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【医師が解説】聴覚障害の等級は?聴力障害との違い|交通事故

交通事故で発生する後遺症のひとつに難聴などの聴力障害(聴覚障害)があります。聴覚障害と聴力障害は医学的には同義ですが、交通事故の後遺障害では「聴力障害」となります。

 

聴力障害は、頭部外傷や頚椎捻挫(むちうち)に併発することが多いです。本記事は、聴力障害が自賠責保険の後遺障害に認定されるヒントとなるように作成しています。

 

 

最終更新日:2024/4/21

 

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聴覚障害(聴力障害)とは

 

聴覚障害と聴力障害は医学的には同義ですが、交通事故の後遺障害では「聴力障害」となります。聴覚障害は、耳から脳までのどこかの部位に傷害が発生して、音が聞こえにくくなる症状です。

 

 

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聴覚障害の種類

伝音難聴:外耳と中耳の障害

伝音難聴は、耳たぶ(耳介)から鼓膜までの部位を傷害した際に発症します。伝音難聴の代表的な原因は、外耳道外傷、外傷性鼓膜穿孔、中耳炎、外耳炎、耳垢などです。

 

 

感音難聴:内耳と脳の障害

感音難聴は、鼓膜から脳までの部位を傷害した際に発症します。感音難聴の代表的な原因は、側頭骨骨折、脳挫傷、加齢性難聴、突発性難聴、メニエール病、ヘッドホン難聴などです。

 

 

交通事故で聴覚障害をきたす原因

伝音難聴をきたし得る外傷

交通事故で、伝音難聴(耳たぶから鼓膜までの傷害)をきたし得る外傷には、外傷性鼓膜穿孔、外耳道損傷などがあります。

 

 

感音難聴をきたし得る外傷

交通事故で、感音難聴(鼓膜から脳までの傷害)をきたし得る外傷には、側頭骨骨折、脳挫傷、脳出血などがあります。

 

 

 

 

聴覚障害レベルの診断

純音聴力検査

純音聴力レベルの測定は、オージオメータによって行われます。聴力はデシベル(dB)で表され、異常が大きいほどデシベルが大きくなります。

 

難聴などの症状が安定した後に、日を変えて3回検査を行います。検査と検査の間は7日程度あけます。2回目と3回目の測定値の平均で判定されます。

 

2回目と3回目の測定値に10dB以上の差があれば、測定値の差が10dB未満になるまで検査を続けます。2回目以降の検査で、差が最も小さい2つの測定値を選んで判定します。

 

実際の検査では、500Hz(=A)、1000Hz(=B)、2000Hz(=C)、4000Hz(=D)の音に対する聴力(dB)を、下の算式(6分法)に代入して求めます。

 

(A+2B+2C+D)×1/6

 

 

語音聴力検査

語音聴力レベルの測定は、スピーチオージオメータによって行われます。語音聴力検査では、言語の聞こえ方を判定します。その程度は語音明瞭度(%)で表されます。

 

実際には、ヘッドホンから流れる各デジベル毎の語音を紙に書いて正答率を調べます。測定値は各デジベル毎に語音明瞭度(%)として表示され、その中の最大値を最高明瞭度とします。

 

語音による聴力検査は、検査結果が適正と判断できる場合には1回で差支えありません。

 

 

他覚的聴力検査

ABR検査などがあります。音の刺激で発生する誘発電位を頭皮上においた電極で記録します。

 

純音聴力検査や語音聴力検査は自覚的聴力検査ですが、ABR検査は誘発電位を記録するので他覚的聴力検査です。乳幼児や意識障害のある人でも実施可能です。

 

 

聴覚障害の治療

薬物療法

聴覚障害の多くは、薬物療法が第一選択です。薬物療法には以下の薬剤があります。内耳の循環を改善したり、浮腫を軽減させる目的で処方されます。
 

  • ビタミンB12製剤
  • 脳循環改善剤(アデホス・カルナクリンなど)
  • 利尿剤
  • 漢方薬(柴苓湯など)
  • ステロイド

 

 

手術療法

交通事故に起因する難聴とは関係ありませんが、滲出性中耳炎、慢性中耳炎、耳硬化症などでは手術で改善する可能性もあります。

 

 

補聴器

外部の音を集めて増幅させて、減弱した聴力を補います。薬物療法や手術療法で難聴が改善しない場合に選択されます。

 

 

聴覚障害は治る?

伝音難聴は改善するケースもある

伝音難聴は、耳たぶから鼓膜までの傷害(外耳や中耳の傷害)で発生します。交通事故では、外傷性鼓膜穿孔、外耳道損傷などが挙げられます。

 

鼓膜は再生能力が高いため、保存療法で治る可能性があります。一方、鼓膜の自然閉鎖が見込めない場合には手術療法が選択されます。

 

いずれのケースであっても、伝音難聴が改善する可能性は十分にあります。

 

 

感音難聴は改善しないケースが多い

感音難聴は、鼓膜から脳までの傷害(内耳や脳の傷害)によって起こります。交通事故では、側頭骨骨折、脳挫傷、脳出血などが挙げられます。

 

感音難聴は伝音難聴と比べて治療が難しく、難聴が改善する可能性は低いと言われています。補聴器の装用が選択されるケースも多いです。

 

 

聴力障害と聴覚障害の違い

 

聴覚障害と聴力障害は、どちらも難聴である状態には変わりありませんが、用いられる制度が異なります。端的に言うと、聴覚障害は身体障害者手帳、聴力障害は労災保険や自賠責保険の用語です。

 

聴覚障害は、身体障害者福祉法に基づく身体障害者手帳制度で使用されます。身体障害者手帳制度の聴覚障害は、2級、3級、4級、6級の4段階に分かれており、2級が最も重い障害です。

 

一方、聴力障害は、労災保険や自賠責保険の後遺障害で使用されます。聴力障害は、4級、6級、7級、9級、10級、11級、14級の7段階に分かれており、4級が最も重い障害です。

 

 

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自賠責保険の聴力障害(両耳)

4級3号

両耳の聴力を全く失ったもの

 

  • 両耳の平均純音聴力レベルが90dB以上のもの
  • 両耳の平均純音聴力レベルが80dB以上であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のもの

 

 

6級3号

両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの

 

  • 両耳の平均純音聴力レベルが80dB以上のもの
  • 両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上80dB未満であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のもの

 

 

6級4号

1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

 

  • 一耳の平均純音聴力レベルが90dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが70dB以上のもの

 

 

7級2号

両耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

 

  • 両耳の平均純音聴力レベル70dB以上のもの
  • 両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のもの

 

 

7級3号

1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

 

  • 一耳の平均純音聴力レベル90dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが60dB以上のもの

 

 

9級7号

両耳の聴力が、1m以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

 

  • 両耳の平均純音聴力レベル60dB以上のもの
  • 両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のもの

 

 

9級8号

1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの

 

  • 一耳の平均純音聴力レベルが80dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが50dB以上のもの

 

 

10級5号

両耳の聴力が1m以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの

 

  • 両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上のもの
  • 両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上で,かつ最高明瞭度が70%以下のもの

 

 

11級5号

両耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの

 

  • 両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上のもの

 

 

自賠責保険の聴力障害(一耳)

9級9号

1耳の聴力を全く失ったもの

 

  • 一耳の平均純音聴力レベルが90dB以上のもの

 

 

10級6号

1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの

 

  • 一耳の平均純音聴力レベルが80dB以上90dB未満のもの

 

 

11級6号

1耳の聴力が40cm以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの

 

  • 一耳の平均純音聴力レベルが70dB以上80dB未満のもの
  • 一耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のもの

 

 

14級3号

1耳の聴力が1m以上の距離では小声を解することができない程度になったもの

 

  • 一耳の平均純音聴力レベルが40dB以上70dB未満のもの

 

 

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【弁護士必見】聴力障害の後遺障害認定ポイント

しばらくして発症した聴力障害は後遺障害に認定されない

弊社に持ち込まれる事案で最も多いのは、交通事故からしばらく経って(おおむね1ヵ月)から難聴が発生したケースです。

 

交通事故直後から難聴が発生した事案と比較して、やはり事故との因果関係の証明が難しいと言わざるを得ません。

 

実際、そのような事案の中には、加齢による症状や突発性難聴などの交通事故とは無関係と思われるケースも少なくありません。

 

加齢による難聴では、後遺障害に認定される可能性が極めて低いため、頑張れば頑張るほど全員が不幸になっていく典型的な事案です。

 

このような事態を避けるためには、後遺障害に該当するのか否かを的確に見極める能力が必要と思われます。

 

一方、後述する外リンパ瘻に関しては、交通事故からしばらくして発症した難聴であっても後遺障害を主張できます。

 

 

交通事故との因果関係の証明が難しい

難聴で最も争いになるのは、事故との因果関係です。特にむちうち(頚椎捻挫)に併発する耳鳴りや難聴では、後遺障害等級認定のハードルは極めて高いと言わざるを得ません。

 

また頭部外傷に伴う難聴であっても、事故との因果関係はなかなか認めてもらえないのが現実です。

 

 

因果関係の証明には側頭骨骨折や外耳損傷が重要

弊社の経験では、側頭骨骨折や外耳損傷の無い事案で難聴が後遺障害認定された事案はあまり存在しません。これまで弊社が経験した事案を分析すると、側頭骨骨折や外耳損傷はかなり重要と言えます。

 

もちろん、側頭骨骨折や外耳損傷が存在しないからと言って、後遺障害がまったく認定されないわけではありません。

 

耳鼻咽喉科専門医の医師意見書や画像鑑定報告書を添付することで後遺障害に認定される可能性はあり、実際に認定された事例も散見します。

 

 

外リンパ瘻は進行性に聴力障害が悪化する

一般的に、交通事故に遭ってから経時的に悪化する症状は、外傷とは無関係とみなされます。しかし、外リンパ瘻は例外です。

 

外リンパ瘻とは、外リンパが内耳から中耳へ漏出して、内耳の生理機能が傷害される傷病です。外リンパ瘻では、難聴が進行性に悪化します。

 

交通事故で頭部外傷があった場合には、受傷時には難聴が存在しなくても、進行性に悪化する可能性があります。

 

弊社では、交通事故直後には難聴が無かったにもかかわらず、外リンパ瘻のために進行性に悪化した難聴の事案で、医師意見書を作成した経験もございます。

 

聴力障害でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。

 

 

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まとめ

 

聴覚障害と聴力障害は、どちらも難聴である状態には変わりありませんが、用いられる制度が異なります。端的に言うと、聴覚障害は身体障害者手帳、聴力障害は労災保険や自賠責保険の用語です。

 

交通事故で発生する聴力障害は、頭部外傷や頚椎捻挫(むちうち)で発症することがあります。

 

しかし自賠責保険では、交通事故との因果関係が問題になって後遺障害に等級認定されないケースが多いです。聴力障害と交通事故との因果関係の証明には、側頭骨骨折や外耳損傷が必須と言えます。

 

 

 

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