交通事故で発生する手関節周囲の外傷のひとつに橈骨遠位端骨折があります。橈骨遠位端骨折は後遺症を残しやすい外傷で、後遺障害10級、12級、14級に認定される可能性があります。
本記事は、橈骨遠位端骨折が後遺障害に認定されるヒントを理解できるように作成しています。
最終更新日: 2024/9/8
Table of Contents
手首骨折(橈骨遠位端骨折)とは
手のひらをついて転倒すると、手首を骨折することがあります。手首の骨折で最も多いのが橈骨遠位端骨折です。
交通事故での手首骨折の受傷機序
歩いている時に手のひらをついて転んだり、自転車やバイクに乗っている時に転倒して受傷するケースが多いです。
手首骨折(橈骨遠位端骨折)の症状
手首に強い痛みと腫れがあります。骨のずれ(転位)が大きいと、食器のフォークのような形に手首が変形することもあります。
骨折なので、手がブラブラになって力が入りません。骨のずれが大きいと、折れた骨や手首の腫れによって神経が圧迫されてしまい、手指がしびれることもあります。
手首骨折(橈骨遠位端骨折)の診断
単純X線像(レントゲン検査)
橈骨遠位端骨折の診断では第一選択です。基本的にはレントゲン検査で、診断と治療を行います。
注意点は、受傷時に必ず健側の2方向も撮影することです。症状固定時に後遺症が残った際には、健側の画像所見と比較することが、後遺障害認定の大きな決め手をなることが多いです。
健側の2方向が撮影されていないケースは、意外なほど多いので注意が必要です。
CT検査
橈骨遠位端骨折で関節面が粉砕しているタイプではCT検査が必須です。手術前には術前計画で使用します。
手術後にCT検査を実施した場合には、後遺障害が認定される強力な証拠になる可能性が高いです。
MRI検査
レントゲン検査やCT検査と比べると、MRI検査の必要性は高くありません。しかし、後述するようにTFCC損傷を合併したケースでは、受傷後早期のMRI検査実施が有効です。
手首骨折に対する治療
橈骨遠位端骨折の保存療法
まず骨折の徒手整復を行います。骨がずれた状態を放置すると、手首の腫れが強くなります。徒手整復でうまく整復できた場合には、ギプス固定やシーネ固定を行います。
橈骨遠位端骨折の手術療法
橈骨遠位端骨折の手術には下記のようなものがあります。
- 経皮的鋼線刺入法
- 創外固定法
- ロッキングプレート
最近では、ロッキングプレートの進歩が著しいです。プレートで固定して、早くから手首の関節を動かすリハビリテーショを行います。
手首骨折の手術費用
健康保険が3割負担のケースでは、入院にかかる期間と費用の概算は以下のようになります。
期間:4~10日
費用:16~25万円
上記の期間や金額はあくまでも目安です。個々の症例によって期間や金額が変わるのでご了承ください。
手首骨折は全治何ヶ月?
ズレ(転位)の程度や骨折形態によって異なりますが、橈骨遠位端骨折ではおおむね3ヵ月で骨癒合するケースが多いです。
ただし、骨が十分な強度を獲得するには半年から1年かかるため、激しいコンタクトスポーツは半年から1年は控えた方が無難です。
手首骨折が「ずれてくっつく」とどうなる?
日常診療でよく聞かれる質問のひとつに、橈骨遠位端骨折が「ずれてくっつく」とどうなりますか? があります。
どのようにずれる(転位)のかに拠りますが、手の甲側に大きく角度が歪むと、何年かかけて手首の痛みや関節可動域制限が増強していきます。
手首骨折の運転はいつから?
日常診療でよく聞かれる質問のひとつに、橈骨遠位端骨折後の運転はいつからできますか? があります。
結論から申し上げると、骨癒合が完了する受傷後3ヵ月がひとつの目安となるでしょう。プレートを用いた手術療法の場合には、もう少し時期が早まるケースが多いです。
手首骨折の運動はいつから?
日常診療でよく聞かれる質問のひとつに、橈骨遠位端骨折後の運動はいつからできますか? があります。
結論から申し上げると、骨癒合が完了する受傷後3ヵ月がひとつの目安となるでしょう。ただし、骨が十分な強度を獲得するには、半年から1年かかります。
このため、受傷してから半年から1年間は、手首の骨折部に衝撃が加わるスポーツを避ける必要があります。
一方、ジョギングなどの骨折部に負荷のかからないスポーツは、受傷後3ヵ月程度で問題ないケースが多いです。
骨癒合の時期は、骨折型によってさまざまです。上記で挙げた期間はあくまでも目安に過ぎません。主治医の指示に従いましょう。
手首骨折が後遺障害認定されると損害賠償金を請求できる
手首骨折(橈骨遠位端骨折)で後遺障害に認定されると、後遺障害慰謝料と後遺障害逸失利益を請求できます。
手首骨折の後遺障害慰謝料とは
手首骨折(橈骨遠位端骨折)で後遺障害が残ってしまった精神的苦痛に対する補償金です。後遺障害慰謝料は、下の表のように後遺障害等級によって異なります。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
手首骨折の後遺障害逸失利益とは
手首骨折(橈骨遠位端骨折)の後遺障害が残ると、労働能力が低下してしまいます。労働能力が低下したために失うであろう収入の不足分に対する補償金です。
後遺障害逸失利益は、交通事故被害者の年収、年齢をベースにして、後遺障害等級に応じた労働能力喪失率と労働能力喪失期間で決まります。
後遺障害逸失利益の計算式
手首骨折(橈骨遠位端骨折)の後遺障害逸失利益は、以下の計算式で算出されます。
基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
手首骨折(橈骨遠位端骨折)の後遺障害
橈骨遠位端骨折は、上肢の外傷で後遺症を残しやすい代表的な傷病です。ここでは橈骨遠位端骨折で施行するべき検査を考えてみましょう。
そのためには、橈骨遠位端骨折ではどのような障害を残す可能性があるのかを知る必要があります。
手関節の機能障害
手関節の機能障害(可動域制限)は、橈骨遠位端関節面の不整が原因となる事案が多いです。
10級10号:一上肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
手関節の可動域が、健側の可動域の1/2以下に制限されているものをいいます。
12級6号:一上肢の三大関節の一関節の機能に障害を残すもの
手関節の可動域が、健側の可動域の3/4以下に制限されているものをいいます。
手関節の神経障害
手関節の神経障害(痛み)は、
- 橈骨遠位端関節面の不整
- TFCC損傷
- 尺骨茎状突起の偽関節
が原因となる事案が多いです。
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
この場合の神経症状とは痛みのことです。画像所見等で客観的に痛みの存在を証明できるものをいいます。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
画像所見等で客観的に痛みの存在を証明できないものの、受傷時の態様や治療経過から痛みの存在が説明つくものをいいます。
長管骨の変形障害
12級8号:長管骨に変形を残すもの
手関節では、主に尺骨茎状突起に偽関節を残したものをいいます。稀に橈骨茎状突起に偽関節を残すものもあります。
【弁護士必見】橈骨遠位端骨折の後遺障害認定で必要な検査
手首骨折(橈骨遠位端骨折)による障害の原因となる部位は
- 橈骨遠位端
- 尺骨茎状突起
- TFCC
の3つに大別されます。
橈骨遠位端
橈骨遠位端に起因する障害では、関節面不整の有無が障害を客観的に証明できるか否かの分かれ目となります。これを精査するためには、CT(3方向での再構成像)および単純X線像(両側2方向)が必要です。
まずCT検査ですが、3方向とは矢状断、前額断、冠状断です。特に矢状断が重要で、関節面の不整像が描出されることが多いです。
一方、単純X線像も重要です。CT検査やMRI検査の方が重要だと認識している方が多いですが、これは大きな間違いです。単純X線像では、全体を俯瞰して後遺障害の原因となる所見を精査できるからです。
私の感覚では、CT検査よりも単純X線像の方が、外傷性関節症の存在を客観的に証明できる決め手になることが多い印象を抱いています。ちなみに橈骨遠位端に起因する疼痛の原因検索に関しては、MRI検査はあまり意味がありません。
<参考>
【日経メディカル】ひどい骨折後に後遺障害が認定されなかった意外なワケ
【医師が解説】バートン骨折とショーファー骨折|交通事故の後遺症
尺骨茎状突起
次に尺骨茎状突起~TFCCについてご説明します。両者はほぼ同一の外傷として取り扱ってよいです。尺骨茎状突起骨折ではTFCC損傷をほぼ併発しているからです。
尺骨茎状突起骨折に関しても、基本検査は単純X線像です。ここで尺骨茎状突起の偽関節を証明できれば、それ以上の検査は不要です。
一方、単純X線像だけでは偽関節か否かが判断できないこともあります。この場合にはCTを撮像する必要があります。
TFCC
TFCC損傷に関しては、MRIが必須です。しかも、事故との因果関係を問われるケースが多いので、急性期所見が消失しない期間での撮像が望ましいです。
ただし実臨床では、橈骨遠位端骨折の治療中にTFCC損傷の精査を施行しにくいです。その理由は、橈骨遠位端骨折では、掌側プレートを用いた手術療法を行うことが多いため、MRIを撮像できない(撮像する意味が無い)からです。
実質的にはギプス固定等の保存治療を施行した事案のみ、MRIを施行することになります。TFCCは小さな組織です。このため、MRIを施行する場合には可能なかぎり3テスラが望ましいでしょう。
<参考>
【医師が解説】TFCC損傷が後遺症認定されるポイント|交通事故
【12級6号】手首骨折後遺症の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:42歳
- 初回申請:非該当
- 異議申立て:12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)
歩行中に自動車に衝突されて橈骨遠位端骨折を受傷しました。初回申請で非該当でしたが、手首の痛みが強く日常生活への影響が大きいため、弊社に相談がありました。
弊社の取り組み
手首の痛みを精査する目的で、3テスラのMRIを再施行しました。MRIでは、TFCC損傷の所見がありました。
手の外科専門医(整形外科専門医)による意見書を作成しました。自賠責保険は手関節のTFCC損傷の存在をみとめ、12級13号を認定しました。
手首骨折の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
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等級スクリーニング
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等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
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医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
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弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
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手首骨折(橈骨遠位端骨折)後遺症のまとめ
橈骨遠位端骨折と言ってもたくさんのパターンがあるため、おこなっておくべき検査が何であるのかを適切に判断するのは難しいのが現実です。お困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
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