腰椎捻挫は、外部からの強い衝撃が腰に伝わって発症します。交通事故で受傷するケースが多いです。腰の痛みだけではなく、下肢のしびれや痛み(坐骨神経痛)を引き起こす原因となります。
また、もともと腰椎椎間板ヘルニアのあった人が、交通事故を契機にして症状が悪化するケースもあります。
本記事は、腰椎捻挫の症状がなかなか治らない理由と治療法を理解するポイントを分かりやすく解説しています。
最終更新日: 2024/5/11
Table of Contents
腰椎捻挫とは
腰の背骨を「腰椎」と呼びます。人は2本足の動物なので、4本足の動物と比べて、腰にかかる負担が大きいのが特徴です。
腰椎捻挫は、外部から強い衝撃が腰椎に伝わり、骨の周囲にある筋肉や靭帯、軟骨が損傷した状態です。
腰の骨には、もともと大きな負担がかかっています。このため、腰椎捻挫の症状を発症するとなかなか治らない傾向にあります。
腰椎捻挫の症状は?
腰痛
腰椎捻挫の症状として最も多いのは腰痛です。痛みの原因は、椎間板・椎間関節・筋膜などの炎症だと言われています。
下肢の痛みやしびれ(坐骨神経痛)
腰痛に加えて、下肢(足)の痛みやしびれを引き起こす場合があります。この症状を、坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)と呼びます。
坐骨神経は、幾つもの神経が集まった束のようなものです。腰の骨から出て、足の先まで電線のように下肢の内部を走行しています。
そのため、腰やおしりから太ももの後ろ側、ふくらはぎにかけて広範囲にしびれや痛みを生じます。
腰椎捻挫の画像診断
レントゲン検査
交通事故の直後から腰の痛みや下肢の痛み、しびれが続いている場合、医師はまずレントゲン検査を行います。
一般的には、腰椎捻挫では外傷性所見に乏しく、加齢による骨棘形成や椎間板腔の狭小化などを認めるに留まります。若年者では、まったく異常所見を認めないケースも少なくありません。
MRI検査
MRI検査では、レントゲン検査の異常部位以外にも、椎間板変性やヘルニアを認めるケースが多いです。一方、若年者では、レントゲン検査と同様に、まったく異常所見を認めないケースも少なくありません。
画像検査で異常所見の無い事案も珍しくない
腰椎捻挫の診断に、レントゲン検査やMRI検査の異常所見は必須ではありません。腰椎の画像検査で異常所見が無くても、交通事故の直後から腰痛が持続しているのであれば、腰椎捻挫と診断されます。
腰部脊柱管狭窄症や腰椎分離すべり症が見つかることもある
腰椎捻挫で検査すると、腰部脊柱管狭窄症や腰椎分離すべり症が見つかることもあります。もちろん、交通事故によって、腰部脊柱管狭窄症や腰椎分離症やすべり症を生じたわけではありません。
交通事故前は無症状だった傷病が、事故をきっかけにして症状が出現したと考えるのが妥当でしょう。
事故後にMRIをとったら、腰に椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症(せきちゅうかんきょうさくしょう)が見つかったというケースも多くあります。
腰椎捻挫の検査所見
腰椎捻挫を診断するための検査ではありませんが、カルテや診断書に記載されることの多い検査所見についても簡単に説明します。
ラセーグ徴候(SLRテストと同義)
ベッドの上に患者さんに仰向けで横になってもらい、膝を伸ばした状態で下肢を持ち上げる検査です。腰椎椎間板ヘルニアで腰神経の圧迫があると、下肢を持ち上げた際に強い下肢痛を生じ、陽性と判断されます。比較的客観性の高い検査です。
<参考>
【医師が解説】SLRとFNSテストはヘルニア後遺症認定のポイント
FNSテスト(大腿神経伸展テスト)
FNSテストとは、L2/3椎間板ヘルニアやL3/4椎間板ヘルニアで特異的に陽性になる検査です。患者さんにうつ伏せになってもらい、膝を曲げていきます。太ももの前に痛みやしびれが発生すると陽性です。
<参考>
【医師が解説】SLRとFNSテストはヘルニア後遺症認定のポイント
深部腱反射
ハンマーで患者さんの腱を叩く検査です。患者さんの意思に関係なく反応が現れる為、客観的な検査結果と解釈されます。
腰椎椎間板ヘルニアで圧迫される腰神経は、末梢神経に分類されます。末梢神経が圧迫されると、下肢の深部腱反射は低下します。
<参考>
【医師が解説】深部腱反射は12級の後遺症認定のポイント|交通事故
徒手筋力テスト(MMT)
患者さんの筋力を0から5までの6段階で評価するものです。5が正常で、0は筋肉の収縮すら確認できないという評価になります。
腰椎椎間板ヘルニアで腰神経が圧迫されると、神経を伝わって筋肉の収縮をおこすことができなくなります。その結果、筋肉が麻痺したり、筋萎縮(筋肉がやせて細くなる)を生じます。
また、知覚障害の範囲を調べることで、腰椎のどの神経が障害されているかを予測することが可能です。
例えばL5神経(Lは腰椎)であれば、下腿の外側から母趾にかけて、S1神経(Sは仙骨)であれば、足底といった感じです。
尚、これまでに述べた検査は、腰椎捻挫のための検査というよりは、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症で神経が圧迫されているかどうかを調べるための検査といえます。
<参考>
【医師が解説】徒手筋力検査は後遺症12級認定のポイント|交通事故
腰椎捻挫の症状がなかなか治らない理由
腰椎捻挫の症状がなかなか治らない理由として以下が考えられます。
- 既往症として変形性腰椎症や椎間板ヘルニアがある
- もともと腰は負担がかかる部位
既往症として変形性腰椎症や椎間板ヘルニアがある
交通事故前から無症状の変形性腰椎症や椎間板ヘルニアがあると、事故をきっかけにして痛みなどの症状が顕在化しやすいです。
もともと腰痛などの素因を抱えていたわけですから、一度発症した症状はなかなか治らなくなります。
もともと腰は負担がかかる部位
人間は2本足で歩きます。全体重が腰にかかるため、4本足の動物と比べて腰への負担が大きいです。
腰は常に負荷がかかる部位なので、一度発症した症状はなかなか治らなくなります。
腰椎捻挫に対する治療
通常の治療は保存療法が基本
腰椎捻挫に対して手術が行われることはありません。事故直後は安静にすることが治療の基本になります。
コルセットが処方される場合や痛みを和らげるために消炎鎮痛剤の湿布や塗り薬、内服薬が処方されることも多いです。痛みが収まってきたら徐々に活動性を高めていきます。
なかなか治らない腰椎捻挫の治療
ロキソニンなどの消炎鎮痛剤だけでは治療効果が無い場合、プレガバリンやミロガバリンという神経に直接作用する薬を処方するケースもあります。
腰椎捻挫では仕事を何日休む?
意外なことに、医学的には腰椎捻挫で休業は推奨されていません。長期間にわたる安静や休業は、むしろ社会復帰を遅らせる要因になります。
このため、私たち整形外科医は、なかなか治らない腰椎捻挫であったも、できる範囲で仕事することを推奨しています。
もちろん、重い症状の患者さんもいらっしゃるので、ある程度の安静や休業はやむを得ません。しかし、数ヶ月におよぶ休業は、医学的に証明できないことを知っておいて損はないと思います。
実務的に言っても、数ヶ月に及ぶ長期休業は、保険会社を過度に刺激するため要注意です。休業の必要性を医学的に証明できないので、訴訟になっても認定されない可能性が高いと考えておくべきでしょう。
腰椎捻挫は全治何ヶ月?
腰椎捻挫が全治するまでの期間は、2~3ヶ月が平均的です。一方、なかなか治らない場合には4~6ヶ月にも及びます。
6ヶ月以上治療しても症状が良くならないケースでは、症状固定して後遺障害が認定される場合があります。
腰椎捻挫で考えられる後遺症
14級9号:局部に神経症状を残すもの
局部とは、腰部を指します。神経症状とは、腰椎捻挫に由来する症状を指します。腰痛に留まらず、お尻の痛み、下肢のしびれや痛みなども含まれます。
将来においても、回復は見込めないと医師が判断した状態であること(症状固定)が前提になります。後遺障害診断書には、症状の常時性が必要で、天気が悪いときに痛いなどの症状では認定されません。
また、交通事故と本人の感じる後遺症状に因果関係が認められることが条件となるため、車体の損傷が少ない交通事故は非該当とされることが多いです。
また、情報は公開されていないものの、毎月の通院頻度が少ない場合や症状固定までの通院期間が短い場合も非該当となります。詳細な基準が公表されていない背景には、不正受給を排除する目的があるとされています。
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
局部とは、腰部を指します。神経症状とは、腰椎捻挫に由来する症状を指します。腰痛にかぎらず、お尻の痛み、下肢のしびれや痛みなども含まれます。
14級9号との大きな違いは、「障害の存在が医学的に証明できるもの」というフレーズです。12級13号認定のためには、まずレントゲンやMRIで客観的(他覚的)な異常所見があることが必須条件になります。
異常所見には骨折や脱臼はもちろんですが、その他にも椎間板ヘルニアや骨棘(頚椎加齢の変化)、椎間板高の減少(加齢による変性で椎間板の厚みが減少する)も含まれます。
神経や椎間板は、レントゲンには写らず、MRIを撮らないと評価ができないため、腰椎捻挫治療の過程で腰のレントゲンしか撮影されていない場合は、障害の存在を医学的に証明することが困難なケースが多いです。
そのため、症状が続いているのであれば、主治医と相談して、治療経過中に一度は腰椎MRI検査を検討することが推奨されます。
神経症状に関しても14級9号では、自覚症状(患者さんの訴え)としての痛みで良いのですが、12級13号では、より条件が厳しくなります。
自覚症状だけでは不十分で、筋力低下、筋肉の萎縮(やせて細くなる)、深部腱反射の異常などの客観的な症状が必要とされます。しびれ(知覚障害)の範囲も、損傷された神経の分布に一致している必要があります。
腰椎捻挫で行われる頻度は非常に低いですが、筋電図や神経伝導検査といった特殊な検査の異常値も客観的な所見に含まれます。
【12級13号】腰椎捻挫の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:46歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)
交通事故後に腰痛と右下肢に放散する痛みが持続していました。痛みのため、半年以上通院を余儀なくされましたが、症状は改善しませんでした。初回申請時には非該当と判定されました。
弊社の取り組み
弊社に相談があり、診療録を詳細に確認すると、受傷直後から腰椎椎間板ヘルニアに特徴的な「ラセーグ徴候陽性」と複数箇所に記載されていました。
MRIで、L4/5レベルに椎間板ヘルニア(矢印)を認め、患者さんの右下肢痛は椎間板ヘルニアが圧迫しているL5神経根の知覚領域と一致していました。
脊椎外科専門医が診療録を確認したところ、初回申請時に見落とされていたため、これらの所見を丁寧に医師意見書に記載しました。
初回申請時には、腰椎MRI画像で確認できる椎間板ヘルニアの所見が軽視されていたため、読影所見の補足も行いました。異議申立てを行ったところ12級13号が認定されました。
【14級9号】腰椎捻挫の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:39歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:14級9号(局部に神経症状を残すもの)
交通事故後に腰痛を自覚されていました。受傷から8ヵ月通院されましたが、頑固な腰痛は改善せず、後遺障害診断書が作成されましたが、非該当と判定されたため、弊社に相談がきました。
弊社の取り組み
画像を脊椎外科専門医が詳細に読影したところ、事故の後から、L4/5椎間板高の減少(椎間板がすり減って、高さが低くなる現象)が進行していることが明らかになりました。
これらの所見について、医師意見書を作成して異議申立てを行ったところ14級9号が認定されました。
【弁護士必見】腰椎捻挫の後遺障害認定ポイント
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号と比較すると、はるかに認定基準は厳しくなります。痛みが持続しているだけでは不十分で、「障害の存在が医学的に証明できるもの」という条件が必要になります。
具体的には腰のMRIで神経の圧迫があること。さらにその圧迫されている神経と実際の症状(知覚障害の範囲、深部腱反射の異常、ラセーグ徴候などの誘発テストが陽性であることなど)が一致していることが必須条件になります。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
14級9号は、救済等級としての位置づけでもあり、比較的広い範囲の患者さんが認定される可能性があります。
受傷から一定の期間(約半年が目安になります)通院されていて、その間の通院回数が一定の基準を超えていれば認定の可能性が高まります。
それ以外にも交通事故の規模や画像所見(腰椎のレントゲンやMRI)も参考にします。一番重要なことは、受傷直後から後遺障害診断書作成にいたるまで、症状に一貫性があることと、持続性があることです。
整骨院に通院しているだけでは不十分で、交通事故の直後から、後遺障害診断書作成に至るまで、定期的に病院やクリニックに通院していることが必須条件となります。
<参考>
【医師が解説】腰椎捻挫の後遺症が非該当になったらHIZの有無を確認
弁護士だけでは専門的な判断を行うことは難しいため、整形外科専門医との綿密な協議が必要になります。腰椎捻挫でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
<参考>
【日経メディカル】意見書で交通事故の後遺症が決まるってホント?
まとめ
腰椎捻挫の症状がなかなか治らない理由として以下が考えられます。
- 既往症として変形性腰椎症や椎間板ヘルニアがある
- もともと腰は負担がかかる部位
腰椎捻挫の症状がなかなか治らないケースでは、後遺障害の12級13号もしくは14級9号に認定される可能性があります。
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