交通事故の現場では、中心性頚髄損傷という病名を散見します。中心性頚髄損傷は脊髄中心部の損傷であり、下肢に比べて上肢の麻痺が重度です。「頚髄損傷」という病名なので、MRIで頚髄の信号変化は必須だと思われがちです。
しかし、実臨床では中心性頚髄損傷でMRI上の信号強度の変化を認めないことも多いです。肌感覚で言うと半分近くの「中心性頚髄損傷」は画像上での異常所見をみとめません。
中心性頚髄損傷症例のMRIで、弁護士の先生から頚髄内の異常所見を教えてくださいと しょっちゅう 聞かれます。どうも弁護士の先生も中心性頚髄損傷=MRIで頚髄の信号強度変化ありという認識のようです。
実臨床においては、MRIの所見はあくまで診断のツールのひとつに過ぎません。最も重要なのは身体所見です。身体所見では中心性頚髄損傷を強く疑うが、MRIでは特記する所見の無いことは比較的よくあります。
中心性頚髄損傷症例のMRIで頚髄内の信号強度変化をみとめれば、それは神経学的予後がかなり悪いことを予想します。このようにMRIの所見は中心性頚髄損傷の予後予測因子ですが診断基準ではありません。
この点を理解した上で、中心性頚髄損傷事例の交通事故実務を進めていくべきだと思います。