肩関節脱臼は、日常生活やスポーツ活動中に発生しやすい怪我の一つです。この怪我は、肩関節が正常な位置から外れることで生じ、痛みや機能障害を引き起こします。
特に交通事故などの外傷による肩関節脱臼は、その後の生活に大きな影響を及ぼすことがあります。
本記事では、肩関節脱臼の原因や症状、診断方法、治療法について詳しく解説するとともに、肩関節脱臼による後遺症や後遺障害認定基準についても触れています。
最終更新日: 2024/11/26
Table of Contents
肩関節脱臼とは?その原因と症状
肩関節脱臼の一般的な原因
肩関節脱臼の一般的な原因としては、スポーツ中の怪我や転倒、交通事故などが挙げられます。
特にラグビーや柔道などのコンタクトスポーツや、転倒や腕に地面をついて肩関節をかばうような無理な体勢になった時に発生しやすいです。
また、けいれん発作や先天的な関節の不安定性も原因となることがあります。
肩関節脱臼の種類
肩関節脱臼には、いくつかの種類があります。主なものとして以下のものが挙げられます。
前方脱臼
上腕骨頭が前方に逸脱し、全体の90%以上を占めます。位置により烏口下脱臼、関節窩下脱臼、鎖骨下脱臼、胸郭内脱臼に分かれます。習慣性(反復性)では手術が必要です。
後方脱臼
上腕骨頭が後方に逸脱し、肩前方からの衝撃や転倒で発生します。肩峰下脱臼、関節窩下脱臼、棘下脱臼に分かれます。
上方脱臼
強い前上方への力で発生する稀な脱臼で、骨折や腱、神経などの損傷を伴います。
下方脱臼
強い過外転力により発生します。かなり稀な脱臼です。
肩関節脱臼時に見られる症状
肩関節脱臼時に見られる症状には、以下のようなものが挙げられます。
- 患部の変形(肩が尖って見える)
- 患部の痛み
- 肩関節(腕)が脱臼した角度のまま動かせない
- 動かされる際(整復時)に痛み
- 肩の高さが左右で違う(腕がダランと下がっている)
- 肩、腕、指のしびれ
肩関節脱臼の診断方法と治療
肩関節脱臼の診断方法としては、まず問診によりどのような場面で脱臼を起こしたのかを確認し、触診や視診により状態を把握します。さらに、レントゲン検査・CT検査・MRI検査などの画像診断を行うことで診断を行います。
治療方法としては、整復後に三角巾や装具を用いて固定してリハビリを行う保存療法が第一選択です。保存療法をしっかり行っても脱臼を繰り返す場合には、後日に手術が必要となるケースもあります
肩関節脱臼の再発リスクについて
一度、肩関節が脱臼してしまうと、関節包、関節唇、靱帯、腱板といった軟部組織が傷んでしまい、再び肩に同じような力が加わったときに支えきれなくなり容易に脱臼してしまいます。
特に初回脱臼時の年齢が若いと再発するリスクが高く、10代では80~90%ともいわれています。再発予防には、肩周囲の筋肉を強化するリハビリや、手術療法が有効です。
肩関節脱臼による後遺症
肩関節の不安定性
肩関節の不安定性は、肩関節脱臼後に多く見られる後遺症の一つです。肩関節は人体で最も可動域が広い関節であり、そのため不安定になりやすい特徴があります。
脱臼によって関節唇や靭帯が損傷すると、肩関節の安定性が失われ、再脱臼のリスクが高まります。特に若年層では再発率が高く、適切なリハビリや場合によっては手術が必要となることがあります。
痛みや慢性的な炎症の発生
肩関節脱臼後には、慢性的な痛みを残す可能性があります。これは、関節や周囲の組織が損傷し、炎症反応が続くためです。
慢性炎症は、関節可動域制限をきたして、生活の質を著しく低下させることがあります。適切な治療とリハビリが必要です。
肩関節脱臼後の神経損傷
肩関節脱臼に伴う神経損傷は、特に腋窩神経や腕神経叢に影響を及ぼすことがあります。これにより、肩や腕にしびれや麻痺が生じる可能性があります。
神経損傷の回復には時間がかかることが多く、リハビリテーションが重要です。場合によっては、神経の回復を促進するための手術が必要となるケースもあります。
肩関節脱臼の後遺障害認定基準
機能障害(動揺関節)
12級: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
肩関節の習慣性脱臼(反復性肩関節脱臼)は、12級に認定されますが、事故との因果関係が問題になるケースが少なくありません。
<参考>
動揺関節の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
機能障害(肩の可動域制限)
等級 | 認定基準 |
8級6号 | 上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 人工骨頭置換術が施行されており、かつ肩関節の可動域が2分の1以下に制限されるもの
8級6号に該当する可能性がある傷病は、肩関節脱臼骨折です。肩関節脱臼骨折では、高い確率で肩関節の可動域制限をきたします。
その理由は、肩関節脱臼骨折は関節内の骨折だからです。一般的に関節内骨折は、可動域制限を残しやすいと言われています。
臨床的には、人工骨頭置換術後に肩関節の可動域制限を残す症例が多いです。外転90度に満たない症例も珍しくありません。
10級10号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて2分1以下に制限されるもの
- 人工骨頭置換術により人工骨頭を挿入したもの
肩関節脱臼骨折は、肩関節の可動域制限を残しやすいです。2分1以下に制限されるケースも珍しくありません。
一方、人工骨頭置換術が施行された場合には、肩関節の可動域制限の有無にかかわらず、最低でも10級10号に該当します。
12級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて4分3以下に制限されるもの
骨折の無い肩関節脱臼であっても、肩関節の可動域制限を残す可能性があります。
<参考>
肩関節拘縮(拘縮肩)の原因と画像所見|交通事故の後遺障害
神経障害(肩の痛み)
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号: 局部に頑固な神経症状を残すもの
肩関節脱臼骨折では、関節の可動域制限と一緒に肩関節の痛みが残存しやすいです。また上腕骨頭の骨折で関節面の不整を残して骨癒合したなど、明らかな痛みの原因を認める症例も散見します。
14級9号: 局部に神経症状を残すもの
12級13号には至らない程度の肩関節脱臼骨折の変形や、骨折の無い肩関節脱臼では、14級9号に認定される可能性もあります。
変形障害(偽関節や変形治癒)
等級 | 認定基準 |
7級9号 | 偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級8号 | 偽関節を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
8級8号: 1上肢に偽関節を残すもの
何らかの理由で、高齢者の肩関節脱臼骨折で保存療法が選択された場合、最終的に骨折部が偽関節になる場合があります。
自賠責保険では、骨幹端部は骨幹部等に分類されます。このため、上腕骨近位端骨折が偽関節になると8級8号に認定される可能性があります。
尚、肩関節脱臼骨折では偽関節になったとしても常に硬性補装具が必要になる症例はほとんどありません。このため、7級9号に認定されることはほとんど無いといえます。
12級8号: 長管骨に変形を残すもの
肩関節脱臼骨折で、上腕骨大結節が中枢側に大きく転位した症例は比較的良くみられます。
肩関節脱臼の後遺障害認定ポイント【弁護士必見】
骨折の無い肩関節脱臼は後遺障害に認定されにくい
骨折の無い肩関節脱臼は、可動域制限をきたしにくい代わりに、習慣性脱臼(反復性肩関節脱臼)に移行する可能性があります。
習慣性脱臼は、動揺関節の一種です。肩関節の習慣性脱臼は12級に認定される可能性があります。
しかし実際には、事故との因果関係の証明が難しいケースが少なくないため、後遺障害に認定されにくいです。
肩関節脱臼から習慣性脱臼に移行したにもかかわらず非該当になったら、肩関節外科医による医師意見書を検討する必要があります。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
骨折のある肩関節脱臼は関節可動域制限がメイン
骨折のある肩関節脱臼では、骨折の無い肩関節脱臼と比べて、関節の可動域制限を併発しやすいです。
このため、骨折の無い肩関節脱臼よりも、後遺障害に認定されやすいと言えます。
もちろん、骨折のある肩関節脱臼であれば、必ず後遺障害に認定されるわけではありません。
特に大結節骨折を併発しただけの肩関節脱臼では、12級認定で争いになるケースが珍しくありません。
このような事案で非該当になった場合には、画像鑑定報告書や医師意見書で肩関節脱臼骨折と可動域制限の因果関係を証明する必要があります。
<参考>
上腕骨近位端骨折の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
肩関節脱臼の後遺障害で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で受傷した肩関節脱臼の後遺症が、後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
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等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
肩関節脱臼の後遺障害でお悩みの被害者の方へ
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肩関節脱臼の慰謝料
後遺障害慰謝料
肩関節脱臼が後遺障害に認定された場合、後遺障害慰謝料の相場は等級によって異なります。例えば、12級に認定された場合の慰謝料は約290万円です。
肩関節の可動域制限や痛みが残る場合、等級が高くなることがあります。弁護士に依頼することで、慰謝料の増額が期待できることもあります。
後遺障害逸失利益
後遺障害逸失利益は、後遺障害が残ったことで労働能力が低下し、収入が減少することに対する補償です。
例えば、12級に認定された場合の逸失利益は、労働能力を14%失ったことによる減収額が基本となります。具体的な金額は、基礎収入や労働能力喪失期間に応じて計算されます。
肩関節脱臼でよくある質問
肩関節脱臼の注意点は?
肩関節脱臼の際の注意点として、まずは患部を固定し、安静にすることが重要です。自分では関節を元に戻せないため、必ず専門医の診察を受ける必要があります。
また、脱臼後は再発しやすくなるため、適切なリハビリテーションを行い、肩の筋力を強化することが大切です。
肩関節が脱臼しやすい肢位は?
肩関節が脱臼しやすい肢位は、外転・外旋した状態、いわゆる挙手の姿勢です。この姿勢で後方から力が加わると、肩関節が前方にずれやすくなります。
特にスポーツ中や転倒時にこの姿勢を取ることが多いため、注意が必要です
肩関節脱臼が多い理由は何ですか?
肩関節脱臼が多い理由は、肩関節の構造にあります。肩関節は非常に広い可動域を持つため、安定性が犠牲になりやすいです。
関節窩が浅く、上腕骨頭が容易に外れるため、スポーツや転倒などで強い力が加わると脱臼しやすくなります。
肩の脱臼が全治するまでの期間は?
肩の脱臼が全治するまでの期間は、個人差がありますが、一般的には3〜6ヶ月程度です。
初期の固定期間は2〜3週間で、その後リハビリテーションを通じて肩の安定性と機能を回復させます。
リハビリは段階的に進められ、完全回復には数ヶ月を要することが多いです。
まとめ
肩関節脱臼は、スポーツや転倒、交通事故などが原因で発生します。症状には肩の変形、痛み、しびれがあります。
診断には問診、触診、画像検査が行われ、治療は整復と固定、リハビリが基本です。再発のリスクが高く、特に若年層はリハビリや手術が必要です。
肩関節脱臼の後遺症には、肩関節の不安定性、痛み、神経損傷などがあります。後遺障害には、機能障害(動揺関節、可動域制限)と神経障害(痛み)があります。
骨折のある肩関節脱臼は、機能障害として後遺障害に認定されやすいです。一方、骨折の無い肩関節脱臼は後遺障害に認定されにくいです。
交通事故で受傷した肩関節脱臼の後遺障害が、非該当になってお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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