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今週の医療訴訟関連の話題
弊社の業務は、基本的に交通事故や労災事故事案です。しかし、ときどき顧問契約をいただいている法律事務所様から医療過誤事案の相談が寄せられます。
一般的に医療過誤と言っても、私たち医師の目から見ると不可抗力であるものや、そもそも紛争の対象にすらならないものが多いです。最もありがちなのは、医師・患者間のコミュニケーション不足が招いた相互不信です。
コミュニケーション不足がベースにあると、結果が思わしくなければ医師に対する不信感が増大します。このような症例が弊社に持ち込まれるのです。
ただ、多くの事案は医師に非は無いため、弁護士の先生には医療内容が適切であったことを説明しています。しかし、ときどき不可抗力ではあるものの、表面上は医療過誤があったとみなされてもおかしくない事案があります。
その代表例は転移性脊椎腫瘍や化膿性脊椎炎による脊髄麻痺残存症例です。これらの症例では麻痺症状出現後早期に除圧術等の手術が必要となることが多いです。
教科書的には可及的早期に手術が行われるべきと記載されていますが、これを杓子定規にとらえることで、医療過誤が存在したと主張できなくもないのです。
しかし、実際には土曜日の午前に麻痺出現、日曜日をはさんで月曜日の朝には麻痺が完成していたといった症例も散見されます。このような症例では土曜日夜もしくは日曜日午前に緊急手術を行えば、当座の麻痺は回避できた可能性はあります。
このため、後追い的には医療過誤を主張できなくはないのですが、実際問題として医療資源は有限です。土曜日夜や日曜日午前に経験豊富な脊椎外科医が対応できないことの方が世の中では多いのです。
このような医療資源は有限であるという事実を無視して訴訟を提起する向きがありますが、臨床現場を知っている医師の立場ではなかなか同意しかねるのが本音です。
その一方で、悪いの疾患であるとは言え、困窮している患者さんを救済するためには訴訟というステップを踏む必要があるケースがあることも事実です。
一方的に医療機関が悪いというケースはほとんど見かけませんが、プロの医師の目からみると医療機関側の弱点が簡単に分かってしまいます。
基本的には円満解決に対する援助を行う方針なのですが、匙加減が難しく神経をすり減らすのが医療訴訟対応の難しさであると痛感しています。