交通事故で発生する上肢の外傷のひとつに手や手指の骨折があります。手や手指は非常に繊細な構造なので後遺症を残しやすい外傷です。
本記事は、手や手指の骨折の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/9/8
Table of Contents
手や指の骨には何があるの
手や手指は、たくさんの小さな骨から構成されています。手や手指の主な骨は下記のごとくです。
- 末節骨(第1~5末節骨)
- 中節骨(第2~5中節骨)
- 基節骨(第1~5基節骨)
- 中手骨(第1~5中手骨)
- 手根骨(豆状骨、三角骨、月状骨、舟状骨、大菱形骨、小菱形骨、有頭骨、有鈎骨)
Wikipediaの指骨から転載
指節骨骨折(指の骨折)
末節骨骨折、中節骨骨折、基節骨骨折
指の骨折は、交通事故で非常によく見かける外傷です。DIP関節、PIP関節、MP関節などに及ぶ関節内骨折の事案では、痛みや可動域制限を残す可能性があります。
一方、指節骨の骨幹部で骨折する場合には、隣接関節の可動域制限を併発する可能性が高いです。手指の関節は非常に関節拘縮を残しやすいことで有名です。
特にPIP関節とMP関節に関しては、積極的な早期リハビリテーションを実施しない限りは、関節の可動域制限を残す可能性が高いです。
マレット変形(マレット骨折)
マレット変形とは、指のDIP関節の骨折もしくは伸筋腱損傷で併発します。DIP関節が木槌のように曲がった状態になる変形です。
マレット変形は、伸筋腱の末節骨への停止部が剥離した腱性マレットと、末節骨骨折の中でもDIPの関節内骨折で生じる骨性マレットがあります。
<参考>
【医師が解説】マレットフィンガーの後遺障害認定ポイント|交通事故
PIP関節脱臼骨折
PIP関節の背側へ脱臼するのが一般的な形態です。PIP関節脱臼骨折の治療は難しく、PIP関節の可動域制限を残しやすい外傷です。
治療法として最もお勧めなのは、ゴムを用いた小型の創外固定(1991年に鈴木康医師が考案した牽引型創外固定pins and rubbers traction system)です。
オリジナリティのある非常に優れた治療法で、私もこれまでたくさんの症例でこの手術法を施行してきました。しかし、牽引型創外固定をもってしても、ある程度のPIP関節の可動域制限は残存してしまいます。
中手骨骨折(手の甲の骨折)
中手骨頚部骨折(ボクサー骨折を含む)
中手骨頚部骨折は手をグーにした状態でぶつけると受傷する可能性がある骨折です。MP関節近傍の骨折なので、早期から可動域訓練を実施してもMP関節の可動域制限を残す可能性が高い骨折です。
中手骨骨幹部骨折
手の甲への直達外力で受傷する可能性があります。中手骨骨幹部骨折はずれる(転位する)可能性があるので、プレート固定や経皮的骨接合術が選択されるケースも多いです。
一方、中手骨骨幹部骨折は指の外傷ではないにもかかわらず、中手骨の表面を走行する伸筋腱と癒着する症例が多いため、指の可動域制限を残しやすいです。
例えば、第3中手骨骨幹部骨折では中指(第3指)の可動域制限を残す症例が多いですが、隣の示指(第2指)や環指(第4指)の可動域制限を残すこともあります。
手の甲の外傷である中手骨骨幹部骨折では、意外にも指の機能障害として後遺障害の等級認定される可能性があるのです。
ベネット脱臼骨折(母指CM関節脱臼骨折)、ローランド骨折
一般的には、ボクシングでパンチしたときやボールが当たって、母指の先端から軸方向の力が加わって受傷します。 交通事故でも、バイクや自転車で転倒した際にベネット骨折を受傷するケースが多いです。
ローランド骨折は、関節面の粉砕がベネット骨折よりも高度なタイプの母指CM関節脱臼骨折です。
ベネット脱臼骨折やローランド骨折では、機能障害ではなく母指CM関節の神経障害に該当する可能性があります。
手根骨骨折(手首の骨折)
舟状骨骨折
舟状骨は親指側にある手根骨で、手首の関節を構成する8つの手根骨の中でも重要な骨の1つです。舟状骨骨折は転倒して手をついて受傷するケースが多いです。
舟状骨骨折は、通常の単純X線像では判断しにくいため、初診時に見逃されることが多い骨折です。
そのまま外固定せずに放置すると、高率に偽関節になってしまいます。このため、確定診断のためにMRIを施行するケースも多いです。
舟状骨が偽関節に至った症例では偽関節手術を施行しますが、手関節の可動域制限を残すケースが多いため、手関節の神経障害だけではなく機能障害に該当する可能性があります。
月状骨周囲脱臼、月状骨脱臼
月状骨周囲脱臼は、激しく手をついて手関節に背屈強制の外力が加わって受傷する比較的稀な外傷です。私自身も実臨床ではこれまで3例しか経験していません。
月状骨周囲脱臼は徒手整復困難なので、臨時手術の対象となります。画像所見と比較して軟部組織損傷が高度なので、手関節の機能障害や神経障害を残しやすい外傷といえます。
有鈎骨骨折(有鉤骨鉤突起骨折)
有鉤骨は手首の関節を構成する8つの手根骨の中でも交通事故で骨折しやすい骨の1つです。有鈎骨には有鉤骨鉤と呼ばれる突起があり、その部分が折れて有鉤骨鉤突起骨折となります。
一般的には、野球やゴルフなどのグリップするスポーツで発生する疲労骨折ですが、交通事故で転倒して手をついて受傷することも多いです。
有鈎骨骨折の画像診断は難しいです。単純X線像の2方向では診断できないため、手根管撮影が必要です。また、確定診断のためにCTやMRIが必要なケースも多いです。
有鉤骨鉤突起骨折は偽関節になりやすいので、12級13号や14級9号の神経障害の対象となりやすいです。また有鉤骨鉤の横を尺骨神経が走行しているので、手指のしびれを併発することもあります。
手や指の骨折の診断
通常のケースでは、単純X線像だけで骨折を診断できます。しかし、舟状骨骨折は単純X線像だけで診断できないことも多く、そのようなケースではMRIが必要となります。
有鈎骨骨折は単純X線像の2方向では診断できないため、手根管撮影が必要です。また、確定診断のためにCTやMRIが必要なケースも多いです。
指節骨折、PIP関節脱臼骨折、ベネット脱臼骨折(母指CM関節脱臼骨折)などの関節内骨折では、CTによる関節面の評価が必要なケースが多いです。
いずれも診断や治療方針決定のために必要な検査ですが、後遺障害認定の際にも有力な医証となります。
指節骨骨折や中手骨骨折の後遺障害
指節骨骨折(末節骨骨折、中節骨骨折、基節骨骨折)や中手骨骨折では指の機能障害や神経障害に該当する可能性があります。
一見すると中手骨骨折は指の機能障害と無関係に思えますが、伸筋腱が癒着しやすいため指の機能障害を残す事案が多いです。
指の機能障害
MP関節(中手指節間関節)、PIP関節(近位指節間関節)、母指のIP関節(指節間関節)の可動域が健側可動域の1/2以下に制限されると、手指の用を廃したものとして後遺障害に認定されます。
7級7号
1手の5の手指又はおや指を含み4の手指の用を廃したもの
8級4号
1手のおや指を含み3の手指の用を廃したもの又はおや指以外の4の手指の用を廃したもの
9級13号
1手のおや指を含み2の手指の用を廃したもの又はおや指以外の3の手指の用を廃したもの
10級7号
1手のおや指又はおや指以外の2の手指の用を廃したもの
12級10号
1手のひとさし指、なか指又はくすり指の用を廃したもの
13級6号
1手のこ指の用を廃したもの
指の神経障害
MP関節(中手指節間関節)、PIP関節(近位指節間関節)、母指のIP関節(指節間関節)の可動域が、健側可動域の1/2以下まで制限されてない事案は、手指の用を廃したものとして後遺障害に認定されません。
一方、関節内骨折などで関節面に不整があるケースには、関節の痛みが後遺症として残ることが珍しくありません。このような事案では、指の神経障害に認定される可能性があります。
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
レントゲン検査などで関節面に明らかな不整があると12級13号に認定される可能性があります。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
レントゲン検査で関節面の不整がそれほど大きくない場合でも、治療経過から痛みが残ることが推認されるケースでは、14級9号に認定される可能性があります。
手根骨骨折の後遺障害
手根骨骨折では手関節の機能障害や神経障害に該当する可能性があります。
手関節の機能障害
8級6号
1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
10級10号
1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
12級6号
1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
手関節の神経障害
12級13号
局部に頑固な神経症状を残すもの
14級9号
局部に神経症状を残すもの
【弁護士必見】手や指骨折の後遺障害認定ポイント
手や指の後遺障害の等級認定では、骨だけではなく伸筋腱や屈筋腱などの軟部組織損傷の影響も大きく受けます。
例えば、中手骨骨幹部骨折は指の外傷ではないにもかかわらず、中手骨の表面を走行する伸筋腱と癒着する症例が多いため、指の可動域制限を残しやすいです。
さらに、隣接する指の機能障害が残る可能性もあります。例えば、第3中手骨骨幹部骨折では中指(第3指)の可動域制限を残す症例が多いですが、隣の示指(第2指)や環指(第4指)の可動域制限を残すことがあります。
その理由は、中手骨骨折を受傷すると骨折部から出血しますが、この出血が治る過程で隣の伸筋腱まで癒着してしまうからです。
実臨床では全く違和感無く受け入れられている概念ですが、残念ながら自賠責保険では後遺障害に等級認定されない事案が多発しています。
このような事案では、手外科医師による医師意見書が有効であるケースが多いです。お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
手や指の骨折の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
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等級スクリーニング
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<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
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<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
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<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
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まとめ
手や手指の骨折は、交通事故でよく受傷するケガの1つです。そして手や手指は非常に繊細な構造なので、後遺症を残しやすいです。
しかし、手や手指は解剖が複雑なので、手外科医師を始めとする整形外科専門医でしか正確な評価が難しい外傷と言えます。
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