急性硬膜外血腫は、交通事故などの外傷によって引き起こされる深刻な頭部外傷の1つです。
急性硬膜外血腫は、頭蓋骨と硬膜の間に血液が溜まり、脳組織を圧迫することで、さまざまな症状を引き起こします。
本記事では、急性硬膜外血腫の具体的な後遺症について解説しています。また、後遺障害に認定されるポイントについても触れています。
最終更新日: 2024/12/20
Table of Contents
急性硬膜外血腫とは?その原因と症状
急性硬膜外血腫が発生するメカニズム
急性硬膜外血腫とは、高い場所や階段からの転倒、交通事故などで頭部に強い衝撃を受けた結果、脳を包む硬膜と頭蓋骨の間に血液が溜まった状態です。
硬膜と頭蓋骨の間に溜まった血液が脳組織を圧迫して、さまざまな症状を引き起こします。出血の量や速度によっては、急速に症状が悪化するケースもあります。
急性硬膜外血腫の症状
急性硬膜外血腫の症状は、頭部外傷後に急速に現れることが多いです。主な症状には、強い頭痛、嘔吐、意識障害、半身の脱力や麻痺、瞳孔の異常などがあります。
特に、意識が一時的に回復した後に再び悪化する意識清明期(lucid interval)と呼ばれる現象が特徴的です。これらの症状が現れた場合、迅速な対応が必要です。
急性硬膜外血腫の診断方法
急性硬膜外血腫の診断には、主に画像検査が用いられます。CT検査は、硬膜外血腫の存在を迅速かつ正確に確認するための最も一般的な方法です。
MRI検査も使用されることがありますが、CT検査に比べて時間がかかるため、緊急時にはCT検査が優先されます。患者の症状や外傷の経緯も診断の重要な手がかりとなります。
急性硬膜外血腫の後遺症とは?
急性硬膜外血腫が進行すると脳を圧迫して、神経学的症状や意識障害が生じる可能性があります。後遺症としては、以下のようなものが挙げられます。
高次脳機能障害
記憶障害、注意力低下、判断力の低下、言語障害、感情コントロールの困難などがみられます。
<参考>
運動・感覚障害
血腫と対側の片麻痺、感覚の鈍麻、痺れなどがみられます。
意識障害
急性硬膜外血種の症状として急性期の意識障害は有名ですが、後遺症として意識障害が残る可能性もあります(遷延性意識障害)。
<参考>
遷延性意識障害(植物状態)における医師意見書の有効性|医療鑑定
急性硬膜外血腫で考えられる後遺障害等級
等級 |
認定基準 |
具体例 |
1級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの |
|
2級1号 |
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの |
|
3級3号 |
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの |
|
5級2号 |
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの |
|
7級4号 |
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの |
|
9級10号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの |
|
12級13号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの |
|
14級9号 |
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの |
|
急性硬膜外血種の後遺症として、遷延性意識障害と高次脳機能障害が問題となります。
1級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について、常に他人の介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による高度の認知症や情意の荒廃があるため、常時監視を要するもの
2級1号
高次脳機能障害のため、生命維持に必要な身のまわりの処理の動作について、随時介護を要するもの
- 重篤な高次脳機能障害のため、食事・入浴・用便・更衣等に随時介護を要するもの
- 高次脳機能障害による認知症、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため随時他人による監視を必要とするもの
- 重篤な高次脳機能障害のため自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、外出の際には他人の介護を必要とするため、随時他人の介護を必要とするもの
3級3号
生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるが、高次脳機能障害のため、労務に服することができないもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が全部失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の大部分が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害3級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
5級2号
高次脳機能障害のため、きわめて軽易な労務のほか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の大部分が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の半分程度が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害5級の後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
7級4号
高次脳機能障害のため、軽易な労務にしか服することができないもの
- 4能力のいずれか1つの能力の半分程度が失われているもの
- 4能力のいずれか2つ以上の能力の相当程度が失われているもの
<参考>
高次脳機能障害で7級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
9級10号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの
- 高次脳機能障害のため4能力のいずれか1つの能力の相当程度が失われているもの
問題解決能力の相当程度が失われているものの例:1人で手順とおりに作業を行うことに困難を生じることがあり、たまに助言を必要とする
<参考>
高次脳機能障害で9級が後遺障害認定されるポイント|交通事故
12級13号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、多少の障害を残すもの
- 4能力のいずれか1つ以上の能力が多少失われているもの
実務上は、高次脳機能障害として認定される等級の下限は12級13号と言われています。臨床的な症状が無くても、症状固定時のCTやMRIで脳挫傷痕や脳萎縮などの所見を認めれば、12級13号が認定されます。
<参考>
高次脳機能障害が12級に後遺障害認定されるポイント|交通事故
14級9号
通常の労務に服することはできるが、高次脳機能障害のため、軽微な障害を残すもの
- MRI、CT等による他覚的所見は認められないものの、脳損傷のあることが医学的にみて合理的に推測でき、高次脳機能障害のためわずかな能力喪失が認められるもの
急性硬膜外血腫の後遺障害認定ポイント【弁護士必見】
脳挫傷の併発有無で後遺障害は大きく異なる
急性硬膜外血腫では、脳挫傷を併発するか否かで、後遺症の程度が大きく異なります。
例えば、小児の急性硬膜外血腫では、搬送時に重度の意識障害であっても、脳挫傷を併発していなければ、後遺症の無いケースも珍しくありません。
症状固定時期の画像検査で、脳挫傷痕の所見があれば、後遺障害が認定される可能性があるので注意が必要です。
<参考>
- 【日経メディカル】脳挫傷による多様な後遺症を適正に評価するには
- 脳挫傷の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
- 脳挫傷による高次脳機能障害の症状とは?治療や後遺障害のポイント
- 脳挫傷後の性格変化は後遺症?高次脳機能障害の可能性も|医療鑑定
高次脳機能障害が後遺障害認定の問題になる
急性硬膜外血種の後遺症として、遷延性意識障害と高次脳機能障害が挙げられます。
遷延性意識障害は後遺障害という観点では争いになりにくです。このため、実質的には高次脳機能障害の後遺障害認定が問題になります。
高次脳機能障害が認定されるポイントは、以下のコラム記事にまとめていますので参考にしてください。
<参考>
高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
急性硬膜外血種の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、急性硬膜外血種の後遺症が後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
急性硬膜外血種の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
急性硬膜外血種が後遺障害認定されると損害賠償金を請求できる
急性硬膜外血種による高次脳機能障害で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
急性硬膜外血種の後遺障害慰謝料とは
急性硬膜外血種による高次脳機能障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
急性硬膜外血種の後遺障害慰謝料の相場は?
急性硬膜外血種の後遺障害慰謝料は、後遺障害等級によって異なります。例えば、9級の場合は約690万円、7級は約1000万円、5級は約1400万円、3級は約1990万円、2級は約2370万円、1級は約2800万円となります。
また、近親者の慰謝料として数百万円程度が加算されることがあります。さらに、1級や2級の場合には将来の介護費として数千万円から1億円を超える額が認められることがあります。
このように、急性硬膜外血種の後遺障害慰謝料は等級によって大きく異なり、適切な後遺障害等級を獲得することが重要です。
急性硬膜外血種の後遺障害逸失利益とは
急性硬膜外血種で後遺症が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
急性硬膜外血種の後遺障害逸失利益の相場は?
急性硬膜外血種の逸失利益は、後遺障害等級によって異なります。一般的に、後遺障害等級が高いほど逸失利益の金額も高くなります。
例えば、1級の後遺障害の場合、逸失利益は約1億円前後となる可能性があります。一方、9級の場合は約1000万円程度のケースが多いです。
後遺障害逸失利益の金額は、被害者の年収や年齢、労働能力喪失率などによっても大きく変動します。
急性硬膜外血種でよくある質問
急性硬膜外血種は何時間後に症状が現れますか?
急性硬膜外血腫の症状は、頭部外傷後数時間以内に現れることが多いです。特に、意識が一時的に回復した後に再び悪化する意識清明期(ルシッドインターバル:lucid interval)と呼ばれる現象が特徴的です。
このため、頭部外傷を受けた場合は、早期に医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けることが重要です。
急性硬膜外血腫の治療は?
急性硬膜外血腫の治療は、主に外科的手術による血腫の除去が行われます。手術は、血腫の圧力を軽減し、脳へのダメージを最小限に抑えるために行われます。
また、手術後の経過観察やリハビリテーションも重要で、患者の回復をサポートします。早期の治療が予後を大きく左右します。
急性硬膜外血腫の予後は?
急性硬膜外血腫の予後は、早期の診断と治療が行われた場合、比較的良好です。しかし、重度の損傷や治療の遅れがあった場合、後遺症が残ることがあります。
後遺症としては、半身の脱力や麻痺、記憶障害、言語障害などが挙げられます。リハビリテーションを通じて、機能回復を目指すことが重要です。
急性硬膜外血腫の致死率は?
急性硬膜外血腫の致死率は、治療のタイミングや損傷の程度によって異なります。一般的には、急性硬膜外血腫の致死率は約20%とされています。
しかし、重症の場合や治療が遅れた場合には、致死率が高くなることがあります1。迅速な医療対応が生存率を高める鍵となります。
まとめ
急性硬膜外血腫とは、高い場所や階段からの転倒、交通事故などで頭部に強い衝撃を受けた結果、脳を包む硬膜と頭蓋骨の間に血液が溜まった状態です。CT検査が一般的な診断方法です。
血液で脳組織が圧迫され、強い頭痛や意識障害などの症状が急速に現れます。進行すると脳を圧迫し、高次脳機能障害や運動・感覚障害などの後遺症が残ることがあります。
後遺障害等級は、高次脳機能障害の程度によって認定されるケースが多いです。特に重篤な場合は、常に介護が必要となります。
急性硬膜外血腫による高次脳機能障害に関してお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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