交通事故による腹部外傷で小腸を損傷すると、手術そのものは成功しても、その後の生活に大きな影響が残る可能性があります。
特に、嘔気・嘔吐、慢性的な下痢や体重減少といった後遺症は、日常生活や仕事に直結する深刻な問題です。
しかし、後遺障害の等級認定では、こうした実情が十分に反映されず、非該当や想定より低い等級になるケースも少なくありません。
そのようなときに有効なのが「異議申し立て」です。異議申し立てで実態を再評価してもらうことで、適正な等級に変更される可能性があります。
本記事では、小腸切除が非該当になる理由から、異議申し立ての手順、成功のための具体的な準備やポイントまで詳しく解説しています。
最終更新日: 2025/8/24
Table of Contents
小腸切除で非該当になる理由
小腸切除で非該当と判断されやすいケース
小腸を切除したにもかかわらず、後遺障害が非該当になるケースには2種類あります。まず1つ目は「小腸の狭窄を残すもの」です。
後遺障害に認定されるためには、レントゲン検査でケルクリングひだ像(多数の輪状ひだ)を認める必要がありますが、症状固定時期に実施されていないケースが多いです。
2つ目は、「小腸を大量に切除したもの」です。教科書的には、小腸の長さは約6メートルと言われています。しかし、実際には小腸の長さが4メートル未満の人も珍しくありません。
このため、切除した小腸の長さと残存している小腸の長さの整合性がなくなり、非該当とされるケースを散見します。
小腸切除の後遺障害認定基準(小腸を大量に切除したもの)
9級11号
残存する空腸及び回腸の長さが100cm以下になったもの
11級10号
残存する空腸及び回腸の長さが100cmを超え300cm未満となったものであって、消化吸収障害が認められるもの
人工肛門を増設したもの
5級3号
小腸の内容が漏出することにより、ストマ周辺または皮膚瘻周辺に著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
7級5号
人工肛門を装着したもののうち、第5級に該当するもの以外のもの
小腸切除の後遺障害認定基準(小腸皮膚瘻を残すもの)
5級3号
瘻孔から小腸の内容の全部または大部分が漏出するもののうち、皮膚瘻周辺に漏出による著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
7級5号
瘻孔から小腸の内容の全部または大部分が漏出するもの
7級5号
瘻孔から漏出する小腸の内容が100ml/日以上のもので、小腸内容が漏出することにより小腸皮膚瘻周辺に著しいびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの
9級11号
瘻孔から漏出する小腸の内容が100ml/日以上のもの
11級10号
瘻孔から少量ではあるが、明らかに小腸の内容が漏出する程度のもの
小腸切除の後遺障害認定基準(小腸の狭窄を残すもの)
11級10号:小腸の狭窄を残すもの
小腸の狭窄を残すものとは、下記の2つの条件を同時に満たすものを言います。
- 1ヶ月に1回程度、腹痛、腹部膨満感、嘔気、嘔吐などの症状がみとめられ
- 単純X線像において、ケルクリングひだ像(多数の輪状ひだ)が認められるもの
弊社の取り扱い事案の中でも、小腸の狭窄を残すものは争いになる事案が多いです。その理由は、単純X線像でのケルクリングひだ像を認めないケースが多いからです。
レントゲン検査でのケルクリングひだ像は、常に認められるわけではありません。腹痛、腹部膨満感、嘔気、嘔吐などの症状が出現した際に撮影しなければ描出できないケースが多いのです。
小腸切除の異議申し立て手順ガイド
異議申し立ての流れと必要書類
小腸切除後の後遺障害認定に納得できなかったら、異議申し立てが可能です。流れとしては、まず新たな診断書や追加の画像検査、医師意見書、画像鑑定報告書などを準備します。
加えて、事故後の経過や日常生活の困難についてまとめた陳述書も有効です。これらの書類を揃えて、異議申立書とともに提出します。
小腸切除の異議申し立ての申請先
交通事故の異議申立ての申請先は、初回の後遺障害認定方法によって異なります。
- 事前認定:加害者側の任意保険会社
- 被害者請求:自賠責保険会社
いずれも、損害保険料率算出機構内の自賠責損害調査事務所が審査を行います。
不服がある場合は、自賠責保険への異議申し立てだけでなく、紛争処理機構や最終的に裁判所へ訴える手段も認められています。
異議申し立ての費用と時間は?
異議申し立ての費用は、書類の取得費(診断書、画像検査など)や、弁護士への依頼料が発生します。申請から結果が出るまで2~4ヶ月かかることが一般的です。
小腸切除の効果的な異議申し立て準備
異議申し立てを効果的に進めるには、医師と密接に連携して、症状や生活への影響を第三者に分かりやすく証明できる、新たな医証を用意することが大切です。
診断書だけでなく、画像検査や栄養状態などの客観的データを揃えることで説得力が増します。弁護士のアドバイスを受けることも有効です。
小腸切除の異議申し立て成功のポイント【弁護士必見】
小腸切除が非該当になる原因を分析
小腸切除の認定で「非該当」になる大きな原因は、もともと小腸の長さが短い人や、小腸の狭窄を証明する客観的な画像所見が乏しいケースです。
<参考>
後遺障害の異議申し立て成功のポイント|交通事故の医療鑑定
小腸切除の後遺障害認定条件をクリア
小腸の狭窄を証明するには、レントゲン検査で、ケルクリングひだ像(多数の輪状ひだ)を認める必要があります。
この画像所見は、腹痛・腹部膨満感・嘔気・嘔吐などの症状が出現しているタイミングで撮影すると描出されやすい特徴があります。
特に、小腸の狭窄など、腸内容物の通過障害が生じている場合は、ガスの貯留がひだを目立たせるため、症状発現中の検査ほど認めやすいです。
症状がない時の撮影では認められない場合も多いため、症状出現時に画像検査を行うことが重要とされています。
<参考>
【日経メディカル】胸腹部臓器損傷は緊急手術しても後遺障害認定されにくい
異議申し立てでは新たな医証が必須
異議申立てを成功に導くには、初回提出時に足りなかった「新たな医証」が不可欠です。新たな診断書、画像検査、消化器専門医による医師意見書、画像鑑定など客観的なデータがあるほど有利です。
「新証拠がない異議申し立て」は後遺障害認定に結びつきにくいため、足りない検査や診断記録を補う医学的資料を集めることが重要です。
<参考>
小腸切除の後遺障害認定ポイント
小腸切除の後遺症が後遺障害認定されるポイントは、こちらのコラム記事でも紹介しています。是非、参照していただきたいと思います。
<参考>
小腸切除の後遺症が後遺障害認定されるポイント|交通事故の医療鑑定
小腸切除の異議申し立て成功事例(小腸に狭窄を残すもの)
- 被害者:38歳
- 事前認定:非該当
- 異議申立て:11級10号(小腸に狭窄を残すもの)
自動車乗車中に正面衝突して腸管穿孔を受傷しました。緊急で小腸切除を施行されて一命を取りとめたものの、腹部膨満感や嘔気が残存しましました。ところが腹部の単純X線像ではケルクリング像を認めないため非該当となりました。
等級スクリーニングを実施したところ、術後早期の画像検査しか無いことが判明しました。症状のある時に再検査したところ、ケルクリング像をみとめて11級10号が認定されました。
小腸切除の異議申し立て成功事例(小腸を大量に切除したもの)
- 被害者:45歳
- 事前認定:13級11号
- 異議申立て:11級10号(小腸を大量に切除したもの)
本事案では、残存した小腸の長さが180㎝であるものの切除100㎝であったため、消化吸収障害による13級11号との結果にとどまりました。
その理由は、一般的に小腸は約500~700cmであり、100cmしか切除されていないために、300㎝以上残存すると考えられたからです。
しかし小腸の長さには個人差があり、約300cmしかない人も存在します。消化器外科医による医師意見書を提出して、残存小腸が300㎝以下であることを主張したところ、11級10号が認定されました。
小腸切除の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で受傷した小腸切除の後遺症が、後遺障害に認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング®
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニング®は、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニング®の有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニング®を承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング®】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
小腸切除の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
小腸切除の異議申し立てでよくある質問
小腸切除で非該当とされたが、本当に異議申し立てで覆せるの?
小腸切除で「非該当」とされても、医学的根拠を補強して新たな証拠を提出すれば、異議申し立てが成功する可能性はあります。
ただし、成功率は全体で約13%程度とされており、新たな医証や検査結果の提出、専門医・弁護士の協力が不可欠です。
異議申し立ての際に提出するべき書類は何ですか?
異議申し立てでは、異議申立書とともに新しい後遺障害診断書、主治医や専門医による意見書、最新の画像検査結果、本人の陳述書などを提出します。
特に、後遺症の存在を証明でいる新たな医学的証拠の追加が重要です。医証の内容が認定結果を左右します。
小腸切除後に下痢や栄養吸収障害が残っているが、どう立証すればよい?
後遺障害認定の異議申し立てに際して、下痢や栄養障害の残存をカルテ、処方内容、検査データ、診断書、さらには医師意見書などで具体的に裏付けることが効果的です。
主治医が後遺障害認定に詳しくない場合、どうすればいい?
主治医が後遺障害認定に詳しくなくても、弁護士にサポートしてもらうことで、より適切な認定を受けられる可能性が高まります。
また、専門医へのセカンドオピニオンや、後遺障害申請に精通した医師に意見書を依頼する方法がもあります。
どのくらい小腸を切除すれば後遺障害等級が認定されるの?
後遺障害等級認定では、残存する小腸(空腸+回腸)が100cm以下では9級、100cmを超え300cm未満で消化吸収障害が認められれば11級とされます。
まとめ
小腸切除による後遺障害認定は、切除範囲や症状によって等級が分かれます。残存する小腸が100cm以下なら9級、100〜300cm未満で消化吸収障害があれば11級とされます。
人工肛門や小腸皮膚瘻、狭窄が残る場合も基準がありますが、画像所見が得られず非該当とされることも少なくありません。
その際は異議申し立てが可能で、新たな診断書や検査結果、医師意見書などを提出することが成功の鍵となります。
申請は自賠責や任意保険会社を通じて、2〜4ヶ月程度かかります。適正な認定を受けるためには、専門医や弁護士の協力、客観的な医証の準備が不可欠です。
小腸切除の後遺障害認定でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。尚、初回の法律事務所様は無料で承ります。
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