介護施設においては、高齢者の安全と尊厳を守ることが最も重要ですが、重大な事故が発生し、命を落とすケースもあります。
誤嚥や入浴中の事故、送迎ミスなど、予期せぬトラブルによって大切な家族を失ってしまったら、遺族の方々は深い悲しみと同時に「なぜ事故が起きたのか」「誰に責任があるのか」「損害賠償は請求できるのか」といった疑問や不安を抱えることでしょう。
本記事では、介護施設で発生した死亡事故の具体的な事例や、損害賠償の考え方、請求の流れ、そして法的なポイントまでをわかりやすく解説しています。
ご遺族の方が納得のいく形で真実に向き合えるよう、正しい知識と手続きを知っておくことが大切です。
最終更新日: 2025/6/15
Table of Contents
介護施設での死亡事故事例
誤嚥(ごえん)による窒息死
誤嚥事故は介護施設で一定数発生しており、一度発生すると窒息死や低酸素性脳症など重大な結果を招くことがあります。
介護施設において誤嚥リスクへの配慮が不十分だったとして、約2,000万円の損害賠償が命じられた判例があります。
入浴中の溺死
入浴介助中の事故では、浴槽での溺死や骨折などがあり、施設の安全配慮義務違反が認定されるケースもあります。
しかし、必ずしもすべての場合で、施設側の責任が認められるわけではありません。
例として、91歳女性が入浴後に不整脈性心肺停止となった事例で、施設側の管理不備が指摘され、死亡慰謝料や葬儀費用などが認められています。
送迎ミスによる死亡
千葉県のデイサービスでは、送迎運転手が利用者を降車させ忘れ、車内で死亡した重大事故が発生しました。
これは家族からの臨時依頼が伝達されず、施設内の確認体制が不十分だったことが原因とされ、二重チェックの必要性が再確認されています。
介護施設に請求できる損害賠償請求の項目
積極損害
積極損害とは、事故が原因で実際に支出を余儀なくされた費用です。介護事故では、治療費、入院・通院費、付き添い看護費、介護用品の購入費、入院雑費、通院交通費、葬儀費用など多岐に渡る項目が認められます。
特に死亡事故では葬儀費用や遺体搬送料も含まれます。これらは実費に基づき、事故との因果関係が認められる範囲で賠償対象となります。
消極損害
消極損害は、事故がなければ得られたであろう利益です。介護施設の利用者は通常就労していないため、主に「死亡逸失利益」、つまり生存していた場合に得られた年金などが対象となります。
死亡逸失利益については、年金収入の一部(生活費控除後の3割程度)が認められるケースが多いですが、具体的な割合や認定の有無は個別事案ごとに異なります。
慰謝料
慰謝料は事故によって被った精神的苦痛に対する賠償で、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料、遺族(近親者)慰謝料が含まれます。
入通院や後遺症の程度によって個別算定され、死亡慰謝料は1,000万円から2,000万円程度が相場とされます。
しかし、遺族固有の慰謝料も含めて総額が判断されるため、個別事案で大きく異なります。
介護施設の死亡事故における損害賠償金額は?
介護施設での死亡事故における損害賠償の総額は、治療費・葬儀費用・逸失利益・慰謝料などを合計したものです。
介護施設での死亡事故の損害賠償額は1,000万円以上となることが多く、重大な過失が認定されたケースは、2,000万円を超える例もあります。
特に誤嚥など重大事故の場合、賠償額が3000万円以上に上る判例も報告されています。
介護施設の死亡事故における法的な争点
事故と死亡との因果関係
事故と死亡との間には、法律上『相当因果関係』が必要とされ、単に事故がなければ死亡しなかったというだけでは足りません。
事故と死亡との間に医学的・社会的に合理的なつながりが認められる場合に限り、損害賠償責任が認められます。
介護施設や職員に過失があるのか
事故発生にあたって、施設や職員に「安全配慮義務」違反や注意義務違反があったかが過失の有無を判断する軸となります。
転倒事故では、施設側が歩行リスクを認識しながら適切な見守りや介助を怠った場合、過失が認定されます。
実際には、損害賠償請求の相手方は主に施設(法人)となることが多く、職員個人への請求は稀です。
介護施設の死亡事故における損害賠償請求方法
損害賠償請求のプロセス
まず、内容証明郵便などで施設側へ損害賠償の意思表示を行い、示談交渉に入ります。交渉で合意できなければ、裁判所での調停、最終的には訴訟へと進むことになります。
示談は比較的迅速・非公開に解決できるメリットがありますが、不成立時には調停や裁判という公式手続きに進む必要があります。
必要な書類と証拠収集
損害賠償請求を支えるためには、事故報告書、診断書、治療記録、通院交通費領収書、葬儀費用明細などの書類が不可欠です。
さらに、事故当時の写真、目撃証人の証言、録音や介護記録も有力な証拠となります。これらの証拠を適切に整理・保管することが、示談や裁判での説得力を高めます。
賠償請求の期限と注意点
介護事故における損害賠償請求権は、不法行為に基づくもので、原則として事故発生または損害および加害者を知ったときから3年、かつ損害発生から20年以内に行う必要があります。
また、示談交渉が長期化すると施設側に有利となる恐れがあるため、早めの手続き開始が重要です
裁判による解決とそのリスク
示談や調停が不成立の場合、訴訟を提起できますが、訴訟費用や弁護士費用がかかり、審理には1年以上、場合によっては2~3年かかるリスクがあります。
また、判決による和解が調達されるまで手間と時間が必要で、対応に不慣れな当事者には心的・経済的負担が大きくなります。
メディカルコンサルティングができること
介護事故についての医療調査
介護事故における医療的な争点は、被害者側、介護施設側とも詳細をつかみにくいのが現実です。不毛な争いを防ぐためには、第三者による、医療調査の実施が望ましいです。
弊社では、ほぼすべての科の事案で、介護事故に関する医療調査(意見書作成可否調査)が可能です。詳細は、以下のコラム記事をご確認ください。
<参考>
医療事故における医療調査の基本内容とは?費用も解説|医師意見書
医療調査できる診療科一覧
弊社では、以下のようにほぼ全科の医療調査を実施できます。
- 整形外科
- 脳神経外科
- 耳鼻咽喉科
- 眼科
- 消化器外科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科
- 産婦人科
- 泌尿器科
- 脳神経内科
- 循環器内科
- 消化器内科
- 呼吸器内科
- 腎臓内科
- 血液内科
- 小児科
- 放射線科
- 精神科
- 皮膚科
- 形成外科
- ⻭科
- 麻酔科
- 救急科
- 感染症科
- ペイン科
- 病理
訴訟で使用する医師意見書
意見書作成可否調査で、介護事故に医療的な問題が存在することが判明した場合、各科の専門医による顕名の医師意見書を作成することが可能です。
介護事故の可能性がある事案で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
<参考>
医療訴訟の医師意見書|160名の各科専門医による圧倒的実績
医師意見書の作成にかかる費用
医療調査(意見書作成可否調査)
訴訟用の医師意見書を作成できるのかを判断するために、医療調査(意見書作成可否調査)を必須とさせていただいています。
意見書作成可否調査では、各科の専門医が、診療録や画像検査などの膨大な資料を精査いたします。
概要 | 価格 |
基本料 | 140,000円 |
動画の長い事案 | 170,000円 |
追加質問 | 45,000円 / 回 |
※ すべて税抜き価格
※ 意見書作成には医療調査(意見書作成可否調査)が必須です
※ 意見書作成には別途で意見書作成費用がかかります
※ 意見書作成に至らなくても医療調査の返金は致しません
医師意見書
医療調査(意見書作成可否調査)の結果、医師意見書を作成する際には、別途で医師意見書作成費用がかかります。
概要 | 価格 |
一般の科 | 400,000円~ |
精神科 | 450,000円~ |
心臓血管外科 | 500,000円~ |
施設(老健、グループホームなど) | 350,000円~ |
弊社が訴訟で医師意見書を作成した実例
弊社には全国の法律事務所から訴訟の相談が寄せられます。これまで下記のような科の医師意見書を作成してきました。
- 脳神経外科
- 脳神経内科(神経内科)
- 整形外科
- 一般内科
- 消化器外科
- 消化器内科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科(成人)
- 心臓血管外科(小児)
- 循環器内科
- 産科
- 婦人科
- 泌尿器科
- 精神科
- 歯科
介護施設における死亡事故の損害賠償でよくある質問
介護事故の慰謝料の相場はいくらですか?
介護事故における慰謝料は、事故の内容や被害の重さで異なります。入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、そして死亡慰謝料があり、死亡事故では1,000万~2,000万円が一般的です。
後遺障害が残った場合は等級に応じて110万~2,800万円と幅があります。具体的な相場は、交通事故の基準を参考にしつつ、個別の事情を加味して弁護士が算定します。
介護事故で職員が負う責任は?
介護施設の事故では、職員個人の法的責任が問われる場面もあります。民事では不法行為責任や使用者責任、刑事では業務上過失致死傷罪や保護責任者遺棄罪が適用される可能性があります。
しかし、実務上は施設側が中心的に責任を負い、職員への個別の賠償請求は稀です。道義的な謝罪義務と法的責任は異なり、どちらも理解しておくことが重要です。
まとめ
介護施設での死亡事故には、誤嚥による窒息や入浴中の溺死、送迎ミスなどがあり、施設の管理不備や職員の注意義務違反が問われます。
損害賠償には治療費・葬儀費・逸失利益・慰謝料などが含まれ、総額は1,000万〜2,000万円超になることもあります。
損害賠償請求には事故との因果関係の証明や証拠収集が必要で、交渉が決裂すれば裁判に発展します。
施設側の法的責任が中心となりますが、職員個人が責任を問われる可能性もあります。
介護事故の訴訟で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
尚、個人の方は、必ず弁護士を通じてご相談ください。個人の方からの直接のお問い合わせは、固くお断りしております。
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