般の科 | 400,000円~ |
精神科 | 450,000円~ |
心臓血管外科 | 500,000円~ |
施設(老健、グループホームなど) | 350,000円~ |
弊社が訴訟で医師意見書を作成した実例
弊社には全国の法律事務所から訴訟の相談が寄せられます。これまで下記のような科の医師意見書を作成してきました。
- 脳神経外科
- 脳神経内科(神経内科)
- 整形外科
- 一般内科
- 消化器外科
- 消化器内科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科(成人)
- 心臓血管外科(小児)
- 循環器内科
- 産科
- 婦人科
- 泌尿器科
- 精神科
- 歯科
寝たきり患者における介護骨折でよくある質問
オムツ交換で骨折する原因は何ですか?
オムツ交換時に体を左右に動かす介助動作が、その際の外力が加わる位置によっては大腿骨頸部などが折れてしまうことがあります。
特に骨密度が低い高齢者の場合、拘縮(関節の可動域制限)があると、わずかな捻じれや圧迫だけでも骨折につながりやすいです。
介護施設で骨折が多い原因は何ですか?
介護施設では、体位交換・オムツ交換・移乗・清拭など日常的なケア行為中に事故が発生しやすいです。
特に拘縮や骨粗鬆症がある利用者に対して、職員の力の入れ方や姿勢が適切でないと骨折事故が起きやすく、環境整備やアセスメントの徹底が重要です。
すべての骨折事故で施設側に責任は問えるのか?
全ての骨折事故で施設責任が問われるわけではありません。事故の発生時期や原因が明確でない場合や、施設側の過失や因果関係の立証が困難なケースもあります。
介護士の記録や医療鑑定などの証拠が十分に揃っている場合に限り、責任追及が可能となります。
家族にも過失が問われるケースとは?
家族の過失が問われるケースは稀であり、基本的には施設の管理下で発生した事故について家族側に過失が認められることはほとんどありません。
施設からの注意喚起や指示に明確に反した場合など、特殊な事情がある場合に限られます。
損害賠償請求が難しいケースは?
損害賠償請求が難しいのは、「予見・回避可能性」が低かったケースや、骨粗鬆症など自然状態による骨折の場合です。
事故の原因が曖昧で、施設側に明らかな過失が証明できなければ、法的責任の成立は困難です。証拠不十分なケースでは示談・調停にも進みにくくなります。
まとめ
寝たきりの高齢者に多い介護骨折は、骨粗鬆症や筋力低下により、わずかな衝撃でも骨折しやすくなることが原因です。
体位変換やオムツ交換などの日常的な介助で骨折が起こることもあり、家族が疑問や不安を抱くことも少なくありません。
施設には安全配慮義務があり、事故が起きた場合は「過失」と「因果関係」の立証が重要です。
損害賠償には慰謝料や治療費など多くの項目があり、弁護士や医療調査機関との連携が不可欠です。
介護事故の訴訟で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
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