介護施設における骨折事故は、高齢者にとって深刻な健康リスクをもたらすだけでなく、ご家族や関係者にとっても大きな不安と疑問を引き起こします。
「なぜ骨折が起きたのか?」「施設側に責任はあるのか?」「どのような補償や対応がなされるべきなのか?」といった疑問に直面する場面も少なくありません。
本記事では、介護施設内で発生する骨折事故について、その責任の所在や法的な対応手順、賠償に関するポイントをわかりやすく解説しています。
介護施設で事故が起きた際に、どう動けばよいのかを知ることで、適切な対応と安心につなげましょう。
最終更新日: 2025/5/10
Table of Contents
介護施設での骨折事故とは
高齢者は骨折しやすい
高齢者は、加齢に伴う骨密度の低下や筋力の衰えにより、転倒や軽微な衝撃でも骨折しやすくなります。
特に、大腿骨頚部や手首、脊椎などが骨折しやすい部位とされています。また、認知機能の低下や視力の衰えも、転倒リスクを高める要因となります。
そのため、介護施設では、高齢者の身体的特性を踏まえた安全対策が求められます。
介護施設内での骨折の主な原因
介護施設内での骨折事故の主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- ベッドや車椅子からの転落
- 歩行中の転倒
- 介助中の不適切な対応
- 施設内の環境要因(滑りやすい床、段差など)
これらの事故は、職員の注意不足や施設の安全対策の不備が原因となることがあります。
施設側の安全配慮義務の具体例
介護施設は、入所者の安全を確保するための「安全配慮義務」を負っています。この義務には、以下のような具体的な対応が含まれます。
- 転倒リスクのある入所者への個別対応
- 施設内の環境整備(滑り止めの設置、段差の解消など)
- 職員への定期的な研修と教育
- 事故発生時の迅速な報告と対応
安全配慮義務の措置を講じることで、施設は法的責任を果たすとともに、入所者の安全と安心を確保することが求められます。
介護施設での骨折事故の責任を明確にする方法は?
介護施設の賠償責任は2つある
介護施設が負う賠償責任には、大きく分けて「債務不履行責任」と「不法行為責任」の2種類があります。
介護施設は、入所者との契約に基づき、適切な介護サービスを提供する義務を負います。
施設内の安全管理が不十分なために入所者が骨折したら、債務不履行責任を問われます。
一方、不法行為責任は、施設の過失により入所者に損害を与えた場合に発生します。
介護施設の責任は「過失」と「因果関係」で決まる
介護施設の責任を追及する際には、「過失」と「因果関係」の有無が重要な判断基準となります。
過失とは、施設が通常求められる注意義務を怠ったことです。一方、因果関係とは、その過失が直接的に事故の原因となったことを意味します。
例えば、床が滑りやすい状態なのに、適切な対策を講じず、入所者が転倒して骨折したら、施設の過失と事故との因果関係が認められる可能性があります。
骨折事故後の介護施設への対応手順は?
介護施設に説明を求める
介護施設で骨折事故が発生したら、まず施設側に詳細な説明を求めることが重要です。
事故が発生した経緯や現場の状況、職員の対応などを確認して、施設の管理体制に問題がなかったかを判断します。
この段階で、施設側が誠実に対応するかどうかも、今後の手続きに影響を与えるため、冷静に情報を収集しましょう。
事故報告書の開示を求める
介護施設は、市区町村への事故報告書提出を義務付けられています。家族は、事故の詳細を把握するため、介護施設に「事故報告書」の開示を求めることができます。
事故報告書には、事故の発生日時・場所・状況、関与した職員の対応などが記載されています。
事故報告書の内容が不十分な場合や、施設が開示を拒む場合には、法的措置を検討する必要があります。
介護施設に責任があれば示談交渉
施設側に過失が認められる場合、示談交渉を通じて損害賠償の合意を図ることができます。示談では、治療費や慰謝料の金額、支払い方法などを話し合います。
交渉の際は、弁護士などの専門家に相談して、適正な補償を受けられるようにしましょう。示談が成立すれば、双方の合意に基づき解決となります。
調停
示談が成立しない場合、家庭裁判所での「調停」を利用できます。調停は、裁判所が間に入り、双方の意見を調整しながら合意を目指す手続きです。
裁判よりも手続きが簡単で費用も抑えられるため、多くの介護事故では調停が活用されています。調停で合意が得られれば、示談と同様に法的な拘束力が生じます。
訴訟
調停でも解決しない場合、最終手段として裁判(訴訟)を起こすことが可能です。訴訟では、施設の過失の有無や賠償額を法的に判断してもらいます。
ただし、裁判には時間と費用がかかるため、慎重に検討する必要があります。弁護士と相談し、証拠をそろえてから提起するのが望ましいでしょう。
介護施設の骨折事故で請求できる慰謝料
慰謝料の種類
介護施設での骨折事故により請求できる慰謝料は、主に以下の3種類に分類されます。
入通院慰謝料
骨折による入院や通院に伴う精神的苦痛に対する賠償です。
後遺障害慰謝料
骨折後に後遺障害が残った場合の精神的苦痛に対する賠償です。
死亡慰謝料
骨折が原因で死亡した場合の遺族の精神的苦痛に対する賠償です。
慰謝料以外の損害賠償金
慰謝料のほか、以下のような損害賠償金も請求可能です。
治療費
骨折の治療にかかる医療費や通院交通費など。
付添看護費
入院や通院時に必要な付添人の費用。
休業損害
家族が付き添いのために仕事を休んだ場合の損害。
逸失利益
骨折により将来得られるはずだった収入の損失。
これらの損害賠償金は、事故の影響や被害者の状況に応じて請求されます。
過失相殺は珍しくない
介護施設での骨折事故において、被害者側にも過失があると判断されたら、損害賠償額が減額される「過失相殺」が適用される可能性があります。
たとえば、施設側が注意義務を怠った一方で、被害者が施設の指示に従わなかった場合などが該当します。過失相殺の割合は、事故の状況や関係者の行動に基づいて判断されます。
介護施設の骨折事故で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、介護施設の骨折事故で受傷した後遺症に対する示談交渉や訴訟提起のために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング®
現在の状況で、介護施設で発生した骨折が、後遺障害認定基準では何級に該当するのかを、医学的観点からレポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニング®は、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
<参考>
【等級スクリーニング®】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
介護骨折の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
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介護施設の骨折事故の責任でよくある質問
介護施設内で転倒したら責任は誰にかかりますか?
介護施設内で入所者が転倒した場合、施設側に安全配慮義務違反があるかどうかが責任の判断基準となります。
裁判例では、施設が適切な見守りや環境整備を怠った結果、転倒事故が発生したと認定されたケースがあります。
ただし、入所者自身の行動や健康状態も考慮されるため、すべての転倒事故で施設側が責任を負うわけではありません。
介護職が怪我をさせてしまったときの対処法は?
介護職が利用者に怪我をさせてしまったら、まずは迅速かつ適切な初期対応が求められます。
具体的には、怪我の程度に応じた応急処置を行い、必要に応じて医療機関への受診を手配します。その後、事故の原因を明確にして、再発防止策を検討・実施することが重要です。
また、施設内での報告・連絡・相談(ホウレンソウ)を徹底して、関係者間で情報を共有することが求められます。
介護の三大事故とは何ですか?
介護現場で特に注意が必要とされる「三大事故」は、以下の通りです。
転倒・転落事故
高齢者の身体機能の低下や環境要因により発生しやすい事故です。
誤薬事故
薬の取り違えや投薬ミスによって発生する事故で、重篤な健康被害を引き起こす可能性があります。
誤嚥・誤飲事故
食事中の誤嚥や、食べ物以外の物を誤って飲み込むことで発生する事故です。
介護事故とはどこまでが事故に当たりますか?
介護事故の定義は、厚生労働省の「特別養護老人ホームにおける介護事故予防ガイドライン」によれば、「施設内および職員が同行した外出時において、利用者の生命・身体等に実害があった、または実害がある可能性があって観察を要した事例」とされています。
ガイドラインには、施設側の責任の有無や過誤か否かを問わず、広範な事例が含まれます。具体的には、転倒・転落、誤薬、誤嚥・誤飲、感染症の蔓延などが該当します。
まとめ
高齢者は骨密度や筋力の低下により転倒や軽い衝撃でも骨折しやすく、介護施設では特に大腿骨や脊椎などの骨折が多く見られます。
施設内の骨折事故は、転倒や職員の対応ミス、環境整備の不備が原因となることが多く、施設には安全配慮義務が課されています。
事故が起きた際には、施設に事故報告書の開示を求め、過失の有無や因果関係を確認して、必要に応じて示談や調停、訴訟へと進みます。
損害賠償には慰謝料や治療費、付添費などが含まれ、被害者にも過失がある場合は過失相殺されることもあります。
介護施設で発生した骨折事故の後遺障害認定で、お困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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