交通事故や病気の治療後に「既存障害」や「既往症」といった言葉を耳にすることがあります。しかし、それぞれの意味や違いを正確に理解している方は少ないかもしれません。
既存障害は、自賠責保険の後遺障害認定において重要な役割を果たし、損害賠償や補償の内容に大きな影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、既存障害と既往症の定義や違いを分かりやすく解説して、後遺障害等級や賠償金額にどのように影響するのかを解説しています。
最終更新日: 2025/1/5
Table of Contents
既存障害とは
既存障害とは、事故の前から存在していた身体の障害や機能低下を指します。例えば、以前の事故で負った後遺症や先天的な障害が該当します。
自賠責保険や労災保険の後遺障害等級認定においては、現在の障害が既存障害によってどの程度影響を受けているかが評価され、補償額の算定に反映されます。
具体的には、現存する障害から、既存障害の程度を差し引いて、後遺障害等級が評価されます。
既存障害と既往症の違い
既往症とは
既往症は、過去に罹患した病気や負傷の履歴です。現在は治癒している場合は問題ありませんが、後遺症が残っていると後遺障害認定や損害賠償金支払いに影響する可能性があります。
具体的には、過去の病気や負傷の後遺症が、現在の障害に影響を与えていると判断される場合は、既往障害として評価されます。
医学的な観点からの違い
医学的には、既往症は過去の病歴を指します。既往症は、過去の病歴として、現在の傷病の診断や治療方針に影響を与える可能性があります。
一方、既存障害は、自賠責保険や労災保険などの賠償実務における概念です。医学的に「既存障害」という概念は一般的ではありません。
自賠責保険における違い
自賠責保険の後遺障害等級認定では、既存障害がある場合、現在の障害等級から既存障害の等級を差し引いて評価されます。
これにより、補償額が減額されるケースもあります(加重障害)。一方、既往症については、現在の障害との因果関係が認められない限り、直接的な減額要因になりません。
既存障害の後遺障害等級への影響
既存障害は加重障害の原因になる
既存障害がある部位に新たな障害が加わると「加重障害」として評価されます。加重障害では、現在の障害等級から既存障害の等級を差し引いて評価され、自賠責保険金もその差額分のみ支払われます。
例えば、既存障害が12級で、新たな障害が10級に該当する場合、併合等級は9級となりますが、既存障害の12級分を控除した金額が支給されます。
後遺障害等級における問題点
既存障害の等級が高い場合、新たな障害がそれを上回らない限り、後遺障害が非該当になる可能性があります。例えば、既存障害が14級で、新たな障害も14級に該当する場合、加重障害に該当して非該当になります。
よくある事例は、10年前に頚椎捻挫で14級に認定されて、今回は14級相当の後遺症であるケースです。この場合は、12級相当の後遺症でない限り、非該当になります。
損害賠償金における問題点
既存障害があると、損害賠償金の算定で減額される可能性があります。保険会社や裁判所は、現存する障害から既存障害の労働能力喪失率を控除して逸失利益を算定します。
また、後遺障害慰謝料においても、現存障害の相場から既存障害の相場分を控除する傾向があります。
既存障害や既往症への対処法【弁護士必見】
既存障害の過大評価に対する異議申立て
自賠責保険の等級通知書(もしくは非該当通知書)において、既存障害が過大に評価されていれば、異議申立てして既存障害の後遺障害等級を下げることを検討する必要があります。
既存障害の後遺障害等級を下げるためには、医学的に主張する必要があるので、医師意見書や画像鑑定報告書が必要です。お困りの事案があれば、こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【日経メディカル】意見書で交通事故の後遺症が決まるってホント?
むちうちの既存障害14級が同一部位ではないことを主張
むちうちの後遺症で、既に14級9号の後遺障害認定を受けている場合、同一部位で再度同じ等級の認定は難しいとされています。
しかし、前回の後遺症と、現在の症状が異なることを医学的に証明できれば、同一系列であっても14級9号が認定される可能性があります。
既存障害と現在の後遺症が異なることを証明するためには、前回事故の画像検査や後遺障害診断書を精査した上で、現状との差異を主張する必要があります。
OPLLやヘルニアの素因減額への対処法
OPLL(後縦靭帯骨化症)や椎間板ヘルニアなどの既往症がある場合、保険会社から素因減額が主張されるケースが多いです。
保険会社の素因減額の主張に対処するためには、既往症が現在の後遺症に与える影響が限定的であることを医学的に証明することが重要です。主治医による診断書や意見書を取得することを検討しましょう。
主治医から適切な医証を得られない際には、弊社の医師意見書も有用です。お困りの事案があれば、こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
既存障害の解決事例(OPLL)
- 被害者:70歳
- 等級認定:2級1号
- 加害者側保険会社が素因減額50%を主張
- 素因減額20%で和解成立
コメント
歩行中に自動車にはねられた結果、ほぼ寝たきりの状態になりました。自賠責保険では2級1号の後遺障害等級認定されましたが、加害者側保険会社がOPLLの既往を指摘して素因減額50%を主張しました。
脊椎脊髄外科専門医が、靭帯骨化の脊柱管内占拠率、OPLLの自然経過、各種ガイドラインを引用して素因減額は16%である医師意見書を作成した結果、素因減額20%で和解成立しました。
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等級スクリーニング
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等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
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<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
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<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
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既存障害と既往症の違いでよくある質問
障害年金の既存障害とは?
障害年金の請求においても、既存障害とは、請求する障害が発生する前から存在していた障害や症状を指します。
既存障害がある場合、その影響を考慮して年金の支給額が決定されることがあります。
例えば、過去に交通事故で負った障害がある場合、新たな障害と合わせて評価されることがあります。
頭部外傷による意識不明が3ヵ月を超える状態は、遷延性意識障害と定義されており、回復の見込みはさらに厳しくなります。
診断書は開けちゃダメ?
医師から受け取った診断書が封筒に封入されている場合でも、申請者本人が開封して内容を確認することは問題ありません。
提出前に、自身の症状が正確に反映されているかを確認して、必要に応じて医師に修正を依頼することが重要です。
診断書の内容を医師にお願いできますか?
診断書の内容について、医師に具体的な記載をお願いすることは可能です。例えば、症状の詳細や治療の経過など、必要な情報を正確に記載してもらえます。
ただし、虚偽の記載を依頼することはできません。あくまでも診療録に記載されていることをベースにして、医師は診断書を作成します。
診断書がもらえないケースは?
医師が診断書の作成を拒否するケースは稀ですが、可能性として以下の状況が考えられます。
1. 症状が軽度であると判断された
医師が後遺障害や障害年金の基準に該当しないと判断して、診断書の作成を見合わせることがあります。
2. 受診期間が短い
診察期間が短く、症状の経過や程度を十分に把握できていない場合、診断書の作成を控えることがあります。
3. 専門外の疾患
現在の主治医が該当する障害の専門医でない場合、適切な診断書を作成できないと判断することがあります。
まとめ
既存障害は事故前からの障害や機能低下であり、先天的な障害や過去の後遺症が該当します。
一方、既往症は過去の病気やけがの履歴で、現在治癒していれば問題ありませんが、後遺症があれば後遺障害認定に影響します。
既存障害が新たな障害と重なると加重障害とされて、後遺障害が非該当になったり、損害賠償金が減額する可能性があります。
既存障害や既往症が問題になっている事案では、医師意見書や画像鑑定報告書が解決策になる可能性があります。お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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