交通事故で負った傷跡は、醜状障害として自賠責保険で後遺障害に認定される可能性があります。醜状障害には7級から14級までありますが、その中でも14級は最も数が多いです。
本記事は、交通事故で受傷した傷跡が、後遺障害14級に認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/5/13
Table of Contents
交通事故の傷跡(醜状)とは
醜状とは、以下に記すいずれかの状態です。
- 交通事故による直接的なキズ
- 交通事故に伴う手術で残ったキズ
- 交通事故による熱傷
- 交通事故で耳や鼻、まぶたの一部が欠損して外貌を損なうもの
顔、くび、手足などの人目につく場所に残った目立つ傷跡は、醜状障害として後遺障害に認定されます。
交通事故による傷跡(醜状)の種類
交通事故によって生じる醜状には、主に以下に示すような種類があります。
- 外傷、熱傷に伴う皮膚瘢痕
- 外傷、熱傷に伴う色素沈着
- 創縫合や手術に伴う線状痕
- 骨欠損や骨陥没に伴う皮膚陥凹
- 耳介や鼻の軟骨欠損
- 顔面神経麻痺に伴う口の歪み
傷跡(醜状)の治療法
傷跡(醜状)の保存療法
瘢痕やケロイドの治療では、リザベンなどの抗アレルギー剤を服用したり、抗炎症作用のある軟膏やクリームなどを塗布します。
抗アレルギー剤や外用剤で効果が無い症例では、レーザーや放射線の照射療法を施行するケースもあります。
顔面神経麻痺では、抗ウィルス剤の服用に加えてリハビリテーションが行われます。
傷跡(醜状)の手術療法
骨・軟骨の欠損による醜状では、自家骨軟骨を利用した形成手術の適応となるケースがあります。
傷跡(醜状)は全治何ヶ月?
瘢痕やケロイドに対する治療期間は、一般的に長期化します。抗アレルギー剤を6ヵ月間服用することを考えると、1年以上の治療期間が必要なケースも少なくありません。
手術療法を施行した症例では、術後6ヵ月では不充分であり、術後1年程度の経過観察が必要です。
傷跡(醜状)の後遺障害認定基準
醜状障害は、以下の要素から決定されます。
- 醜状の部位
- 醜状の面積(長さ)
- 醜状の種類
傷跡(醜状)の部位
醜状の部位は下記のように定義されています。醜状の部位毎の後遺障害認定基準に基づいて審査が行われます。
外貌
首から上の露出する部分(図1頭部:黄色、顔面部:白色、頚部:桃色)
上肢または下肢
四肢の露出する部分(図2赤斜線)
非露出部
胸部、腹部、背部、殿部など(図2青斜線)
その他
耳介、鼻、眼瞼など
図1
図2
傷跡(醜状)の原因となる外傷
醜状障害の原因となる代表的な外傷は、下記のとおりです。
- 皮膚瘢痕(外傷、熱傷、治療に伴う創)
- 頭頸部の骨欠損および骨陥没
- 耳介軟骨や鼻軟骨、眼瞼の欠損
- 顔面神経麻痺
後遺障害の手のひら大とは
後遺障害認定基準では「てのひら大」で判断されます。「てのひら大」とは非常にアバウトですが、被害者の手のひらの面積です。
上図で示したように、被害者の薬指のつけ根から手首までの長さと、親指のつけ根から手のひら小指側の端までの長さを掛け合わせた面積です。
傷跡が後遺障害14級に認定される基準
顔にできた傷跡(外貌醜状)は12級以上です。したがって、手足、胸部、腹部、背部にできた傷跡が、後遺障害14級に該当する可能性があります。
手足の傷跡(上肢・下肢の醜状障害)
四肢の露出面とは上肢が肩関節以遠、下肢が股関節以遠となり、手背と足背も含まれます。労災保険と交通事故自賠責保険では露出部の定義が異なるため注意が必要です。
14級4/5号(上下肢露出面の醜状)
四肢に手のひら大以上の瘢痕または線状痕
胸部、腹部、背部の傷跡(非露出部の醜状障害)
非露出部とは胸腹部、背臀部を指しますが、これらの部位の醜状については系列が存在しないため、別表第二備考6を適用します。
14級相当
胸腹部または背臀部の全面積の1/4以上に瘢痕を残すもの
醜状では面接審査がある
自賠責保険では後遺障害認定は書類審査が原則ですが、醜状障害に関しては面接審査が実施されるケースもあります。面接審査の施行要否は、自賠責保険が判断します。
調査員が、実際にキズの大きさを計測したり性状を確認します。調査員の主観による判断がなされる場合もあるため、事前に弁護士に相談することをお勧めします。
【弁護士必見】醜状の後遺障害認定ポイント
形成外科や皮膚科での継続治療が望ましい
救急搬送された急性期病院では、メインの外傷に対して整形外科や脳神経外科で治療を受けます。
しかし、瘢痕やケロイドに関しては、整形外科や脳神経外科では治療されないケースが多いです。このため、受傷早期から形成外科や皮膚科も受診することが望ましいです。
受傷早期から形成外科や皮膚科を受診することは、治療および後遺障害認定の両方の観点で重要です。
整形外科や脳神経外科では、後遺障害診断書を作成する際に、大雑把な評価しかされない可能性があります。
このため、主治医に依頼して形成外科や皮膚科を紹介してもらい、定期的な治療を行うことが望ましいです。
創部の経時的な画像記録を残しておく
自賠責保険の実務では、初療を担当した急性期病院の医師と、後遺障害診断書を作成する医師が異なるケースが少なくありません。
紹介先の医師には、創が事故によって受傷したものか否かが分かりません。このため、後遺障害診断書への醜状記載を拒否されるケースを散見します。
このような事態を招かないように、受傷後早期から創部の画像記録を残しておくことが推奨されます。
分かりやすい図式資料の添付が重要
醜状障害における等級認定のポイントは、後遺障害診断書において醜状の大きさや程度を分かりやすく示すことです。
2016年に「交通事故受傷後の傷痕等に関する所見」という醜状障害に特化した書式が新設されています。
この書式には、体表図や頭頸部の模式図が含まれています。しかし、皮膚科や形成外科などの専門科以外の多くの医師は、この書式の存在を知りません。
この書式で提出することがベストですが、体表図や頭頸部の模式図で具体的な障害を図示することで代用可能です。実際の醜状を記録した画像も有効な資料となります。
四肢の醜状は自賠責と労災で認定基準が異なる
四肢の醜状障害は、自賠責保険と労災保険で認定基準が異なります。労災基準では対象となる部位は、上肢または下肢の露出面です。
具体的には上肢では手部をふくむ肘関節以下、下肢において足背部をふくむ膝関節以下となります。このため、労災基準では、遊離皮膚移植の際に大腿部から採皮しても採皮部が醜状障害に認定されません。
一方、自賠責基準では上肢では手部をふくむ肩関節以下、下肢において足背部をふくむ股関節以下が対象部位です。
下肢においてはビキニライン以遠なので、遊離皮膚移植の際に大腿部から採皮すると、採皮部は醜状障害に認定される可能性があります。
実臨床においては、遊離皮膚移植は大腿部もしくは腹部から採取されるため、自賠責保険と労災保険の認定基準の違いは重要です。
四肢の醜状はそれぞれの四肢ごとで評価する
四肢の醜状障害では、右下肢、左上肢など、それぞれの四肢ごとの評価になります。両下肢や両上肢の括りではないことに注意が必要です。
右下肢が手のひら大の2倍、左下肢が手のひら大の2倍の例では、両下肢とも手のひら大の3倍以上に届かないため、それぞれ14級6号になります
醜状は労働能力喪失率が争点となるケースが多い
弊社に寄せられる相談で多いのは逸失利益の減額です。保険会社は、醜状障害を負っても身体能力は問題無いので労働能力は喪失しないと主張するケースが多いです。
職種に拠りますが、工場勤務などでは反論が難しいケースもあります。一方、営業職では労働能力喪失による逸失利益を主張することは可能です。
より現実的な解決法は、醜状に併発した痛みやしびれ(神経障害)の存在を主張することでしょう。実臨床では、瘢痕は痛みやしびれを伴うことが多いからです。
【14級5号】醜状の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:40代男性
- 治療経過:足部のデグロービング損傷による皮膚欠損に対し、大腿部からの採皮による植皮術を施行
弊社の取り組み
症状固定前に医療相談を受けました。弊社で精査すると、足部の植皮部だけではなく大腿の採皮部にも瘢痕が存在しました。
足部だけでは手のひら大には至らなかったものの、大腿の採皮部は手のひら大を超えるサイズでした。
後遺障害診断書には採皮部が記載されていなかったため、サイズも含めた追記していただくよう助言を行った結果、14級5号の後遺障害が認定されました。
一般的に、医師は自賠責保険の後遺障害認定基準を知りません。したがって、弊社の指摘がなければ、醜状障害は認定されなかった可能性が高いです。
<参考>
【医師が解説】デグロービング損傷の後遺症|交通事故、労災事故
まとめ
醜状障害の後遺障害認定基準は複雑です。後遺障害に該当するにも関わらず、不充分な医証を提出してしまったため、非該当になる事案をしばしば経験します。
醜状障害でお困りの場合はこちらからお問い合わせください。
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