交通事故で発生する障害のひとつに非器質性精神障害があります。非器質性精神障害は争いになりやすい後遺障害です。
非器質性精神障害は脳組織の損傷を伴わない精神障害であり、外傷性うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を含みます。
本記事は、非器質性精神障害の後遺症が等級認定されるヒントとなるように作成しています。
最終更新日: 2024/9/8
Table of Contents
非器質性精神障害とは
非器質性精神障害とは、脳挫傷や脳出血後に併発しうる脳組織の損傷を伴わない精神障害のことを言います。非器質性精神障害には、うつ病やPTSDがあります。
非器質性精神障害は、交通事故などで死の危険直面した後、その恐怖や心的ストレスによって発症する場合が多いですが、頭部外傷後に発症することもあります。
非器質性精神障害の症状
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状
PTSDは交通事故などによる死の危険に直面した後、その体験の記憶がフラッシュバックのように思い出したり、悪夢を見たりすることが続き、不安や緊張が高まる状態です。
極度の不安感や緊張による辛さのため、現実感がなくなってしまうことさえあります。
<参考>
【医師が解説】PTSDの後遺症が等級認定されるポイント|交通事故
外傷性うつ病の症状
うつ病は、交通事故などによる精神的・身体的ストレスのために、脳がうまく働かなくなっている状態です。
気分が一日中落ち込んでいる、生活を楽しめないなどの抑うつ状態だけではなく、疲れやすさや不眠などを訴える人が多いです。
このような状態が長く続くと、世の中に対する見方や考え方が否定的になってしまいます。
非器質性精神障害で考えられる後遺障害には何があるの?
自賠責認定基準
自賠責保険では、厚生労働省労働基準局の「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について」に準じて等級認定されます。
神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準について
下記の(ア)精神症状のうちひとつ以上が認められ、かつ、イ)能力に関する判断項目のうち、ひとつ以上の能力について障害(能力の欠如や低下)が認められることが必要となります。
(ア)精神症状
- 抑うつ状態
- 不安の状態
- 意欲低下の状態
- 慢性化した厳格・妄想性の状態
- 記憶または知的能力の障害
- その他の障害(衝動性の障害、不定愁訴など)
(イ)能力に関する判断項目
- 身辺日常生活
- 仕事・生活に積極性・関心を持つこと
- 通勤・勤務時間の厳守
- 普通に作業を持続すること
- 他人との意思伝達
- 対人関係・協調性
- 身辺の安全保持、危機の回避
- 困難・失敗への対応
「神経系統の機能又は精神の障害に関する障害等級認定基準」をいくつ満たすのかによって、9級10号から14級9号までの等級が認定されます。
9級10号
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため就労可能な職種が相当な程度に制限されるもの
【具体例】
i 就労している者、または就労の意欲はあるものの就労はしていない場合
- (イ)の(2)~(8)のいずれかひとつの能力が失われているもの
- または、(イ)の4つ以上についてしばしば助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
ii 就労意欲の低下または欠落により就労していない場合
- (イ)の(1)について、ときに助言・援助を必要とする程度の障害が残存しているもの
12級13号
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため多少の障害を残すもの
【具体例】
i 就労している者、または就労の意欲はあるものの就労はしていない場合
- (イ)の4つ以上について,ときに助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
ii 就労意欲の低下または欠落により就労していない場合
- (イ)の(1)について、適切または概ねできるもの
14級9号
通常の労務に服することはできるが、非器質性精神障害のため軽微な障害を残すもの
【具体例】
(イ)のひとつ以上について、ときに助言・援助が必要と判断される障害を残しているもの
【弁護士必見】非器質性精神障害の後遺障害認定ポイント
非器質性精神障害の等級認定は難しい
非器質性精神障害は、基本的に治癒する傷病と考えられています。このため、自賠責保険で後遺障害等級認定されるためのハードルは極めて高いです。
非器質性精神障害として後遺障害等級が認定されるためには、精神科もしくは心療内科の専門医による治療が1年以上必要です。通常の傷病は6ヵ月であることを考えると、非器質性精神障害の等級認定のハードルの高さは際立っています。
自賠責保険の診断書では、よくPTSDという傷病名が非精神科医師によってつけられています。しかし、このような非精神科医師による診断書は、自賠責保険では一顧だにされません。
このため、非器質性精神障害で後遺障害等級が認定されるためには、精神科もしくは心療内科の専門医の治療を1年以上受ける必要があります。
頭部外傷後の非器質性精神障害は高次脳機能障害と類似した病態
非器質性精神障害で最も問題になるのは、頭部外傷後に発症するタイプです。頭部外傷の無い心的ストレスによる非器質性精神障害とは、分けて考える必要があります。
高次脳機能障害の自賠責認定基準は、下記3要件のすべてを満たす必要があるといわれています。
- 適切な傷病名
- 意識障害期間
- 画像所見
適切な傷病名、画像所見の2要件しか満たしていない事案は、MTBI(Mild Traumatic Brain Injury; 軽度外傷性脳損傷 )に分類されます。自賠責保険では、MTBIは意識障害期間の基準を満たさない高次脳機能障害なのです。
そして、適切な傷病名の1要件しか満たさない事案は、明らかな高次脳機能障害の症状が残存していても、自賠責保険では高次脳機能障害として等級認定されません。
つまり、高次脳機能障害の自賠責認定基準において意識障害期間と画像所見の2点を満たさない事案は、高次脳機能障害ではなく非器質性精神障害として後遺障害の等級認定を目指すことなります。
このような事案では、本来は脳神経外科で意見書を作成するべきかもしれません。しかし、実臨床では精神科が治療していることが多いです。
診療内容を確認して、精神科医師か脳神経外科医師のいずれの医師意見書を作成するのが望ましいかを判断することになります。
尚、上記の高次脳機能障害、MTBI、非器質性精神障害の基準は、あくまでも自賠責保険上の後遺障害認定基準に過ぎません。実臨床の基準ではないことに留意が必要です。
<参考>
非器質性精神障害の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
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等級スクリーニング
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<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
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<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
交通事故による非器質性精神障害でお悩みの被害者の方へ
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非器質性精神障害のまとめ
交通事故で発生する障害のひとつ非器質性精神障害があります。
非器質性精神障害は、基本的に治癒する傷病と考えられています。このため、自賠責保険で後遺障害等級認定されるためのハードルは極めて高いです。
非器質性精神障害として後遺障害等級が認定されるためには、精神科もしくは心療内科の専門医による治療が1年以上必要です。
非器質性精神障害でお困りの事案があればこちらからお問い合わせください。
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