軽い追突事故でも腰痛や足のしびれを発症することは珍しくありません。交通事故で受傷した骨折の無い腰のケガを、腰椎捻挫(ようついねんざ)と言います。
腰椎捻挫は、レントゲン検査やMRI検査で異常所見が出にくいという特徴があります。画像検査で異常を指摘できないのに腰痛が出る原因は何なのでしょうか。
本記事は、軽い追突事故でも腰痛や足のしびれを発症する原因と治療法を、分かりやすく解説しています。
最終更新日: 2024/5/16
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腰椎捻挫とは
腰の部分の背骨を「腰椎」と呼びます。腰椎は全部で5つあります。一般的に腰椎捻挫は、外部から強い衝撃が腰椎に伝わり、骨の周囲にある筋肉や靭帯、軟骨が損傷した状態を言います。
軽い追突事故でも腰痛や足のしびれを発症する具体例
一般的な腰椎捻挫は、運転中や停車中に車が追突することで、運転手もしくは同乗者に強い衝撃が加わり、受傷するケースが多いです。
しかし、必ずしも腰椎捻挫は強い衝撃で発症するわけではありません。軽い追突事故でも、衝突を防御する体勢をとれず、不意に追突されることで発症するケースが多いです。
腰椎捻挫の症状
腰椎捻挫の症状で最も多いのは腰痛です。腰痛以外の症状として、下肢(足)の痛みやしびれを発症するケースがあります。
下肢の痛みやしびれの症状を、坐骨神経痛(ざこつしんけいつう)と呼びます。坐骨神経は、幾つもの神経が集まった束のようなもので、腰から足の先まで電線のように下肢の内部を走行しています。
そのため、腰やおしりから太ももの後ろ側、ふくらはぎにかけて広範囲に痛みやしびれを発症します。
腰椎捻挫の画像診断
交通事故の直後から腰の痛みや足の痛み、しびれが続いている場合、医師は腰椎捻挫と診断します。腰椎捻挫では、腰のレントゲンやMRIで異常を認めないケースもたくさんあります。
腰椎捻挫の診断に、レントゲン検査やMRI検査の異常所見は必須ではありません。腰椎の画像検査で異常がなかったとしても、事故の直後から腰痛が持続しているのであれば、腰椎捻挫と診断されます。
尚、椎間板(軟骨)はレントゲンに写らないため、レントゲンでは診断ができません。
腰椎捻挫の検査所見
腰椎捻挫で、カルテや診断書に記載されることの多い検査所見には以下のものがあります。
ラセーグ徴候(SLRテストと同義)
ベッドの上に患者さんに仰向けで横になってもらい、膝を伸ばした状態で下肢を持ち上げる検査です。腰椎椎間板ヘルニアで腰神経の圧迫があると、下肢を持ち上げた際に強い下肢痛を生じ、陽性と判断されます。比較的客観性の高い検査です。
<参考>
【医師が解説】SLRとFNSテストはヘルニア後遺症認定のポイント
深部腱反射
ハンマーで患者さんの腱を叩く検査です。患者さんの意思に関係なく反応が現れる為、客観的な検査結果と解釈されます。
腰椎椎間板ヘルニアで圧迫される腰神経は、末梢神経に分類されます。末梢神経が圧迫されると、下肢の深部腱反射は低下します。
<参考>
【医師が解説】深部腱反射は12級の後遺症認定のポイント|交通事故
徒手筋力テスト(MMT)
患者さんの筋力を0から5までの6段階で評価するものです。5が正常で、0は筋肉の収縮すら確認できないという評価になります。
腰椎椎間板ヘルニアで腰神経が圧迫されると、神経を伝わって筋肉の収縮をおこすことができなくなります。その結果、筋肉が麻痺したり、筋萎縮(筋肉がやせて細くなる)を生じます。
また、知覚障害の範囲を調べることで、腰椎のどの神経が障害されているかを予測することが可能です。
例えばL5神経(Lは腰椎)であれば、下腿の外側から母趾にかけて、S1神経(Sは仙骨)であれば、足底といった感じです。
尚、これまでに述べた検査は、腰椎捻挫のための検査というよりは、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症で神経が圧迫されているかどうかを調べるための検査といえます。
<参考>
【医師が解説】徒手筋力検査は後遺症12級認定のポイント|交通事故
軽い追突事故の腰椎捻挫を放置してはいけない3つの理由
軽い追突事故の腰椎捻挫を放置してはいけない理由には、以下の3つがあります。
- 症状が強くなるのは翌日以降
- 事故との因果関係を否定される可能性がある
- 腰椎捻挫の後遺症が残っても後遺障害に認定されない
症状が強くなるのは翌日以降
腰痛や足のしびれなどの症状が強くなるのは翌日以降のケースが多いです。このため、交通事故当日には症状が軽くても、医療機関を受診する方が望ましいです。
医療機関では、症状に応じて痛み止め(消炎鎮痛剤)を処方されます。受傷早期から消炎鎮痛剤を飲み始めると、軟部組織の炎症を抑えられて治療期間を短くできる可能性があります。
事故との因果関係を否定される可能性がある
例えば、交通事故に遭ってから2週間ほど放置していた場合には、保険会社から事故と無関係な治療とみなされる可能性があります。
日常診療では、このような患者さんが意外なほど多いと感じています。しかし、事故から2週間も受診していない事実は変えようがありません。事故に遭ったら、一刻も早く医療機関を受診しましょう。
腰痛や足のしびれなどの後遺症が残っても後遺障害に認定されない
腰椎捻挫をしっかり治療しても、腰痛や足のしびれなどの後遺症が残る可能性があります。
その場合には、自賠責保険に後遺障害申請しますが、受傷してから3日以内に受診していないと、後遺障害に認定される可能性が著しく低下します。
自賠責保険の後遺障害認定の観点からも、交通事故に遭ったらすぐに医療機関を受診する必要があります。
<参考>
【医師が解説】腰椎捻挫の後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
腰椎捻挫に対する治療
軽い追突事故で発症した腰椎捻挫であっても放置してはいけません。腰椎捻挫の治療の基本は、薬物療法や物理療法などの保存療法です。
痛みを和らげるために、消炎鎮痛剤、湿布、塗り薬が処方されます。また、腰の安静を図るためにコルセットが処方されるケースもあります。痛みが収まってきたら、少しずつ活動性を高めていきます。
腰椎捻挫で考えられる後遺症
14級9号:局部に神経症状を残すもの
局部とは、腰部を指します。神経症状とは、腰椎捻挫に由来する症状を指します。腰痛に留まらず、お尻の痛み、下肢のしびれや痛みなども含まれます。
将来においても、回復は見込めないと医師が判断した状態であること(症状固定)が前提になります。後遺障害診断書には、症状の常時性が必要で、天気が悪いときに痛いなどの症状では認定されません。
また、交通事故と本人の感じる後遺症状に因果関係が認められることが条件となるため、車体の損傷が少ない交通事故は非該当とされることが多いです。
また、情報は公開されていないものの、毎月の通院頻度が少ない場合や症状固定までの通院期間が短い場合も非該当となります。詳細な基準が公表されていない背景には、不正受給を排除する目的があるとされています。
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
局部とは、腰部を指します。神経症状とは、腰椎捻挫に由来する症状を指します。腰痛にかぎらず、お尻の痛み、下肢のしびれや痛みなども含まれます。
14級9号との大きな違いは、「障害の存在が医学的に証明できるもの」というフレーズです。12級13号認定のためには、まずレントゲンやMRIで客観的(他覚的)な異常所見があることが必須条件になります。
異常所見には骨折や脱臼はもちろんですが、その他にも椎間板ヘルニアや骨棘(頚椎加齢の変化)、椎間板高の減少(加齢による変性で椎間板の厚みが減少する)も含まれます。
神経や椎間板は、レントゲンには写らず、MRIを撮らないと評価ができないため、腰椎捻挫治療の過程で腰のレントゲンしか撮影されていない場合は、障害の存在を医学的に証明することが困難なケースが多いです。
そのため、症状が続いているのであれば、主治医と相談して、治療経過中に一度は腰椎MRI検査を検討することが推奨されます。
神経症状に関しても14級9号では、自覚症状(患者さんの訴え)としての痛みで良いのですが、12級13号では、より条件が厳しくなります。
自覚症状だけでは不十分で、筋力低下、筋肉の萎縮(やせて細くなる)、深部腱反射の異常などの客観的な症状が必要とされます。しびれ(知覚障害)の範囲も、損傷された神経の分布に一致している必要があります。
腰椎捻挫で行われる頻度は非常に低いですが、筋電図や神経伝導検査といった特殊な検査の異常値も客観的な所見に含まれます。
【12級13号】腰椎捻挫の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:46歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)
交通事故後に腰痛と右下肢に放散する痛みが持続していました。痛みのため、半年以上通院を余儀なくされましたが、症状は改善しませんでした。初回申請時には非該当と判定されました。
弊社の取り組み
弊社に相談があり、診療録を詳細に確認すると、受傷直後から腰椎椎間板ヘルニアに特徴的な「ラセーグ徴候陽性」と複数箇所に記載されていました。
MRIで、L4/5レベルに椎間板ヘルニア(矢印)を認め、患者さんの右下肢痛は椎間板ヘルニアが圧迫しているL5神経根の知覚領域と一致していました。
脊椎外科専門医が診療録を確認したところ、初回申請時に見落とされていたため、これらの所見を丁寧に医師意見書に記載しました。
初回申請時には、腰椎MRI画像で確認できる椎間板ヘルニアの所見が軽視されていたため、読影所見の補足も行いました。異議申立てを行ったところ12級13号が認定されました。
【14級9号】腰椎捻挫の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:39歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:14級9号(局部に神経症状を残すもの)
交通事故後に腰痛を自覚されていました。受傷から8ヵ月通院されましたが、頑固な腰痛は改善せず、後遺障害診断書が作成されましたが、非該当と判定されたため、弊社に相談がきました。
弊社の取り組み
画像を脊椎外科専門医が詳細に読影したところ、事故の後から、L4/5椎間板高の減少(椎間板がすり減って、高さが低くなる現象)が進行していることが明らかになりました。
これらの所見について、医師意見書を作成して異議申立てを行ったところ14級9号が認定されました。
【弁護士必見】等級認定のポイント
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号と比較すると、はるかに認定基準は厳しくなります。痛みが持続しているだけでは不十分で、「障害の存在が医学的に証明できるもの」という条件が必要になります。
具体的には腰のMRIで神経の圧迫があること。さらにその圧迫されている神経と実際の症状(知覚障害の範囲、深部腱反射の異常、ラセーグ徴候などの誘発テストが陽性であることなど)が一致していることが必須条件になります。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
14級9号は、救済等級としての位置づけでもあり、比較的広い範囲の患者さんが認定される可能性があります。
受傷から一定の期間(約半年が目安になります)通院されていて、その間の通院回数が一定の基準を超えていれば認定の可能性が高まります。
それ以外にも交通事故の規模や画像所見(腰椎のレントゲンやMRI)も参考にします。一番重要なことは、受傷直後から後遺障害診断書作成にいたるまで、症状に一貫性があることと、持続性があることです。
整骨院に通院しているだけでは不十分で、交通事故の直後から、後遺障害診断書作成に至るまで、定期的に病院やクリニックに通院していることが必須条件となります。
<参考>
【医師が解説】腰椎捻挫の後遺症が非該当になったらHIZの有無を確認
弁護士だけでは専門的な判断を行うことは難しいため、整形外科専門医との綿密な協議が必要になります。腰椎捻挫でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
<参考>
日経メディカル|意見書で交通事故の後遺症が決まるってホント?
まとめ
軽い追突事故でも腰痛や足のしびれを発症することは珍しくありません。軽い追突事故では、衝突を防御する体勢をとれず、不意に追突されることで発症します。
軽い追突事故の腰椎捻挫を放置してはいけない理由には、以下の3つがあります。
- 症状が強くなるのは翌日以降
- 事故との因果関係を否定される可能性がある
- 腰椎捻挫の後遺症が残っても後遺障害に認定されない
軽い追突事故で発症した腰椎捻挫であっても放置してはいけません。腰椎捻挫の治療の基本は、薬物療法や物理療法などの保存療法です。
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