交通事故で肩に強い衝撃を受けた後から、辛い痛みや動きの制限に悩まされている人は珍しくありません。その中でも、肩腱板断裂はメジャーな傷病です。
腱板は、肩の動きを支える重要な軟部組織なので、断裂するとさまざまな症状が現れます。腱板断裂には、完全断裂と部分断裂があります。
本記事では、肩腱板断裂の完全断裂と部分断裂の違いについて詳しく解説します。また後遺障害に認定される可能性についても触れています。
最終更新日: 2024/12/19
Table of Contents
肩腱板断裂とは?基礎知識を理解する
腱板の構造と役割
肩関節は、体の中で最も可動域の大きい関節ですが、そのメリットの代償として不安定さがあります。
腱板は、解剖学的に不安定な肩関節を安定させるための4つの筋肉の腱が集まったもので、肩関節を覆うように存在しています。
腱板は、腕を上げたり回したりする動作を支え、肩の動きをスムーズにして、重い物を持つことを可能にします。
腱板断裂の種類
腱板断裂には、部分断裂と完全断裂があります。部分断裂は腱板の一部が切れている状態で、症状は断裂の程度や場所によって異なります。
完全断裂は腱板が完全に切れている状態で、部分断裂よりも症状が重く、肩の動きが大きく制限されます。
腱板断裂の主な症状
腱板断裂の症状として、以下のようなものがあります。
- 腕を上げる時や横に向ける時の痛み
- 重い物を持てない
- 腕を上げられない
- 肩の動きが制限される
- 夜間の痛み
腱板断裂の診断方法
腱板断裂の診断方法には、問診、身体診察、画像検査があります。問診では痛みの始まりやどの動作で痛むかを詳しく聞きます。身体診察では肩の動きや力、痛みを調べます。
画像検査にはレントゲン検査、MRI検査、超音波検査があります。特に、MRI検査は腱板の断裂状態を詳しく調べるのに有効です。
腱板の完全断裂と部分断裂の違い
部分断裂の原因と発生メカニズム
腱板の部分断裂は、さまざまな要因によって引き起こされます。まず、年齢を重ねることで腱板が変性し、強度が低下するため、日常の軽い動作や小さな衝撃でも断裂が起こりやすくなります。
また、テニスや野球など肩を酷使するスポーツでは、繰り返される動作による負担が原因となることがあります。
さらに、交通事故や転倒といった強い衝撃による外傷や、同じ動作を長時間続けることによるオーバーユース(使いすぎ)も腱板を損傷させる原因です。
部分断裂の進行と治療法
腱板の部分断裂を放置すると、損傷が徐々に広がり、最終的に完全断裂に進行する可能性があります。この状態が進むと肩の痛みが増します。
治療法には、大きく分けて保存療法と手術療法があります。保存療法では、薬物や物理療法、運動療法を組み合わせて症状の改善を図ります。
一方、腱板断裂が進行している、患者の年齢が若い、活動レベルが高いと、手術療法が選択されます。
完全断裂と部分断裂の違い
腱板の部分断裂は、腱の一部が切れている状態で、痛みや力の低下や肩の可動域制限が主な症状です。完全断裂は腱の連続性が全く無い状態で、急性期には肩を挙げられなくなります。
治療法としては、部分断裂の場合、保存療法と手術療法の選択肢があります。一方、完全断裂では、手術療法が主になります。
予後についても差があり、部分断裂は早期治療を行えばある程度の回復が期待できます。一方、完全断裂は、完全に回復するまでに長い時間を要するケースが多いです。
腱板の部分断裂のMRI所見
腱板の部分断裂のMRI所見は以下のごとくです。腱板の連続性は保たれているものの、腱板内部に高信号の領域を認めます。
腱板の完全断裂のMRI所見
腱板の完全断裂のMRI所見は以下のごとくです。棘上筋が断裂して上腕骨頭内側に引き込まれています。
腱板断裂で考えられる後遺障害
機能障害(肩関節の可動域制限)
等級 | 認定基準 |
8級6号 | 上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 関節が強直したもの。但し、肩関節にあっては、肩甲上腕関節が癒合し骨性強直していることがエックス線写真等により確認できるものを含む
- 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態(他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%以下になったもの)にあるもの
- 人工骨頭置換術が施行されており、かつ肩関節の可動域が2分の1以下に制限されるもの
8級6号に該当する可能性がある傷病は、上腕骨近位端骨折です。上腕骨近位端骨折では、高い確率で肩関節の可動域制限をきたします。
一方、腱板損傷で8級6号に認定されるケースは、ほとんど存在しません。
10級10号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて2分1以下に制限されるもの
関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。腱板断裂のために肩の動力源が無くなって可動域制限が出現するケースと、痛みで肩を動かさなかったために関節拘縮をきたすケースがあります。
<参考>
肩関節拘縮(拘縮肩)の原因と画像所見|交通事故の後遺障害
12級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて4分3以下に制限されるもの
腱板損傷では、肩関節の可動域制限を残す可能性があります。特に高齢者では、肩関節の可動域制限を残しやすいです。
<参考>
腱板損傷で12級が後遺障害認定されるポイント|交通事故の医療鑑定
神経障害(肩関節の痛み)
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
受傷後早期のMRI検査で腱板損傷の存在が明らかな場合には、12級13号に認定される可能性があります。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
自賠責認定基準12級13号を満たさない撮像時期や画像所見であっても、MRI検査で腱板断裂を認めれば14級9号に認定される可能性があります。
肩腱板断裂の後遺障害認定のポイント【弁護士必見】
事故との因果関係が争点になりやすい
50歳前後から無症候性の腱板損傷が増加し始めます。肩関節周囲炎(四十肩や五十肩)には、軽度の腱板断裂が含まれているものと考えられています。
肩関節周囲炎は、30歳代や40歳代では自然に軽快することが多いため、腱板断裂に気付かない人が多いと予想されます。
腱板断裂の後遺症は、交通事故とは関係の無い経年的変性や無症候性の断裂が多いため、事故との因果関係が争点になりやすいです。
<参考>
【日経メディカル】その腱板断裂、ホントに交通事故の後遺症?
腱板部分断裂は後遺障害に認定されるのか?
腱板部分断裂では、身体所見も画像所見も完全断裂ほど高度ではありません。特にMRI検査などの画像検査では、腱板部分断裂は微妙な所見が多いです。
このため、腱板部分断裂は、むちうちの14級9号に準じた後遺障害認定審査が行われます。
理論的には、腱板部分断裂でも12級13号に認定される可能性がありますが、弊社の経験では14級9号が圧倒的に多いです。
また、14級9号認定どころか、非該当になる事案も多いのが現実です。腱板断裂と診断されているにもかかわらず、後遺障害等級が認定されない事案が続出しています。
腱板の部分断裂が後遺障害に認定されず、お困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
<参考>
肩腱板断裂の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
腱板断裂の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で受傷した腱板断裂が後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
腱板断裂の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
腱板断裂で後遺障害に認定されると損害賠償金を請求できる
腱板断裂で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
後遺障害慰謝料とは
交通事故で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
腱板断裂の後遺障害慰謝料の相場
腱板断裂の後遺障害慰謝料の相場は、ケースによって異なりますが、一般的には数百万円程度が多いです。
具体的な金額は、受傷の程度、治療費、治癒までの期間、労働能力の低下などが考慮されます。また、訴訟の結果や和解金の金額にも影響されることがあります。
後遺障害逸失利益とは
後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
腱板断裂の後遺障害逸失利益の相場
腱板断裂の後遺障害による逸失利益の相場は、患者の年齢、職業、収入水準、治療の経過、および回復状況によって異なります。
一般的に、逸失利益は患者の収入減少分として算出され、治療期間中および回復後の生活の質低下に対する補償も含まれます。
具体的な金額は、個別のケースによって異なりますが、例えば、年収300万円の患者であれば、治療期間中の逸失利益は数十万円から数百万円になることがあります。
また、回復後も一部の職業では、収入が減少する可能性があるため、その分の補償も含まれることがあります。
このように、腱板断裂の後遺障害による逸失利益の相場は、患者の状況によって大きく変動するため、具体的な金額を知るためには専門家の評価が必要です。
肩腱板断裂でよくある質問
肩腱板部分断裂はどのくらいで治りますか?
治癒期間は個人差がありますが、軽度の断裂であれば数ヶ月の保存療法で症状が改善することがあります。
しかし、重度の断裂や手術が必要な場合、完全な回復には半年から1年、あるいはそれ以上の時間がかかることもあります。
肩腱板部分断裂を放置するとどうなる?
腱板は自然に修復されにくい組織であり、放置すると断裂が拡大し、痛みや可動域の制限が増す可能性があります。
さらに、長期間放置すると肩の変形が進行し、変形性肩関節症を引き起こすリスクもあります。
<参考>
【医師が解説】腱板断裂を放置するとどうなる?後遺症は?|交通事故
肩腱板断裂は手術したほうが良いですか?
手術の適応は、断裂の程度や症状の重さ、日常生活への影響などによって異なります。保存療法で改善しない場合や、痛みや機能障害が強い場合には手術が検討されます。
手術には、関節鏡視下手術と直視下手術があり、断裂の大きさや部位によって選択されます。
肩腱板断裂は完治しますか?
腱板断裂は自然治癒が難しいため、完全に元の状態に戻ることは稀です。しかし、適切な治療とリハビリにより、痛みの軽減や機能の改善が可能で、日常生活に支障のないレベルまで回復することが期待できます。
肩腱板断裂になったらやってはいけないことは?
以下の動作は、腱板に負担をかけ、症状を悪化させる可能性があるため避けましょう。
- 頭上へ重い物を持ち上げる・下ろす動作
- 首の後ろで腕を動かす動作
- 上半身の力を使って重い物を持ち上げる動作
- 肩を後方に回した位置で行う運動
これらの動作は、腱板に過度な負担をかけ、損傷を悪化させる可能性があります。日常生活では、これらの動作を避けることが重要です。
まとめ
肩腱板断裂は肩の不安定さを補うための4つの筋肉の腱が損傷する状態です。腱板は肩の動きを支えますが、断裂には部分断裂と完全断裂があります。
部分断裂は一部が切れた状態で、症状は軽度ですが、完全断裂は腱が完全に切れており、動きが制限されます。
腱板断裂の症状には、腕を上げる時の痛みや重い物を持てないこと、肩の動きが制限されることがあります。
腱板断裂には無症候性が存在するため、交通事故との因果関係を問われるケースが多いです。肩腱板部分断裂は14級9号が上限と思われます。
腱板断裂の後遺障害認定には、後遺障害認定基準を熟知した整形外科専門医の助力が必要です。腱板断裂でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
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