肩の後遺障害は、交通事故やケガの後に肩の機能が完全に回復せず、日常生活や仕事に支障をきたす状態です。
肩の後遺障害は、可動域の制限や痛み、変形など、さまざまな症状を引き起こします。
本記事では、肩の後遺障害について詳しく解説して、後遺障害の等級に応じた具体的な事例や、後遺障害の認定を受けるためのポイントについても触れています。
最終更新日: 2024/11/22
Table of Contents
肩の後遺障害とは何か
肩の後遺障害が発生する原因
肩の後遺障害が発生する原因は多岐にわたります。肩の骨折や脱臼、腱板損傷などが主な原因です。
また、これらの外傷が適切に治療されない場合や、治療後に十分なリハビリが行われない場合にも後遺障害が残ることがあります。
肩の後遺障害の種類と症状
肩の後遺障害には、機能障害、神経症状、変形障害などがあります。
機能障害には肩の可動域制限が含まれ、神経症状には痛みやしびれが含まれます。
変形障害は肩の形態が変わることを指し、これらの症状が組み合わさることもあります。
肩の可動域制限の後遺障害(機能障害)
等級 | 認定基準 |
8級6号 | 上肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの |
10級10号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの |
12級6号 | 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの |
8級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの
- 関節が強直したもの。但し、肩関節にあっては、肩甲上腕関節が癒合し骨性強直していることがエックス線写真等により確認できるものを含む
- 関節の完全弛緩性麻痺又はこれに近い状態(他動では可動するものの、自動運動では関節の可動域が健側の可動域角度の10%以下になったもの)にあるもの
- 人工骨頭置換術が施行されており、かつ肩関節の可動域が2分の1以下に制限されるもの
8級6号に該当する可能性がある傷病は、上腕骨近位端骨折です。上腕骨近位端骨折では、高い確率で肩関節の可動域制限をきたします。
一方、軟部組織損傷である腱板損傷では、8級6号に認定されるケースはほとんど存在しません。
10級10号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて2分1以下に制限されるもの
関節の可動域が健側の可動域の1/2以下に制限されているものです。上腕骨近位端骨折や腱板断裂のために、肩の動力源が無くなって可動域制限が出現するケースと、痛みで肩を動かさなかったために関節拘縮をきたすケースがあります。
<参考>
肩関節拘縮(拘縮肩)の原因と画像所見|交通事故の後遺障害
12級6号: 1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの
- 肩関節の可動域が健側と比べて4分3以下に制限されるもの
上腕骨近位端骨折や腱板損傷で、肩関節の可動域制限を残す可能性があります。特に高齢者では、肩関節の可動域制限を残しやすいです。
<参考>
腱板損傷で12級が後遺障害認定されるポイント|交通事故の医療鑑定
【10級10号】肩の後遺障害認定事例
事案サマリー
- 被害者:55歳
- 初回申請:14級9号
- 異議申立て:10級10号
50歳代で変性のある腱板損傷です。自賠責では3回異議申立てをしても14級9号(局部の神経症状)としか認定されませんでした。
弊社の取り組み
弊社にて精査したところ、事故を契機にして経時的にMRI検査で腱板損傷部位のサイズが拡大していました。
この点について医師意見書で主張したところ、10級9号(上肢の著しい機能障害)の後遺障害が認定されました。
<画像所見>
棘上筋腱の中〜大断裂を認めない。
肩の痛みの後遺障害(神経障害)
等級 | 認定基準 |
12級13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
14級9号 | 局部に神経症状を残すもの |
12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
転位の大きな上腕骨近位端骨折や、受傷後早期のMRI検査で腱板損傷の存在が明らかな場合には、12級13号に認定される可能性があります。
14級9号:局部に神経症状を残すもの
転位の小さな上腕骨近位端骨折や、腱板の部分断裂であっても、14級9号に認定される可能性があります。
肩の変形の後遺障害(変形障害)
等級 | 認定基準 |
7級9号 | 偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの |
8級8号 | 偽関節を残すもの |
12級8号 | 長管骨に変形を残すもの |
7級9号: 1上肢に偽関節を残し、著しい運動障害を残すもの
上腕骨近位端骨折では偽関節になったとしても常に硬性補装具が必要になる症例はほとんどありません。このため、7級9号に認定されることはほとんど無いといえます。
8級8号: 1上肢に偽関節を残すもの
高齢者の上腕骨近位端骨折で保存療法が選択された場合、最終的に骨折部が偽関節になる場合があります。上腕骨近位端骨折は骨幹端部の骨折が多いです。
自賠責保険では、骨幹端部は骨幹部等に分類されます。このため、上腕骨近位端骨折が偽関節になると8級8号に認定される可能性があります。
12級5号: 鎖骨に変形を残すもの
鎖骨の変形は手術をすれば改善するため、変形そのもので等級認定されるケースは多くありません。一方、手術を施行しても骨折部が十分に癒合しない症例を散見します。
全く骨癒合していない状態を偽関節、一部分だけしか骨癒合していない状態を遷延治癒と呼びます。いずれも「鎖骨に著しい変形を残すもの」として12級5号に認定される可能性があります。
保存的治療を選択した場合は、手術症例と比較して偽関節や遷延治癒に至る可能性が少し高くなります。このような症例でも「鎖骨に著しい変形を残すもの」として12級5号に認定される可能性があります。
また、鎖骨の変形そのものでも「鎖骨に著しい変形を残すもの」として12級5号に認定される可能性があります。
この場合の「著しい変形」とは衣服を脱いで裸の状態になったとき、明らかに骨が変形していると分かる状態のことを意味します。
12級8号: 長管骨に変形を残すもの
上腕骨大結節が中枢側に大きく転位した症例は比較的良くみられます。また、上腕骨骨幹部骨折では、上腕骨の直径が2/3以下に減少したものを散見します。
肩の後遺障害認定を受けるポイント【弁護士必見】
後遺障害診断書の内容はチェックが必要
後遺障害診断書は、後遺障害等級の認定において非常に重要な役割を果たします。このため、後遺障害認定基準のポイントを押さえた記載が必要です。
一方、一般的な医師は、自賠責保険のルールを知らない人が大半です。このため、後遺障害が認定されるためには、後遺障害診断書の記載内容を確認する必要があります。
尚、自賠責保険の後遺障害認定基準は、実臨床とほとんど関係無いため、医師が認定基準を知らないのは当然です。
肩の後遺障害は画像所見があっても非該当になりやすい
肩の後遺障害は、骨折の転位が大きかったり、MRI検査で明らかに腱板損傷が認められても、後遺障害に認定されにくいです。
理由はいくつか考えられますが、非荷重関節なので下肢に比べると重度の後遺症が残りにくいことと、事故との因果関係証明が難しい点が挙げられます。
一方、肩関節は上肢の大関節の1つなので、後遺症が残ると日常生活での制限が大きいのも事実です。これらの点を考慮したうえで、非該当理由を読み込んで異議申し立てする必要があります。
画像所見がネックになって非該当になった場合には、画像鑑定が有効なケースがあります。画像鑑定について不明点があれば、こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
肩の後遺障害認定では事故との因果関係の証明が重要
肩が後遺障害に認定されない理由の1つに、事故との因果関係が問題視されるケースがあります。事故との因果関係を否定されて非該当になる事案は非常に多いです。
事故と後遺症の因果関係を否定されれば、診療録(カルテ)や画像検査を精査して、因果関係を証明する必要があります。
肩の後遺症と事故との因果関係でお困りの事案があれば、こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
交通事故とケガの因果関係を立証する方法|後遺障害の医療鑑定
肩の後遺障害認定で弊社ができること
弁護士の方へ
弊社では、交通事故で残った肩の後遺症が、後遺障害に等級認定されるために、さまざまなサービスを提供しております。
等級スクリーニング
現在の状況で、後遺障害に認定されるために足りない要素を、後遺障害認定基準および医学的観点から、レポート形式でご報告するサービスです。
等級スクリーニングは、年間1000事案の圧倒的なデータ量をベースにしています。また、整形外科や脳神経外科以外のマイナー科も実施可能です。
等級スクリーニングの有用性を実感いただくために、初回事務所様は、無料で等級スクリーニングを承っております。こちらからお気軽にご相談下さい。
<参考>
【等級スクリーニング】後遺障害認定と対策を精査|医療鑑定
医師意見書
医師意見書では、診療録、画像検査、各種検査、後遺障害診断書などの事故関連資料をベースにして、総合的に後遺障害の蓋然性を主張します。
医師意見書は、後遺障害認定基準に精通した各科の専門医が作成します。医学意見書を作成する前に検討項目を共有して、クライアントと医学意見書の内容を擦り合わせます。
医学意見書では、必要に応じて医学文献を添付して、論理構成を補強します。弊社では、2名以上の専門医によるダブルチェックを行うことで、医学意見書の質を担保しています。
弊社は1000例を優に超える医師意見書を作成しており、多数の後遺障害認定事例を獲得しています。是非、弊社が作成した医師意見書の品質をお確かめください。
<参考>
交通事故の医師意見書が後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
画像鑑定報告書
交通事故で残った後遺症が、後遺障害で非該当になったら異議申し立てせざるを得ません。その際に強い味方になるのが画像鑑定報告書です。
画像鑑定報告書では、レントゲン、CT、MRIなどの各種画像検査や資料を精査したうえで、後遺障害診断書に記載されている症状との関連性を報告します。
画像鑑定報告書は、画像所見の有無が後遺障害認定に直結する事案では、大きな効果を発揮します。
弊社では事案の分析から医師意見書の作成、画像鑑定にいたるまで、社内の管理医師が一貫して取り組むことで、クライアント利益の最大化を図っています。
<参考>
【画像鑑定】交通事故の後遺障害認定で効果的な理由|異議申し立て
肩の後遺障害認定でお悩みの被害者の方へ
弊社サービスのご利用をご希望であれば、現在ご担当いただいている弁護士を通してご依頼いただけますと幸いです。
また、弊社では交通事故業務に精通している全国の弁護士を紹介することができます。
もし、後遺障害認定で弁護士紹介を希望される被害者の方がいらっしゃれば、こちらのリンク先からお問い合わせください。
尚、弁護士紹介サービスは、あくまでもボランティアで行っています。このため、電話での弊社への問い合わせは、固くお断りしております。
弊社は、電話代行サービスを利用しているため、お電話いただいても弁護士紹介サービスをご提供できません。ご理解いただけますよう宜しくお願い申し上げます。
肩の後遺障害認定で請求できる示談金
遺障害慰謝料
肩の後遺障害が認定された場合、遺障害慰謝料を請求することができます。遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったことによる精神的苦痛に対する賠償金です。
等級に応じて金額は異なり、適切な賠償金を受け取るためには正しい等級認定が重要です。弁護士に依頼することで、慰謝料の増額が期待できます。
逸失利益
逸失利益は、後遺障害が残ったことで労働能力が失われ、収入が減少することに対する補償です。
基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間に基づいて計算されます。適正な逸失利益を受け取るためには、弁護士のサポートが有効です。
入通院慰謝料
入通院慰謝料は、交通事故による怪我の治療のために入院や通院を余儀なくされた場合に請求できる賠償金です。
治療期間や通院頻度に応じて金額が決まります。後遺障害が認定された場合、入通院慰謝料も増額されることがあります。
まとめ
肩の後遺障害は、肩の骨折や脱臼、腱板損傷などが原因で発生します。後遺障害の種類には、機能障害(肩の動きが制限されること)、神経症状(痛みやしびれ)、変形障害(肩の形が変わること)があります。
これらの後遺症は組み合わさることもあります。肩の後遺障害の等級には8級から14級まであり、具体的な症状や画像所見に基づいて認定されます。
特に事故との因果関係を証明することが、後遺障害の認定を受けるための鍵となります。交通事故で受傷した高次脳機能障害に関してお困りの事案があれば、こちらからお問い合わせください。
関連ページ
資料・サンプルを無料ダウンロード
以下のフォームに入力完了後、資料ダウンロード用ページに移動します。