交通事故や業務中の災害で後遺障害が残ったら、多くの人が「労災保険と自賠責保険、どちらを使えばいいのか?」「同じ後遺症なのに等級が違うのはなぜ?」と疑問に思います。
実は、この二つの保険制度は、目的や認定基準、運用方法が大きく異なっており、後遺障害等級においても違いが生じやすいのです。
本記事では、労災と自賠責の制度の基本から、後遺障害の認定基準・等級の違い、具体的な症例の比較、そして両者の違いをどう受け止め、どのように対処すべきかを解説しています。
補償を最大限に活かすために、制度の本質と実務上のポイントを正しく理解しておきましょう。
最終更新日: 2025/6/25
Table of Contents
労災保険と自賠責保険の基本的な違い
労災と自賠責の制度目的の違い
労災保険は「労働者が業務中・通勤途中で被災した際の医療費や休業補償、障害・遺族補償」を国が担う公的制度です。
一方、自賠責保険は「自動車事故による他者への損害賠償責任を補償」する公的な性格を持つ強制保険です。
労災保険は労働者保護、自賠責保険は被害者救済という目的の違いが根底にあります。
給付内容・補償範囲の違い
労災保険は治療費や休業補償(基礎日額の60~80%)、後遺障害年金・遺族給付など幅広く補償しますが、支給額には障害等級や基礎日額に応じた上限があります。
自賠責保険は治療費や休業損害(100%支給、上限あり)、後遺障害逸失利益・慰謝料、死亡補償などを、法定上限内で支払います。仮渡金制度もあります。
労災保険では原則として慰謝料の支給はありませんが、障害特別支給金などの一時金や年金が支給されます。仮渡金制度は自賠責保険特有の制度です。
労災と自賠責の後遺障害等級が違う理由
後遺障害認定基準の共通点と相違点
労災と自賠責はどちらも等級の元となる「後遺障害等級表」を共通に採用していますが、認定基準には違いがあります。
法規上は、自賠責が労災基準に「準じる」ことになっています。しかし、実務上は、むちうちなどの神経障害、高次脳機能障害などで異なる評価が起こりやすいです。
認定機関の違い
自賠責の認定は、主治医の書類をもとに損害保険料率算出機構(調査事務所)が書面で行います。
労災では、労働基準監督署が、主治医や専門医の意見、被災者への面談・聴取を通じて多角的に審査します。
この機関構造の差が、後遺障害の認定結果に大きく影響を与えます。
審査方法が異なる
自賠責の認定は、基本的に書類審査(面談は外貌醜状のみに限定)でスピード重視です。
一方、労災では面談調査や医師による検査記録、多人数の情報を含む丁寧な審査が行われ、症状の裏付けや日常生活・労働との関係性が重視されます。
後遺障害認定基準の運用法が全く異なる
労災は労働能力への影響を重視して、日常生活や就労への支障も考慮されますが、医学的な証拠や診断書の内容も重要視されます。
必ずしも自覚症状だけで等級認定されるわけではなく、客観的な医学的所見が重視される点は、自賠責と共通しています。
労災と自賠責の後遺障害等級が違う具体例
高次脳機能障害
高次脳機能障害では、労災認定が自賠責より重い等級になるケースが多いです。
労災では主治医による詳細な機能評価や面談などで重篤度を重視して、自賠責では画像所見や認定基準に基づきやや抑制的に判断されやすい傾向があります。
また、労災が労働能力の喪失を重視して等級を判断するのに対して、自賠責は日常生活動作への影響を中心に評価するためです。
そのため、認知障害や行動障害など社会復帰や労働に大きく影響する症状があれば、労災の方が重く評価されやすい傾向があります。
その結果、同じ傷病でも労災のほうが上位等級(例:労災5級 → 自賠責7級)となるケースが珍しくありません。
神経障害(脊髄損傷)
脊髄損傷などの神経障害でも、労災は実際の日常生活や労働への影響を重視して審査されるため、自覚症状のみでも後遺障害認定される可能性があります。
一方、自賠責は検査や画像などの客観的証拠を基に厳密に判断するため、等級が低く出るか、認定されない可能性があります。
CRPS
CRPS(複合性局所疼痛症候群)は、痛み、腫脹、発汗変調など多様な症状が特徴です。
自賠責では厳格に評価される傾向があり、「関節拘縮」「骨萎縮」「皮膚変化」の3要件を満たさない後遺障害に認定されません。
一方、労災では主治医の所見や実生活への影響も含めて柔軟に運用されるため、自賠責より重い等級で認定されるケースがあります。
CRPSでも、労災と自賠責は基本的に同じ認定基準を用いますが、実際の運用では等級に差が出るケースが多いです。
労災と自賠責の後遺障害が違う事案の対処法【弁護士必見】
診断書や検査結果が自賠責の認定基準を満たしているか?
自賠責の後遺障害等級認定では、診断書や検査データが明確であることが重要です。
症状固定時点で神経症状や関節可動域など必須項目が正確に記載されているかを確認してください。
診断書への記載内容次第で、労災で認定された等級よりも、自賠責の認定等級が低くなるケースがあります。
後遺障害認定基準の解釈の違いを把握して対処法を検討する
労災と自賠責は同じ認定基準を使っているものの、解釈と運用には差があります。
労災は被災者救済の視点から柔軟な解釈をしやすく、自覚症状や日常生活への影響も加味されます。
これに対して、自賠責は医学的客観性や画像所見を重視する厳格な運用です。自賠責の審査法は減点方式と言ってもよいでしょう。
そのため、異議申立てや審査請求では、基準の“解釈の違い”を前提に、資料や説明を補うのが有効となります。
労災と自賠責の後遺障害認定の違いでお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
自賠責保険の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
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等級スクリーニング®
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等級スクリーニング®の有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニング®を承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング®】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
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弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
労災事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
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<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
自賠責保険の後遺障害認定でお悩みの患者さんへ
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労災と自賠責の後遺障害の違いでよくある質問
労災と自賠責に両方とも申請できる?
業務中や通勤途中の交通事故では、労災と自賠責の両方に申請が可能です。
しかし、同一の損害については調整が行われ、重複して全額が支給されるわけではありません。
後遺障害に関しては両方の申請が推奨されます。まず労災に申請して等級が認定された後に、自賠責に申請しましょう。
自賠責と労災のどちらが得ですか?
目的や支給内容が異なるため、一概にどちらが「得」とは言えません。自賠責は被害者救済に特化して、逸失利益や慰謝料補償が中心です。
一方、労災は補償範囲が広く、治療費・休業補償・障害給付に加えて、年金的な側面もあります。両保険を活用し、補完関係で最大限にカバーするのが望ましいです。
労災で後遺障害14級はいくら支給されますか?
労災で14級と認定されたら、障害補償一時金や障害特別支給金が支給されます。
会社に対して逸失利益や慰謝料を請求できるかは、別途民事訴訟等の手続きが必要です。
慰謝料の金額は、自賠責基準や裁判基準により異なります。
まとめ
労災保険と自賠責保険は、どちらも公的制度ですが、目的や補償内容に違いがあります。
労災は業務中・通勤中の労働者を対象にし、医療費や休業補償など幅広く支援します。
一方、自賠責は自動車事故の被害者を救済する強制保険で、治療費や慰謝料などを一定の上限内で補償します。
両者は同じ後遺障害等級表を用いても、認定機関や審査方法が異なるため、むちうちや高次脳機能障害などで等級に差が出ることが多くあります。
労災と自賠責の後遺障害等級が違っていて、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。尚、初回の法律事務所様は無料で承ります。
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