交通事故で脳に外傷を負うと、運動機能や感覚に障害が生じることがあります。これらの症状は比較的分かりやすいと言えます。
一方、軽度の高次脳機能障害は、パッと見る限りでは異常が無いように見えます。しかし、記憶力や注意力の低下、怒りっぽくなるなどの変化を認めるケースが多いです。
本記事では、一見しただけでは分かりにくい軽度の高次脳機能障害の症状や、後遺障害認定のポイントについて詳しく説明します。
最終更新日: 2024/10/15
Table of Contents
軽度の高次脳機能障害の具体的な症状
記憶障害の特徴
軽度の高次脳機能障害による記憶障害は、日常生活において様々な影響を及ぼします。例えば、物の置き場所を忘れてしまったり、同じことを何度も尋ねてしまうことがあります。
また、新しい情報を覚えるのが難しくなり、以前の出来事を思い出すことが困難になることもあります。記憶障害のために、日常生活や社会活動に支障をきたすことが多く、適切な対処が必要です。
注意障害の特徴
軽度の高次脳機能障害の注意障害は、集中力や注意力の低下が特徴です。具体的には、作業中に他の刺激に気を取られやすく、ミスが増えることがあります。
また、持続的な注意が難しく、長時間の作業が困難になることもあります。さらに、複数のタスクを同時に行うことが難しくなり、混乱することが多いです。
遂行機能障害の見分け方
軽度の高次脳機能障害による遂行機能障害は、計画や実行に関する障害が特徴です。具体的には、以下のような症状です。
- 段取りをつけることができない
- 時間通りに処理できない
- 待ち合わせ時間に遅刻してしまう
- 人に指示してもらわないと何もできない
- 約束を守れない
- 物事を最後まで行うことができない
以前と比べて、これらの症状のために日常生活や仕事において支障をきたすことが多くなれば、遂行機能障害を疑う必要があります。
社会的行動障害
軽度の高次脳機能障害による社会的行動障害では、感情や行動をその場の状況に合わせてコントロールできなくなることが特徴です。
具体的な症状としては、感情コントロールの低下、依存症、共感性の低下、固執性、意欲の低下、欲求コントロールの低下、反社会的行動、抑うつなどが挙げられます。
軽度の高次脳機能障害の概要
高次脳機能障害の発生原因
高次脳機能障害の発生原因は多岐にわたります。主な原因として、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)や頭部外傷(交通事故、転倒など)が挙げられます。
また、低酸素血症(酸素不足による脳細胞の損傷)や脳炎(ウイルスや細菌による感染症)も原因となります。
これらの要因が脳にダメージを与えて、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの症状を引き起こします。
高次脳機能障害の診断方法について
軽度の高次脳機能障害の診断には、まず脳の損傷を確認するためのMRI検査やCT検査などの脳画像検査が必要です。
次に、認知機能の低下を確認するために、問診や知能テスト(神経心理検査)を行います。
これらの検査結果を基に、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの症状が確認されれば、高次脳機能障害と診断されます。
<参考>
高次脳機能障害の診断基準
高次脳機能障害の診断基準は以下の通りです。
Ⅰ.主要症状等
- 脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている
- 現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である
Ⅱ.検査所見
- MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されている
- あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる
Ⅲ.除外項目
- 脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する
- 診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する
- 先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する
Ⅳ.診断
- Ⅰ〜Ⅲをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する
- 高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う
- 神経心理学的検査の所見を参考にすることができる
<参考>
高次脳機能障害ガイドライン
他の障害との違い
高次脳機能障害は、脳の損傷によって引き起こされる認知機能の障害です。これに対して、認知症、せん妄、うつ病は異なる原因で発症します。
例えば、認知症は主に加齢による脳の変性が原因であり、せん妄は急性の意識障害、うつ病は精神的な要因が主な原因です。
高次脳機能障害は、注意力や記憶力、感情のコントロール力などに問題が生じ、日常生活や社会生活が困難になることが特徴です。
これに対して、他の障害では、それぞれ異なる症状や影響を持ちます。
<参考>
軽度の高次脳機能障害でよくある質問
軽度症状に対するリハビリと治療法
高次脳機能障害のリハビリテーションでは、認知機能の回復や日常生活の改善を目指します。治療法には、作業療法や言語療法、心理療法などがあります。
これらの治療法は、患者の個別のニーズに合わせて調整する必要があり、継続的な治療が重要です。
家庭でのケアと工夫
高次脳機能障害の症状に対する家庭でのケアと工夫は、患者の生活の質を向上させるために重要です。
例えば、注意障害に対しては、静かな環境を整え、作業を単純化することが有効です。記憶障害には、カレンダーやメモを活用し、予定や重要な情報を視覚的に示すことが役立ちます。
さらに、社会的行動障害に対しては、感情のコントロールを助けるために、リラックスできる環境を提供し、成功体験を増やすことが推奨されます
就労支援と社会参加の方法
高次脳機能障害の方への就労支援としては、障害者職業総合センターやリハビリテーション施設が提供するプログラムがあり、個々の障害に応じた職務訓練や職場適応訓練が行われています。
また、社会参加を促進するためには、地域社会や企業との連携が重要であり、障害者が働きやすい環境を整えることが求められます。
周囲の理解を得る方法
高次脳機能障害の人が周囲の理解を得るためには、まず障害についての正しい知識を持つことが重要です。
家族や友人、職場の同僚に対して、具体的な症状やその影響を説明し、理解を求めることが必要です。
また、コミュニケーションを円滑にするために、ゆっくりと話す、メモを活用するなどの工夫も有効です。
【弁護士必見】高次脳機能障害の後遺障害認定ポイント
高次脳機能障害では、画像診断と後遺症が合致すれば、後遺障害が認定される可能性があります。画像所見と意識障害の確認が最初の関門で、特に意識障害の記録が重要です。
高次脳機能障害が何級に該当するのかは、「神経心理学的検査」「神経系統の障害に関する医学的意見」「日常生活状況報告」を総合的に判断します。
最近では意識障害の重視度は低下しており、総合的な判断が行われる傾向にあります。高次脳機能障害と身体性機能障害は一体として評価され、就労制限や日常生活の制限に基づき等級が決定されます。
一方、主観的要素が強い神経心理学的検査が争点になることが多く、訴訟では検査結果の解釈で対立が発生することもあります。
神経心理学的検査では学習効果が問題になることがありますが、専門医による医師意見書で反論可能であるケースが多いです。
さらに高次脳機能障害が後遺障害認定されるポイントを詳しく知りたい方は、以下のコラム記事にまとめています。ご参考にしていただければ幸いです。
<参考>
【医師が解説】高次脳機能障害の後遺症と後遺障害認定ポイント|医療鑑定
高次脳機能障害の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、高次脳機能障害の後遺障害認定を成功させるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
高次脳機能障害の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
まとめ
事故の後、脳に怪我を負うと、体の動きや感覚に影響が出ることがありますが、軽度の高次脳機能障害は見た目では分かりにくいです。
しかし、記憶力や注意力が低下し、物忘れがひどくなったり、怒りっぽくなることがあります。これらの症状は日常生活や社会活動に支障をきたすことが多いです。
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