交通事故による後遺障害の賠償請求を考えたとき、「素因減額」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
素因減額とは、被害者側に元々あった要因が、損害の拡大に影響を与えた場合に、加害者の賠償責任が一部減額される仕組みのことです。
しかし、具体的にどのようなケースで適用されるのか、また、その割合はどのように決まるのかは分かりにくい部分も多いでしょう。
本記事では、素因減額の基本概念から、具体的な割合、疾患ごとの影響、さらには主張された場合の対処法まで詳しく解説します。
適用条件や制約について正しく理解して、不当な減額を防ぐための知識を身につけましょう。
最終更新日: 2025/3/3
Table of Contents
素因減額とは?
素因減額の基本概念
素因減額とは、交通事故の被害者が事故前から有していた要因(素因)が、事故による損害の発生や拡大に寄与した時に、その寄与分を考慮して損害賠償額を減額する仕組みです。
素因減額は、被害者の既往症や性格的傾向が損害の程度に影響を及ぼすと判断される際に適用されます。
<参考>
既存障害と既往症の違いは?後遺障害への影響や対処法を解説
心因的要因による素因減額
被害者の性格や心理的傾向などの心因的要因が、事故後の症状の悪化や治療期間の延長に影響を及ぼすと、素因減額が適用されることがあります。
例えば、軽度の事故にもかかわらず長期間の治療が続く場合や、他覚的所見がないにもかかわらず強い自覚症状を訴えるケースなどが該当します。
身体的素因による素因減額
被害者が事故前から持っていた身体的特徴や既往症が、事故による損害の拡大に寄与した場合、素因減額が適用される可能性があります。
ただし、単なる身体的特徴や年齢の変化ではなく、「疾患」といえる状態であることが必要です。
例えば、椎間板ヘルニアなどの既往症があるケースでは、後遺症との因果関係が認められれば、素因減額の対象となる可能性があります。
素因減額を主張されやすいケースは?
素因減額が主張されやすいのは、被害者に既往症や身体的・精神的特徴があり、それが事故による損害の拡大に寄与していると判断される場合です。
具体的には、事故前からの持病や精神疾患があり、事故後の症状悪化や治療の長期化に影響を及ぼしていると考えられるケースが該当します。
加害者側は、これらの要因を根拠にして、損害賠償額の減額を主張する可能性があります。
素因減額の具体的な割合とは
素因減額は示談交渉や訴訟で決まる
素因減額の具体的な割合は、示談交渉や訴訟において決定されます。被害者の既往症や体質が損害の拡大に寄与すると、加害者側の保険会社が素因減額を主張する可能性があります。この主張が受け入れられると、損害賠償額が減額されます。
素因減額の判断基準
素因減額が適用されるかどうかは、被害者の既往症や体質が事故による損害の発生や拡大にどの程度寄与したかによります。
具体的には、以下の2点が立証される必要があります。
- 被害者の身体的特徴が「疾患」に該当して、事故と共に発症の原因となった
- その疾患を考慮しないと、損害の公平な分担に反する
疾患毎に素因減額の割合は決まっている?
素因減額の具体的な割合は、個々の事案の状況により異なります。具体的な減額率は、裁判所が事案ごとの事情を考慮して判断します。
<参考>
【日経メディカル】交通事故で悪化した既往症について回る「素因減額」とは?
素因減額を主張されやすい疾患
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは、椎間板の一部が突出して、神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす疾患です。
事故前からこの疾患を持っている場合、事故による症状の悪化が既存のヘルニアによるものと判断されて、素因減額が主張される可能性があります。
<参考>
素因減額でヘルニアの賠償金が減額される?対処法を解説|交通事故
変形性頚椎症
変形性頚椎症は、加齢などにより頚椎の椎間板や椎間関節が変性して、骨棘(骨のとげ)が形成される疾患です。
無症状の場合もありますが、変形が進行すると神経根症状や脊柱管狭窄症を引き起こすことがあります。
事故前からこのような変性が認められる場合、症状の原因が既存の変性によるものとされて、素因減額が主張される可能性があります。
変形性腰椎症
変形性腰椎症は、腰椎の椎間板や椎間関節の変性により、骨棘が形成される疾患です。
高度な変形が進行すると、慢性的な腰痛や可動域の制限、さらには神経根症状や脊柱管狭窄症を引き起こすことがあります。
事故前からこのような変性が存在する場合、症状の一部が既存の変性によるものと判断されて、素因減額が主張される可能性があります。
後縦靭帯骨化症(OPLL)
後縦靭帯骨化症(OPLL)は、脊柱の後縦靭帯が骨化して、脊髄や神経根を圧迫する疾患です。この疾患があると、軽微な外傷でも症状が顕著に現れる可能性があります。
事故前からOPLLが存在する場合、症状の悪化が既存の骨化症によるものとされて、素因減額が主張される可能性があります。
<参考>
後縦靭帯骨化症(OPLL)の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症は、脊柱管が狭くなり、神経を圧迫することで痛みやしびれを引き起こす疾患です。
加齢や変性により発症することが多く、事故前からこの疾患があると、事故による症状の悪化が既存の狭窄症によるものと判断されて、素因減額を主張される可能性があります。
素因減額が主張されたときの対処法
素因減額の立証責任は加害者側にある
素因減額を主張する際の立証責任は、加害者側にあります。つまり、被害者の既往症や体質が損害の発生や拡大に寄与したことを、加害者側が証明しなければなりません。
被害者としては、安易に素因減額を受け入れるのではなく、加害者側の主張や証拠を慎重に確認することが重要です。
素因減額の内容を確認する
加害者側から素因減額が主張されたら、その具体的な内容を詳細に確認しましょう。
どのような既往症や体質が問題とされているのか、また、それがどの程度損害に影響を及ぼしたと主張されているのかを把握することで、適切な反論や対応が可能になります。
<参考>
【日経メディカル】交通事故で悪化した既往症について回る「素因減額」とは?
素因減額を否定する
被害者としては、加害者側の主張に対して、以下のような反論を行うことが考えられます。
- 指摘された既往症や体質が、実際には損害の発生や拡大に寄与していない
- 加害者側の主張する素因が、医学的に「疾患」とは認められない
これらの反論を行うためには、医療記録や専門医の医師意見書などの証拠を収集・提出することが有効です。
<参考>
【日経メディカル】意見書で交通事故の後遺症が決まるってホント?
素因減額の割合を減らす
仮に素因減額が認められる場合でも、その減額割合を最小限に抑える努力が重要です。
被害者の既往症や体質が損害に与えた影響が限定的であることを主張して、適切な医学的証拠や専門医による医師意見書を提出することで、減額割合の引き下げを目指します。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
素因減額と過失相殺の関係
素因減額と過失相殺は、いずれも損害賠償額を減額する要因ですが、その性質は異なります。
過失相殺は、事故の発生自体に被害者の過失が認められる場合に適用されるのに対して、素因減額は、被害者の既往症や体質が損害の拡大に寄与した場合に適用されます。
実務上、まず素因減額を行い、その後に過失相殺を適用する順序が一般的です。
既往症より交通事故の影響が大きいことを証明する
素因減額を避けるためには、事故の影響が既往症の影響を上回っていることを立証することが求められます。
被害者は、事故と後遺症の因果関係を明確にして、既往症が後遺症の悪化に関与していない、またはその影響が軽微であることを医学的に証明する必要があります。
訴訟において、既往症が後遺症にどの程度影響を及ぼしたかが主要な争点となりますが、医学的にその具体的な割合を示すことは容易ではありません。
弊社の医師意見書では、若杉判定基準を用いて寄与度の評価を数値で算出しています。お困りの事案があれば、こちらからお気軽にご相談下さい。
素因減額の解決事例(OPLL)
- 被害者:70歳
- 等級認定:2級1号
- 加害者側保険会社が素因減額50%を主張
- 素因減額20%で和解成立
コメント
歩行中に自動車にはねられた結果、ほぼ寝たきりの状態になりました。自賠責保険では2級1号の後遺障害等級認定されましたが、加害者側保険会社がOPLLの既往を指摘して素因減額50%を主張しました。
脊椎脊髄外科専門医が、靭帯骨化の脊柱管内占拠率、OPLLの自然経過、各種ガイドラインを引用して素因減額は16%である医師意見書を作成した結果、素因減額20%で和解成立しました。
交通事故の素因減額でお困りの事案で弊社ができること
弁護士の方へ
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等級スクリーニング
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等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
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<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
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<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
交通事故の素因減額でお悩みの被害者家族の方へ
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素因減額の割合や疾患でよくある質問
既往症の素因減額とは?
素因減額とは、被害者が事故前から持っていた既往症や体質(素因)が、事故による損害の拡大に寄与したと判断されると、損害賠償額からその寄与分を減額することです。
例えば、事故前から椎間板ヘルニアを患っていたら、事故による症状の悪化が既存のヘルニアによるものとされ、損害賠償額が減額される可能性があります。
過失割合85対15とはどういう意味ですか?
過失割合とは、交通事故の当事者双方の責任の度合いを数値で表したものです。「85対15」という過失割合は、一方の当事者に85%、もう一方の当事者に15%の過失があることを示しています。
この場合、過失が85%の当事者は、相手方の損害の15%を負担して、過失が15%の当事者は、相手方の損害の85%を負担することになります。
まとめ
素因減額とは、交通事故の損害賠償において、被害者がもともと持っていた病気や体質が事故の影響を大きくした場合に、その分だけ賠償額が減額される仕組みです。
例えば、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの持病があると、事故の影響だけで悪化したとは言えず、損害の一部が既存の病気によるものと判断される可能性があります。
素因減額を主張されたら、加害者側がその証明をする責任を負います。被害者としては、事故による影響の方が大きいことを証明するために、医師意見書や診断書を用意して、医学的根拠を示すことが重要です。
素因減額を回避するには、交通事故の影響が大きいことを医学的に証明して、適切な反論を行うことが重要です。
素因減額が問題になっている事案では、医師意見書や画像鑑定報告書が解決策になる可能性があります。お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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