交通事故で発生する外傷のひとつに剥離骨折(裂離骨折)があります。剥離骨折は比較的頻度の高い外傷で、痛みや関節の不安定性などの後遺症を残す可能性があります。
本記事は、剥離骨折の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/9/8
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剥離骨折(裂離骨折)とは
剥離骨折とは、靱帯や腱などの軟部組織が骨にくっついている部分に、外部から大きな力が加わって、引き剥がされて生じる骨折です。正式な傷病名は、剥離骨折ではなく裂離骨折です。
剥離骨折と骨折の違い
受傷機序の違い
剥離骨折は、靱帯や腱などの軟部組織が骨にくっついている部分の骨が、本来の場所から引き剥がれた状態です。 一方、一般的な骨折は、骨に大きな力が加わって折れてしまった状態です。
受傷する部位の違い
剥離骨折は、骨の端の一部が欠けたような状態です。 一方、一般的な骨折は骨のそのものが砕けている状態です。
症状の違い
剥離骨折は、一般的な骨折と比べて、痛みや腫れは軽度のケースが多いです。このため、骨折と気付かずに見逃されることも多いです。
剥離骨折で考えられる後遺症
膝関節後十字靭帯の剥離骨折の後遺症
下肢機能障害(動揺関節)
治療の結果、関節不安定性が残存した場合には「動揺関節」としての評価を受けます。
自賠責保険による等級認定では、画像所見(MRI検査+ストレス単純X線撮影)および「膝関節靭帯損傷による動揺性に関する所見についてのご質問」の記載内容で判断されます。
重労働や就労・運動に際して硬性補装具または軟性補装具を必要とする場合には、機能障害である12級7号に該当します。
複合靱帯損傷や膝関節骨折を合併する特殊な事例では、日常生活において硬性補装具を必要とする状況に至ることもあります。
その場合は硬性補装具の着用状況に応じ、関節の用を廃したもの(8級7号)や著しい機能障害(10級11号)に該当します。
下肢機能障害(可動域制限)
後十字靱帯損傷自体がその自然経過において関節可動域制限の原因となり得ることはありませんが、靭帯再建手術に伴い軽度の可動域制限をきたす事例が稀に存在します。
患側他動可動域が健側他動可動域の3/4以下に制限された場合には、関節機能障害として12級7号に該当します。
神経症状
後十字靱帯付着部骨折を合併している事例や、高度の不安定性により膝関節構成体の変性が起きた場合には、「神経症状(疼痛)」による12級13号や14級9号に該当する可能性があります。
足首の剥離骨折の後遺症
機能障害
12級7号:足関節の関節可動域が、健側の3/4以下に制限されたもの
後遺障害診断書の可動域記載欄に、このレベルの足関節の関節可動域制限が記載されている事案は比較的多いです。
しかし、足首の剥離骨折で機能障害が認定されることはほとんどありません。画像所見に乏しいので、異議申し立てするのであれば何らかの対策が必要でしょう。
神経障害
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
足首の剥離骨折の治療後に足首の痛みを残す事案は多いですが、残念ながら後遺障害等級認定の可能性は低いです。
疼痛の原因を他覚的に示すことができる(画像所見において変性所見が確認できる)場合には、12級13号に該当する可能性があります。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
手術の有無や治療経過、通院頻度などの要素を総合的に判断した結果、疼痛の原因が医学的に説明可能な場合には14級9号に該当する可能性があります。
手指(マレット骨折)の剥離骨折の後遺症
神経障害
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
手指の剥離骨折の治療後に指の痛みを残す事案はありますが、残念ながら後遺障害等級認定の可能性は低いです。
疼痛の原因を他覚的に示すことができる(画像所見において変性所見が確認できる)場合には、12級13号に該当する可能性があります。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
手術の有無や治療経過、通院頻度などの要素を総合的に判断した結果、疼痛の原因が医学的に説明可能な場合には14級9号に該当する可能性があります。
骨盤の剥離骨折の後遺症
神経障害
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
骨盤の剥離骨折の治療後に痛みを残す事案はありますが、残念ながら後遺障害等級認定の可能性は低いです。
痛みの原因を他覚的に示すことができる場合には、12級13号に該当する可能性があります。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
治療経過、通院頻度などの要素を総合的に判断した結果、痛みの原因が医学的に説明可能な場合には14級9号に該当する可能性があります。
剥離骨折が起こりやすい部位
剥離骨折は、足関節、膝関節、手指、骨盤などに生じやすいです。
足首の剥離骨折
通常は靭帯が切れますが、若年者では靭帯が切れるのではなく、靭帯に引き剥がされて剥離骨折を受傷するケースが多いです。
剥離骨折は、本質的には靭帯損傷と同じなので、足首の痛みや不安定性が後遺症として残る可能性があります。
<参考>
【医師が解説】足首靭帯損傷が後遺症認定されるポイント|交通事故
膝の剥離骨折(膝関節後十字靭帯損傷、PCL損傷)
膝関節の剥離骨折は、後十字靱帯(PCL)が脛骨にくっつく部分で発生します。後十字靱帯(Posterior Cruciate Ligament;PCL)は膝関節が後方に外れないように大腿骨と脛骨を繋いでいます。
後十字靱帯損傷を受傷すると、膝関節後方の安定性が失われます。その結果、膝の痛みやぐらつき(不安定性)の原因となります。放置すると、将来的に半月板損傷や変形性膝関節症に発展する可能性もあります。
本質的に、後十字靭帯損傷による剥離骨折は靭帯損傷と同じです。このため、剥離骨折が治癒しない場合には、膝の痛みや不安定性が後遺症として残る可能性があります。
<参考>
【医師が解説】後十字靭帯損傷(PCL損傷)の後遺症|交通事故
手指の剥離骨折(マレット骨折)
マレット変形とは、指のDIP関節の剥離骨折もしくは伸筋腱損傷で併発します。DIP関節が木槌のように曲がった状態になる変形です。
マレット変形では、DIP関節(第1関節)内で末節骨の一部が剥離骨折して生じる骨性マレットが多いです。放置すると、DIP関節(第1関節)を自力で伸ばせなくなる後遺症が残ります。
<参考>
【医師が解説】手、指の骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故
骨盤の剥離骨折
骨盤の剥離骨折は、上前腸骨棘や下前腸骨棘で発生しやすいです。交通事故ではなく、学生がスポーツ外傷として受傷することが多いです。
<参考>
【医師が解説】骨盤骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
剥離骨折は痛みが軽いので気づかないこともある
剥離骨折の痛みや腫れはそれほど強くないケースが多いため、軽い捻挫と思って、剥離骨折に気づかないこともあります。
剥離骨折の治し方
剥離骨折した部位によって治療方針が異なります。
足首の剥離骨折の治し方
足首の剥離骨折の保存療法
受傷直後はRICE(Rest:安静、Icing:冷却、Compression:圧迫、Elevation:挙上)療法を行います。
足首にシーネ固定、もしくは足関節装具をしたうえで体重をかけて歩いてもらいます。入浴時にはシーネ固定や装具を外すことが可能です。
足首の剥離骨折の手術療法
適切な保存療法を実施しても、足首の痛みやぐらつき(不安定性)が残ってしまう場合があります。このようなケースでは手術療法が必要です。
剥がれてしまった骨片を修復する手術や、別の部位から取ってきた移植腱を用いた靭帯再建術を行います。
膝の剥離骨折(膝関節後十字靭帯損傷、PCL損傷)の治し方
膝の剥離骨折(膝関節後十字靭帯損傷、PCL損傷)の保存療法
軽〜中等度の後十字靱帯損傷が保存療法の適応となります。リハビリテーションではまず大腿四頭筋の筋力訓練を行うことで膝関節の安定化を図り、靭帯の修復が進んだのちに大腿四頭筋に加えて関節周囲筋全般の強化を行います。
また、靭帯が修復されるまでの期間は靭帯の保護を目的として装具を着用します。従来では硬性装具が用いられていましたが、近年では膝関節支柱つきサポーターと呼ばれる軟性装具による治療が主流となっています。
膝の剥離骨折(膝関節後十字靭帯損傷、PCL損傷)の手術療法
剥離骨片が5mm以上ずれている(転位している)場合には、剥離した骨片を留める手術療法の適応となります。剥離骨片は、スクリューやワイヤー(軟鋼線)で固定するケースが多いです。
手指の剥離骨折(マレット骨折)の治し方
手指の剥離骨折(マレット骨折)の手術療法
マレット骨折では、基本的に手術が必要です。石黒法という皮膚を貫いて鋼線を骨内に刺入して固定する方法が有名です。
<参考>
【医師が解説】手、指の骨折が後遺症認定されるポイント|交通事故
骨盤の剥離骨折
骨盤の剥離骨折の保存療法
骨盤の剥離骨折に関しては、手術療法が行われるケースは多くなく、通常は保存的に経過観察します。
剥離骨折は全治何ヶ月?
剥離骨折の痛み自体は、数週間程度で軽快するケースが多いです。しかし、剥離骨折に気づかず放置していると、関節のぐらつき(不安定性)が残る可能性があります。
剥離骨折はくっつかないケースが多い
剥離骨折は小さな骨片なので、骨を栄養する血行に乏しいです。このため、通常の骨折と比べても骨癒合しにくいと言えます。
しかし、しっかり外固定していると、骨そのものはくっつかなくても周囲の瘢痕組織を介して母床にくっつきます。
【弁護士必見】剥離骨折の後遺障害認定ポイント
剥離骨折は、一般的な骨折と比べて、痛みや腫れは軽度のケースが多いです。このため、初診時には見逃されやすい骨折です。本質的には靭帯損傷なので、見逃されて放置されてしまった剥離骨折は、痛みや関節の不安定性を残しやすいです。
剥離骨折で想定しやすい骨折は14級9号ですが、画像検査で関節の不安定性が明らかに証明できる事案に関しては、12級以上の後遺障害が認定される可能性があります。
関節の不安定性を証明する手段は、剥離骨折の部位によって異なります。剥離骨折でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
剥離骨折の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では剥離骨折の後遺症が後遺障害に認定されるために、様々なサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害認定に足りない要素をレポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
初回事務所様は無料にて等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
また、異議申立てをご検討されている場合、意見書の作成や画像鑑定も承っております。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
意見書は診療録、画像検査、各種検査、そして後遺障害診断書などの事故関連資料も含めて総合的に検討します。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
画像鑑定ではレントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性について検討します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
剥離骨折の後遺症でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
まとめ
剥離骨折とは、靱帯や腱などの軟部組織が骨にくっついている部分に、外部から大きな力が加わって引き剥がされて生じる骨折です。
剥離骨折は、一般的な骨折と比べて、痛みや腫れは軽度のケースが多いです。このため、骨折と気付かずに見逃されることも多いです。
本質的には靭帯損傷なので、見逃されて放置されてしまった剥離骨折は、痛みや関節の不安定性を残しやすいです。
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