交通事故で肩の腱板損傷を受傷すると、肩の痛みや脱力感などの後遺症が残る可能性があり、被害者にとって大きな負担となります。
しかし、腱板損傷が交通事故によって引き起こされたとしても、腱板損傷と事故の因果関係を適切に証明できなければ、後遺障害認定や正当な補償を得られません。
本記事では、腱板損傷の基礎知識から、交通事故との因果関係を証明するための具体的なポイント、そして後遺障害等級や慰謝料相場まで詳しく解説しています。
最終更新日: 2024/11/28
Table of Contents
腱板損傷とは?基本的な理解
腱板損傷の概説
腱板損傷とは、肩関節を安定させるための重要な筋肉群である腱板が損傷する状態を指します。腱板は、棘上筋、棘下筋、肩甲下筋、小円筋の4つの筋肉から構成されており、これらの筋肉が肩の動きを支えています。
腱板損傷は、スポーツや事故、加齢による筋力低下などが原因で発生します。特に、野球やテニスなどのオーバーヘッド動作を伴うスポーツを行う人や、高齢者に多く見られます。
腱板損傷の一般的な症状と診断
腱板損傷の一般的な症状には、肩の痛み、腕の動きの制限、肩の脱力感、夜間の痛みの悪化などがあります。特に、腕を上げたり回したりする動作で痛みが増すことが多いです。
診断には、問診、触診、可動域検査、レントゲン撮影、MRI検査、超音波検査などが用いられます。特に、MRI検査は、腱板の損傷部位や範囲を詳細に評価するのに有用です。
腱板損傷の身体検査には、ドロップアームテスト(Drop arm test)、ニアーテスト(Neer test)、ホーキンステスト(Hawkins test)などがあります。
これらの画像検査や身体検査を組み合わせて、腱板損傷の有無や程度を確認します。
腱板損傷の治療法
腱板損傷の治療法は、損傷の程度や症状によって異なります。軽度の損傷の場合、安静、冷却療法、薬物療法、理学療法などの保存療法が行われます。
重度の損傷や保存療法で改善が見られない場合は、関節鏡手術が検討されます。手術後は、リハビリテーションを通じて肩の機能回復を図ります。
交通事故における腱板損傷の発生メカニズム
交通事故における腱板損傷の発生メカニズムは、主に肩関節に直接的または間接的な外力が加わることによって引き起こされます。
例えば、車のハンドルを握った状態での衝突や、バイク事故での転倒時に手や肘をついた際に肩に軸圧がかかることが挙げられます。
これにより、肩関節を構成する腱板が損傷し、痛みや可動域の制限が生じます。特に、棘上筋が断裂しやすいとされています。
腱板損傷と交通事故の因果関係の立証ポイント
交通事故と因果関係無しと判断されるケースが多発
交通事故で腱板損傷を受傷したにもかかわらず、事故との因果関係が認められないケースは多々あります。
特に、高齢者や肩を酷使していた人々は、事故前から無症状の腱板損傷が存在するケースが多いため、因果関係の立証を難しくしています。
また、事故直後に肩の痛みを訴えなかった場合や、診断書に肩の傷病名が記載されていない場合も、因果関係が否定される可能性があります。
<参考>
【日経メディカル】その腱板断裂、ホントに交通事故の後遺症?
受傷直後から肩痛が存在する
交通事故による腱板損傷の因果関係を立証するためには、受傷直後から肩の痛みが存在することが重要です。
交通事故直後に肩の痛みを訴え、診断書やカルテにその旨が記載されていることが、因果関係の証明に有利に働きます。
初診時から肩の傷病名が存在する
初診時から肩の傷病名が診断書に記載されていることも、因果関係の立証において重要なポイントです。
事故直後の診療録に肩の傷病名が記載されていることで、事故との因果関係が認められやすくなります。
逆に受傷日から1週間以上経過してから肩の傷病名が付いた場合には、事故との因果関係無しとされるリスクが高まります。
事故態様が腱板損傷の発生メカニズムと一致している
交通事故の態様が腱板損傷の発生メカニズムと一致していることも、因果関係の立証において重要です。
例えば、車のハンドルを握った状態での衝突や、バイク事故での転倒時に手や肘をついた際に肩に軸圧がかかることが、腱板損傷の原因となります。
このような事故態様が確認されることで、腱板損傷と交通事故との因果関係の立証が強化されます。
受傷後早期にMRIを撮像する
受傷後早期にMRI検査を実施することは、腱板損傷と交通事故との因果関係を立証するために非常に重要です。
MRI検査は、腱板の損傷部位や範囲の評価だけではありません。事故直後にMRI検査を施行すると、腱板損傷周囲の出血や骨挫傷などの急性期所見を認めやすいです。
急性期所見の存在によって、腱板損傷が新鮮であることを証明できます。このため、腱板損傷と交通事故との因果関係が認められやすくなります。
<参考>
肩腱板断裂の後遺症と後遺障害認定ポイント|交通事故の医療鑑定
医師意見書で疫学調査の文献を提示する
医師意見書で疫学調査の文献を提示することも、因果関係の立証に有効です。
特に被害者が若年層であれば、医師意見書で腱板損傷の発生率などのデータを提示することで、交通事故による損傷であることを主張できます。
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<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
腱板損傷と交通事故の因果関係の証明で弊社ができること
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<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
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<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
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<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
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腱板損傷の後遺障害等級
機能障害(肩関節の可動域制限)
等級 | 認定基準 |
8級6号 | 上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 関節が強直したもの。但し、肩関節にあっては、肩甲上腕関節が癒合し骨性強直していることがエックス線写真等により確認できるものを含む
- 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態(他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%以下になったもの)にあるもの
- 人工骨頭置換術が施行されており、かつ肩関節の可動域が2分の1以下に制限されるもの
8級6号に該当する可能性がある傷病は、上腕骨近位端骨折です。上腕骨近位端骨折では、高い確率で肩関節の可動域制限をきたします。
一方、腱板損傷で8級6号に認定されるケースは、ほとんど存在しません。
10級10号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて2分1以下に制限されるもの
関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。腱板断裂のために肩の動力源が無くなって可動域制限が出現するケースと、痛みで肩を動かさなかったために関節拘縮をきたすケースがあります。
<参考>
肩関節拘縮(拘縮肩)の原因と画像所見|交通事故の後遺障害
12級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて4分3以下に制限されるもの
腱板損傷では、肩関節の可動域制限を残す可能性があります。特に高齢者では、肩関節の可動域制限を残しやすいです。
<参考>
腱板損傷で12級が後遺障害認定されるポイント|交通事故の医療鑑定
神経障害(肩関節の痛み)
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
受傷後早期のMRI検査で腱板損傷の存在が明らかな場合には、12級13号に認定される可能性があります。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
自賠責認定基準12級13号を満たさない撮像時期や画像所見であっても、MRI検査で腱板断裂を認めれば14級9号に認定される可能性があります。
腱板損傷の慰謝料相場
交通事故による腱板損傷の慰謝料は、後遺障害等級や症状の程度によって異なります。一般的に、腱板損傷の慰謝料は、傷害慰謝料(入通院慰謝料)と後遺障害慰謝料の合計額として計算されます。
例えば、腱板損傷による後遺障害等級が12級6号に認定された場合、自賠責基準では94万円、弁護士基準では290万円の後遺障害慰謝料が支払われることが多いです。
また、腱板損傷の平均的な慰謝料(傷害慰謝料+後遺障害慰謝料)は、約664万円とされています。
まとめ
腱板損傷とは、肩の安定性を保つ腱板の筋肉が損傷する状態で、スポーツや事故、加齢が原因です。
症状には肩の痛みや腕の動きの制限、夜間の痛みがあり、診断には問診、触診、MRI検査などが使われます。治療は軽度の場合は保存療法、重度の場合は手術が行われます。
交通事故による腱板損傷は、肩関節に外力が加わることが原因で、因果関係を立証するためには事故直後からの痛みの訴えとMRI検査が必要です。
また、事故態様が腱板損傷発生メカニズムに一致することや、初診時の診断書に肩の傷病名が記載されていることも重要です。
交通事故で受傷した腱板損傷と事故との因果関係でお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
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