高齢のご家族を介護施設に預けている方にとって、日々の安心と安全は何より大切なものです。
しかし現実には、転倒や誤嚥、褥瘡の悪化など、施設内で介護事故が発生するケースも少なくありません。
そして、その説明や対応に納得できず、「このまま泣き寝入りするしかないのか」と悩んでしまうご家族も多くいます。
ご家族を入所させている方にとって、介護事故は運が悪かっただけでは片付けられない重大な問題です。
適切な説明を受け、必要に応じて責任を追及し、損害賠償請求を含む正当な対応を求めることは、被害者側の正当な権利です。
本記事では、介護事故の具体例や事故発生時の対応方法、損害賠償の考え方、相談先などについて、わかりやすく解説します。
最終更新日: 2025/6/14
Table of Contents
介護事故とは何か
介護事故の定義
介護事故とは、介護サービス提供中に利用者の生命・身体・財産に関わるすべての事故を指します。
事故の発生自体は職員の過失の有無を問いませんが、損害賠償請求が認められるためには、施設や職員に過失(安全配慮義務違反など)があったことが必要です。
例えば、転倒・転落、誤嚥・誤飲、薬の誤投与、感染症の集団発生、送迎中の事故などが該当します。
厚生労働省のガイドラインでも、実害の有無にかかわらず要注意事象として幅広い事案を介護事故として認識すべきとされていますが、損害賠償の可否は個別に判断されます
損害賠償請求の要件
損害賠償請求が認められるためには、施設や職員に過失(安全配慮義務違反など)があったことが必要です。
介護事故の具体例
施設内での転倒事故
介護施設における転倒事故は、全体の約65.6%を占めます。例えば、歩行時に不意にバランスを崩して転倒したり、車いすから起き上がる際に滑って床に落ちるなどが代表的です。
原因としては筋力低下や認知機能の衰え、職員の見守り不足、環境面の問題(段差や照明)などが挙げられ、施設側はリスク評価と環境整備が求められます。
ベッドからの転落事故
ベッドでの移乗・起き上がり時に、利用者がバランスを崩して床に転落してしまう事故です。
特に、筋力不足や視力低下の利用者では、少しの不注意でも転落しやすく、骨折につながることがあります。
職員はベッド柵の有無、柵の高さ、移乗の補助体制などを確認し、複数でのケアや補助具使用が推奨されます。
食事中の誤嚥事故
食事やうがい、水分を摂取する際に、嚥下機能の低下により気道に飲食物が入ってしまう事故です。
むせ込みや肺炎、最悪の場合は窒息死にもつながります。適切な姿勢と一口量の調整、嚥下状態の確認後に次の介助を行うなど、個別のケアプランや介助技術が必須です。
施設内での骨折事故
転倒や転落により骨折につながることが多く、高齢者の骨折は日常生活動作の低下を招きます。
実際、介護事故全体の約70.7%が骨折を伴うという調査結果もあります。
骨粗鬆症の有無を把握して、予防的リハビリや転倒リスク評価、転倒防止用具の導入が重要です。
褥瘡の放置による悪化
褥瘡(床ずれ)は、移動や体位変換が不十分なまま放置されることで悪化します。
初期は皮膚の赤み程度でも、進行すると深い潰瘍・感染症に至り治療が長期化します。
定期的な体位交換、皮膚の観察、栄養・湿潤環境の管理が予防策として求められます。
介護事故発生時の対応
介護施設から説明を受ける
介護事故の発生後、施設は「事故報告書」を作成して、まず口頭および書面で利用者・家族へ速やかに説明・謝罪する義務があります。
事実確認・現場写真・目撃者の証言などを収集して、施設の担当者や生活相談員へのヒアリングを通じて、事故の詳細状況を明確に把握することが重要です。
介護事故で争点になりやすいポイントは?
施設側の「安全配慮義務」が履行されていたかが争点になります。
具体的には、事故発生が予見できたか(予見可能性)・防止できたか(結果回避可能性)という2点が重要視されます。
これらが認められると、介護施設の責任が認定されやすくなります。
損害賠償請求を検討する
介護事故による損害が生じた場合、示談交渉・調停・裁判の3つの手段で損害賠償請求が検討されます。
まずは施設との直接交渉で示談を試み、同意に至らなければ家庭裁判所での調停、さらに裁判へと進む方法が一般的です。
損害賠償額の相場は?
損害賠償額の相場は、介護事故の内容や被害者の状態によって大きく異なります。このため、正確な金額を提示するのは難しいです。
死亡事故の場合、慰謝料の目安は1,000~2,000万円程度とされることが多いですが、後遺障害慰謝料については交通事故基準が参考にされることがあります。
しかし、高齢者では、既往症やADL低下などの事情により、損害賠償額が減額されるケースもあります。
介護事故でできる損害賠償請求の項目
積極損害(実際に支出した費用)
積極損害とは、事故によって実際に支出した費用を指します。介護事故の場合は、治療費、通院交通費、入院中の雑費、付添人費用、リハビリ費用、車椅子や装具の購入・レンタル料、自宅改修費などが含まれます。
将来にわたる介護費用や医療費も、症状固定後の必要性が認められる範囲で請求可能です。
消極損害(事故がなければ得られた利益の喪失)
消極損害とは、事故がなければ得られたはずの利益を失った損害です。遺族による年金などの逸失利益や、介護が必要なく主婦が家事労働を続けられた場合の価値、死亡事故時の将来収入などが該当します。
要件として、被害者が事故により得られたであろう利益を立証する必要があります。
慰謝料(精神的損害)
慰謝料は事故によって被った精神的苦痛に対する賠償です。介護事故では「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3種類があります。
後遺障害慰謝料は110万~2,800万円、死亡慰謝料は1,000万~2,000万円など相場があります。なお、被害者に過失があれば減額される可能性があります。
弁護士費用
裁判で損害賠償請求が認められたら、判決で損害額の1割程度が弁護士費用として加算される可能性があります。
しかし、必ずしも全ての事案で弁護士費用が認められるわけではありません。
また、示談段階では弁護士費用の請求は一般的には難しいものの、当事者間の合意によっては認められるケースもあります。
メディカルコンサルティングができること
介護事故についての医療調査
介護事故における医療的な争点は、被害者側、介護施設側とも詳細をつかみにくいのが現実です。不毛な争いを防ぐためには、第三者による、医療調査の実施が望ましいです。
弊社では、ほぼすべての科の事案で、介護事故に関する医療調査(意見書作成可否調査)が可能です。詳細は、以下のコラム記事をご確認ください。
<参考>
医療事故における医療調査の基本内容とは?費用も解説|医師意見書
医療調査できる診療科一覧
弊社では、以下のようにほぼ全科の医療調査を実施できます。
- 整形外科
- 脳神経外科
- 耳鼻咽喉科
- 眼科
- 消化器外科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科
- 産婦人科
- 泌尿器科
- 脳神経内科
- 循環器内科
- 消化器内科
- 呼吸器内科
- 腎臓内科
- 血液内科
- 小児科
- 放射線科
- 精神科
- 皮膚科
- 形成外科
- ⻭科
- 麻酔科
- 救急科
- 感染症科
- ペイン科
- 病理
訴訟で使用する医師意見書
意見書作成可否調査で、介護事故に医療的な問題が存在することが判明した場合、各科の専門医による顕名の医師意見書を作成することが可能です。
介護事故の可能性がある事案で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
<参考>
医療訴訟の医師意見書|160名の各科専門医による圧倒的実績
医師意見書の作成にかかる費用
医療調査(意見書作成可否調査)
訴訟用の医師意見書を作成できるのかを判断するために、医療調査(意見書作成可否調査)を必須とさせていただいています。
意見書作成可否調査では、各科の専門医が、診療録や画像検査などの膨大な資料を精査いたします。
概要 | 価格 |
基本料 | 140,000円 |
動画の長い事案 | 170,000円 |
追加質問 | 45,000円 / 回 |
※ すべて税抜き価格
※ 意見書作成には医療調査(意見書作成可否調査)が必須です
※ 意見書作成には別途で意見書作成費用がかかります
※ 意見書作成に至らなくても医療調査の返金は致しません
医師意見書
医療調査(意見書作成可否調査)の結果、医師意見書を作成する際には、別途で医師意見書作成費用がかかります。
概要 | 価格 |
一般の科 | 400,000円~ |
精神科 | 450,000円~ |
心臓血管外科 | 500,000円~ |
施設(老健、グループホームなど) | 350,000円~ |
弊社が訴訟で医師意見書を作成した実例
弊社には全国の法律事務所から訴訟の相談が寄せられます。これまで下記のような科の医師意見書を作成してきました。
- 脳神経外科
- 脳神経内科(神経内科)
- 整形外科
- 一般内科
- 消化器外科
- 消化器内科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科(成人)
- 心臓血管外科(小児)
- 循環器内科
- 産科
- 婦人科
- 泌尿器科
- 精神科
- 歯科
介護事故でよくある質問
介護で最も多い事故は?
介護施設では「転倒・転落事故」が最多で、全体の約40%以上を占めています。歩行中や車いす移動、起き上がりなど日常的な場面で発生して、特にバランスの低下や環境面の課題が一因です。
高齢者自身の身体的問題の改善に加えて、見守り体制や施設内の段差・照明などの環境改善が重要です。
介護事故で職員が負う責任は?
職員にはまず「道義的責任」として説明・謝罪の義務がありますが、法的責任とは区別されます。
法的責任には「民事上の損害賠償責任(債務不履行・不法行為)」や「刑事上の責任(過失致死傷罪など)」が含まれます。
実務では、事業者責任(使用者責任)として、企業側が問われるケースが多いです。
介護事故とはどこまでが事故に当たりますか?
「介護事故」とは、介護サービス提供中に利用者に身体的・精神的な被害や被害の可能性が生じたすべての事象を指します。怪我の有無にかかわらず、転倒など「ヒヤリ」でも報告対象です。
サービス管理下かが判断基準で、訪問・通所・24時間施設など提供時間内の事故すべてが該当します。
まとめ
介護事故は、介護サービス中に利用者の命や体、財産に被害やその恐れが生じたすべての事象を指します。
事故の報告や記録は職員のミスの有無にかかわらず必要ですが、損害賠償請求には施設や職員の過失が認められることが前提となります。
介護事故の訴訟で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
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