交通事故で受傷する「むちうち」には、さまざまな症状が存在します。そして、むちうちの症状のひとつに眠気や不眠があります。
本記事は、むちうちで眠気や不眠になる理由を理解するヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/11
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交通事故後の「むちうち」で眠くなる原因
むちうちの症状として最も有名なのは首の痛み、頭痛、腕の痛みやしびれです。しかし、むちうちの症状はそれだけではありません。
むちうちには多彩な症状がありますが、そのうちのひとつに、眠気や不眠があります。交通事故後の「むちうち」で眠くなる原因として、以下の3つが挙げられます。
- むちうち症状のために眠れない
- トラウマやPTSDなどの非器質性精神障害
- 自律神経失調症状(バレリュー症候群)
むちうち症状のために眠れない
むちうち患者さんが眠気や不眠を訴える際に、私たち整形外科医が日常診療で最もよく経験するのは、むちうち症状のために眠れない状況です。
むちうちの代表的な症状は、首の痛み、頭痛、腕の痛みやしびれです。これらの症状は就寝時にもあるため、眠れない状況が続きます。
眠れたとしても眠りが浅くなるため、むちうちを受傷すると不眠になりがちです。このため、日中も眠気を訴える患者さんが後を絶ちません。
<参考>
【日経メディカル】あなどれない「むち打ち」の後遺症、首にとどまらない驚きの症状とは
【医師が解説】頚椎捻挫が後遺症認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】むちうち症状の伝え方3つのポイント|交通事故
トラウマやPTSDなどの非器質性精神障害
むちうち患者さんが眠気や不眠を訴える原因として圧倒的に多いのは、むちうち症状のために眠れない状況です。しかし、事故のトラウマやPTSDが原因であるケースも珍しくありません。
事故のトラウマやPTSDが不眠や眠気の原因である場合には、精神科や心療内科専門医の治療が必要です。安易に自己診断するのではなく、必ず専門医の診察を受けましょう。
<参考>
【医師が解説】トラウマとPTSDの違い、診断や症状は?|交通事故
【医師が解説】PTSDの後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】非器質性精神障害が後遺症認定されるヒント|交通事故
自律神経失調症状(バレリュー症候群)
むちうち(頚椎捻挫)に自律神経失調症を合併した状態は、バレリュー症候群と呼ばれています。不眠や眠気を訴えるほどの重度のバレリュー症候群は滅多にありませんが、可能性はゼロではありません。
しかし、一般的には交通事故後の不眠や眠気の原因として、自律神経失調症はメジャーではありません。安易に自己診断するのではなく、必ず専門医に相談しましょう。
<参考>
【医師が解説】バレリュー症候群の後遺障害認定ポイント|交通事故
【医師が解説】むちうち後遺症が首の痛みだけで後遺障害認定される?
【医師が解説】むちうち後遺症は一生治らない?数年後は?|交通事故
交通事故後の不眠や眠気は精神科や心療内科を受診しよう
交通事故後に不眠や眠気を訴える場合には、整形外科や脳神経外科だけではなく、精神科や心療内科での治療が必要なケースも少なくありません。
特に、交通事故後の不眠や眠気の原因がトラウマやPTSDである場合には、早期に治療を開始する必要があります。安易な自己診断は禁物です。
もちろん、初診は整形外科や脳神経外科で問題ありませんが、不眠や眠気があることを主治医に相談することを強くお勧めします。
交通事故後の眠気に対する治療
むちうち症状が原因の場合の治療法
交通事故後の不眠や眠気の原因が、むちうち症状(痛みやしびれ)の場合には、それらの症状に対する治療が必要です。
ロキソニンなどの消炎鎮痛剤や、プレガバリンなどの神経痛に効果のある薬物が処方されるケースも少なくありません。
<参考>
【医師が解説】頚椎捻挫が後遺症認定されるポイント|交通事故
トラウマやPTSDが原因の場合の治療法
トラウマやPTSDが交通事故後の眠気や不眠の原因である場合には、精神科や心療内科の専門医による治療が必要です。治療は専門的になるため、本コラムでの説明は割愛させていただきます。
自律神経失調症が原因の場合の治療法
実臨床ではあまり診ませんが、むちうちに自律神経失調症を合併(バレリュー症候群)して不眠や眠気を訴える患者さんもゼロではありません。
バレリュー症候群では、通常のむちうち治療に加えて、星状神経ブロックを施行するケースもあります。
<参考>
【医師が解説】バレリュー症候群の後遺障害認定ポイント|交通事故
交通事故後の眠気や不眠で考えられる後遺障害
PTSDの後遺障害認定基準
自賠責保険では、厚生労働省労働基準局の「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」に準じて等級認定されます。
神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について
下記の(ア)精神症状のうちひとつ以上が認められ、かつ、イ)能力に関する判断項目のうち、ひとつ以上の能力について障害(能力の欠如や低下)が認められることが必要となります。
(ア)精神症状
- 抑うつ状態
- 不安の状態
- 意欲低下の状態
- 慢性化した厳格・妄想性の状態
- 記憶または知的能力の障害
- その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
(イ)能力に関する判断項目
- 身辺日常生活
- 仕事・生活に積極性・関心を持つこと
- 通勤・勤務時間の厳守
- 普通に作業を持続すること
- 他人との意思伝達
- 対人関係・協調性
- 身辺の安全保持、危機の回避
- 困難・失敗への対応
「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準」をいくつ満たすのかによって、9級10号から14級9号までの等級が認定されます。
9級10号
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
【具体例】
i 就労している者、または就労の意欲はあるものの就労はしていない場合
- (イ)の(2)~(8)のいずれかひとつの能力が失われているもの
- または、(イ)の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
ii 就労意欲の低下または欠落により就労していない場合
- (イ)の(1)について、ときに助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの
12級13号
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため多少の障害を残すもの
【具体例】
i 就労している者、または就労の意欲はあるものの就労はしていない場合
- (イ)の4つ以上について,ときに助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
ii 就労意欲の低下または欠落により就労していない場合
- (イ)の(1)について、適切または概ねできるもの
14級9号
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため軽微な障害を残すもの
【具体例】
(イ)のひとつ以上について、ときに助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
<参考>
【医師が解説】PTSDの後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【医師が解説】非器質性精神障害が後遺症認定されるヒント|交通事故
【弁護士必見】交通事故後の眠気や不眠の後遺障害認定ポイント
ここまで詳述したように、交通事故後に眠くなる原因には、むちうち症状による眠気だけではなく、事故によるトラウマやPTSDも挙げられます。
このため、交通事故から半年以上経過しても眠気や不眠を訴える被害者に関しては、PTSDなどの非器質性精神障害も念頭に置く必要があります。
ただし、PTSDなどの非器質性精神障害が後遺障害に認定されるハードルは極めて高いのが実情です。
交通事故後の眠気や不眠でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
交通事故後に眠くなる事案のまとめ
交通事故後の「むちうち」で眠くなる原因として、以下の3つが挙げられます。
- むちうち症状のために眠れない
- トラウマやPTSDなどの非器質性精神障害
- 自律神経失調症状(バレリュー症候群)
特筆するべきは、交通事故後に眠くなる原因が、トラウマやPTSDなどの非器質性精神障害である可能性があることです。
このため、交通事故から半年以上経過しても眠気や不眠を訴える被害者に関しては、PTSDなどの非器質性精神障害も念頭に置く必要があります。
ただし、PTSDなどの非器質性精神障害が後遺障害に認定されるハードルは極めて高いのが実情です。
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