肺挫傷(はいざしょう)とは、交通事故などで胸に大きな衝撃が加わった際に受傷するケガです。肺挫傷は、治療を受けても息苦しさなどの症状が残ることがあります。
本記事は、交通事故などで受傷した肺挫傷が、後遺障害に認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/12
Table of Contents
肺挫傷とは
肺挫傷とは、肺の組織が損傷して腫れや出血が生じた状態です。通常、肺挫傷では胸痛が起こり、息切れを感じることも多いです。
肺挫傷は、胸部のレントゲン検査やCT検査で診断されます。治療は、安静にして経過観察するケースが多いですが、酸素投与や人工呼吸器による呼吸補助を行うこともあります。
肺挫傷の症状
肺挫傷を受傷すると、主に以下の症状が出現します。
- 痛み
- 息切れ
肺挫傷による痛みは、胸壁(肋骨や胸膜)の損傷によって引き起こされます。息をする際に痛みを感じるのが主な症状ですが、ときどき呼吸が困難になることもあります。
受傷直後には症状が無いこともありますが、数時間が経過すると息切れが発生したり、症状が増悪することもあります。
肺挫傷の診断
肺挫傷の診断は、レントゲン検査やCT検査で行います。肺挫傷は肺の組織が損傷して腫れや出血が生じた状態なので、徐々に進行することがあります。
このため、呼吸時の痛みや息切れがある場合には、数時間後にレントゲン検査を再検することもあります。
手の指に取り付けるパルスオキシメーターという器械を利用して、血中の酸素量を測定します。パルスオキシメーターは、肺の機能を評価するのに有用です。
肺挫傷の治療
肺挫傷の治療は、安静での経過観察が基本です。痛みを和らげて呼吸を楽にするために、痛み止めを投与します。
呼吸状態が悪い場合には、呼吸機能が回復するまで、酸素を投与したり人工呼吸器を使用することもあります。
肺挫傷が治るまでの期間
肺挫傷が治るまでの期間はさまざまですが、軽度例は経過観察だけで3〜5日もすれば治るケースがあります。
一方、広範囲で損傷が激しい肺挫傷では、急性呼吸不全に陥って死亡する可能性があります。
肺挫傷で考えられる後遺障害
肺挫傷で考えられる後遺障害としては、以下の3つが考えられます。
- 呼吸機能障害
- 肋骨骨折による変形障害
- 肋骨骨折による神経障害
呼吸機能障害
肺挫傷などの呼吸器の障害では、原因となった傷病や臓器によって区別するのではなく、自賠責認定基準で定められた動脈血ガス分析の検査結果で後遺障害が認定されます。
動脈血ガス分析で得られた動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果によって、以下の後遺障害に認定されます。
動脈血酸素分圧が50Torr以下のもの
1級4号
呼吸機能の低下により常時介護が必要なもの
2級2号
呼吸機能の低下により随時介護が必要なもの
3級4号
上記2つに当たらないもの
動脈血酸素分圧が50Torrを超え60Torr以下のもの
1級4号
動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37Torr以上43Torr以下)外で、かつ呼吸機能低下のために常時介護が必要なもの
2級2号
動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外で、かつ呼吸機能低下のために随時介護が必要なもの
3級4号
動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外で、かつ上記2つに該当しないもの
5級3号
上記3つに該当しないもの
動脈血酸素分圧が60Torrを超え70Torr以下のもの
7級5号
動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外のもの
9級11号
上記に該当しないものは
動脈血酸素分圧が70Torrを超えるもの
11級9号
動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲外のもの
動脈血ガス分析以外の計測方法
原則として、呼吸器の後遺障害は動脈血ガス分析の計測結果(動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧)で後遺障害が等級認定されます。
ただし、
- スパイロメトリーの結果および呼吸困難の程度による判定
- 運動負荷試験の結果による判定
によって判定された後遺障害等級よりも、動脈血ガス分析により判定された後遺障害等級が低い場合には、①スパイロメトリー、または②運動負荷試験によって判定された後遺障害等級が認定されます。
交通事故被害者の立場にとっては、敗者復活戦のような位置付けと言えます。
<参考>
【医師が解説】内臓破裂の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
肋骨骨折による変形障害
12級5号:ろく骨に著しい変形を残すもの
肋骨骨折で変形障害が認定されるためには、裸になった時に胸郭の変形が明らかである必要があります。
神経障害
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
レントゲン検査やCT検査などの画像診検査で骨折が明らかな事案では、12級13号が認定されるケースもあります。
14級9号:局部に頑固な神経症状を残すもの
1か所程度の骨折では、単純X線像(レントゲン)やCTなどの画像診検査で骨折が認められても、14級9号認定にとどまる事案が多いです。
肋骨骨折の変わり種として、弊社では多発肋骨骨折に併発した肩関節周囲炎で14級9号に認定された事案の経験があります。
<参考>
【医師が解説】肋骨骨折の後遺症が後遺障害認定されるヒント|交通事故
【弁護士必見】肺挫傷の後遺障害認定ポイント
肺挫傷は後遺障害認定のハードルが高い
交通事故診療では、肺挫傷は比較的よく見かける胸部の外傷です。しかし、肺挫傷そのもので呼吸機能障害に認定される可能性は低いです。
受傷時にかなり高度な肺挫傷であっても、症状固定時の動脈血酸素分圧や動脈血炭酸ガス分圧が異常値を示すことは滅多にありません。
肺や小腸などの消化器は機能を回復する力が強いため、一部が損傷されても機能障害をきたしにくいことが原因だと考えられています。
<参考>
【日経メディカル】胸腹部臓器損傷は緊急手術しても後遺障害認定されにくい
肺挫傷では肋骨骨折の神経障害が現実的
肺挫傷の後遺障害では、肋骨骨折による神経障害14級9号が現実的でしょう。神経障害には12級13号もありますが、1か所程度の肋骨骨折では12級13号が認定されるケースは見かけません。
その理由は、肋骨が偽関節になっても大きな痛みを残すケースが少ないからです。確かに偽関節部の轢音は気持ち悪いですが、痛みはあまり出ないようです。
肋骨骨折を伴う肺挫傷が後遺障害に認定されるためには、レントゲン検査やCT検査などの画像検査で、肋骨骨折の偽関節や高度の転位を証明する必要があります。
<参考>
【弊社ホームページ】画像鑑定説明サイト
【医師が解説】画像鑑定が交通事故の後遺症認定で効果的な理由
肺挫傷の後遺障害認定でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
まとめ
肺挫傷とは、肺の組織が損傷して腫れや出血が生じた状態です。通常、肺挫傷では胸痛が起こり、息切れを感じることも多いです。
肺挫傷は、胸部のレントゲン検査やCT検査で診断されます。治療は、安静にして経過観察するケースが多いですが、酸素投与や人工呼吸器による呼吸補助を行うこともあります。
肺挫傷そのもので呼吸機能障害に認定される可能性は低いです。肺挫傷では肋骨骨折による神経障害(骨折部の痛み)の認定が現実的でしょう。
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