交通事故で発生する手足の外傷では、関節の可動域制限が残ることがあります。症状固定の際に関節可動域を測定しますが、自動運動と他動運動では後遺障害の審査に大きな違いがあります。
本記事は、後遺障害診断書に記載される自動運動と他動運動での関節可動域の違いを理解することで、後遺障害が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/10/14
Table of Contents
自動運動での関節可動域とは
自動運動とは、自分の意思で関節を動かすことをいいます。後遺障害診断書に記載する自動運動での関節可動域とは、自分の意思で動かすことのできる関節の可動域です。
通常は痛み無くスムーズに動かすことのできる関節可動域が、自動運動での関節可動域になります。
他動運動での関節可動域とは
他動運動とは、他人の力で関節を動かすことをいいます。後遺障害診断書に記載する他動運動での関節可動域とは、他人が動かすことのできる関節の可動域です。
被害者に痛みは我慢してもらって、何とか動かすことのできる関節可動域が、他動運動での関節可動域になります。
自動運動と他動運動で測定値に差が出る理由
痛み
交通事故の症状固定時に関節可動域を計測しますが、後遺障害診断書にには自動運動と他動運動を記載する必要があります。多くのケースで自動運動と他動運動の計測値は異なります。
通常は、自動運動よりも他動運動の方が大きくなります。その理由は、他動運動では痛みを我慢してもらって、限界まで関節を動かすからです。
神経麻痺
神経麻痺による筋力低下の低下ために、自動運動よりも他動運動の方が大きくなります。
軟部組織の癒着
関節周囲の軟部組織が癒着したり、関節を動かす腱が周囲の組織と癒着すると、、自動運動よりも他動運動の方が大きくなります。
自賠責認定基準の基本は他動運動による測定値
自賠責認定基準では、原則として他動運動での関節可動域の計測値が採用されます。その理由は、自動運動では交通事故被害者の恣意性が入る可能性があるからです。
もし、他動運動で計測するべきところを自動運動での関節可動域しか計測されていない場合には、等級認定の審査の俎上に乗りません。無条件に非該当になるので注意が必要です。
一方、弊社の経験では、他動運動での関節可動域も計測するように主治医へ後遺障害診断書が差し戻されたケースを散見します。
自動運動しか記載しない医師は滅多に居ないので全例差し戻されるかは不明ですが、そのような救済処置もあるようです。
自動運動による測定値が採用される特殊な例
他動運動による測定値を採用することが適切でないものについては、自動運動による測定値を参考にして後遺障害の認定を行います。
神経麻痺
例えば、末梢神経損傷を原因として関節を可動させる筋が弛緩性麻痺となり、他動では関節が可動するが、自動では可動できない場合です。
坐骨神経麻痺
股関節脱臼骨折に併発することが多いです。
<参考>
【医師が解説】骨盤骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
腓骨神経麻痺
坐骨神経麻痺と同じく股関節脱臼骨折や、脛骨高原骨折(脛骨プラトー骨折)に併発することが多いです。
<参考>
【医師が解説】腓骨神経麻痺の後遺症と後遺障害認定ポイント|医療鑑定
橈骨神経麻痺
上腕骨骨幹部骨折に併発することが多いです。
<参考>
【医師が解説】橈骨神経麻痺の後遺症と後遺障害認定ポイント|医療鑑定
腱損傷
何らかの事情で腱損傷が治療されなかった場合には、関節可動域は自動運動が採用されます。
<参考>
【医師が解説】伸筋腱断裂(手、足)の後遺症|交通事故
がまんできない程度の痛みが生じる
関節を可動させると、がまんできない程度の痛みが生じるために自動運動では可動できないと医学的に判断される場合には、関節可動域は自動運動が採用されます。
例えば、踵骨の高度の変形のために、歩行時に踵部を接地できない症例を散見します。このようなケースでは足関節を自動運動で伸展することが困難なことが多いです。
<参考>
【医師が解説】踵骨骨折の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
【弁護士必見】可動域における後遺障害認定ポイント
自動運動しか記載されていない後遺障害診断書への対策
後遺障害診断書に自動運動しか記載されていない事案をときどき見かけます。自動運動しか記載されていない理由として下記が考えられます。
- 単純な記載忘れ
- 主治医が後遺障害診断書の記載法を知らない
- 自分の主義や主張を変えない
上記の①②の理由で困ることはありません。主治医に記載不足であることを指摘すれば、他動運動での関節可動域を計測してくれます。
一方、③が理由である場合には少々困ったことになります。よくあるのが、外傷性変形性関節症を併発している事案です。このようなケースでは患者さん自身が痛みのために他動運動での計測を嫌がります。
そのような患者さんを数多く診てきた医師の中には、外傷性変形性関節症を併発している患者さんでは自動運動でしか関節可動域を測定しない人を散見します。
このような主治医に当たった場合には、最終的には第三者の医師に後遺障害診断書を記載してもらわざるを得ないケースもあります。
<参考>
【医師が解説】医師が診断書を書いてくれない理由と対処法|交通事故
自動運動による測定値の採用を主張する方法
自賠責実務で比較的経験するのは、「がまんできない程度の痛みが生じる」という理由で自動運動による測定値の採用を主張するケースです。
周知のように自賠責認定基準の原則は他動運動による測定値です。このため、自賠責保険に自動運動による測定値の採用を認めてもらうことは容易ではありません。
しかも、がまんできない程度の痛みが生じるために自動運動では可動できないと判断されるのは、医学的に判断される場合のみです。
この条件があるために、残念ながら弁護士の力だけ対応するのは非常に困難です。関節可動域でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
後遺障害の可動域測定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故や労災事故の後遺障害認定を成功させるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
後遺障害の可動域測定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
まとめ
交通事故で発生した関節の機能障害では、症状固定の際に関節可動域を測定します。関節可動域の測定値には自動運動と他動運動の2種類ありますが、原則的には他動運動での測定値が採用されます。
しかし、神経麻痺、腱損傷、がまんできない程度の痛みが生じるケースに関しては、自動運動での測定値が採用されます。
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